世界的な物価上昇が起こり、生活に影響を受けている人が増えてきている傾向があります。この事情を鑑みて日本でも賃上げの動きが強まり、政府も対応を進めてきました。賃上げは企業にとって欠かせないことで、税制も踏まえて適切な対応を取る必要があります。この記事では、物価上昇によって日本で賃上げがいつから始まり、事業の妨げになるリスクがあるのかどうかを詳しく解説します。
物価上昇によって賃上げが必要になっている
世界的な物価上昇によって、小麦やガソリンなどの価格が高騰してきています。その影響を受け、日本でも賃上げを推進する動きが強くなってきました。インフレによる物価上昇が続く限りは賃上げが必要なのは確かです。ここでは、賃上げとは何かという基本的なところから人事や経営者にとって必要な視点を解説します。
賃上げとは
賃上げとは、広い意味では給料を上げることです。企業では雇用している従業員に対して、年次昇給などを通して給料を上げていることが多いでしょう。賃上げによって従業員の働きや成果を評価し、対価として報酬を与えるという仕組みでモチベーションを上げてもらえるようにするのが一般的です。ただ、物価上昇に伴って必要が生じている賃上げは意味が少し異なりますので注意しましょう。物価上昇による賃上げは国による最低賃金の引き上げを意味することが多くなっています。
日本では最低賃金が都道府県ごとに定められています。物価が高い地域ほど最低賃金が高くなっているのが特徴です。例えば、2022年10月の時点では東京都では時給が1,072円、大阪府では1,023円、北海道では920円、沖縄県では853円になっています。物価が上がると消費活動にかかる費用が大きくなるため、最低賃金を引き上げないと労働者の生活が苦しくなることは否めません。そのため、居住地域で最低限の暮らしを営める程度の賃金の水準を定めています。最低賃金が引き上げられたときには、企業は賃上げをして対応しなければならないこともありますので注意が必要です。
賃上げはいつから始まる?
世界的に起きている急速な物価上昇によって賃上げが話題になり、いつから始まるのかが気になっている人もいるでしょう。実は賃上げは頻繁に行われています。年に一度を目安にして賃金が見直されていて、毎年10月頃に引き上げになるのが通例です。年によってタイミングは異なりますが、7月頃に賃上げの内容について目安が発表されています。そのため、毎年最低賃金の引き上げについて確認して、給料が低い従業員については賃金の改定を考えることが必要です。個々の従業員の給与を変えることもできますが、人事評価制度や賃金表を変更して対応することもできます。
賃上げが事業の妨げになる可能性
賃上げは事業を進める上で妨げになると考えてしまいがちです。しかし、実際には賃上げによって事業が推進される可能性もあります。物価上昇と最低賃金の引き上げによって起こることを広く考慮して、賃上げの影響を詳しく見ていきましょう。
人件費の負担が増えるのが問題
最低賃金の引き上げによって賃上げをして、人件費の負担が増えるのは事業を進める妨げになるリスクがあります。当然ながら賃上げをした分だけ収益を生み出さなければ、企業は立ち行かなくなります。物価が上がって商品を高く売れれば良いですが、インフレになると消費行動が低迷するので売上数が減ってしまいがちです。そのため、賃上げによって増えた人件費を事業で取り返せなくなり、赤字経営になってしまう可能性があります。他にも、人件費の負担が大きくなったことで設備投資などができなくなり、事業を促進しにくくなることもあるのはデメリットでしょう。
最低賃金を超えている従業員にも対応が必要
最低賃金が引き上げられたときに賃上げをしなければならないのは、法的には最低賃金未満になってしまう従業員だけです。ただ、最低賃金を超えている従業員にも昇給などによる対応が必要になります。物価上昇の影響で生活が苦しくなっている可能性が高いからです。従業員のエンゲージメントを高めるには、生活面で不自由がないように支援することが重要です。昇給をして物価水準に合う給料を支給したり、手当を出したりして対応することで従業員が前向きに働いてくれるようになります。賃金が上がらないのが原因で貴重な人材が流出するリスクもありますので、従業員全体に対応することが必要です。
事業の加速になるチャンスがある
全従業員の賃上げをすると資金不足になるのは確かです。ただ、物価が上がって生活が苦しくなってきたときに昇給をして対応してくれたら、企業に対する信頼が高まります。今後の事業を促進する目的で昇給をしたと伝えたら、今までよりもモチベーションを上げて働いてくれる従業員が増える可能性があるでしょう。給料は労働への対価という意味もありますが、今後の期待を込めることもよくあります。賃上げが事業の妨げになるかどうかは、昇給を通していかに従業員をたきつけるかによって違います。事業を加速させるチャンスにもなりますので、機会を生かして従業員に働きかけましょう。
賃上げ促進税制とは
従業員への働きかけによって賃上げは事業を促進できる可能性があるのは確かです。ただ、資金がなくては事業を加速できないのももっともなことでしょう。日本では賃上げ促進税制によって、資金の問題も軽減できるようにしています。ここで、賃上げ促進税制の内容を詳しく確認しておきましょう。
2022年度4月の改正で税額控除を受けやすくなった
賃上げ促進税制とは、給与支給額や教育訓練費を引き上げたときに税金の控除を受けられる制度です。2022年4月の税制改正によって税額控除を受けやすくなってから注目されるようになっています。前年に比べて給与支給額や教育訓練費を引き上げて条件を満たしていれば、法人税に控除を適用することが可能です。2022年4月の税制改正によって、大企業では最大30%、中小企業では最大40%の控除を受けられるようになりました。改正前は大企業で最大20%、中小企業で最大25%だったため、大きな変更になっています。
大企業の場合の賃上げ促進税制
大企業の場合には、新規雇用者給与等支給額が前年比で2%以上増えていれば15%の控除になるのが基本です。前年比で4%増えていたときには10%が上乗せされ、25%の控除になるように変更されました。また、教育訓練費が前年比で20%以上増加していた場合には、さらに5%の上乗せができます。この改正によって、大企業では給与等支給額を増やすメリットが大きくなりました。
中小企業の場合の賃上げ促進税制
中小企業の場合には、雇用者全体の給与等支給額が前年比で1.5%以上増額していたら15%の控除を受けられるのが基本になっています。改正前は給与等支給額が2.5%以上増額、または教育訓練費が前年比10%以上増額していたときに10%の上乗せになり、25%の控除を受けることができました。しかし、改正後はこの二つの項目が独立し、それぞれに対して上乗せの控除を受けられるようになりました。雇用者全体の給与等支給額が前年比2.5%以上の増額になっていたら15%、教育訓練費が前年比10%以上の増額になっていたら10%の控除を上乗せできます。3つの条件をすべて満たしていたときには、40%もの税額控除を受けることが可能です。
賃上げを通して事業を促進させよう
物価上昇に伴って、賃上げが必要になっています。人件費が増えて資金が減るのは事業の妨げになると思いがちですが、昇給は従業員のエンゲージメントやモチベーションを上げることにつながります。賃上げ促進税制に合わせて給与や教育訓練費を上げて節税すれば、費用を抑えながら従業員の意欲をたきつけることが可能です。今後の事業を加速させることを視野に入れて、給与を再考しましょう。
この記事を読んだあなたにおすすめ!