ビジネスでは、リーダーシップを発揮することが重要だと言われます。しかし、なかなかリーダーシップを発揮するとはどういうことかわからないという方も多いのではないでしょうか。そこで今回はリーダーシップの基本的な考え方と発揮方法を体系的に解説します。ぜひ実践してチームを成功へと導いてください。
リーダーシップとは?
私たちはビジネスの中でよく「リーダーシップを発揮する」という言葉を使います。リーダーシップとは何なのでしょうか。改めてリーダーシップの概念を考えてみましょう。
リーダーシップの定義
リーダーシップとは、「集団に目標達成を促す影響を与える能力」と定義されています。リーダーシップは役職によって組織内部の公式な力として発揮される場合もあれば、役職に限らず誰もが発揮する能力として組織の中で非公式かつ広く求められる場合もあるでしょう。ただし、役職者が必ずしもリーダーシップ能力を持っているとは限りません。組織が役職者を組織のリーダーとして公式に任命したとしても、その役職者がリーダーシップを発揮する指導者になる保証はないのです。リーダーシップは端的には「影響力」と表現できます。集団の目標達成に対して影響力がある人物であれば誰もがリーダーです。このように、リーダーシップは組織の公式的立場で発揮される場合もあれば、非公式的に従業員誰もが発揮する場合もあるでしょう。
リーダーシップとマネジメントの違い
組織の中でよく混同されやすいのが、リーダーシップとマネジメントの違いです。混同されやすい理由として考えられるのは、管理職が英語でマネージャーと呼ばれるからでしょう。マネージャーは組織の中で公式的にリーダーとして任命されており、組織のリーダーとしてマネジメントを担っています。
マネジメントは英語で「管理」を意味します。組織の中での「管理」は、組織の目標達成のために人・モノ・カネなどの経営資源を消費する計画を立て、計画通りに進捗するように管理監督することと定義できます。一方でリーダーシップは「集団に目標達成を促す影響を与える能力」でした。
マネジメントがあくまでも計画を立案して管理する行為であるのに対し、リーダーシップは目標達成を促すためにリーダーが影響力を発揮することを意味しています。つまりリーダーシップはマネジメントのように計画の進捗を管理監督するだけではなく、あらゆる手段を講じて集団を目標達成へと導いていく点で大きな違いがあるのです。
リーダーとボスの違い
リーダーシップに関連してよく比較される概念としてリーダーとボスがあります。ボスは英語で「上司」という意味です。ただしボスは単に上司という意味だけではなく、日本のビジネスシーンでは「組織やチームのヒエラルキーの最上位にいる存在」という意味で使われる場合が多いでしょう。
ボスは配下のメンバーに指示を出して働かせるイメージであるのに対して、リーダーは時にはメンバーと一緒に汗を流して働きます。ボスとリーダーの比較に関する有名な定義としてトヨタの豊田章男社長が春闘で発言した言葉があげられます。豊田社長は、ボスは指示命令を行う存在であるのに対し、リーダーはメンバーや会社に対して影響力を発揮する存在であることを示唆していると言えるでしょう。
リーダーシップの代表的な概念
これまで多くの研究者がリーダーシップについて研究してきました。リーダーシップに関する理論は数多く存在します。そしてリーダーシップの概念も発揮方法や発揮するシーンによって異なる類型が用いられてきました。代表的なリーダーシップの概念についてご紹介します。
サーバントリーダーシップ
ビジネスパーソンであれば、「サーバントリーダーシップ」という言葉を一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。サーバントリーダーシップは、アメリカのロバート・K・グリーンリーフ博士によって1970年代に提唱された比較的新しいリーダーシップの概念です。「サーバント」とは、英語で「召使い」を意味する言葉です。かつてのリーダーシップは、リーダーが役職という組織の公式な力をもとに指示命令を行う発揮方法が中心でした。
