筆者のもやもや
コンサルタント三上が送るもやもやシリーズも第3弾となった。今回のもやもやは、人事制度に関することではなく、リーダーシップについて取り上げる。クライアントと議論する中、あるいは他のコンサルタントと話をするとき、しばしば議題として挙がるのは、「会社としてあるべきリーダーの姿は何か」、「○○リーダーシップは・・・」といった理想的なリーダー像に関する話である。オーセンティックリーダーシップ、スピリチュアルリーダーシップ、サーバントリーダーシップ、シェアドリーダーシップ、ポジティブリーダーシップ、ハンブルリーダーシップ・セキュアベースリーダーシップ等々。カタカナで挙げられるリーダーシップの多さに目を回す筆者。さらにその定義自体も筆者自身は「えっ?何が違うの?」というようにもやもやしてしまうわけである。コロナ禍で対面でのコミュニケーションが難しくなった時、または多種多様な人材と関わる必要が出てきた時、時代の変化に合わせて求められるリーダーシップも変わる。というわけで今回のコラムでは、色々なリーダーシップが乱立し、もやもやどころか目を回している筆者が、リーダーシップの歴史や文化を踏まえ、改めて現代において求められるリーダーシップの要素を整理してみたい。そしてそれぞれのリーダーシップが適合する組織とは何か前編・後編に分けて考えてみたい。
リーダーシップ論の歴史と文化
特性理論(Trait Theory)の時代(古代~1940年代)
リーダーシップを制するには、まずリーダーシップに関する歴史や文化を知ることが重要である。というわけで、前編では、リーダーシップ論の歴史と文化について4つの時代(図1)から整理してみたい。
【図1】リーダーシップ理論の時代変遷
今回、リーダーシップに関して整理するにあたり、リーダーシップ論に関する論文だけでなく、哲学や思想、人類学の論文も参考にした。特に、Bassによる『Handbook of Leadership』は、リーダーシップの定義や歴史について体系立ててまとめられており、今回の整理においても、大いに参考にした。オーストラリア、フィジー、ニューギニア、コンゴ等々の原住民のフィールドワークを行うにあたり、役割や公の仕組みが制度化されていないような社会であっても、集団の決定を行う役割の中心を果たすリーダーは必ず存在している。つまり、文明が発達していようとしていまいと、何らかの役割を果たすリーダーというのは場所、時代問わず存在していると考えられる。狩猟や採取を中心にしていた時代においては、リーダーは、襲撃者や自然災害から集団の仲間を守るための強さや自立が求められたと想定されている。
最初の時代として特性理論(Trait Theory)の時代と挙げた。近年に至るまで、「特性理論」という名称はなくとも、リーダーに対する考え方が共通しているため古代からとしている。特性理論のリーダーの考え方は、端的に言うと、リーダーはリーダー足り得る資質や特性を持っている人材こそなるにふさわしいと考える理論である。そのため、それぞれの時代や国で、リーダーに必要な資質や特性に関して議論された。具体的な事例を見ていこう。
・古代ギリシアにおけるリーダーの特性
古代ギリシアのリーダーに関する議論で代表的な事例として挙げられるのは、プラトン(B.C.427-B.C.347)やアリストテレス(B.C.384-B.C.322)である。プラトンは『国家』において、哲人王に関する話をしている。プラトンといえば、イデア論で有名な哲学者である。どんな事物であっても、必ず理想となるイデアがあり、そのイデアを知ろうとすることは重要であった。プラトンは、君主や国家の在り方に関してもイデアを唱え、君主のイデアとして、哲学者が君主になるべきだと説いた。アリストテレスは『政治学』において、ポリスの本質に関する話をしている。アリストテレスは、人間の行為や感情が偏っておらず、調和がとれている状態として中庸という徳を挙げている。アリストテレスの『政治学』において、ポリスのあるべき姿として、中庸である共和制が最善としている。そして支配者も偏りのない思想を持つ人々であり、法治で人々が職務に就く上では、忠誠心、職務執行の能力、体制に適った正義の徳が必要であると述べている。
