より消費者に求められる商品やサービスを開発するために、デザイン思考が注目を浴びています。モノやサービスが溢れ、多様化が進む社会では企業目線の開発はビジネス成長につながりません。消費者の目線に立ち、消費者の潜在的なニーズを満たすサービスを提供することが企業の成長につながります。この記事では、デザイン思考の概要やフレームワークを構成する5つのステップ、活用事例について解説します。
デザイン思考の概要
「デザイン思考」とは、消費者本人も気づいていない潜在的なニーズを探り、仮説と検証を繰り返すPDCAサイクルによって問題や課題を解決するための考え方です。デザインは芸術的な意味を思い浮かべる言葉ですが、「設計する」という意味を持ちます。デザイン思考によって、消費者のニーズに合った商品やサービスを開発するためのフレームワーク(骨組み)の設計と構築を目指します。
2018年5月にはデザイン思考を取り入れた「デザイン経営」の推進を経済産業省と特許庁が宣言しました。デザイン思考を経営に取り入れることで新たなビジネススタイルをつくり、事業展開や経営の成長につなげる取り組みです。この宣言には、具体的なデザイン経営の指針が示されています。企業の競争力を向上させるためのデザインの指針は次の7つです。
・デザイン責任者(CDO,CCO,CXO等)の経営チームへの参画
・事業戦略・製品・サービス開発の最上流からデザインが参画
・「デザイン経営」の推進組織の設置
・デザイン手法による顧客の潜在ニーズの発見
・アジャイル型開発プロセスの実施
・採用および人材の育成
・デザインの結果指標・プロセス指標の設計を工夫
デザイン思考を取り入れたフレームワークを設計する責任者を経営や開発の最上流部門に参加させます。プロジェクトの基幹にデザイン責任者を配置し、開発に携わるすべてのメンバーでデザイン経営に取り組む体制をつくることが目的です。デザイン思考で掘り下げた消費者の潜在的なニーズは、商品やサービスの素早い提供に適したアジャイル開発で形にします。PDCAサイクルによって、よりニーズに合った商品やサービスを開発できる体制を構築し、企業の産業競争力の向上を目指します。
デザイン思考でフレームワークを構成するための5つのステップ
デザイン思考でフレームワークを構成するための5つのステップは、次の通りです。
共感
商品やサービスに対する消費者のニーズを探ります。この段階では、顕在的なニーズで十分です。例えば、家事の時短アイテムを開発する場合は家事に追われている消費者がターゲットになります。どの家事に費やしている時間をどのくらい短縮したいのかがターゲットの顕在的なニーズです。次のステップのために、ターゲットの人物像はできる限り具体的に描きます。人物像は架空でも、実際の人物を起用しても問題ありません。実際の人物を起用した場合はその人の性別や年齢、家族構成、仕事、趣味など、架空で設定した場合はその条件に近い人物を観察してニーズを探ります。そして、ターゲットを取り巻く環境も観察し、仮説を立てましょう。前述の例なら、ターゲットのニーズを満たすことで、家族が得るメリットを想定します。ステップ1は企業目線ではなく、消費者の立場になってニーズを探るために共感力が重要です。
問題定義
ステップ1で探った顕在的なニーズを深掘りし、ターゲット本人も気づいていない潜在的なニーズを洗い出します。家事の時短アイテム開発の例なら、なぜ家事にかかる時間を減らしたいのかを深掘りしましょう。家事に追われて趣味に時間を使えなかったり、家族とのコミュニケーション不足に陥っているなど、時間がないことで発生している問題を明確にします。そして、この問題を解決すれば潜在的なニーズを満たすことが可能です。つまり、家事に費やす時間を減らせるアイテムを提供することで趣味に充てる時間ができたり、コミュニケーション不足が解消されて家庭環境が改善できれば、潜在的なニーズを満たせます。
創造
ステップ2で洗い出した問題点を解決するアイデアを考えましょう。家事に追われていることが問題なら、費やす時間の短縮につながるアイテムのアイデアを出します。ターゲットを観察、または直接ヒアリングし、時間がかかって負担の大きい家事をピックアップします。アイテムの開発が可能かは気にせず、より多くのアイデアを出すことが重要です。アイデア出しには、ブレインストーミングが有効です。ブレインストーミングには4つのポイントがあります。アイデアを否定せず受け入れ、質よりも量を重視し、アイデアを組み合わせたり改善したりを繰り返してブラッシュアップしましょう。
プロトタイプ
アイデアを具現化し、プロトタイプ(試作品)を作ります。重要なのは早く最低限のクオリティでプロトタイプを作ることです。プロトタイプは、紙粘土やスケッチで問題ありません。時間とコストをかけず、気軽にトライアンドエラーを繰り返すことで徐々にクオリティを上げます。
テスト
トライアンドエラーを繰り返したプロトタイプの中から、実用レベルに達したアイテムをターゲットに試してもらいます。ターゲットには2つのポイントを評価してもらいましょう。1つ目は潜在的なニーズは正解だったのかという点、もう1つは実際にニーズを満たせたのかという点です。ターゲットの評価を基にアイテムを改善し、新たに仮説を立て検証します。
デザイン思考を導入した3つの活用事例
ここでは、デザイン思考を導入して成功した活用事例を3つご紹介します。
デジタルオーディオプレーヤー
アメリカのメーカーが開発したデジタルオーディオプレーヤーは、デザイン思考の代表的な活用事例です。競合他社の製品を研究し、消費者が感じている不満点を洗い出しました。消費者の潜在的なニーズを突き止め、「音楽の聴き方に革命を起こす」と「すべての曲をポケットに入れて持ち運ぶ」の2つをコンセプトに、11カ月足らずでデジタルオーディオプレーヤーを開発しました。100を超えるプロトタイプの開発とターゲットによるテストと評価が繰り返され、発売から瞬く間に世界に普及した成功事例です。
家庭用ゲーム機
日本のメーカーが開発したゲーム機は、累計販売台数1億台以上です。メーカーの従業員の家庭を観察対象にし、家庭にゲーム機があると子どもがリビングに滞在する時間が短くなり、親子関係が悪化している傾向を突き止めました。「家族で一緒に楽しめる」をコンセプトに、親子関係を改善したいという潜在的なニーズを満たすゲーム機を開発したのです。家族みんなで使えるコントローラーや消費電力を抑えたCPUの開発、リビングに置いても邪魔にならないように本体をコンパクトにするなど、トライアンドエラーを繰り返してゲーム機を開発しました。その結果、ボタンを少なくし、片手でも操作できるコントローラーやスリムな本体を実現させ、消費者のニーズを満たしました。
モバイルメッセンジャーアプリ
日本の月間利用者数が9000万人以上のモバイルメッセンジャーアプリは、サービスの開発にデザイン思考を取り入れています。新しいサービスを開発する際には、ターゲットの行動を観察するリサーチチームを派遣。ターゲットの潜在的なニーズを洗い出し、プロトタイプの開発とテストを繰り返します。テスト時の表情まで観察することで、よりターゲットのニーズを満たすサービスの提供を実現しました。
デザイン思考を経営に取り入れ、企業の成長につなげる
モノやサービスが溢れ、多様性が増しているからこそ、消費者の目線に立ったデザイン思考が大切になります。経済産業省や特許庁がデザイン思考を経営に取り入れたデザイン経営を推進するのは、企業の産業競争力の向上につながるからです。デザイン思考を取り入れた経営戦略を検討する際は、本記事で解説したフレームワークを構成する5つのステップを参考にしてみてはいかがでしょうか。
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