以下の記事で、Z世代が企業に求める条件を整理した「SAFERモデル」をご紹介しました。

SAFER =
S:Safety(心理的安全性)
A:Assurance(成長保証)
F:Fairness(公平性・透明性)
E:Empathy(共感・尊重)
R:Relief(経済的不安の緩和)

これは、Z世代が企業に何を求めているのかを構造的に捉えるためのフレームです。

奨学金バンクで日々若者の相談に向き合うキャリアアドバイザーとして、カウンセラー目線からリアルに若者の声を聞いている立場から見ても、Z世代は全く違う考え方をしていると感じます。それは甘えでもわがままでもなく、「会社にすべてを預けすぎないことで、自分の人生と“学びへの投資”を守ろうとしている」という、きわめて合理的なスタンスです。

本記事では、人事・経営の皆さまに向けて、このSAFERモデルを「奨学金とメンタルの現場で若者と1対1で向き合う中で見えてきたリアル」としてお伝えしていきます。

「会社にすべてを預けない」若者たちの、本音のロジック

奨学金相談やキャリア面談の場で、Z世代からはこんな言葉がよく出てきます。

  • 「一社にずっといるイメージが、どうしても持てなくて……」
  • 「何かあったときのために、自分で稼ぐルートも持っておきたいんです」
  • 「この会社“だけ”に賭けるのは、ちょっと怖いかもしれないです」

その背景には、次のような現実があります。

  • 平均300万円前後とも言われる奨学金や他のローン
  • 毎月1〜3万円の返済が10年以上続く負担
  • 物価高・家賃・将来不安といった生活コストの上昇
  • 副業・転職・フリーランスが身近になった労働市場の変化

こうした前提条件の中で、Z世代は「会社にしがみつく」のではなく、「会社とも付き合いながら、自分と家族の人生を守る」という感覚でキャリアを考えています。

そして、そのときの“判断軸”になっているのが、まさにSAFER5つの要素なのです。

「複数内定をキープする新卒」も、実は同じロジック

たとえば、最近の新卒が複数の内定をキープしたがる現象も、この文脈で説明できます。
一見すると、

  • 「決めきれない」
  • 「覚悟が足りない」

ようにも見えますが、本人たちの感覚に近いのは、
「どの会社が、自分のSAFER(安全性・成長・公平性・共感・経済的安心)をいちばん満たしてくれそうか」
「一社だけに賭けて失敗したときのリスクを、どう減らすか」
という“リスク分散”の発想です。

奨学金や生活コスト、将来不安を抱えながら社会に出るZ世代にとって、内定承諾は「最初の数年間をどこに預けるか」という大きな投資判断になっています。

だからこそ、複数の内定を持ちながら、

  • 上司や職場の空気(Safety・Empathy)
  • 育成環境やキャリアの見通し(Assurance)
  • 評価・処遇の納得感(Fairness)
  • 奨学金支援や福利厚生(Relief)

を見極めようとするのです。
これは優柔不断ではなく、自分の人生と学びを守るための、きわめて合理的な行動だと言えます。

現場で見えている「SAFER」の5要素

1. Safety(心理的安全性)

――「ここで弱音を吐いてもいいかどうか」を、若者はよく見ています。

面談の中で、仕事の話をしているうちに、ふと表情が曇ったり、言葉に詰まってしまう瞬間があります。そのとき若者の口からよく出てくるのは、こんな言葉です。

「失敗した話を、正直に上司に言えなくて……」
「ミスをすると、“なんでこんなこともできないの”って言われてしまって」

カウンセラーとしては、その気持ちを受け止めながら話せる場を整えつつ、同時に、その背景にある今の職場の状態も整理していきます。

  • 失敗や質問を「成長の素材」として扱えているか
  • 人前での叱責や“さらし上げ”が常態化していないか
  • 上司自身が「感情の扱い方」を学ぶ機会を持てているか

Z世代は、「叱られ慣れていない」からではなく、「メンタルを削りながら働くくらいなら、他の選択肢を探したほうが合理的だ」と判断できるからこそ、環境を変えます。その背景には、「自分のメンタルが壊れてしまったら、奨学金も返せないし、人生設計全体が崩れてしまう」という感覚があります。

Safetyが欠けた職場から若手が離れるのは、「根性がないから」ではなく、人生全体を守るための防衛反応として、非常に筋の通った行動だと感じます。

2. Assurance(成長保証)

――「この1〜3年をここに預ける意味があるか」を、静かに計算しています。

若者との面談で、頻出する質問があります。

「この会社で、どんなスキルが身につきますか?」
「3年いたら、他でも通用するようになれますか?」

これは、キャリア志向が高すぎるからではありません。奨学金の返済シミュレーションを一緒にすると、多くの方がこう気づきます。

  • 今の給与水準だけでは、返済と生活で精一杯になりやすい
  • 5年後・10年後には年収を上げていかないと、結婚・出産・親の介護などに備えにくい

だからこそ、「成長の見通しが立たない環境」に時間を預けること自体が、経済的なリスクになります。人事の方にお伝えしたいのは、若手が「このままここにいて大丈夫ですかね……」と聞いてくるとき、それは“甘えた相談”ではなく、「人生への投資先を一緒に考えてほしい」というサインだということです。

