労働人口の減少、人材流動性の加速に伴い、従業員の離職が企業の抱える大きな課題となっております。当社にも「離職防止を行いたい」「従業員を定着させたい」といったご要望を持ったお客さまからの問い合わせを本当に多くいただいております。当社では離職防止に向けた取り組みの支援はもちろん行っておりますが、その中でふと「離職」そのものを無くすことが本当に正しい事なのだろうかといった疑問がわきました。また、過去と比べると確かに離職は増えておりますが、海外に目を向けるとまだまだ転職回数は低い水準にあります。
そこで今回は離職が本当に問題なのか、考えてみる機会としたいと思います。第一回では離職者数や現在の労働人口のトレンドから、なぜ離職が問題視されるようになったか考えていきます。

離職のトレンドの変化
厚生労働省「令和5年雇用動向調査の概況」によると、離職率は約15%、これは過去15年で増減しつつ、おおよそ同じ水準にあります。性別別にみると男性が約12%でほぼ横ばいに対して、女性は2021年に一度約15%まで下がるも、現在は過去水準の約17%になっています。また離職者数の多い業界は「宿泊業、飲食サービス業」が最も多く、次いで「卸売業、小売業」「医療、福祉」が続きます。また、年齢別にも見ると、20代では男性が約15%、女性が約20%であるが30代から50代にかけてその水準は下がり、男性は45歳から49歳が最も低く5.3%、女性は55歳から59歳が7.6%になっています。
このトレンドから読み解けることは全体の離職率は近年離職が問題視されている状況と過去を比較すると大きく変わる事がなく、男女とも20代の離職率が高いという事です。 過去から一定離職者は出ている中で、そもそも離職を減らそうと考える事はやや無理があると考えます(勿論、個社の状況においては、これらのトレンドとは合わない可能性は十分ありますが……)。企業は離職と仲良く付き合っていく≒一定の離職者が出ることを前提としつつ経営を行う事は、過去も現在も変わらないと考えます。
離職が問題視されるようになった理由
離職のトレンドについては大きく過去と変化がなく、離職者が出ることを前提とした経営を行う事はこれまでも変わっていないです。その中で、現在離職が経営における大きなリスクであるとされるようになった理由について考えていこうと思います。
企業が直面する大きな問題として、近年の労働人口の減少が上げられます。厚生労働省の調査によると、少子高齢化が進んでいる現代の日本では15歳から64歳の生産労働人口は下がり続け、同様に高齢者率は高まっていきます。対して、就業者数は過去と比べ最高の数字を示すなど、シニア人材の活用が進んでいる、ないしは経営を維持するためには活用せざるを得ない状況に陥っています。従って、20代の若者が離職するが、その穴埋めを同じ20代ですることが出来ず、企業の平均年齢は上がり続け、結果として後継者がいない事によって企業を維持することが出来なくなっています。
また、離職の問題には昨今の技術革新も影響があるのではないかと考えます。IT技術の進歩は想像を絶するスピードにあり、これらの技術を活用できるのは経験を積み上げた人材ではなく、最新のトレンドへの感度の高い若者になります(10代の人材がもしかすると今の最新技術を使いこなしているかもしれません)。従って、企業に若い人材がとどめられないと現在のビジネスにおけるIT技術を活用できる人材がいなくなり、企業が競争力を保てない状況に陥ります。加えて、IT技術の革新により、フリーランスや個人事業主でも十分な収入を得られる状況になり、社会的な地位や安定よりも自身のキャリア、やりたい事を重視する傾向のある若者も多くいるため、結果として離職に対しての意識が低くなっている可能性もあります。上記の様な状況を受け、企業は特に若い世代から「離職者」を出さないようにするようになっていきます。しかし、この問題は社会全体が抱える問題であり、一社が施策を講じて解決する事は困難であると考えます。
離職者は「ゼロ」に出来るのか
上記を目指していく企業が多くあることは事実です。当社としても出来る限り離職者は出さない方が良いと考えています。しかし、離職者を「ゼロ」にする事を目標にしてしまうと、離職者を「ゼロ」にすることは出来ないと考えます。
離職の理由には労働時間や報酬といった労働条件に関する事から、職場の人間関係が好ましくないといったソフト面、仕事に対してのやりがいが感じられない事や自身のキャリアアップのため、あるいは結婚や出産、介護や自身の体調といったやむを得ない事情まで様々な事が挙げられます。これらすべての事に対策、対応していく事は現実的な施策ではないと考えます。
これらの状況も踏まえて、企業が離職とどの様に向き合うべきか、次回考えていこうと思います。
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