・古代中国におけるリーダーの特性
一方、古代中国の代表する思想家である孔子(B.C.552または551-B.C.479)や老子(B.C.571?-B.C.471)もリーダーに関して述べている。儒学の始祖である孔子は、リーダーに道徳的な模範を示し、正しいことや良いことを教えるために報酬や罰を与えるべきだと唱えている。道化の祖となる老子は、リーダーは、人々に成功は彼ら自身の努力のおかげだと信じさせることや、主体性の発展に寄与することが大事だと述べている。
・近世・近現代のリーダーの特性
また、リーダーシップを論ずるにあたり、よく挙げられるのが、ルネサンス期のイタリアの思想家であり、フィレンツェの外交官であったマキャベリ(1469-1527)の『君主論』である。マキャベリは『君主論』の中で、リーダーには、安定性、断固とした態度、政治における権威や権力、秩序の維持が重要であると述べている。
幅広い時代から、哲学者や思想家を取り上げたが、彼らに共通しているのは、リーダーや君主に対して先天的な求める資質や特性が挙げられていることである。19世紀には、トーマス・カーライルが「何らかの資質を持つ偉人だけがリーダーとなり得る」といった「リーダーシップ偉人説」を唱える。しかし、彼らの主張はどれも、何らかの指標や基準を明確にし、調査や分析を行ったわけではないため、広く展開はしなかった。近年において、アメリカの心理学者ストッグディルが、リーダーと相関関係の高い特性について調査し、公正や正直、誠実といった14個の特性を挙げている。しかし、それぞれの特性の定義や因果関係ははっきりとしているわけではないため、ストッグディル本人も特性理論の限界を宣言している(図2)。
【図2】特性理論の特徴と課題
行動理論(Behavioral Theory)の時代(1940年代~1960年代)
次の時代として行動理論(Behavioral Theory)が挙げられる。前の特性理論の時代においては、特性の定義や基準の曖昧さが問題となり、広がらなかった。行動理論は、リーダーの素質や特性でなく、行動に注目した理論である。特性理論は、リーダーの求める特性を設定しているのものの、その特性がどのような組織に発揮されるのか明確でないとするならば、行動理論は、それぞれの組織の特徴を踏まえ、リーダーの行動を具体的に設定しているところが特徴である。この考えの背景には、第二次世界大戦中や戦後、軍隊を率いるにあたり、あるいは、発展した企業組織を率いるにあたり、リーダーの潜在的な素質がある人を確認し、訓練する必要性があった。主な理論や研究としては、レヴィンのアイオワ研究、リッカートのミシガン研究、三隅二(じゅ)不二(うじ)のPM理論が挙げられる。リーダーシップが後天的に身に着けられるものであると当時認識されたのであれば、当然、求められるのは、どのような振る舞いをすればリーダーシップを取っていると見なされるのか、その行動パターンである。つまりこれらの研究や理論は、リーダーシップにおける行動の類型化を行っているところが共通している。それぞれどのような内容なのか見ていこう。
・レヴィンのアイオワ研究
アメリカの心理学者レヴィンは、アイオワ大学で大学生をリーダーとし、児童に対してお面づくりや模型作り等々の作業をしてもらう実験を行い、リーダーシップのタイプを専制型、放任型、民主型の3つに分類した。
リーダーの部下の捉え方 | 指示の出し方 | 部下の意思決定 | |
---|---|---|---|
専制型 | 消極的・受動的に捉える | できないことが前提のため明確に強く指示を出す | なし |
放任型 | 特になし、関与しない | 部下に任せる | 大いにある |
民主型 | 積極的・主体的に捉える | 集団で討議し方針を決定 | あるが、リーダーのサポートも含む |
【表1】レヴィンのリーダーの分類
この研究では、組織の立ち上げ当初は専制型、安定時は民主型のリーダーシップが推奨され、放任型は、組織のまとまりもなく、メンバーのエンゲージメントも低く、仕事の量・質も担保されないため推奨されていない。
