仕事柄、企業経営者と接する機会が多くあります。弊社は組織人事のコンサルティング会社であるため、組織に関するお悩みを抱えた企業様からのご相談が数多く寄せられます。色々な企業を見ていて、組織活性化がなされている企業には、ある共通点が存在することが分かっています。今回のコラムでは「組織人事コンサルタントから見た経営者に関する心象風景」と題し、どんな共通点があるかお伝えします。

組織の活性化とは、組織に所属するメンバーが、組織の目標や理念を理解し、主体的に行動し、チームとして連携して目標達成に取り組む状態のことです。ここで結論めいた仮説を提示します。コンサルタントとして外部情報などから考える一般的な解釈ですが、企業が組織活性化できるか否かは、「事業選択の第一基準」および「後継者活躍の環境整備の有無」で分かるというものです。

「事業選択の第一基準」×「後継者活躍の環境整備の有無」

事業選択の第一基準

事業選択の第一基準とは、今行っている事業を選択した理由の中で一番の基準となったことは何かというものです。

後継者活躍の環境整備の有無

後継者の活躍の有無とは、後継者が社長同様の活躍をし続けているか否かを表しています。

下記の図は、一組織人事コンサルタントから見た経営者に関する心象風景をマッピングしています。

上記の図において、筆者がどのような理由から上記のマッピングしたのか説明いたします。

事業選択の第一基準(横軸)のマッピング理由

横軸の左側にマッピングした理由

孫氏

1980年代パソコン関連事業、1990年代インターネット事業、2000年代携帯電話事業、2010年代再生エネルギー事業、2020年代ASI(超知能)事業と多くの人がこれから成長する(儲かる)と認識できる市場を選択しています。また、長年、孫さんの下で働かれ、最近教育事業を起業された方が仰っていた言葉の中で、起業する際に孫氏から「教育は儲からんぞ」と言われたそうです。起業された方は「儲かる」からやるのではなく、当該事業で「社会のお役に立つこと」を第一の基準として選択していました。孫氏の事業選択の第一基準は、「儲かること」と言えます。

永守氏

企業成長の原動力として早期よりM&Aを戦略的に活用しています。最近では、牧野フライス社との攻防が話題となりました。事前の協議なしにTOBを提案し、牧野フライスは対抗措置を講じ、最終的にはニデックがTOBを撤回しました。2030年に10兆円を目指すことを標榜しており、「儲け」を第一基準としていると言えます。

柳井氏

ファーストリテイリングは今でこそ、世界的な企業として有名ですが、2002年に有機野菜の生産、販売を手掛ける野菜事業を展開しました。サービス開始からわずか2年足らずの2004年、事業撤退を決断することになりました。これにより、億単位の事業損失を出すこととなりました。アパレル会社がなぜ野菜事業をやるのか、撤退をするということは事業の選択基準は「儲け」にあると言えます。

続いて「事業選択の第一基準」(横軸)の右の象限にマッピングした理由について説明します。

横軸の右側にマッピングした理由

稲盛氏

第二電電(今のKDDI)を立ち上げる際に、大きな夢を描き、それを実現しようとするとき、「動機善なりや」ということを自らに問うて、自分の動機の善悪を判断しています。善とは、普遍的に良きことであり、普遍的とは誰から見てもそうだということであり、自社の利益や都合、格好などというものでなく、自他ともにその動機が受け入れられるものという考え方で事業を選択しています。また、JALの再生時は政治家から請われて役割を担われました。儲かるか否かだけではないことが窺えます。

平井氏

ご自身の著作の中で、「どうやってソニーを復活させたのかという質問に対し、事業の「選択と集中」や商品戦略の見直し、コスト構造の改革などメディアでは様々な分析がされているが、いずれも間違いではないが、核心はそこではないと私は考えています。自信を喪失し、実力を発揮できなくなった社員たちの心の奥底に隠された「情熱のマグマ」を解き放ち、チームとしての力を最大限に引き出すことである」と言っています。儲けが第一基準ではないことが分かります。