しかし時代の変化とともに、リーダーがメンバーを支援する支援型リーダーシップの考え方が発達してきました。サーバントリーダーシップでは、リーダーが集団の目標達成のためにメンバーへ奉仕します。リーダーは、献身的にメンバーの成長を促し、メンバーが困っていれば手を差し伸べます。サーバントリーダーシップは、指示命令を中心とした旧来の支配型リーダーシップとは反対の概念として実際のビジネスシーンで広く浸透しています。
変革のリーダーシップ
もう一つ、ビジネスシーンでよく使われるリーダーシップの概念とした変革のリーダーシップがあります。企業はしばしば変革の必要性に迫られます。新たな市場へ参入する際や企業成長が鈍化した際など変化が求められる場合に、組織変革を行うことが多いでしょう。
しかし組織変革はそう簡単には実現できません。なぜなら組織を構成するのは人だからです。多くの人は変化を歓迎しません。そこで組織変革を成功させるための方法論を確立するために、経営学者でハーバード・ビジネススクールのジョン・コッター教授が変革を成功させた世界中のリーダーたちにインタビュー調査を行いました。その結果、まとめられたのが「変革の8段階プロセス」です。コッターは、変革の成功には8つのステップがあると提唱しています。
- 危機感を高める:組織内の危機感を高め、変革の必要性を認識する段階
- 変革のためのプロジェクトチームをつくる:変革のリーダーとなる推進チームをつくる段階
- 目指す方向性となるビジョンと戦略を示す:変革推進チームを中心に変革の方向性を組織に示す段階
- 変革のビジョンを周知徹底する:変革の方向性や必要性を組織内に浸透させる段階
- 従業員の自発性を高める:変革推進チームだけではなく、各従業員が自発的に変革のための行動を起こす段階
- 短期的成果を実現する:変革のビジョンに基づいた短期的成果を実現する段階
- 短期的成果を活かしてさらに変革を推進する:短期的成果をひな形として、さらに変革事例をつくる段階
- 新しい手法を組織文化として定着させる:変革を組織文化として定着させる段階
この8つのステップを順番に進めることが変革成功のセオリーとされています。
リーダーシップを発揮するための理論
多くのリーダーにとっての関心事項は、リーダーとしてどうすれば効果的なリーダーシップを発揮できるか、ではないでしょうか。そこでリーダーシップの発揮に関する代表的な理論をご紹介します。
リーダーシップに必要な力:6つのパワー
人を動かす力は、どこから発揮されるのでしょうか。組織行動論では、力(パワー)の源泉を6つに分類した「パワー理論」が存在します。
- 強制力・・・解雇、減給、降格などにより、恐怖心をあおることで発揮される力
- 報酬力・・・金銭的報酬、昇進、昇格など何らかのメリットを示すことによって発揮される力
- 情報力・・・人事情報や経営情報など機密情報をコントロールすることにより発揮される力
- 専門力・・・専門技術、専門スキル、知識を有する結果として発揮される力
- 同一化による力・・・芸能人や有名人、尊敬する人など、特定の人になりたいという憧れから発揮される力
- カリスマ性・・・パーソナリティや対人スタイルなど、個人の魅力から発揮される力
6つのパワーのうち、①から③は組織による公式な力です。一方で④から⑥は個人として発揮される力として分類されています。組織として力を高めたいのであれば、①から③の力を高めることで従業員をコントロールできます。もし個人の力を高めたいなら、④から⑥の力を高めることで周囲の人への影響力を発揮できるでしょう。
参考: 組織行動のマネジメント
心理的安全性
近年の組織マネジメントでスタンダードになりつつある概念が「心理的安全性」です。もともとはハーバード大学で組織行動論を研究するエイミー・エドモントン教授によって提唱されました。その後、Googleが組織のパフォーマンスを上げる方法を調べていた際に「心理的安全性」の概念を再発見しました。
Googleは、心理的安全性が高いチームは生産性が高いことに気づき、心理的安全性の考え方をチームづくりに取り入れたのです。Googleによれば、心理的安全性とは「対人関係においてリスクある行動を取ったときの結果に対する個人の認知の仕方」とされています。リスクのある行動とは、ネガティブな感情を吐露する、無知だと思われるかもしれない行動をする、個人の悩みや秘密を打ち明けるといった行動です。こうした行動はお互いに信頼関係がなければできません。心理的安全性の高いチームは、こうしたリスクのある行動をとることに不安やためらいを感じないそうです。