・リッカートのミシガン研究
ミシガン大学社会調査研究所所長リッカートは、200以上の組織のマネージャーに行ったアンケートに基づいて、組織をシステムと捉え、リーダーシップに関わる管理システムを専制的権威Exploitative Authoritative、温情的権威Benevolent Authoritative、相談型Consultative、参加型Participativeの4種類に分類した。
リーダーの部下の捉え方 | 部下の意思決定 | モチベーション向上方法 | |
---|---|---|---|
専制的権威 | 信頼なし | なし | 罰や恐怖 |
温情的権威 | ある程度信頼 | 一定の範囲の部下まではあるが、多くはリーダーが決定する | 業績に対する報酬、罰による恐怖 |
相談型 | 信頼 | 決定する際、しばしば上司に相談する | 報酬、時々罰 |
参加型 | 大幅に信頼 | 決定の一部分を任せる | 金銭的報酬、目標の設定・実現への関与 |
【表2】リッカートの分類
この研究では、参加型のリーダーシップは他と比べて密接な関係構築ができており、部下の満足度や生産性も高いとなっている。
・三隅二不二のPM理論
日本の社会心理学者三隅二不二は、リーダーシップが目標達成能力Performanceと集団維持機能Maintenanceで構成されるとし、PとMの能力の大小に応じてPM型、Pm型、pM型、pm型の4つのリーダーシップに分類した。
【図4】PM理論の分類
この研究では、計画や目標の設定、指示出しによる目標達成機能(P)と部下への関わり方による集団維持機能(M)がどちらも大きい方が望ましいリーダーの在り方とされる。行動理論の主な理論や研究を取り上げたが、リーダーの求められる行動として、レヴィンは民主型、リッカートは相談型、三隅はPM型を挙げており、どのリーダーも部下を信頼し、部下を巻き込みながら相談や議論を行い、目標達成へ導くリーダー像を理想としていることが分かる。行動理論では、理想とされるリーダーの行動パターンを導き出したことにおいては大きな成果であるが、しかし、これらの理論は基本的に、リーダーの行動と部下の行動は分離して記載されており、それぞれ相互の関係が不透明である。つまり、リーダーの行動が十分条件として部下の行動に作用するだけでなく、部下の行動の必要条件としてリーダーの行動が生じている可能性があり、そこの切り分けが明確でないということが課題として挙げられる。また、抽出した行動をしたところで本当に同じ効果を発揮するのかという再現性も問われている。
【図5】行動理論の特徴と課題
状況適応理論(Contingency Theory)の時代(1960年代~1980年代)
次の時代として挙げられるのが、状況適応理論(Contingency Theory)である。特性理論や行動理論は、リーダーシップにおける「特性」や「行動」を切り取って、そこにおける理想の在り方を模索していた。しかし、いくら望ましい特性や行動を実践したところで、本当にそれが「良いリーダー」になるとは限らない。状況適応理論以降は、リーダーシップにおいて絶対的な望ましい特性や行動があるという前提から、状況ごとに適切とするリーダーシップは相対的に異なることを前提とするようにシフトしたと考えることができる。つまり、リーダーは、特性や行動ではなく、環境や状況に適応して発揮される。代表的な理論として、フィドラーのコンティンジェンシー・モデル(Contingency Model)、ハウスのパス・ゴール理論、ハーシィとブランチャードのSL理論が挙げられる。それぞれの内容を見ていこう。
・フィドラーのコンティンジェンシー・モデル
オーストリアの経営心理学者フィドラーは、リーダーの最善のスタイルは状況に基づくことを前提に独自の基準でLPC(Least-preferred coworker)スコアを算出し、関係志向のリーダーなのかタスク志向のリーダーなのか明確にした上で、それぞれの場合どのような状況が成果を上げやすいのか示した。LPCとは、共に仕事をする上で、最も苦手な仕事仲間に対してどの程度好意的な印象を持っているのかを図る指標である。実際に最も苦手な仕事仲間を思い浮かべながら、図6のような質問に答えていく。
