少子高齢化の煽りを受けて、日本では労働生産人口の減少が問題視されています。従業員1人あたりの負担は大きくなりつつあり、働き手のメンタルヘルスケアは企業にとって喫緊の課題と言っても過言ではありません。日本では従業員ケアの一環としてストレスチェック研修と呼ばれる取り組みが行われています。今回はこのストレスチェック研修の内容について詳しく見ていきましょう。
ストレスチェック研修とはどんなものか
ストレスチェック研修とは、事業所に勤める従業員がどの程度のストレスを抱えているかを簡易的に検査するための制度です。労働者のストレスケアには「一次(未然防止)」「二次(早期発見)」「三次(復帰支援)」の三段階の予防ラインが設けられていますが、ストレスチェック研修はこのうちの一次予防を最大の目的としています。日本では2014年に従業員50名以上の事業所で年1回の実施が義務付けられました。前提として、事業所がストレスチェックの内容を確認するには事前に従業員の同意が必要になります。
2022年の段階でストレスチェック研修を実施しなかった事業所に対する罰則はありませんが、労働契約法に違反している事実には変わりありません。従業員や社会からの信用失墜に繋がるので十分注意しましょう。なお、ストレスチェック研修を実施するには医師や保健師、もしくは厚生労働省が認定した特定の医療従事者の協力が必要になります。人事担当者が単独で行う事は出来ないので注意しておきましょう。実施は企業単位ではなく事業所単位で行う点も要注意です。
ストレスチェック研修の実施方法
ストレスチェック研修は従業員の健康状態に関わる重要な取り組みです。以下の実施プロセスとノウハウを押さえた上で、効果的に実践していきしょう。
社内準備
ストレスチェック研修を実施するにあたっては、まず社内で方針を固めておく必要があります。具体的にはまず「いつ実施するのか」「どこの医師に実施を依頼するのか」「どのような内容でストレスチェックを行うか」「高ストレス者と認定する基準」といった点を決めておきましょう。ストレスチェック研修の実施主体は医師ですが、社内でも担当者を決めて情報共有と認識のすり合わせを行う事が大切です。なお、ストレスチェックの実施と面接指導の担当医を分けるケースも珍しくありません。ストレスチェックは事業所に義務付けられている取り組みではあるものの、その影響を最も受けるのは従業員当人です。そのため、この段階で決めた事については従業員に十分周知しておく必要があります。
医師による実施
医師がストレスチェック研修を実施する際には、予め用意しておいた調査票を用いる事になります。研修を受ける従業員は設問に回答していく事で自身のストレス度合いが評価される仕組みです。なお、ストレスチェック研修では実施者の他にも「実施事務従事者」を決めておく必要があります。実施事務従事者は実施者の指示の下、調査票の回収やデータ入力などを行うのが主な役目です。実施者のように特定の資格を必要とせず、自社の事務職員でも担当する事が出来ます。ただし、人事権を持つ管理職は実施事務従事者に任命出来ないので注意しましょう。
結果の通知と対応
ストレスチェック研修の診断結果は必ず従業員に通知します。この通知は実施者から、つまり事業所ではなく医師から直接行うので留意しておきましょう。この面接指導は強制ではなく、結果を通知した従業員から申し出があった場合に手配するのが原則です。従業員の申し出から1ヶ月以内に医師の面接指導を実施する必要があるので留意しておきましょう。さらに従業員と医師の面談後には、1ヶ月以内に担当医から就業上必要となる措置に関する意見聴取を行います。医師からのアドバイスを受けて労働時間の短縮や休職措置など、高ストレスを抱えた従業員のケアに努めてください。
集団分析と現状改善
集計したデータはすぐに破棄する訳ではありません。事業所はストレスチェック研修によって得た情報を5年間保存する事が義務付けられています。紙媒体なのかデジタル方式なのか、保存方法についても研修実施前に方針を固めて従業員からの同意を得ておく必要があるでしょう。また、厚労省ではストレスチェック研修のデータを用いた集団分析を事業所の努力義務としています。社内の労働環境改善に関わるヒントが豊富に含まれているので、特段の理由が無ければ集団分析は行っておきたいところです。集団分析では「チーム」「課」「部」など規模や所属の異なる集団ごとに分析結果を比較する事で、問題点の所在や原因を探ります。社内に設置した衛生委員会での調査や審議も参考にして分析を進めましょう。問題点が明らかになったら改善策の考案・実施に着手します。