そのため、一見馬鹿げたような新しいアイディアを試すことにも積極的であり、失敗しても許し合える雰囲気があります。チームメンバーがお互いに遠慮せずに率直に意見を言い合えるため、物事が早く決まるだけではなく、無駄な根回しや配慮が不要となり意思決定のスピードが速くなります。チームの心理的安全性を高めるには、3つの方法があるとされています。
- 仕事を学習の機会として捉える
- 自分が間違うということを認める
- 好奇心を形にして積極的に質問する
リーダーシップを発揮するには、リーダー個人の力はもちろん必要です。しかし最も重要なのは、リーダーシップを受け入れる心理的安全性の高いチームをつくることではないでしょうか。
ソーシャル・キャピタル
リーダーが目標達成を成し遂げるためには、時には多くの人の協力が必要です。そのためリーダーは自分自身の能力を高めるだけではなく、人とのネットワークを構築することが重要です。信頼関係をもとに他者と互いに協力しあうネットワークを特徴とするであるソーシャル・キャピタルの考え方は、現代のビジネスでは当たり前のように普及しています。
ソーシャル・キャピタルとは個人や組織間のネットワークそのものや、そのネットワークから得られる資源を意味します。優れたビジネスパーソンは、ソーシャル・キャピタルを通じて情報、アイディア、ビジネスチャンス、富や権力を手にしています。例えばあなたも、友人から仕事や仕事の関係者を紹介してもらったことはないでしょうか。優れたリーダーほど、自分にない能力、スキル、知識、情報を自身のネットワークから入手しているのです。
こうしたソーシャル・キャピタルの考え方は、SNS社会である現代においてリーダーシップを発揮する上でとても重要なビジネススキルと言えるでしょう。
これからの時代のリーダーシップとは?
リーダーシップの発揮方法は時代とともに変化してきました。例えば高度経済成長期では、高い成長を実現するために組織の上位にいるリーダーに権限が与えられ、支配型リーダーシップをもとに組織を導いてきました。しかし、高度経済成長期と比べ社会構造や働き方に対する価値観が大きく変化し、働き方そのものが多様化したこれからの時代では、リーダーシップの発揮方法が大きく変わることが予想されます。これからの時代のリーダーシップとは、どのようなものなのでしょうか。
これからはどんな時代?
今後の時代は、どのような時代なのでしょうか。これからの時代は、「個」の時代であると言えるでしょう。高度経済成長期から90年代初頭にかけては、技術革新や豊富な労働力などを背景に安定的な経済成長が可能であったため、働き方もある程度固定化されました。
多くの人にとって働き方は会社勤めが中心であり、年功序列、男性優位で現代と比べ価値観が画一的な社会でした。しかし、近年ではダイバーシティの取り組みが社会的に活性化し、女性やLGBTの活躍推進だけではなく、SNSを通じて個人の個性が尊重される時代になってきました。
働き方もテレワークとフレックスタイム制が普及し、時間と場所にとらわれない働き方が浸透しつつあります。また仕事も会社勤めだけではなく、副業人口が増え、個人が自分の能力を生かして複数の仕事を担うことも徐々に広まっています。こうした価値観の多様化を背景に、これからの時代は企業よりも個人がそれぞれの能力を発揮する時代と言えるでしょう。
オーセンティックリーダーシップ
これからの時代に有効とされるリーダーシップの考え方が「オーセンティックリーダーシップ」です。米製薬大手であるメドトロニック社の元CEOビル・ジョージ氏が提唱しました。
オーセンティックとは英語で「本物の、誠実な、真正な」という意味です。オーセンティックリーダーシップでは、リーダーは先ほどご紹介したような力(パワー)ではなく、リーダー自身の価値観によって人を導きます。また、オーセンティックリーダーシップはリーダーの倫理観も重要とされています。2000年代では、日本でも大手企業で会計不正などの不祥事が相次ぎました。中にはリーダーが関与していたケースもありました。
