晩婚化などを背景に、働きながら不妊治療を受ける人は増えています。しかし、仕事との両立が困難になり離職するケースも少なくありません。不妊治療と仕事の両立に関して企業の対応が求められており、職場内での不妊治療についての理解を深め、両立支援の制度導入や利用の促進が必要とされています。今回は企業における不妊治療と仕事の両立支援の取り組みや制度、活用できる助成金について紹介します。

不妊治療と仕事の両立は難しい

働きながら不妊治療を行う人も多く、企業はそういった社員のニーズに応えるよう求められています。不妊治療ではどのようなことを行い、仕事との両立においてどういった困難が生じ、どのような職場の配慮やサポートが必要となるのか、理解を深める必要があります。

不妊とは

不妊とは、避妊せず性交をしているにも関わらず、1年妊娠しないことを言います。原因はさまざまで、特に原因が分からないというケースも少なくありません。厚生労働省の「不妊治療と仕事との両立サポートハンドブック」によると、不妊を心配したことがある夫婦は39.2%、実際に不妊の検査や治療を受けている、または受けたことがある夫婦は22.7%と、夫婦全体の約4.4組に1組は不妊治療の経験があることを示しています。

不妊治療とは

不妊治療では、不妊検査を行い不妊の原因を確認し、原因に応じて治療を行います。2022年4月から人工授精や体外受精、顕微授精などの治療法も公的医療保険適用の対象となり、不妊治療を望むカップルが治療を受けやすくなった一方、不妊治療を続けられる環境が整っていないため仕事を諦めたり、治療を断念したりするカップルも少なくありません。さらに、治療は妊娠・出産するまで、もしくは治療を止める決断をするまで継続します。治療が進むにつれ身体的にも精神的にも経済的にも負担は大きくなることも多く、仕事の両立が難しいと感じる人は少なくありません。1回の治療は病院にもよりますが1~2時間程度、さらに待ち時間を含めると数時間かかる場合があります。

不妊治療と仕事を両立する上で、何がハードルになっているか

仕事をしながら不妊治療を行う場合、治療を行うために急な通院や頻回な通院が求められます。あらかじめ通院スケジュールをたてることも難しく、突然の休みに周囲に迷惑をかけていると心苦しく感じる人も少なくありません。不妊治療のこうした特徴への理解やサポートが不可欠であると言えるでしょう。そのため、企業に不妊治療の両立支援が求められているのです。両立支援を促進させる目的として、2021年に一般事業主行動計画が改正されました。改正内容としては、計画に盛り込むことが望ましい事項に「不妊治療を受ける労働者に配慮した措置」が追加されています。企業はこれまで以上に不妊治療と仕事の両立支援への取り組みを行うことが求められているのです。

両立支援の具体的な取り組み

不妊治療と仕事の両立では、企業は具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか。両立支援の具体的な取り組みや制度について紹介します。

サポートする制度づくり

企業においては、社員が不妊治療と仕事を両立できるよう、職場の制度を整える必要があります。まずは、両立支援の取り組みを主導する部署や担当者を決めるなど、体制の整備や社内周知を行います。合わせて現在の社内の理解度やニーズを把握するために、社員のヒアリングやアンケートを実施したり、労働組合等との意見交換をしたりすることも重要でしょう。制度があっても必要としている人が活用できなければ意味がないため、実際に運用できるか検討しながら進めることが大切です。具体的な両立支援としては、不妊治療での休暇・休職制度の整備や、時間単位の有給休暇制度の導入、フレックスタイム制度やリモートワークの導入などが挙げられるでしょう。

不妊治療での休暇・休職制度や時間単位の有給休暇制度の導入

不妊治療では、身体的・精神的負担が大きい治療も多く、頻回な通院が求められることも多いため、仕事との両立支援としては不妊治療を目的とした休暇が取得できる環境を整備する必要があります。有給もしくは無給の特別休暇制度や休職制度などが考えられるでしょう。また、時間単位での有給休暇制度の導入も不妊治療と仕事との両立支援として有効です。企業の裁量で時間単位や半日単位の休暇を付与するものです。就業規則の変更などが必要ですが、少ない負担で取り入れやすい制度でしょう。

