この記事はシリーズです。前回分は以下リンクから確認できます。

これまで組織見聞録として第1回は、組織活性化のティッピングポイントと題して、“トップの在り方”に焦点を当てたことが組織活性化の転換点となったことをお伝えしました。第2回は、業績向上と社員成長の同時達成を実現しているマネジャーの特徴として3つの特徴を挙げました。第3回は、経営理念が浸透しない要因として、“意思決定”について扱います。意思決定の優先順位が理念の浸透にどのような影響を及ぼすのかについて事例を交えながらお伝えします。

理念浸透策実施企業の例

ある上場企業の例です。当該企業には立派な経営理念も、ビジョンも、行動指針も明確に明文化されたものがありました。3ヵ年の中期計画や年度計画もしっかりあります。そして、経営理念を浸透させる為に、様々な取組みをしました。
例えば、

  • 社長自らが考えたことを毎月冊子にして社員や家族に配布
  • 毎月、社長塾を開き、社長の講話と質疑応答実施
  • 各地の拠点で社長と昼食会
  • 経営理念を大事にしていることで有名な会社の社長を招聘して外部講演
  • 幹部候補を対象とする研修で、経営理念に関するテストを実施
  • 全社員の人事評価表には経営理念に書かれていることがどれくらい実践できたかを半年毎に評価
  • 社員がいつでも理念を確認できるようにクレドカードを作成

等々実施していたにも拘らず、当該企業の社長の口からは「経営理念がなかなか浸透しない」という発言がありました。様々な取組をしても浸透していませんでした。理念が浸透せず、何が原因か分からず私自身悩んでいました。ある時、原因が分かる瞬間が訪れました。それは、当該企業の経営会議をオブザーブさせていただいた時に訪れました。その会議は終日行われ、重要案件のGo・NotGoの意思決定がなされていました。数々の案件の成否が決まっていく中で、経営理念が浸透しない根源を見つけたのです。それは、経営者の“意思決定”にありました。重要案件の意思決定が利益を第一に決められており、理念は第一の意思決定ではありませんでした。少なくとも、オブザーブさせていただいた私には、経営者が理念に沿った意思決定をしているようには全く見えませんでした。

これには思い当たる節がありました。営業課長と役員との会話です。ある日、営業の課長さんにヒアリングした時に、経営理念について聞いたことがありました。すると次のような答えが返ってきました。「経営理念なんか全然見てませんし、気にしてもいません。」とのこと。理由を聞いてみると「だって、結局はすべて数値なんですから。うちの会社は数値さえあげていれば、理念なんか意識してなくてもいいんです。」よくよく話を聞いてみると、以前、以下のようなことがあったそうです。

営業パーソンAさんは経営理念をとても大切に考えており、経営理念が書いてある紙を自分の手帳に入れて、折に触れて読み返し、理念に書かれてある通りに日々意識して行動していました。営業成績は、達成したり、少し目標を下回ったりという状況でした。一方、営業パーソンBさんは、経営理念など眼中にありません。営業活動にはあまり必要ないと考えています。実際、理念通りに動こうなどとは思っていません。営業成績は、いつも目標を大きく上回り、月の途中で達成してしまうので、達成すると一切仕事せず喫茶店などでさぼっていました。当該企業ではBさんが良い評価をもらっていました。そのため、“理念など関係ない”と考える社員が多くいます。結果的に、数値さえあげていれば何をやってもいいという風土になっていました。

社長の直属の部下である役員陣も、理念を大切して行動しているようには全く思えませんでした。ある役員が私に言いました。「うちの社長は結局これですから。」と言いながら、右手の親指の先と人差し指の先をつけリングの形にして、右胸のあたりにもってくる仕草をしました。意訳すると“社長は口では理念と言っているが、結局はお金が一番大事と考えている”。役員でさえこの有様でした。その下の事業部長も部長も課長も理念通り動くはずがありません。

考察

当該企業の場合、理念浸透施策として様々な取組をしていたにも関わらず、理念が浸透していない事例でしたが、理念が浸透しない根本原因は発信している社長自身にありました。そのことに気づかずに、どんなに一生懸命、冊子作ろうが、塾をやろうが、外部講演をやろうが、テストをやろうが、人事評価をやろうが、理念は浸透しないでしょう。なぜこのようなことが起きるかというと、理念が大事なのだと発信しつつも、「社長の意思決定が理念に基づいた意思決定をしていると社員に映っていない」からだと考えます。

当該企業の場合、意思決定の優先順位は第1位「利益」、第2位「顧客」、第3位「社員」と私には映りました。この意思決定の優先順位は、理念が浸透しない要因の1つと考えます。一方、理念が浸透している会社の意思決定の優先順位は、第1位「社員」、第2位「顧客」、第3位「利益」になっています。長野県にある伊那食品工業の例です。パナソニックやトヨタの社長が経営について教えを請いに伺った会社として有名な会社です。コンビニの店舗数が急拡大していた頃の話です。当時、伊那食品工業にもコンビニに商品を置くことを提案された際に、断ったエピソードがあります。コンビニに自社商品を置けば、売上は2倍3倍になることは目に見えていたにも関わらず、断った理由は「社員が(3交代しなければならなくなり)大変になってしまうから」でした。この例は、意思決定の優先順位は将に第1位を「社員」に置いた意思決定と言えるでしょう。

エピローグ

書籍「稲森和夫 最後の闘い(日本経済出版)大西康之」からの引用です。

意思決定の優先順位

理念が浸透するか否かは、意思決定の優先順位が大きく影響します。「何を1位として意思決定していると社員に映っているか」が、理念浸透の最大の要因と考えます。貴社では何を1位と置いて意思決定しているでしょうか。

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