中川氏

市場性で判断したらハンカチはやらないと発言しています。“ハンカチという文化を残したい”から工芸という事業をやっていると公言しています。また、海外進出をすれば、儲かることは間違い無い状況の中、海外進出はしないことを明言しています。理由は、会社のビジョンとして“工芸を元気にする”を掲げており、海外に進出したら地元の工芸企業を潰すことになる。それはやりたくない。まさに儲け第一ではなくビジョンドリブンであると言えます。(※競争戦略の権化であるマイケル・ポーターから戦略が優れていると「マイケル・ポーター賞」を受賞しています。)

塚越氏

今でこそ創業以来、増収増益を続けていますが、商材である“寒天”は市場性からすると成長市場とはとても言えません。また、1980年代コンビニが台頭してきている時代に、コンビニ会社から商品取扱いの提案が来ました。提案を受け入れれば、恐らく売上は何倍にもなることは目に見えていたにもかかわらず、断っています。断る理由が「社員が夜勤を伴う3交代勤務が必要になり大変になってしまうから」というものです。「儲け」よりも「社員」を優先した意思決定をしています。

次に「後継者活躍の環境整備の有無」(縦軸)の下の象限にマッピングした理由について説明します。

後継者活躍の環境整備の有無

縦軸の下の象限にマッピングした理由

孫氏

2010年に社内大学としてソフトバンク大学を立上、自らも講師として臨みました。恐らく、カリキュラムや講師はかなりコストを掛けて取り組まれたのではないかと思います。筆者自身も注目していました。しかし4年後、グーグルの副社長を招聘し、ソフトバンクの副社長として向かい入れました。“社内から経営人材を輩出するのではなかったのか。人材育成が下手ということを社会に公言しているようなものではないか”と筆者は感じました。「社長を辞めようかと思っていたが、欲が出てきた」と2年後に禅譲を撤回しています。

永守氏

招聘した方々は悉く退任されています。日経新聞(2022年8月30日)の1面には「招いた後継候補が次々去ってしまう精密モーター大手の最高経営責任者。切れ味を生かすも殺すもボスの力量次第である点をお忘れなく。」とあり、“全国紙の1面にここまで書かれるとは“と思ったことを覚えています。

柳井氏

一度、社長の座を後進に譲ったものの、数年後、社長に復帰。今もトップとして君臨しています。

上記3名に共通することは、「自分と同じ意思決定が出来ない人は不適任」という認識があるかのように映ります。しかし、どのような状況においても全く同じ意思決定をすることは、感情のある人間である以上、不可能と考えます。

続いて、「後継者活躍の環境整備の有無」(縦軸)の上の象限にマッピングした理由について説明します。

縦軸の上の象限にマッピングした理由

稲盛氏

京セラ18年、KDDI 16年、日本航空2年の社長就任期間を経て後継者に社長の座を譲っています。(余談ですが、お亡くなりになられた際に、中国の外務省が哀悼の意を表していたのは印象的です。)

平井氏

SCEアメリカ社長1年、SCE社6年、ソニー社長6年を経て3社とも後継者に社長の座を譲っています。

中川氏

創業家以外から女性社長を抜擢しています。

塚越氏

次の社長にバトンタッチして今も活躍しています。

代表権を他者に移せるか否かは、「人を信じられるか否か」に尽きると考えます。左下の象限にマッピングされる経営者の根底にある人間観は、「自分が上で、相手が下」という認識があり、一般的に言われる「人材マネジメント1.0」のマネジメントがなされていると考えます。組織の活性化は望むべくもない状況にあると言えます。

