日本では様々な観点から労働環境の整備が進められており、その1つに「育児休暇制度」が挙げられます。幼い子どもを持つ従業員に対して育児に専念する時間を確保してもらうための制度ですが、女性に比べて男性の取得率が伸び悩んでいるというのが現状です。そこで政府は2021年、男性育休に関する法改正を行いました。本稿では男性育休について企業が把握しておきたいポイントを解説します。
育児休暇を取り巻く日本の実情
日本において育休が法制化したのは1991年のことでした。徐々に認知度と取得率が高まっていった育休ですが、男性従業員に限っては取得率が伸び悩んでいました。まずは男性の育休に関する予備知識を身に付けておきましょう。
育休の取得率について
厚生労働省の「雇用均等基本調査」によると、「育児休業等に関する法律」が施行されてから4年後の1996年における女性の育休取得率は49.1%に留まってしました。しかし制度の認知度が広まるにつれて徐々に取得率は伸びていき、2008年には取得率90.6%をマークしています。その後は2020年に至るまで80%台をキープしているため、制度として比較的安定した役割を果たしていると言えるでしょう。
一方、男性の育休取得率に目を向けると1996年は0.12%とほぼ活用されていなかったことが分かります。そこからは右肩上がりながらも伸び率は緩やかであり、初めて1%を超えたのは2007年のことでした。2019年に取得率7.48%まで制度の活用が進み、2020年には12.65%と前年から5%も取得率を伸ばしています。この成長には2019年に施行された「働き方改革関連法案」が影響していると考えられるでしょう。働き方改革の柱となっているのは「長時間労働の改善」や「正規・非正規間の格差是正」ですが、目的の一環には少子高齢化の防止に繋がる「出生率の向上」も含まれているのです。男女を問わず育休を取得しやすい環境が整えば、子育てへの不安が軽減して出生率向上が期待出来ます。
男性が育休を取得しにくいのは何故か
男性の育休取得率が女性に対して伸び悩んでいる背景には、まず「日本の育児習慣」が大きく影響していると言えるでしょう。厚生労働省による「労働力調査」では、1991年頃を境に共働き世帯が夫が1人で働いている世帯の数を逆転したことが示されています。その差は年々開いており、2019年時点では世帯数に倍以上の差がついたのです。日本では長きにわたって「男性が外で働き、女性が家庭を守る」という風習が根付いていました。子どもが生まれた従業員当人がこうした認識を持っているケースもありますが、特に管理職世代にはその名残が強い傾向が見られます。企業が制度を整えていても、職場の雰囲気に流されて育休を取得出来ないという男性が多いのです。
また、大きな理由としてはもう1つ「労働力不足」が挙げられるでしょう。日本では少子高齢化の煽りを受けた生産年齢人口の減少も問題視されています。企業が人材確保に苦労するという事態も珍しいものではなく、現場の従業員1人あたりの負担も大きくなりがちです。育休を取得して職場から一時離脱することで、「周りの従業員に迷惑をかけてしまうのではないか」という懸念を抱く男性も少なくありません。女性が産休の延長線上で育休を取得しやすい一方で、男性はいきなり育休を申請しにくいという事情も垣間見えます。
男性の育休を促すための法改正
2021年に改正された「育児・介護休業法」は2022年4月から順次施行されていますが、まだその内容を認知していないという人も多いでしょう。以下では改正内容の中でも大きなポイントを掻い摘んで紹介します。
個別周知および取得確認の義務化(2022年4月から)
男性から配偶者の妊娠・出産の申し出を受けた企業は、育休制度に関する説明および取得有無の確認が義務付けられました。実は2017年の法改正においても「個別の周知」という項目が設けられていたものの、企業に対しては努力義務という指導に留まっていたのです。2022年4月の改正法施行以後は原則として「面談」「書面」「FAX」「電子メール」のいずれかで個別に周知することが義務となっています。育休取得の確認は出産予定日に応じて1ヶ月~2週間前までに行うのが基本です。
取得しやすい環境の整備(2022年4月から)
