ライフスタイルの多様化や働き方改革の推進など、企業と従業員を取り巻く環境は変化を迎えています。「働きやすい職場」は労働者にとっての重要性が高まり、より良い職場を求めて人材の流動化にも拍車をかけていると言えるでしょう。従業員のために企業が出来る取り組みとしては「ウェルビーイング経営」が注目を集めています。今回はこのウェルビーイング経営について理解を深めていきましょう。
ウェルビーイング経営とは何か
ウェルビーイング経営とは「従業員の身体・精神の健康と社会的な幸福を保つ事に重点を置いた経営アプローチ」という意味です。ウェルビーイング経営と混同されがちな考え方として「健康経営」と呼ばれるものがあります。健康経営は従業員の身体的健康の管理、必要があればメンタルケアを行う取り組みです。ウェルビーイング経営との大きな違いは「社会的幸福」という概念が含まれているか否かでしょう。英語の「Wellbeing」が「幸福」を意味する事を加味すると両者の違いが分かりやすいです。なお、ウェルビーイングは以下の5つの要素から構成されているので覚えておきましょう。
- キャリアウェルビーイング(仕事・家庭・趣味の良好なバランス)
- ソーシャルウェルビーイング(人間関係における信頼や愛情の充足)
- ファイナンシャルウェルビーイング(十分な収入源と健全な資産管理)
- フィジカルウェルビーイング(心身の健康状態)
- コミュニティウェルビーイング(所属組織や地域への満足感)
必要性が高まっている背景は?
現代ビジネス界においてウェルビーイング経営は重要性が高まっていると言われており、取り組みに乗り出す企業も増えています。では何故ウェルビーイング経営が注目されるようになったのか、それには次のような背景があるので理解を深めておきましょう。
人材確保の必要性
日本では少子高齢化が問題視されており、現実として生産年齢人口は減少傾向にあります。こうした中で企業としては優秀な人材を少しでも多く確保する必要に迫られており、自社の魅力を従業員や求職者に伝える事が急務となっているのです。従業員が健康な状態で仕事に臨む事が出来る職場を作るために、ウェルビーイング経営が注目されるようになりました。
ダイバーシティ構想の広がり
人間の多様な在り方や考え方を受け入れるダイバーシティ構想は、企業の競争力や柔軟性を高める概念として現代ビジネスにも大きく影響を及ぼしています。裏を返せば様々な価値観を持った従業員がみんな幸福感の中で働くためには、ウェルビーイング経営による環境作りが重要になるのです。新興ベンチャー企業やスタートアップ企業では特にダイバーシティ構想を重視しているところも多いため、ウェルビーイング経営の浸透が加速しています。
働き方改革の実施
日本では政府が主導となって「長時間労働の解消」「正規・非正規雇用間での格差是正」「高齢者の就労促進」の3つを軸にした働き方改革が展開されています。働き方改革もまた従業員の労働環境改善に関わる重要な取り組みであり、ウェルビーイング経営と深く関係しているのです。働き方改革によって健全な労働環境が構築されれば、自然とウェルビーイング経営にも繋がります。逆に、ウェルビーイング経営によって従業員の幸福を考える事は、働き方改革を促す事にもなるのです。
ウェルビーイング経営のメリット
様々な企業が自主的にウェルビーイング経営を実践しているのは、それ相応のメリットが期待出来るからです。ウェルビーイング経営のメリットとしては、主に以下のようなものが挙げられます。
社内の生産性・モチベーション向上
心身共に健康的で幸福度の高い従業員は、仕事の効率や精度が良くなると言われています。個々人の影響力は大きくないとしても、組織全体で見れば生産性が向上しているのです。個人成績や会社全体の業績が良くなれば数字に表れるため、従業員のモチベーションアップに繋がり好循環を生み出します。ウェルビーイング経営によって従業員の健康状態を維持していれば、欠勤によるトラブルや負担増を未然に防ぐ事も出来るでしょう。
