日本はさまざまな社会問題を抱えており、どれもすぐに解決できるようなものではありません。しかし、法改正や技術革新、意識改革などにより解決を図ろうとする試みも進められています。そのような中で注目されている労働に関する概念の一つが「ワーキッシュアクト」です。本記事では、いくつかの労働に関する社会課題の解決の突破口にもなりうるワーキッシュアクトについて、注目される背景やメリット、具体例などを解説します。

ワーキッシュアクトとは

まずは、ワーキッシュアクトの意味について考えます。リクルートワークス研究所が名付けたものであり、比較的新しい概念であるため、定義にはまだ曖昧な点があるでしょう。ここでは、基本的な考え方と、ワーキッシュアクトの内包する要素の中で、特に重要なポイントに着目し解説します。

ワーキッシュアクトの意味

ワーキッシュアクトは英語で表記すると「Workish act」であり、これは「Work-ish」と「act」の2つの意味を掛け合わせた造語です。「Work-ish」は、漠然とした、あるいは抽象的な社会に対しての機能や作用を指しています。「act」は活動の意味ですが、ここでは本業以外の活動を指す言葉として使われている点が重要です。つまり、ワーキッシュアクトとは、本業以外での労働や活動を表しています。さらにいえば、そうした労働や活動のうち目的の一つに報酬があり、そのうえで、他者あるいは社会の労働需要を担う性質であるものがワーキッシュアクトといえます。

ワーキッシュアクトのポイント

多くの人は携わる仕事により、他者の需要を満たしています。それとは別に、社会に溢れる他者の需要を本業以外で満たしている点が、ワーキッシュアクトのポイントの一つです。さらに、報酬を得ている必要もありますが、金銭的報酬だけではなく心理的報酬や社会的報酬など種類は問いません。他者の需要に対しなんらかの活動で供給を行い、供給側がそこに喜びを感じたり対価を見出したりしている点が、ワーキッシュアクトの最大のポイントといえるでしょう。

他者への貢献やニーズを満たすといった意識は必ずしも必要ではない点もポイントです。「楽しいから行っている」「好きだから行っている」「得をするから行っている」などがきっかけであっても構いません。その結果、誰かの需要を満たしている、誰かの役に立っているところがワーキッシュアクトの特徴です。そのため、活動量にもよりますが、本業に悪影響を及ぼすケースは少ないでしょう。むしろ、企業が従業員のワーキッシュアクトを容認することにより、本業にさらに前向きに取り組んでもらえる効果も期待できます。

副業やボランティアなどとの違い

本業以外での仕事であれば副業があり、他者の需要を満たす活動でいえばボランティア活動や慈善活動などが思い当たる人もいるでしょう。違いを明確に定義するのは困難であり、いずれもワーキッシュアクトとまったく異なるものでもありません。これらの仕事や活動のうち、報酬を求めた結果、誰かの需要を満たすものがワーキッシュアクトです。そのうえで、ワーキッシュアクトは既存の概念や従来の価値観とは別に、より個人の活動や意欲、そこから生まれる価値を前向きに捉えるものといえます。たとえそれが自分自身のために始めたことであっても、結果的に他者のためになっていればワーキッシュアクトといえるでしょう。

ワーキッシュアクトが注目される背景

ワーキッシュアクトが注目されるのには、社会的な構造や価値観の変化が関係しています。ここでは、どのような変化がワーキッシュアクトの必要性を増しているのかをみていきましょう。

人手不足

日本は人口減少に伴い労働人口も減少し、人手不足に陥ろうとしています。実際に、人手の足りない産業も少なくありません。人手が足りなくなると、労働需要、つまり、困りごとや助けてもらいたいという気持ちを持つ人や場面が増加します。その一部を担うものとして期待されているのがワーキッシュアクトです。本業とは別に活動する人が増えれば、自然と社会の労働需要を満たす人や機会も増えていくでしょう。

労働者の高齢化

定年退職の年齢が引き上げられる動きがみられるものの、60代や70代になれば、やはり20〜40代と比べると体力的にも精神的にも陰りがみえてくるでしょう。本業に向き合う時間や体力、精神力が減ったぶん、好きなことへ費やせる時間が増える高齢者は少なくありません。今後も、その傾向が強まると予測されます。その好きなことが他者のためになれば、それは立派なワーキッシュアクトです。高齢化する労働者の時間や体力、精神力を有効活用し、高まる労働需要を満たす一助になると期待されています。

働き方の多様化

地方移住やリモートワーク、サテライトオフィスでの業務やフレックスタイム制など、働き方も多様化してきています。自分の時間を優先する働き方を選択する人も少なくありません。その時間で自分にとって価値のある活動を行い、結果的に他者の需要を満たせば、それはワーキッシュアクトとなります。今後も働き方の多様化は進むとみられ、同時にワーキッシュアクトの注目度は上がっていくでしょう。

