この記事は【運用編】です。【制度構築編】は以下リンクから確認できます。
前回の振り返り
コンサルタント4年目を迎えた三上は、日ごろ業務で発生するもやもやを解消するために「AACコンサルタント 三上のもやもやシリーズ」を掲げ、コンサルタントたちの経験やテーマに関連する書籍を参照・整理し、まとめている。第4弾は「能力」とは?がテーマである。前編にあたる【制度構築編】では、能力主義の提言がなされた日本経営者団体連盟の書籍を踏まえ、能力の定義について検討した。能力評価を構築するにあたり、設計メンバーそれぞれで能力に対する定義や認識が異なることが頭を悩ませる点であった。そして、認識を統一するためには、以下3点の項目をすり合わせることが重要であると述べた。
- 能力に紐づける業績を何とみなすか(成果や行動、職務、求める人材像等々)
- 能力の中でも特に重視する要素(知識や経験なのか性格や意欲なのか等々)
- 何らかの序列の中にある求める能力の違いや能力のレベル感(上位等級は高度なコンセプチュアルスキルを求めるが、下位等級はテクニカルスキルを求める等々)
【図1】認識を一致させる論点
上記3点の認識を一致させることで、一貫性のある能力評価を設計することができる。しかし、いくら良い能力評価を構築したとしても、その活用や運用ができていなければ意味がない。つまり、能力評価をいかに活用し、人材育成に繋げていくかについてである。後半である【運用編】では、能力評価の活用と人材育成への接続をテーマに検討する。
能力評価の運用パターン
能力評価とひとえに言っても、【制度構築編】で示したように、何を能力とみなすかによって様々な仕組みや運用がある。まずは能力評価の仕組みや運用パターンを整理しよう。
【表1】能力評価パターン
能力評価における能力の対象として、体力、適性、経験、性格、意欲、スキルが【制度構築編】で挙げられた。能力評価の各項目がそれぞれどの対象に該当するのかを示したのが表1である。例えば、力量評価は業務で必要な内容を評価するため、「経験」や「スキル」が能力として示されることが多いが、情意評価は「性格」や「情意」といった本人の資質に関わるところを評価する。任用評価とは、よくジョブ型人事制度や管理職の登用時に使われる評価であり、社員がそのジョブにマッチするかあるいは管理職として求める職責を果たせるかどうか検討する際に使われる評価である。成果や行動の達成度合いを見られることもあるが、場合によっては適性や経験、スキルを見ることもある。会社によっては、ヒューマンスキルを設定して能力評価を実施したり、会社で掲げているあるべき人材像を具体化したものを能力評価として設定したりしている会社もある。そのような評価は、本人の性格や意欲、スキルを見ている。
能力評価の設定の仕方も大きく2パターンに分かれる。1つは項目で設定するパターンである。力量評価や情意評価等が該当する。これらの評価は、評価項目も達成基準も決まっており、その内容に基づいて評価を行う。もう1つはMBOで設定するパターンである。等級定義やあるべき人材像といった一定の基準に基づいて目標を設定する場合が多く、達成基準は内容に基づいて個々に設定する。また、評価の反映先も昇格にのみ反映する場合と、昇格だけでなく報酬にも反映する場合に分かれる。報酬にも反映する場合、賞与への反映は少なく、昇給の反映が多い。筆者の経験としては、力量評価や任用評価のような比較的テクニカルスキルを問うような評価は、報酬にも反映することが多く、一方、情意評価やあるべき人材像に基づく評価は昇格のみに反映することが多い傾向があるように思う。これは、評価要素の性質に基づく傾向だと捉えることができる(図2)。
【図2】評価要素
成果は数値の達成度合いで評価することができる、プロセスは「実施した」か「実施していない」かの事実で評価することができるという点で客観的に評価を判断することが可能である。一方で能力の「できた」か「できなかった」かの判断は、往々にして価者の主観的な判断が入りやすい。能力評価の中で、テクニカルスキルが中心となる力量評価や任用評価は、情意評価等と比較すると客観的判断がまだ行いやすい評価である。そのため、報酬にも反映されやすいのだろうと推測することができる。とはいえ、能力評価が主観的な評価になりやすいのは逃れることができない永遠の課題でもあると言える。しかし、日本企業の場合、育成は能力を活用するというように、能力を重視する傾向がまだ強いのも確かであり、且つジョブ型人事制度においても、ジョブディスクリプションに基づいて格付けがされようとも、その適性を図るために任用評価を活用している。主観的な評価になりやすい能力評価とはいえ、まだまだ活用されているのは事実である。では、どのように納得感を担保できる能力評価の運用ができるのだろうか?