企業を持続的に成長させるには、正しい倫理観を持ったリーダーの存在が不可欠です。オーセンティックリーダーシップは、外部の評価に影響されることなく、自分の価値観や正しい倫理観を持って真摯に社会、組織、従業員と向き合うリーダーシップです。ちなみに、オーセンティックリーダーシップには5つの特性があるとされています。
- リーダーが自らの目的を理解している:自らが果たすべき目的や役割を十分に理解している
- 自分が重視する価値観や規範に沿って忠実に行動する:外部に影響されず、自分が正しいと思える軸に基づいて勇敢に行動する
- 情熱的にリードする:人に対して本音で語りかけ、時には自分の弱みを見せる
- 人との関係を構築する:互いに支援しあえる人とのネットワークを築く
- 自分に対する規律を守る:自分を律して常に学び続ける姿勢を保つ
オーセンティックリーダーシップの考え方は、リーダーが自らの価値観や考えによって人を導くリーダーシップスタイルです。価値観が多様化するこれからの時代においてまさに求められるリーダーシップであると言えるでしょう。
参考:自分らしさで人を導く「オーセンティック・リーダーシップ」
リーダーシップ習得におすすめの書籍と習得方法
最後にリーダーシップ習得におすすめの書籍と習得方法についてご紹介します。
書籍「人を動かす」
リーダーシップを一度でも学ぼうと思ったビジネスパーソンであれば、必ず読む本が「人を動かす」(デール・カーネギー著、創元社刊)です。1936年に初版がアメリカで発売され、現在でも売れ続けているリーダーシップのバイブルとも言える本です。長年にわたって売れ続けている理由は、その内容が普遍的なものだからでしょう。日本語版では300ページ以上にわたって人を動かすための原則が紹介され、例えば冒頭のページには「人を動かす三原則」が記されています。
「人を動かす三原則」(概略)
- 盗人にも五分の理を認める:たとえ相手が間違っていたとしても、一方的に非難せず相手の立場にも同情する
- 重要感を持たせる:相手の承認欲求を満たし、重要人物として扱うことで自ら動くように導く
- 人の立場に身を置く:相手の立場になって相手に強い欲求を起こさせる
このように80年以上前に書かれた本でありながら、現代でも通用するリーダーシップの姿勢が記されているのがおわかりでしょう。経営者や管理職の方で手元に1冊は持っているという方もいます。何度読んでも色あせない不朽の名著です。
書籍「ストレングスリーダーシップ」
これからの時代のリーダーシップスタイルである、オーセンティックリーダーシップを発揮するにはリーダーが自分自身の価値観を知ることが重要です。「ストレングスリーダーシップ」(トム・ラス&バリー・コンチー著、日本経済新聞出版社刊)を読めば、自分自身の強みと弱みを把握できます。
「ストレングスリーダーシップ」は、40年以上にわたってリーダーシップを研究してきたアメリカのコンサルティング会社「ギャラップ社」のチームが書き上げた本です。この本はただの本ではなく、ギャラップ社が長年の研究から開発した「ストレングスファインダー」というアセスメントを受けるためのアクセスコードが付属しています。
アクセスコードを使用してアセスメントをオンライン受験すれば、自分自身のトップ5の強みを知ることができるのです。そして書籍には、アセスメントに関する解説が記載されています。弱みを克服するのではなく、強みを活かして人を導く方法について事例と共に説明されているため、自分の強みを発揮する方法を理解することができます。リーダーとしての「軸」をつくりたいという方におすすめの1冊です。
コーチングの習得と実践
リーダーであれば、部下や周囲の人を支援し導く機会が多くあるはずです。そんな時におすすめなのがコーチングスキルの習得です。コーチングは、問いかけを通じて人に目標設定を促し、目標達成に向けて伴走しながら支援を行う人材育成の手法です。時には相手に対して𠮟咤激励し、相手を鼓舞します。また、目標設定が現状維持につながる目標であれば、目標をストレッチさせてより高い成長を促す場合もあるでしょう。コーチングはまさに、リーダーが目標達成のために影響力を発揮するリーダーシップのテクニックそのものです。リーダーシップを効果的に発揮したいリーダーは必ず学ぶべき手法と言えるでしょう。
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