労働基準監督署への報告
ストレスチェック研修の結果、並びに高ストレス者に行った面接指導の内容は毎年労働基準監督署への提出が義務付けられています。厚労省で所定の様式が用意されているので、それに従って書類を作成しましょう。なお、労働基準監督署への提出には具体的な期間が設けられていません。提出時期は各事業所が任意で設定する事が出来ます。ただし、ストレスチェック研修は年1回の実施が義務付けられているため、実質的に前回の研修から1年以内での提出が必要です。期末などの分かりやすいタイミングで提出するようにしておくと忘れにくくなります。
調査票の内容
ストレスチェック研修のメインコンテンツとなるのは、やはり従業員が回答する調査票と言って良いでしょう。調査票の内容には以下のような特徴があります。
主な構成要素は3つ
ストレスチェックに用いる調査票の設問は「仕事のストレス要因」「心身のストレス反応」「周囲のサポート」の3つの要素で構成されています。職場や仕事でどんな事をストレスに感じるか、それによって心身にはどのような症状が見られるか、周りの人間からのサポートは十分であるかを総合的に確認する事が可能です。一般的にYes・Noの二択ではなく、4段階の評価のうち最も当てはまるものを回答します。調査票の設問は指定が無いので、前述した3つの要素を満たしていれば事業所オリジナルのものを作成しても問題ありません。ただし、厚労省で推奨している以下のテンプレートを使用するのが無難とされています。
57項目版
57項目の調査票は厚労省が推奨している最も基本的なスタイルであり、正式名称を「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」と言います。回答の所要時間が5~10分程度と従業員への負担が少ないながらも、バランスの取れた設問構成で十分なデータ集計が期待出来るでしょう。採用している事業所が多いため、統計データを比較するための母数も大きく信憑性が高いです。新規の事業所を立ち上げてストレスチェック研修の実施義務を負う場合には、まず57項目版の調査票を導入してみるのがおすすめと言えます。
23項目版
23項目版の調査票は57項目版から設問数を削減した簡略版となっており、3つの構成要素は満たしているため法令的にも問題なく運用する事が可能です。簡易的ではあるものの手軽にストレスチェック研修を実施出来るため、実施義務を負わない従業員50名未満の事業所で導入するのも良いでしょう。一方、集計されるデータ量には限りがあるので高ストレス者が発覚した場合の対応には時間がかかりがちです。
80項目版
2022年時点で厚労省が推奨する調査票の様式として、最も新しいものが80項目版のものです。「新職業性ストレス簡易調査票」と呼ばれるこの調査票では、57項目版に新しく設問が追加されています。57+23=80となる事から上記2つを足したものと思われがちですが、実際は異なるので注意しましょう。80項目版では従業員のワークライフバランスや人事に対する評価など、より一層幅広い観点からストレスチェックを実施します。設問数の多さから受験数が伸びにくいですが、従業員のメンタルヘルスケアと職場環境改善を積極的に行いたい事業所に向いている調査票です。自社内で正確な集団分析が可能な場合に導入を検討してみてください。
ストレスチェック研修は内容を吟味して実施しよう
ストレス社会と言われる現代社会において、従業員を守るためにはストレスチェック研修が大きな役割を担っています。従業員50名未満の事業所でも積極的に導入していくのが望ましいと言えるでしょう。この取り組みの成否は調査票から得られる情報の量や精度によるところが大きいです。厚労省が定める3つの要素を満たせば自作でも問題ありませんが、慣れないうちは57項目版をはじめとするテンプレートを活用すると良いでしょう。
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