【図6】LPC指標を判断する質問
高いスコアの場合、高LPCリーダーとして良い関係を構築することや、事が上手く進むように衝突を管理する関係志向のリーダーとなり、低いスコアの場合、低LPCリーダーとしてことが上手く進むようにチームやプロジェクトを組織するタスク志向のリーダーとなる。そしてリーダーとメンバーの関係性や仕事の構造、リーダーの権限の強さといった状況を示す要素のそれぞれで、関係志向、タスク志向のリーダーが成果を発揮できるかどうか示す(図7)。
【図7】コンティンジェンシー・モデル
仕事志向のリーダーは、3つの条件が良いときあるいは悪いときに有効なリーダーシップであり、関係志向のリーダーは、3つの条件の中に良いものも悪いものもある場合に有効であるということを示している。自身のLPCの点数と状況を整理して、今のリーダーシップが適しているのかどうか確かめることができる。
・ハウスのパス・ゴール理論
経営学者ハウスは、メンバーが目標(ゴール)を達成するためにはどのような道筋(パス)を通ればよいのか示すことがリーダーシップであるという考えに基づき、リーダーのパスの示し方を、達成志向型、指示型、支援型、参加型の4種類に分類した。
分類 | 道筋(パス)の示し方 |
---|---|
達成志向型 | チャレンジングな目標を設定することによって、部下が高いレベルの成果を追求することを彼らに推奨し、リーダーは彼らの能力を信頼する |
指示型 | 業務プロセスの明確なガイドラインを提供することで曖昧な仕事の役割や業務プロセスを減らそうとする。リーダーは彼らに期待する。 |
支援型 | 部下の欲求や幸福に注意を払い、友好的・共感的になることで、仕事を楽しませる。リーダーは彼らを尊敬し、サポートが必要な時に支援する。 |
参加型 | 仕事や道筋、ゴール等重要な決定を部下に相談する。部下は彼らが選択した目標の達成により努力を費やすようになる。 |
【表3】ハウスのリーダーの分類
この分類では、行動理論と変わらないように思えるかもしれないが、ハウスは続けてパスを示すことをモチベーション理論の期待理論に紐づけている。期待理論とは、個人の望ましい結果に対して、行動を起こすことで目標が実現し、報酬を得るといったように一連の期待の連鎖を起こすことによってモチベーションが発生する考え方である。期待を起こさせるためには、パスの示し方が重要であり、リーダーを取り巻く経営責任体制やチームの組織といった環境的な条件と、部下の特性の2つを踏まえてそのパスの示し方が合っているのかどうか確認する必要がある。合っていないのであれば別の型のパスを示すことが求められるということである。
・ハーシィとブランチャードのSL理論
ハーシィとブランチャードは、部下の成熟度(知識や能力のレベル)に応じて有効なリーダーシップは変わるSL理論(Situational Leadership Theory)を四象限で唱えた。成熟度の度合は4段階あり、それぞれの段階に合わせてリーダーの行動は変わる。
【図8】熟練度の段階
熟練度の段階は、知識やスキル、能力の程度、意欲の程度でレベル分けされる。そしてそれぞれの熟練度に応じて以下の四象限に整理される(図9)。
【図9】リーダーの行動の四象限
対応する熟練度とリーダーシップを整理すると以下の表の通りである。
熟練度 | リーダーシップ | 行動 |
---|---|---|
M1 | 教示的 | 部下に何をするのか、それをどのように行うのか細かく伝える行動。 |
M2 | 説得的 | リーダーと仲間の間を行ったり来たりする。リーダーは、考えやメッセージを「伝える」ことを通してメンバーから賛同を貰う。 |
M3 | 参加的 | 指示は少なく、考えや決定をする際に、より活動的な役割を果たす。 |
M4 | 委任的 | リーダーの介入はほとんどなく、その部下が、ほとんどの決定を行い、起きたことへの責任を取る。 |
【表4】熟練度とリーダーシップの関係
それぞれの段階をイメージする社員で説明すると、