医療費負担の軽減
万が一従業員が大きなケガや病気に見舞われた場合、当人は安くはない医療費を負担する事になります。労災認定が下りれば休業中に給付される手当ての一部を企業が負担するのが通例です。ウェルビーイング経営ではこうした従業員・企業双方における医療費の負担を軽減するというメリットもあります。
離職率低下と人材確保
ストレスが少なく働きやすい職場というのは、従業員の定着率が良く仕事を辞める人も少ない傾向にあります。特に早期退社による離職率が高いと人材育成にかけたコストが水の泡になってしまうため、離職率の抑制は企業にとって生命線とも言えるでしょう。また、企業のこうした評判は就職・転職活動において求職者がよくチェックするポイントでもあります。採用活動で多くの応募を集める事が出来れば人材確保も難しくありません。
具体的なアプローチ方法
いざウェルビーイングに取り組もうとしても、具体的にどのような事から着手すれば良いのか分からないというケースも多いでしょう。一般的にウェルビーイング経営は、次の4つのポイントからアプローチされます。
セルフチェックおよびセルフケアの促進
身体や精神の健康状態・異常を一番先に理解出来るのは当の本人です。したがって、従業員がセルフチェック・セルフケアを行いやすい環境を整える事がウェルビーイング経営の第一歩と言っても過言ではありません。例えば社内健康診断や予防接種制度の整備、メンタルケアのための相談窓口設置などが代表的な取り組みとして知られています。2020年の新型コロナウイルス流行以降はテレワークを導入する企業も増えており、管理職が従業員の様子を直にチェックする機会が減少傾向になっています。
福利厚生の充実化
福利厚生は従業員が快適に働き続けるために重要な要素であるため、ウェルビーイング経営でテコ入れされる事も多いです。福利厚生は「法定福利厚生」と「法定外福利厚生」の2種類に大別されますが、企業が独自に制定出来るものは後者となります。例えばレジャー施設や飲食店で使える割引制度や資格取得支援、独自の休暇制度や諸手当などがよく知られているでしょう。こうした従業員の心身リフレッシュや経済支援もウェルビーイング経営の一環なのです。
コミュニケーション改善
職場でのコミュニケーションは仕事の効率だけではなく、従業員同士の良好な人間関係構築にとっても大切なポイントです。企業がウェルビーイング経営として取り組む事が出来るのはそれぞれの価値観を無理やりすり合わせるのではなく、会話が飛び交いやすい空間や雰囲気作りであると言えます。オフィス内に休憩スペースを設けたり、オフィス内の仕切りを少なくして物理的に見通しを良くしたりといった施策が定番です。
労働環境の見直し
日本では残業や休日出勤を「勤勉さ」「真面目」と評価する風潮が少なからずありますが、従業員に負担を強いる労働環境は健全とは言えません。ウェルビーイング経営の観点から見れば、従業員が快適に働く事が出来る労働環境の整備は優先度の高い項目なのです。定期的に各従業員の勤務履歴をチェックし、過度な残業や休日出勤の多い部署では業務効率化を行う必要があるでしょう。管理職から現場の実態が掴みにくい場合には、匿名のアンケートを実施してみるのも有効です。柔軟な働き方に対応するという意味ではリモートワークの導入も多くの企業で進められています。
時代の流れに乗り遅れずウェルビーイング経営を実践しよう
健全な労働環境構築は基より重要な課題でしたが、働き方改革やダイバーシティ構想の広がりに伴ってその重要性がより一層高まっていると言えるでしょう。ウェルビーイング経営は企業が現代ビジネス界を生き抜くにあたって、優先度の高い取り組みの1つなのです。従業員は「人財」と表記される事もあるように、企業にとって掛け替えのない財産となります。従業員の幸福度を高い水準で維持し、労使でWin-Winの関係を構築していきましょう。
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