納得感のある運用をするために
能力評価は成果やプロセスと比較して主観に基づく評価になりやすい傾向がある。そのため、他の客観的な評価要素よりもより運用の力量が求められるといっても過言ではない。評価において大事なのは、もちろん公平・公正であるが、それだけでなく、被評価者の評価に対する納得感も重要である。納得感が担保できていない場合、被評価者のモチベーションが低下するだけでなく、評価者と被評価者の関係にも悪影響が出ると想定される。そこで評価者と被評価者で能力評価の内容や達成基準についてどのようなことができたら、あるいはどのような言動をすれば達成であるとみなされるのかすり合わせることが重要である。評価におけるすり合わせの代表例として挙げられるのは、面談やフィードバックである。特に、能力評価を目標設定で運用するのであれば、より期首の段階で目標設定に関する面談が求められる。それぞれの注意事項を見ていこう。
面談は時期によって目的が異なる。期初に行う面談では、能力評価における項目の意図や確認を行う。項目設定の場合、内容は抽象的であることが多いため、業務に紐づけて具体化する必要がある。期中面談は進捗確認であるため、割愛する。期末の面談では、評価結果を確定する前に、評価者と被評価者で評価内容をすり合わせする評価面談や、評価が確定した後にフィードバックを行うフィードバック面談が挙げられる。
【表2】面談の種類と内容
どの面談においても、評価内容や結果、進捗の方向性で、評価者と被評価者のすり合わせが発生する。しかし、多くの会社がこのすり合わせに対して課題感を持っている場合が多い。すり合わせを行うには被評価者とのコミュニケーションが必要となる。このコミュニケーションにより、被評価者との信頼関係の構築が左右される。信頼関係の構築が不十分の場合、すり合わせ内容に対して納得ができず、評価に対しての不満を抱きかねない。
納得感のある運用のためには、すり合わせを十分に行う必要があり、それは評価者と被評価者のコミュニケーションに基づく信頼関係の構築度合いが重要である。では、信頼関係を構築するためにはどうしたらよいのか?ここでは、面談時のコミュニケーションと、日々の業務上のコミュニケーションに分けて説明する。
面談時のコミュニケーションにおいて大事なのは、被評価者に気づきを促すことである。そのためには、評価者自身が話すよりも、相手の話を聞く姿勢、被評価者を受容する姿を示すことが重要である。そのためには、積極的な傾聴を通して被評価者の発言を促す必要がある。
しかし、面談時により良いコミュニケーションができたとしても、例えば評価面談やフィードバック面談で評価根拠をまともに説明できないのであれば意味がない。面談前の準備が重要となる。準備として、被評価者の業務を“見る”ことが挙げられる。つまり、被評価者が業務をどのように取り組んでいるのかといった具体的な観察記録をつける必要がある。特に能力評価の中でもヒューマンスキルや資質評価の場合、被評価者のどのような言動から評価を判定するのかの説明はより求められることとなる。そのため、被評価者を観察する中で気づいたことがあれば、適宜メモを取ることを推奨する。しかし、業界や職種によっては、部下が違う場所におり、日々業務を把握することが難しい場合もあるだろう。その場合は、日報や週報という形で業務記録を提出させることを推奨する。業務記録では、業務内容や目標・評価項目に対する現在の達成状況、課題、被評価者が認識するできたこと、できなかったことを記載する。その内容を参考に評価を行う。
以上が納得感のある能力評価の運用をするために必要なコミュニケーションのあり方である。成果やプロセスのように目に見える客観的事実で判断できる評価とは異なり、能力は抽象的且つ主観的な評価要素であるため、より面談におけるすり合わせ機会が重要となる。そしてそのすり合わせを踏まえ、評価への納得感を高めるためには、日々のコミュニケーションや観察が重要であるということである。
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