フレックスタイム制度やリモートワークの導入

不妊治療では突然通院することが決まったり、病院での滞在時間が読めなかったりすることが少なくありません。フレックスタイム制度を導入することで、社員の都合で自らの出退勤が調整できるようになるため、通院後の出勤や突然の通院にも対応できるでしょう。フレックスタイム制度では、月の総労働時間の範囲内で働くことが可能になるため、通院が必要な日は一日の労働時間を短くし、通院しない日に長く働くというように、社員の裁量で働く時間の調整ができるのが特徴です。また、リモートワークでは、場所を選ばず仕事ができるため、通勤時間の短縮にもなります。通院へのハードルも下がるでしょう。

職場内の不妊治療への理解を深める風土づくり

両立支援制度の利用を、希望する社員が気兼ねなく申し出できるよう、制度に関して全社員に周知することが重要です。制度を利用しやすくし、ハラスメントが生じないよう、不妊治療に対し理解のある社内意識の醸成などの風土づくりが不可欠でしょう。また、利用を希望する社員がスムーズに手続きできるよう、利用要件や申請方法、申請時期など必要な情報を手に入れやすくすることも重要です。周知すべき事項や周知の方法など、工夫する必要があるでしょう。

同時に、不妊治療に関する社員のプライバシーの保護にも配慮する必要があります。不妊治療は非常にセンシティブな事柄です。プライバシーに関することのため、社内のどの範囲まで情報共有するかについては、あらかじめ本人と相談し、本人の意思に反して個人情報が職場全体に知れ渡ってしまうことのないよう適正に管理しましょう。

制度は一定期間後に見直し、改善していく

実際に制度を利用した社員からアンケートをとったりヒアリングを行ったりなどし、活用実績を踏まえて制度の見直しを行い、改善していくことが大切です。不妊治療で両立支援制度を利用している社員だけでなく、他の社員から不満が生じないよう、制度に関して社内全体で共有し、意見を出し合える環境を整えることが重要です。社内全体で、不妊治療だけでなく、育児や介護など、家庭の事情は全ての人に起こりうることであるという理解を深めることが大切でしょう。

企業が受けられる助成金

不妊治療では通院によって遅刻や早退、さらには仕事を休まざるをえないことが多く、これまで通りの業務がこなせないことも少なくありません。不妊治療と仕事の両立は難しく、両立のための制度が整っていない企業も多いでしょう。そうした企業が不妊治療と仕事の両立を支援する職場環境整備に取り組めるよう、厚生労働省は両立支援等助成金と呼ばれる制度を設けています。対象は、不妊治療のために休暇制度や両立支援制度を導入し、労働者に利用させた中小企業事業主です。

両立支援等助成金(不妊治療両立支援コース)

両立支援等助成金(不妊治療両立支援コース)は、「不妊治療のための休暇制度」や「所定外労働制限制度」「時差出勤制度」「短時間勤務制度」「フレックスタイム制」「テレワーク」のうち、いずれか、もしくは複数の制度を導入し、労働者に利用させた中小企業事業主を対象とした助成金制度です。支給要件を満たし、労働者が不妊治療のための休暇制度・両立支援制度を計5日(回)利用した場合に、30万円支給されます。その支給後、さらに労働者が不妊治療休暇を20日以上連続して取得した場合、さらに30万円支給されます。1事業主1回限りの助成金制度です。

不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりを

働きながら不妊治療を受ける人は今後さらに増えていくことが予想されます。中小企業では不妊治療のために利用できる休暇制度などを導入し、利用促進に取り組むことで国から助成金が支給されるなど、国を挙げて不妊治療と仕事の両立支援に取り組んでいます。社員のニーズに応じて柔軟に働ける制度を作り、利用してもらうことは、社員の安心感やモチベーションに繋がるため、企業にとっても大きなメリットとなるでしょう。

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