・新卒時の部下に対して、リーダーは教示的な具体的な指示による直接的な行動が求められる。部下の裁量は少ないためサポートの割合は低い。
・やる気があり、定型業務ができるようになった段階の部下に対して、リーダーは説得的に考えを伝えることで、部下の共感を貰い、仕事に対して意欲や熱意をもって取り組むことで、能力を醸成していく。リーダーは細かい直接的な指示ではなく、部下の取り組みを支援できるような関わり方となる。
・スキルや能力はあるがまだ仕事に対する責任は薄い部下に対して、リーダーは、参加的に考えや決定をする機会を部下に促し、そのサポ―トを行うことで、責任能力を醸成していく。
・実際に組織や部下のマネジメントを行う部下に対しては、委任的にほぼ部下に任せる状態でリーダーシップを図る。
以上、フィドラーのコンティンジェンシー・モデル(Contingency Model)、ハウスのパス・ゴール理論、ハーシィとブランチャードのSL理論を取り上げた。どの理論も環境の条件や部下の特性や熟練度といった軸を設定し、その軸に沿って適応するリーダーを示している。行動理論のようにリーダーの行動の類型を示し、「良い」行動を提示するのではなく、組織や部下の状態に応じて適応するリーダーの行動は相対的に異なることが分かる。しかし、これらの理論の問題点として、なぜその特定のリーダーシップが効果的なのか明確でないことが挙げられる。つまり、行動理論とも重なるが、そのリーダーシップが部下にどのように捉えられ、どのように行動変容を促したのか、リーダーシップの作用が描かれていないことである(図10)。
【図10】状況適応理論の特徴と課題
コンセプト理論(Concept Theory)の時代(1980年代~1990年代)
いよいよ最後の時代である。この時代のアメリカは長期的な経済の低迷期であり、急激な経営環境の変化によって市場が急変し、既存の価値観や命令体系では企業が継続的に成長することが不可能な時代であった。そこで、状況適応理論の考えを引継ぎながら、よりリーダーとリーダーを取り巻く環境の関係性に焦点を当てたコンセプト理論(Concept Theory)が出てきた。コンセプト理論におけるリーダーも、ビジネスの環境や組織体制との関係に応じて求めるあり方は変わる。状況適応理論と比べると、より方法が具体的になり、部下との関係性にも注目されるようになったと言える。代表的なリーダーシップとして、カリスマ型リーダーシップ、変革型リーダーシップ、EQ型リーダーシップ、ファシリテーション型リーダーシップ、サーバント型リーダーシップが挙げられるが、本稿ではカリスマ型リーダーシップ、変革型リーダーシップの内容を見ていこう。
・カリスマ型リーダーシップ
経済が低迷するにあたり、リーダーとして求められるようになったのは、既存のルールやプロセスのもと、部下を適切に動かすことができるリーダーではなく、将来に対する希望を描けるようなビジョンを発信することができるリーダーである。カリスマについては、社会学者M.ウェーバーのカリスマの概念の話をしないといけないが、ここでは難しい話を避ける。端的に言うと、カリスマとは、特定の個人が持つ非日常的な資質あるいは能力であり、リーダーシップの範囲では、権威や影響力が該当する。カリスマは、先天的に与えられたものとして捉えがちであるが、ウェーバーや、カリスマ型リーダーシップを検討したハウスは、それを否定し、リーダーと部下との間で、カリスマの証明とその認知という関係を通じて成立するものであると捉えている。カリスマ型リーダーシップは、組織を急成長する原動力となるリーダーシップであるが、カリスマとはあくまで、非日常的、非合理的、人格的なものであり、その本質は不安定なものである。よって、カリスマの影響が強く、リーダーへの依存や後継者の問題が発生することも起こり得る。
・変革型リーダーシップ
カリスマ型リーダーシップが、リーダーの人格に依存しがちであるとするならば、変革型リーダーシップは、もう少しテクニカルにビジョンを発信するリーダーシップである。変革型リーダーシップには、コッターの理論と、ティシーの理論があるためそれぞれ見ていこう。
コッター | ティシー | |
