なぜシニア人材の活用が必要なのか?
シニア人材の活用が必要になっている理由は企業によって様々です。私がこれまで担当してきたクライアントの中では、以下のような課題感を多く伺いました。
- 団塊世代をうまく活用しなければならないため、将来の会社の安定のためには、高齢になった団塊世代の社員をうまく活用しなければならない。
- 経験によって成り立つ職業のため、長年のキャリアを通じて得た専門知識やスキルを高齢になっても発揮できる仕組みを作らなければいけない。
- 法改正によって、65歳までの雇用確保が義務化されている中、60歳までしか働ける制度がないため、急ピッチで仕組みを作らなければならない。
シニア人材の活用においては、各企業で様々な課題を持っていると考えております。近年では、高齢者活用に関する様々な法令が制定・改定されてきました。
- 高年齢者雇用安定法:企業に65歳までの雇用確保措置を義務付け、70歳までの就業機会確保を努力義務化する法律。
- 労働基準法:全労働者の基本的な労働条件を定め、高齢者も法的保護の対象とする法律。
- 男女雇用機会均等法:年齢や性別による採用・雇用差別を禁止する法律。
- 高齢社会対策基本法:高齢者が社会で活躍できる環境整備を目指す基本方針を定めた法律。
- 雇用保険法:65歳以上の労働者も対象とし、離職後の生活安定や就業支援を図る法律。
このように、法令への対応、人材不足の解消、優秀な人材の継続的な処遇・貢献のために、シニア人材の活用は必要になります。次項より、具体的にどのようにシニア人材活用の仕組み(シニア制度)を構築するのか、ステップを踏んでご説明いたします。
シニア制度構築ステップ
シニア制度構築ステップは以下の通りです。
① 目的・方針の明確化
まず、なぜシニア制度を構築するのか明確にします。
例)労働力不足への対応/経験・知識の活用/技術やノウハウの継承/多様性の推進
目的・方針の明確化では、経営戦略や企業文化に合った方針を設定することが肝要です。
② 現状分析
次に自社の社員構造や、制度に関する不整合を分析し、課題の抽出を行います。
例)高年齢者の雇用状況(人数、役職、スキルなど)/人員構成(年齢層や退職予定者の把握)/高齢者が活躍できる職場環境や業務内容の有無
③ 制度設計
現状分析後、実際にシニア制度を構築していきます。シニア制度構築にあたっては、以下のステップで仕組みを構築します。
基本方針を設定する
シニア制度を構築する上での方針(コンセプト)を作成する
【コンセプト例】
- シニア社員の知見を若手世代に引き継ぎ、組織の競争力を強化
- 年齢ではなく成果や貢献度に基づいた制度の構築
- 適材適所の実現 等
役割(コース)設定
何歳まで正社員として雇用するか決定する
- 60歳や、65歳など年齢に制限をつける:定年年齢を決める
- 年齢問わず正社員として勤務させる:定年はなし
定年を設定しない場合は、基本的に以下ステップを踏む必要はありません。しかし、人によって定年の年齢を変える場合は、以下ステップの検討が必要です。
参考:選択式定年制度
選択式定年制度とは、一定期間の中で、定年年齢を選択できる制度です。選択式定年制度を導入することで、個人のライフイベント等に応じて柔軟に働き方を変化させることができるため、シニア人材の働き方の柔軟さが高まります。
定年に到達した場合の雇用区分を決定する
※定年を設定しない場合は必要なし
- 基本的に有期雇用となる(例:契約社員/アルバイト等)
- 複数雇用区分を設ける場合は、適切に高齢社員が納得できる格付けを行うことが必要
定年後の雇用区分を決める基準を作る
- 健康基準:健康診断の結果や産業医による継続的に勤務できる体調か判断する基準
- 能力基準:継続的に雇用したい能力やスキルを有しているか判断する基準
- 等級/役職基準:会社において継続的に処遇したい等級/役職か判断する基準
- 業績基準:業績への貢献を一定以上行ってきたか判断する基準等
各雇用区分においての業務内容を決定する
- 従前の業務を引き続き行
- 業務を限定する:専門性の高い業務/育成業務/一般職レベルの業務等
定年後のための支援方法を決定する
- 定年後どのような業務を行うかや、報酬がどう変わるかを面談等でフォローする
- 定年後の各社員のライフプランを確認し、個人のライフプランに応じた働き方の提案を行う
各雇用区分においてどのような報酬体系にするか決定する
※各雇用区分ごとで金額を決めるのではなく、業務内容から報酬を決めることが重要です。
- 従前の業務を引き続き行う:固定的に支給する報酬の変化はなし
- 業務を限定する:業務の難易度や責任の大きさに応じて減額を行うor 報酬の変化はなし
業務を限定する場合、多くの会社で『逓減率』をかけて報酬の減額を行うことがあります。逓減率とは、シニア社員の給与や報酬が定年後の再雇用や役割の変更に伴って減少する割合を指します。逓減率をかけて報酬の減額を実施する場合は、社員と合意を取ることが必須となります。
評価の仕組みの設定
何に対して評価を行うか決定する
例)成果と行動/能力と勤務態度等
主観的な評価が中心になる場合は、評価結果に納得性のあるものにする必要があるため、フィードバック等を徹底的に行うことが重要です。
評価シートを作成する
評価項目を作成した後、達成基準、最終評価結果の算出方法、各項目のウエイト・難易度の設定を行い、シニアを評価する仕組みを構築します。
定年制は、上記の方法を通して、会社としてどのような人材を活用したいか、そのためにどのような仕組みが必要かを考えながら、構築することが重要です。
シニア制度構築における注意点
シニア制度構築において、注意すべきポイントが何点かございます。
特に、法令順守の観点から新しく制定した制度が法令に反していないかチェックすることは重要になります。
- 平等性の確保:年齢、性別、家族構成等問わず、一律の基準を設けているか
- 評価の納得感:シニア人材を図る評価の基準や、内容は妥当か
- 報酬の納得感:報酬を支給する上で、同一労働同一賃金は守られているか、合意したうえでの支給となっているか
- 個人環境への配慮:社員が望むキャリアやライフプランの柔軟性は担保されているか
- 健康への配慮:健康に働ける仕組みになっているか
- 関連法令の遵守:制定した制度が法令に反していないか
- 他制度への影響:制定した制度が退職金や賞与等人事制度の影響を受けていないか、影響のある場合解消できているか
まとめ
シニア制度の必要性や構築方法はいかがでしたでしょうか?シニア制度の導入は、企業にとって非常に重要な施策でございます。現在の高齢化社会において、シニア世代が持つ豊富な経験や知識を活かすことは、企業の競争力を高める上で大変効果的であると考えられます。シニア制度を整備することにより、定年後も引き続き貢献できる場を提供し、企業における人材の有効活用を図ることが可能となります。
また、シニア社員が再雇用後も社会的役割を持ち続けることで、個人の生活の安定を支援するだけでなく、企業の人手不足の解消や労働力の多様化にも寄与することができます。さらに、シニア社員がその知識や経験を若い世代に伝えることで、組織内の知識継承が進み、全体の生産性向上にも繋がります。現在シニア制度のない会社や、見直しをしていきたいと考えている会社はいち早い対処を行いましょう。
この記事を読んだあなたにおすすめ!