中小企業が事業の拡大や新規事業の立ち上げなどをするときには、資金繰りで悩むことが少なくありません。金融機関から融資を受けるにしても、経営者が保証人になるので不安が多いでしょう。そこでこちらでは、経営者保証制度を利用する際に知っておきたい経営者保証ガイドラインとはどのようなものか、分かりやすく説明していきます。
経営者保証とは?利用する際のメリットとデメリット
経営者保証は個人保証ともいい、会社が金融機関から事業資金の融資を受けるときに、経営者やその親族が連帯保証人になる制度です。事業が安定してきちんと返済ができている限りは特に問題がない制度ですが、万が一経営不振などで返済ができなくなったときには、保証人になっている経営者や親族が返済をしなければなりません。
事業資金はまとまった金額が必要になるケースが多く、自己資金で賄うことができる大企業ならばともかく、中小企業では融資を受けることがほとんどです。しかし、高額の借り入れになるので返済期間も長期になりやすく、売上が不安定な中小企業の場合は連帯保証人になっている経営者等が債務を負うことになる可能性は低くありません。
経営者保証を利用するメリットは、信用力が乏しいと言わざるを得ない中小企業でも、この制度によってまとまった金額の融資を受けやすくなるという点です。金融機関からすれば、まとまった資金を返済できる見込みが少ない中小企業に貸し付けるのは躊躇するものです。しかし、会社だけでなく家や車などの経営者個人の資産まで担保に入れたり、まとまった収入を得ている経営者やその親族が連帯保証人になったりするのであれば、たとえ会社が倒産の危機に陥ったとしても回収の見込みが高くなるでしょう。そのため、それほど規模が大きくない会社でも、融資の申し込みが通りやすくなります。
一方で、デメリットもあります。経営者保証制度を利用すれば、借り入れ自体は比較的容易に手続きを進められますが、必ずしも融資を受けて行った事業が利益をもたらすとは限りません。そして、高額の借り入れである以上、会社で返済ができなくなって連帯保証人に請求がきたときは、経営者個人の破綻にまでつながる恐れがあります。なお、保証人は主債務者が返済できない段階になって支払い請求をされるのに対し、連帯保証人は主債務者の状況に関係なく、いつでも請求される可能性があります。また、保証人が複数いる場合、残債務を保証人の頭数で割った金額を返済すればよいですが、連帯保証人は複数いても一人に対して全額請求することが可能です。基本的には、会社が返済を続けている間は連帯保証人に請求が行く可能性はほとんどありませんが、保証人よりも責任が重いことは理解しておきましょう。
経営者保証ガイドラインの概要
中小企業の経営者にとって負担が大きい経営者保証の問題を改善するため、全国銀行協会と日本商工会議所が策定したのが経営者保証ガイドラインです。その概要や制定の経緯についてわかりやすくご紹介していきます。
経営保証ガイドラインは、そもそも経営者保証で懸念されていた弊害を解消しつつ、融資を受けやすくして新たな事業の展開や早期の事業再生などを応援するために2013年12月に公表されたものです。2014年2月にはこのガイドラインが実施されるようになったものの、法令ではないため自動的に適用されるわけではなく、経営者自身が内容を理解して手続きをしなければなりません。
ガイドラインの内容は大きく分けて3つあります。
まず、一定の条件を満たしている中小企業が新規で融資契約を締結する際、経営者保証を解除することが可能です。また、融資実行後の生活を保護するため、返済時の負担軽減を検討します。例えば、事業再生や廃業の可能性が生じたとき、経営者に一定の自由財産を残し、華美でない自宅に住み続けることも可能です。最後に、会社の経営が立ち行かなくなった時に、返済しきれない債務残額を原則として免除することも規定されています。この場合、法的債務整理と呼ばれる自己破産や民事再生、会社更生等ではなく、中小企業再生支援協議会による再生支援スキームや事業再生ADR、私的整理ガイドライン、特定調停等のように利害関係のない第三者が任意の手続きを行う流れです。債務整理を行った保証人の情報を信用情報機関などに報告しないことも盛り込まれています。
この他にも、金融機関が事業承継で新しく経営者になった個人に対して経営者保証を要求するか、判断する際のポイントが特則で規定されています。例えば、前経営者と事業の後継者、双方に対して個人保証の請求をすることは原則禁止です。また、後継者に対する経営者保証は柔軟に対応しつつ、前経営者との契約も適切に見直しを行うよう記されています。そして、後継者に経営者保証を依頼する場合にはきちんと説明しなければなりません。
特則に関しては、商工会議所や中小企業基盤整備機構、金融機関等で相談することも可能です。中小企業の経営者であり、融資を受ける予定がある場合には、このガイドラインに一通り目を通しておいた方がよいでしょう。
経営者保証ガイドラインの適用条件と利用手続き
中小企業の経営者にとって、経営者保証ガイドラインは非常に使い勝手のよい制度といえます。しかし、全ての中小企業の経営者が利用できるわけではなく、必要な条件を満たしている企業でなければなりません。また、手続きも自分で行うことになるため、あらかじめ手順を確認しておくことをおすすめします。
適用条件
経営者保証ガイドラインが適用されるための条件は、経営者保証なしの新規融資と、経営者保証をしている場合の債務整理で異なります。
経営者保証なしでの新規融資の場合、あるいは既存の契約者保証を解除する場合の適用条件は、主債務者が中小企業であり、保証人が個人かつ主債務者である中小企業の経営者などであること、主債務者の中小企業と保証人が弁済に誠実であり、債権者の請求に応じて借り入れ状況や財産状況などを適切に開示していること、反社会勢力やそのおそれがないことをすべて満たしていなければなりません。また、法人と経営者が明確に区分されるよう努めていること、業績の向上に努めていることも判断基準とされています。
債務整理の場合には、主債務者が法人の法的債務整理手続き、あるいは任意の私的整理手続きの申し立てを同時に行うか、既に係属中もしくは終結していること、債権者が法的手続き等で得られる配当よりも多くの回収を見込めること、保証人に破産法が定める免責不許可事由が該当しないことが適用条件です。
利用手続き
経営者保証ガイドラインを利用する場合は、まず主債務者である会社に対して法的債務整理手続き等を行う必要があります。申し立てなどと同時、あるいはその後に、経営者保証ガイドラインに従って私的整理を実施するという流れです。適用条件を満たしているのか、会社の経営状況を確認し、改善を目指すことも大切です。
なお、手続きや適用条件など、経営者保証ガイドラインについて相談したい場合には、商工会や商工会議所、中小企業基盤整備機構の地域本部、経営者保証ガイドラインを取り扱っている金融機関(政府系金融機関など)が窓口になります。
経営者保証ガイドラインをきちんと理解して、上手に活用を
このように、経営者保証ガイドラインは負担が重かった中小企業の経営者にとって、非常に利用価値が高いシステムだと言えます。しかし、実際にはこのガイドラインの存在を知らず、条件を満たしているにもかかわらず利用していないケースも少なくありません。まずは適用条件を満たしているかを確認した上で、上手に活用しましょう。
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