以上、縦軸・横軸毎にマッピングした理由について説明しました。

象限毎の心象風景

右上の象限の心象風景

右上の象限における筆者の抱く心象風景は、“実るほど首を垂れる稲穂かな”です。

ある調剤薬局の会社の事例です。オーナー創業者が、親族以外のAさんを次期社長に任命した時のエピソードです。ある時、筆者が当該調剤薬局本社に訪問した際に、執務室の奥の方からAさんが筆者の方に足早にスタスタと向かってきて、筆者の前に立ち止まり直立した次の瞬間、筆者に対して深々とお辞儀をなされました。そしてこう言いました。「永島さんのお蔭で社長になることが出来ました。ありがとうございます。」と。Aさんと筆者は親子ほどの年齢差があり、Aさんは筆者の父と同年齢でした。そのような年下に向かって、あのようなことを発するとは、と筆者は “ああ、”実るほど首を垂れる稲穂かな“とは将にこういうことを言うのだな”と感服してしまいました。人間としての成熟度を感じさせるものでした。

左下の象限の心象風景

一方で、左下の象限の筆者の抱く心象風景は、“一将功成りて万骨枯る“です。
(一人の将軍が手柄を立てて成功する裏には、多くの兵士が犠牲になっているという意味の言葉)が思い浮かびます。社員が自律的に動けていないと感じている場合は、一将功なりて万骨枯る状態になっている傾向があります。

経営者のマインドの状態が組織の状況として現れる

組織が活性化するか否かは、「事業選択の第一基準」が何か、「後継者活躍の環境整備が有る」かが鍵を握っていると考えます。社員が主体的に動けていないと感じているケースは、多くの場合、左下の象限にマッピングされます。

ここで最も注意すべき点は、経営者自身は「事業選択の第一基準は“社会貢献”」と考えて意思決定していたとしても、社員にはそのように映っていない場合が多いことです。もし、「事業選択の第一基準は“社会貢献”」と考えて意思決定しているにも関わらず、社員が自主的に動けていないと感じている場合は、社員には「うちの会社は事業選択の第一基準は“儲け”」と映っています。ある会社では「社員の物心の両面の幸福の追求」を経営理念に掲げていました。当該企業の執行役員が筆者にこう言いました。「社員の物心の両面の幸福の追求って言ってますけど、うちの社長は社員の物心両面の幸福の追求なんて考えちゃいませんよ。売上が上がればいいんですから」と。理念として掲げるのみならず、日々の意思決定が「儲け」ではなく「理念」に基づいて意思決定していると社員に映っているかどうかが重要です。

「理念」に基づいて意思決定していると社員に映っているかどうかのリトマス試験紙は社員が離れていくか残っているかで分かります。皆さんの会社では、社員が主体的に動けていますか。もし、社員が主体的に動けていないと感じるならば、それは「事業選択の第一基準」が「儲け」になっています。

今回のコラムでは「組織人事コンサルタントから見た経営者に関する心象風景」と題し、どんな共通点があるかお伝えしました。ここまで述べてきたことは、あくまでも、組織を活性化させる上での一要素に過ぎませんが、影響因子として組織に対して多大なインパクトがあると考えます。

・あなたの会社は組織の活性化がなされていますか
・あなた(もしくはあなたの会社の経営者)は「実るほど首を垂れる稲穂かな」タイプですか、「一将功なりて万骨枯る」タイプですか。

※固有名詞を記載しておりますが、事象をわかりやすく説明するためのものであり個人を評価・評論するものではありません。

この記事を読んだあなたにおすすめ!

こちらの記事もおすすめ!
お役立ち情報
メルマガ無料配信

お役立ち情報満載!ピックアップ記事配信、セミナー情報をGETしよう!

人事のプロが語る、本音のコラムを公開中

人事を戦略に変える専門家たちが様々なテーマを解説し、"どうあるべきか"本音 で語っている記事を公開しています。きっとあなたの悩みも解消されるはずです。


お役立ち資料を無料ダウンロード
基礎的なビジネスマナーテレワーク規定、管理職の方向けの部下の育て方評価のポイントまで多種多様な資料を無料で配布しています。ぜひご活用ください。