ワーキッシュアクトの具体例

意味や概念だけでは、ワーキッシュアクトの本質が掴みづらい人もいるでしょう。ここでは、ワーキッシュアクトの具体例を紹介します。

ゲームによるインフラの点検

日本中のマンホールを撮影し収集する、スマートフォンを活用したゲームアプリがあります。マンホールは地域ごとにデザインが異なり、そこに魅力を感じる人たちの間で話題となりました。一見、趣味に特化したゲームのように感じますが、位置情報と紐づけることで、マンホールの状態が確認可能です。自治体の職員が一つずつチェックしていては追いつかないマンホールの状態確認を、マンホールが好きな人たちに、いわば代行してもらえる仕組みです。ゲームを楽しむ過程が、実は自治体の業務を助け、かつその地域住民の安全性の確保にもつながっている例といえるでしょう。

屋外活動によるパトロール

健康を意識する人の増加により、ウォーキングやランニングをする人も増えているようです。そのような屋外活動をする人の多い地域では、犯罪も起きづらい傾向にあるでしょう。歩いたり走ったりしている人が監視役となっているためです。本人たちは健康のために楽しんでやっているだけであっても、結果的に、地域の治安維持に貢献しています。

地方での体験や活動

地方での農業体験やリゾート地での活動なども、ワーキッシュアクトの一種といえます。新たな体験や活動を通じ、金銭的な報酬を得ながら、自分の人生について考えるきっかけも持てる素晴らしい機会です。それが、人手不足で悩む農家や宿泊施設等の労働需要を満たしているのであれば、ワーキッシュアクトとしての意味が生まれるでしょう。

ワーキッシュアクトがもたらすメリット

ワーキッシュアクトは新たな概念であり価値観であるため、メリットを実感できる人が増えるのはこれからでしょう。ここでは、積極的に取り組むことにより得られるであろうメリットを考えます。

社会が抱える課題の解消へとつながる

人手不足や高齢化などの社会課題の一部の解消へとつながる可能性があります。労働需要のすべてを満たすことは容易ではありません。しかし、新たな働き方や活動方法の提案により、結果的に、誰かの需要を満たす人の増加は期待できます。それが社会へと浸透・定着すれば、本業とは別に報酬を得ながら、さらに社会の一部として貢献できる可能性も広がるでしょう。

気軽に自然と誰かの役に立てる

ワーキッシュアクトは、何も崇高な理念や強固な意識を持って取り組む必要はありません。動機は非常に軽微なものでよく、それが誰かの役に立っていることがポイントです。誰でも取り組みやすく、責任やプレッシャーなどにもあまりとらわれないため、気軽に自然と他者貢献ができます。そうした特徴により継続性が見込める点もワーキッシュアクトのメリットでしょう。

イメージや意識の変容が起こる可能性がある

ワーキッシュアクトの浸透は、労働や仕事というものに対するイメージや意識を変容させる可能性があります。自分に対しての価値を優先し、結果的に報酬を得ながら他者への貢献へとつながれば、仕事や労働の意味を考え直さざるをえないでしょう。もちろん、ワーキッシュアクトは本業とは別の活動を指すため、本業そのものへの意識を即座に変容させるものではありません。しかし、人口減少や多様化がさらに進めば、より自分や他者にとってポジティブで意味のある働き方や活動を選ぶ人が増える可能性が高まります。多くの場合、それは社会にとってもポジティブな効果をもたらすでしょう。

本業や採用にもよい影響をもたらす可能性がある

ワーキッシュアクトは、本業以外にも充実した時間があることを意味します。従業員にとってそのような時間が確保できていれば、本業への意欲も増すことが期待されます。また、ワーキッシュアクトに取り組む人は行動的であり、好奇心の強い人であるケースも少なくありません。さらに、特別な知識や技術を有している可能性もあります。採用時に参考にすることで、そのようなメリットを本業にも活かしてくれる人材の選択にもつながるでしょう。

ワーキッシュアクトは働き方や仕事への価値観を変える可能性のある新しい概念

本業以外の活動の中で、報酬を得ながら、結果的に誰かの役に立つものがワーキッシュアクトです。始めるきっかけは自分のためで構いません。ポイントは、それが誰かの助けとなるなど労働需要を満たしている点です。ゲームや趣味、副業がワーキッシュアクトとなるケースもあります。浸透・定着すれば働き方や仕事への価値観に対する変化も期待でき、さまざまな社会課題を少しずつ解消する可能性が出てくるでしょう。

 

この記事を読んだあなたにおすすめ!

こちらの記事もおすすめ!
お役立ち情報
メルマガ無料配信

お役立ち情報満載!ピックアップ記事配信、セミナー情報をGETしよう!

人事のプロが語る、本音のコラムを公開中

人事を戦略に変える専門家たちが様々なテーマを解説し、"どうあるべきか"本音 で語っている記事を公開しています。きっとあなたの悩みも解消されるはずです。


お役立ち資料を無料ダウンロード
基礎的なビジネスマナーテレワーク規定、管理職の方向けの部下の育て方評価のポイントまで多種多様な資料を無料で配布しています。ぜひご活用ください。