---|---|---|
リーダーの定義 | リーダーシップは変革能力であり、マネジメントは管理能力である | 日常の反復業務やルール通りの管理に長けた者がマネージャーであれば、リーダーはビジョンを提示し実行させるべく働きかける |
提唱内容 |
関係構築と変革を起こすエネルギーをもって以下のステップに取り組む ①緊急課題であるという認識の徹底 |
次代のリーダーを次々と生み出していく仕組みリーダーシップエンジンの仕組みに基づいてリーダーは以下のことを行う ①ステップを辿りながら変革を実行 |
【表5】コッターとティシーの理論
両者の理論に共通するのはビジョンを提示し、社員との関係構築の中で動機付けを促すことである。この時代からリーダーとマネージャーの違いに注目されるようになってきた。また、どちらのリーダーも、直接細かい指示を出すのではなく、社員のビジョン実現のサポートを行うという体も共通している(図11)。
【図11】コンセプト理論の特徴
もやもやの論点と整理
さて、リーダーシップにおける歴史と文化を見てきた。ここで今までの議論の要点をまとめ、未だにくすぶっている筆者のもやもや解消への検討に繋げたい。リーダーシップ論の歴史は特性理論の時代、行動理論の時代、状況適応理論の時代、コンセプト理論の時代の4つに分けられる。それぞれの特徴は以下の表の通りである(表6)。
時代 | 良いリーダー | 求めるもの | リーダー |
---|---|---|---|
特性理論の時代 | 絶対的 | リーダーの特性 | こういう人がリーダーになるべきだ |
行動理論の時代 | 絶対的 | リーダーの行動 | こういう行動をすればリーダーになれる |
状況適応理論の時代 | 相対的 | 状況に合うリーダーの行動 | この状況ではこういうリーダーが良い |
コンセプト理論の時代 | 相対的 | 状況にあるリーダーの行動(具体的) | この状況ではこういうリーダーが良い |
【表6】リーダーシップ論の各時代の特徴
リーダーシップのコンピテンシーを抽出する考え方がある。コンピテンシーは、ざっくりいうと(優秀な人の)行動特性であり、字面だけで見ると特性理論に含まれそうな気もしてくるが、そもそもコンピテンシーを抽出する目的は優秀な人の行動特性を抽出し、リーダーの育成を図ることであるため、後天的にリーダーを捉える行動理論であると識別することができる。それぞれの時代で、リーダーの類別を行っていたが、名前が似ていたり、内容が共通していたりと筆者が混乱したので、以下の四象限でまとめてみた。
【図12】リーダーシップの類別の四象限
類型を囲む〇が行動理論であり、時代は一番古い。その次に□の状況適応理論、△のコンセプト理論となる。あくまでも筆者の主観に基づく四象限であるが、このように見てみると、
・比較的古い時代は左下に〇があり、時代を経るにつれて部下を信頼しない類型はなくなっていること
・右上の象限はどの時代も多く、特に時代を経るにつれて部下を信頼し、支援型に寄っていく傾向が強まっていること
以上2点が挙げられる。筆者のもやもやはこの傾向を踏まえ、以下のように整理した。
- 行動理論では左下の象限もリーダーとして見なされ、時代を経るごとに右上に移動していく傾向がある。なぜこのような傾向が見られるのか。部下との相互関係も関係するのか。
- 部下を信頼し支援型に特化したリーダーが時代を経るごとに良しとされてきているが、現代におけるリーダーシップはどこに当てはまるのか。
- リーダーに合う組織の条件は、状況適応理論で述べられていたもののその条件はかなり抽象的である。組織の経営体制だけでなく、組織そのものが多様なのか同質なのか、別コラムでも書いたが平等・公平のバランスはどうなのかによっても、良しとされるリーダーは異なってくるはずである。
後編では、この3点のもやもやをもとに、マズローの欲求段階説とマクレガーのX理論Y理論から、部下の変化に注目して考察する。その後、現代におけるリーダーシップの説明を踏まえ、どの組織でどのようなリーダーシップが求められるのか改めて整理してみたい。
この記事を読んだあなたにおすすめ!