テレビや新聞などで「多様性」を意味する「ダイバーシティ」という言葉をよく耳にするようになりました。また、ビジネスの世界ではダイバーシティの考えを経営に活用して組織を強化する「ダイバーシティマネジメント」という手法も注目されています。そこで本記事では、ダイバーシティマネジメントとは何かについて、課題や成功例を交えながら解説していきます。
ダイバーシティマネジメントとは
ダイバーシティには「多様性」「相違点」「性質の異なるものが数多く存在すること」などの意味があります。そしてダイバーシティマネジメントとはダイバーシティの概念を取り込んだ企業経営のことです。企業が従業員の多様な個性を受け入れ、活かすことで事業を成長させ、企業として成長を目指すのがダイバーシティマネジメントです。
ダイバーシティマネジメントは女性や外国人の雇用促進と絡めて使用されることもありますが、ダイバーシティにおける多様性は女性や外国人だけを指すものではありません。性別や人種、身体的特徴などの目に見える属性だけでなく、価値観やスキル、宗教観などの目に見えない属性も含まれます。目に見える多様性だけでなく、目に見えない多様性も受け入れて企業経営に活かすのが、本来の意味でのダイバーシティ・マネジメントです。
ダイバーシティマネジメントが必要とされる背景
なぜ、企業はダイバーシティマネジメントを進める必要があるのでしょうか。原因の1つとして少子高齢化による人手不足が挙げられます。少子高齢化により日本では若い世代の労働者が減っており、15歳以上65歳未満の生産年齢人口は1990年代をピークに減少傾向にあります。生産年齢人口が減ると様々な業種で人手不足が起こるため、企業間の人材獲得競争も激しくなるでしょう。このような状況下で優秀な人材を確保するために、女性や高齢者、外国人など多様な人材を受け入れて企業経営に活かすダイバーシティマネジメントが求められるようになったのです。
もう1つの原因としてグローバル化が挙げられます。ビジネスのグローバル化が進み、日本の企業が海外へ進出したり、海外の企業が日本へ進出したりすることも増えました。しかし、日本と海外の国々では価値観が大きく異なるので、グローバルにビジネスを展開するためには、世界の多様な価値観を踏まえた商品やサービスの開発が必要です。そして、世界の多様な価値観に対応するため、多様な人材を活用するダイバーシティマネジメントが重視されているのです。
ダイバーシティマネジメントを導入するメリット
企業側・従業員側のそれぞれが得られるメリットについて解説します。
企業側のメリット
1つ目のメリットが人材の確保につながる点です。ダイバーシティマネジメントによって人材選びの視野を広げ、多様な人材を受け入れれば人材の確保につながります。また、多様な人材が働きやすい環境を作ることで、社員の定着率や満足度の向上につながる可能性もあります。2つ目のメリットは企業イメージの向上につながる点です。性別や年齢、国籍や人種を問わず人材を採用し、多様な働き方を提供する職場環境は、社外の人間に対して良いイメージを与えることが期待できます。企業イメージが向上すれば自社の商品・サービスの売上がアップしたり、自社で働きたいと思う人が増えたりといった様々な効果が期待できます。
従業員側のメリット
1つ目のメリットは個性が尊重される点です。日本では個性より協調性が重視される傾向があります。協調性が重視されることによる強みもありますが、個性の強い人材にとっては息苦しさを感じる可能性もあります。ダイバーシティマネジメントにより個々の価値観を尊重する社風になれば、個性の強い人材にとっても働きやすい環境となるでしょう。2つ目のメリットが価値観や視野が広がることです。ダイバーシティマネジメントを導入した企業では多様な人材との接点が生まれるため、さまざまな価値観や意見に触れる機会が増えます。これにより、従業員の価値観や視野が広がり、新しい発想が生まれる可能性があるのです。
ダイバーシティマネジメントの課題
ダイバーシティマネジメントを導入することで様々なメリットを得られますが、一方で導入する上での課題も幾つか存在します。
コミュニケーションの問題
1つ目の課題はコミュニケーションの問題が起こりやすくなる点です。ダイバーシティマネジメントを導入し多様な人材を採用することで、様々な考え方や価値観をもった従業員が共存することになります。異なる価値観に触れることで視野が広がったり、新しいアイデアが生まれたりする可能性もありますが、言語や価値観の違いからコミュニケーションの問題が起きる可能性もあるのです。こうした問題を防ぐためには、従業員同士で積極的にコミュニケーションを図り、お互いを理解することが重要となります。
ハラスメントの問題
2つ目の課題はハラスメントの問題が起きる可能性がある点です。ハラスメントとは広い意味で「嫌がらせ」を意味し、年齢・人種などの属性や人格に関する言動などで相手に不快感を与えることです。どんな行為で不快に感じるかは、個々人の価値観や考え方で異なります。そのため、急激に多様な人材を受け入れると、異なる価値観・文化への無理解から、意図せずハラスメントが起きる可能性があります。このようなハラスメントを防止するためには研修・セミナーなど実施して、入社する人の国や文化、ハラスメントに関する知識などを学ぶ必要があります。
ダイバーシティマネジメントの成功例
最後にダイバーシティマネジメントの成功例を幾つか紹介します。
エーザイ株式会社
日本の大手製薬会社であるエーザイ株式会社は、ダイバーシティの推進に力を入れている企業の1つです。エーザイ株式会社ではダイバーシティ推進の目標として、多様性がもたらす知のスパイラルの実現、多様な個の活躍と社会との関わりを増やす働き方改革などを掲げています。これらの目標を達成する具体策として、シェアオフィスやワーケーション等、就労可能な場所の選択肢を増やす環境整備や、若手・女性リーダーの育成、ベテラン層が能力を発揮できる機会を整備するなどの取り組みをしています。また、多様な人材の受け入れに伴うハラスメント対策として、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)に関する研修を行っているのも特徴です。こうした取り組みが評価され、経済産業省が主催する令和2年度「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選ばれました。
株式会社デジタルハーツ
株式会社デジタルハーツは、ゲームやスマートフォン、Webサイトなどのデバッグ(プログラムのバグを見つけて修正する作業のこと)を提供する会社です。そんな株式会社デジタルハーツは、元ニートや引きこもりの人材を積極的に採用・活用しています。ニートや引きこもりのような就業経験がほとんどない人材は労働市場で敬遠されがちです。しかし、株式会社デジタルハーツでは就業経験の少ない人材を多様な人材と捉え、積極的に採用しているのです。もちろん、ただ採用しているだけではありません。入社直後に手厚く教育研修を行い、会社の戦力として活用しています。また、障がい者雇用に特化した新会社「デジタルハーツプラス」を設立するなど、さらなるダイバーシティ推進に力を入れています。
成功例を参考にダイバーシティマネジメントに取り組もう
少子高齢化による人手不足やグローバル化が進む中で、ダイバーシティの理念に基づく企業経営は重要性を増していくでしょう。しかし、ダイバーシティマネジメントは一朝一夕に実現できるものではありません。すでにダイバーシティマネジメントを導入し成果をあげている他社の成功例を参考にしながら、中・長期的なスパンで取り組む必要があるでしょう。
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