いくら制度が充実していても、取得しやすい環境が整っていなければ男性の育休取得率は上がりません。企業は男性従業員が育休について前向きになれるように、「育休制度の研修」「相談窓口の設置」「事例の情報収集および提供」「制度の周知徹底」のいずれかに取り組むことが義務付けられています。
産後パパ育休制度の創設(2022年10月から)
2021年の法改正では、新たに「産後パパ育休」という制度が創設されました。「通常の育休とは別」「男性のみ取得可能」という点が大きな特徴であり、休業開始の2週間前に申請することで配偶者の産後8週間以内に最大4週間の休暇を取得することが出来ます。保育所の利用や配偶者の復職状況に合わせて休暇を2分割出来るようにもなっており、柔軟な活用が期待されている制度です。
育休の分割取得制度(2022年10月から)
子どもが1歳になるまでの育休制度を分割して取得出来るようになったという点も、改正の大きなポイントとなっています。男性だけでなく女性の育休にも提供されるため、夫婦で休業期間をずらして交代制で仕事と育児を担当しやすくなりました。また、子どもが1歳になって以降の育休延長についても対応が柔軟化されており、個別の事情に配慮するよう企業に促されています。
育休取得状況の公表義務化(2023年4月から)
従業員の常時雇用数が1000人を超える場合、育休制度の取得率について年に1回の公表が義務付けられます。インターネット上に掲載するなど誰でも確認出来る必要があるため、採用活動にも影響する可能性が高いでしょう。
男性が育休を取ることによる企業側のメリット
「現場の労働力が下がる」という印象が持たれがちな育休ですが、実際には企業にとってもメリットがあります。男性の育休取得によって期待出来る企業側のメリットは以下の通りです。
従業員満足度の向上
「休みが必要な時に休める」というのは従業員にとって認められる権利でありながらも、中々実現が難しいという実情もあります。特に育休は従業員のプライベートである家庭環境に大きく関わるため、取得の可否は重要なポイントです。男性が必要に応じてスムーズに育休を取得出来る職場環境は、従業員満足度の向上に寄与するため仕事のモチベーションアップや離職率低下に効果が期待されます。
企業イメージの向上
育休に関する世間の関心度は高まる傾向にあり、就職・転職活動において求職者がチェックしやすいポイントです。特に大企業は改正法が施行されてから取得率の公表が義務付けられているため、避けて通ることは出来ません。女性だけでなく男性の育休取得率の高い企業は「柔軟で働きやすい職場」として求職者から注目されると言えるでしょう。
イノベーション人材の育成
現代ビジネスシーンでは斬新な発想力や柔軟性に富んだイノベーション人材の重要性が高まっています。人間の価値観に根差した部分であるため育成が難しいとされていますが、有効とされているのが「多様性の中に身を置く」ということです。男性が育休を取得出来るようになると、育児中に様々な体験をすることも期待出来ます。それはプライベートな時間での気付きであったり、地域やコミュニティーとの交流であったり様々です。育休中の経験で視野が広がることは、イノベーション人材として成長することにも繋がるでしょう。
業務効率の改善
育休は事実として現場から一時的に従業員が抜けてしまうことになりますが、それだけで仕事が回らなくなるような業務プロセスは企業にとって健全とは言えません。業務の属人化やブラックボックス化が発生している可能性が高いため、抜本的な見直しが必要になることもあるでしょう。不要なプロセスを省いたりタスクの割り当てを再考したりすることで業務効率化が実現し、結果的にチーム全体の生産性が向上するケースも少なくありません。従業員が育休を取得しやすい環境作りは、効率的な業務プロセスの構築でもあるのです。
男性の育休はもはや常識!労使で制度を積極的に活用しwin-winの関係を築こう
従来は女性の権利というイメージが強く持たれていた育休ですが、男女共同参画社会や働き方改革など様々な後押しもあり男性にとっても重要な制度として認知されるようになりました。子どもが生まれた従業員はもちろんのこと、企業側にとっても育休を積極的に運用するメリットがあります。時代の流れやニーズに合わせて、自社でも男性育休に関する法改正にしっかり対応していきましょう。
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