Assuranceが弱い環境から若手が離れるのは、「ここに時間を投資したときのリターンが見えない」という、きわめて合理的な判断なのです。

3. Fairness(公平性・透明性)

――「不公平さ」は、奨学金の明細よりも強く心に残ります。

評価や昇給のタイミングの直後に転職の相談にくる若者から、次のような相談を受けることがあります。

「同じくらい成果を出している同期と、評価の差が大きい気がして……」
「何をどれだけやれば評価されるのか、具体的に分からないままなんです」

その表情には、「悔しさ」と同時に、「この会社に、これ以上時間を預けていいのかな?」という静かな不信感がにじみます。受験・偏差値・SNSなど「数字と結果が可視化される世界」で育ってきた世代だからこそ、努力と評価のつながりが見えない状態にはとても敏感です。
別の若者はこう話してくれました。

「お金がきついのは、まだ頑張れます。でも、不公平な評価のままここで時間を使うのは、正直ちょっと怖いです。」

Fairnessが揺らいだ瞬間、その会社は若者にとって「人生の大事な数年間を託すにはリスクの高い場所」に変わります。

4. Empathy(共感・尊重)

――「事情を聞こうとしてくれたかどうか」で、信頼は決まります。

相談の場では、出来事そのものよりも、上司の一言が強く記憶に残っています。

  • 「そんなことがあったんだ、まず話を聞かせて」と言ってくれたか
  • いきなり「なんでそんなことしたの?」から入られたか

この違いだけで、若者の中では

  • 「この人には今後も相談できる」
  • 「この人には、もう本音は話さないほうがいい」

という線引きが、はっきりと生まれます。Z世代は、「優しくしてほしい」のではなく、「事情を知ろうとしてくれたかどうか」を、とてもよく見ています。

Empathyは若者にとって、「ここで弱さを見せても大丈夫か」、「困ったときに、一人にされない職場かどうか」を測る物差しです。
ここが欠けていると、他の条件が整っていても、最終的に離職の引き金になりやすいと感じます。

5. Relief(経済的不安の緩和)

――奨学金支援は、「学びへのリスペクト」として受け取られています。

奨学金相談の現場では、ほぼ全員が「お金の話」をします。ただ、その中身は単なる「足りない」「苦しい」だけではありません。

  • 「親にこれ以上心配をかけたくないんです」
  • 「自分の学びにこんなにお金がかかっていたんだと、社会人になってから実感しました」
  • 「返しきれるのか不安で、ずっと頭の片隅にあります」

こうした話を一通り聞いたうえで、「最近は、奨学金の一部を会社が返してくれる制度を用意している企業もあるんですよ」とお伝えすると、表情がふっと変わることが多いです。

「いいですね、そういう企業はすごく安心できます。お金だけじゃないから」
「自分の“学び”にお金をかけてきたことを、ちゃんと見てくれている感じがします」

ここで若者が感じているのは、単に生活が少し楽になる「お金の施策」というだけではありません。
奨学金を借りて大学や専門学校で学んできた自分を、「それも含めてあなたの努力だよね」と承認してもらえた感覚です。

つまり奨学金支援は、

  • 自分や家族が払ってきた「学びのコスト」をきちんと見てくれる
  • 学びそのものを評価し、尊重してくれている

という“リスペクトのメッセージ”として受け取られています。

人事の立場から見ると、「数ある福利厚生メニューのひとつ」に見えるかもしれません。
しかし、現場の感覚としては、Reliefの領域──とくに奨学金への支援に踏み込んでいるかどうかで、「この会社は、自分の人生と学びをどこまで一緒に背負ってくれるのか」という印象が、はっきりと分かれます。

人事に投げかけたい「3つの問い」

キャリアアドバイザー/カウンセラーとして若者と企業の間に立っていると、Z世代の行動は“問題行動”ではなく、「自分の人生と学びを守るための、合理的なサイン」だと感じる場面が多くあります。

だからこそ、人事・経営の皆さまには、次の3つの問いを置いていただきたいと思います。

  1. うちの若手は、本音や弱音を安心して話せるだろうか?(S・E:心理的安全性と共感)
  2. ここで過ごす1〜3年が、若手の「将来の選択肢」を増やす時間になっているだろうか?(A・F:成長保証と公平な評価)
  3. 奨学金や生活の不安も含めて、若手の「人生全体」を見ようとしているだろうか?(R:経済的不安の緩和=奨学金支援 など)

この3つに向き合うことが、SAFERモデルを「図で終わらない現場の仕組み」に落とし込んでいく第一歩になるはずです。

まとめ:Z世代の合理性を、“敵”ではなく“味方からのメッセージ”として受け取る

毎日、奨学金とキャリアの相談に向き合っていると、Z世代の若者たちは、ただ一つのことを真剣に考えているのだと分かります。

「自分の人生と、ここまでの学びを、どう守っていけばいいのか」
そのために、会社にすべてを預けすぎない。
SAFERが欠けた職場からは、早めに距離を取る。
それはわがままでも甘えでもなく、“いまの時代を生き抜くための、安全戦略”です。

人事・経営の側がこの合理性を「最近の若者の問題」として見るのか、「自社のSAFERを点検し、整えるためのサイン」として受け止めるのか。その違いが、これからの採用力・定着率・エンゲージメントの差になっていくのだと思います。そして、奨学金返済支援・代理返還は、Relief(経済的不安の緩和)と「学びへのリスペクト」を同時に伝えられる、人事施策の中でも特にメッセージ性の強い一手です。
SAFERモデルというフレームに、現場で若者の声を聞いている立場から少しでも“温度”と“具体性”を足すことができていれば幸いです。

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