
リファラル採用や出戻り採用は「変化」ではなく「原点回帰」である
私たちはいま、採用に対して多様な方法やチャネルがある。リファラル採用、出戻り社員の採用、SNSを活用したアトラクト型採用、エージェントや媒体を利用した従来型の採用など。その姿は多様で変化も早い。
だがそもそも「採用」という営みそのものに正解はあるのだろうか?
なぜ現代において採用手法はここまで増えたのか?
そして、私たちが今「採用市場」と呼び理解しているものは、果たして普遍的なものなのか?
組織人事コンサルタントとして、採用のあり方を歴史・機能・戦略の3つの視点から整理してみたい。
採用とは何か?/リクルート以前の世界
採用という営みは、リクルートが採用広告や人材紹介という現在の制度を広める以前から存在した。大学や高校が学生を推薦し、企業がその推薦情報を基に候補者を確保していた歴史がある。
戦前・戦後の日本では、知人・友人・家族を通じた「縁故」が採用の中心であり、これを単純に縁故採用と呼んだ。これは必ずしも非合理ではなく、地域・コミュニティのつながりと価値観の共有を採用の基盤としていた。
しかし、1960年代にリクルートが大学新聞広告で求人情報誌を発行したことを契機に、「企業が広告・媒体を通して候補者を集める」というパラダイムシフトが起きた。
1960年頃からスタートした大学紙求人や、以降の合同企業セミナーの登場、そして2000 年頃にweb ベースの求人広告サービス(ナビサイトなど)が浸透したことが、現在語られる「採用マーケット」の基礎を形成したと言える。
このマーケットシフトによって、採用は体系化され、計測可能なKPIやツールが整い、さらにエージェントや媒体という「仲介市場」が成立した。
だが同時に、採用とは、「媒体に広告を出すこと」「人材紹介会社に依頼すること」という固定観念も生まれた。
現代の採用観/多様化の背景
現在、採用手法は多様化した。SNSやダイレクトリクルーティング、候補者データベース、リファラル採用、出戻り採用(アルムナイ採用)など、さらにはジョブ型採用やギグ型マッチングなど多様化の潮流が生まれている。
この背景には、日本に限らず人手不足の深刻化・労働人口の減少があり、企業が従来の媒体・エージェント経由だけでは候補者確保が困難になっているという構造的要因がある。加えて、求職者の価値観やキャリア観の変化が採用行動の多様化を促している。
たとえば日本において、企業の中途採用の80%近くが中途採用を実施しており、この比率は10年前と比較して大きく伸びている。これは「新卒一括採用中心」からキャリア採用の重要性が高まっていることを示す。
また、欧米ではリファラル採用が採用経路として一般化しているという報告も多い。欧米企業の多くが社員紹介を会社の採用戦略の重要な柱にしていることは、人材獲得の効率性・定着率の高さの裏付けでもある。
これらは、単に「方法が増えた」というだけでなく、候補者側・企業側双方のニーズが多様化・高度化していることを示す指標でもある。
リファラル採用・出戻り採用は、「新しい」のか、それとも「原点」なのか
現代の採用市場では、とりわけリファラル採用や出戻り採用が注目されている。リファラル採用とは社員の紹介によって人材を確保する手法であり、従来の求人広告やエージェントとは異なる人的ネットワークをベースにしている。また、採用コストの削減やミスマッチ抑制、定着率向上といったメリットが指摘される一方で、紹介者ネットワークへの依存や社員負担といった注意点もある。
一方で 出戻り採用(アルムナイ採用)は、かつて離職した元社員を再度雇用する戦略である。離職後に社外で得た経験やスキルを再投入できるという価値が注目されており、昨今、戦略的な再採用チャネルとして評価されている。海外ではテック企業において出戻り採用が新規採用に占める割合が高いという動きも見られ、これは専門性や文化適応力の高さを重視した採用戦略と一致している。
採用という行為を振り返ると、これらは新しいものではなく、歴史的には採用の原型に立ち返った動きともいえる。すなわち、採用とは結局のところ「人との関係性の中で成立するもの」であり、媒体やエージェントはその手段の一つに過ぎない。
学生時代の推薦や知人ネットワークによる就職、地域コミュニティ内での職業斡旋といった旧来の採用慣行は、まさにリファラル採用の本質を体現していた。つまり、リファラル・出戻り採用は新しい取り組みではなく、採用の原点を再認識する動きであるとも言える。
人事コンサルと採用/専門性の境界
ここからは私の立場としての整理を述べたい。人事コンサルタントは、一般的に組織構造・評価制度・能力開発・人材活用などといった領域を支援対象とする。これは採用後の「人材価値を最大化する仕組み」を設計することが主目的であり、採用そのものがコンサルティングの中心とは必ずしもならない。
採用に関する仕事に必要な能力は、マーケティング系の素養を抱える部分も多い。候補者を惹きつけ、企業の魅力を伝え、適切なチャネルを設計する。
これはまさにマーケティングフレームワークと重なる部分が多い。また、母集団形成、候補者行動のデータ解析、ブランド戦略という観点は別個の専門性を要する。
対して組織人事コンサルタントが得意とするのは、採用された人材の 定着・活躍・成長・評価 といった採用後の価値創造である。この点で、採用業務と人事コンサルタントに求めらえる専門性は一部重なりつつも、求められる知識・スキルは異なる。
この「境界」を曖昧にしたまま人事領域全般を語ると、「専門家が何を専門としているのか」が不明瞭になりがちになる。
採用は、あくまで人事・組織戦略の入口であり、その後のタレントマネジメント・能力育成・組織文化形成と整合性を持たせることが、人事コンサルタントの本領であると私は考えている。
採用という行為の再定義
採用とは、単に人を雇用することではない。
それは、組織の未来に影響を与えるリレーションシップの形成であり、知識・文化・価値観を紡ぐ営みである。
その観点では、以下のような考え方が有効だ。
・採用とは「労働力の確保」ではなく「関係性の形成」である。
・採用手法はツールやチャネルにすぎず、目的は人材の囲い込みと活躍の最大化である。
・採用と活躍・定着は不可分であり、これは戦略的なHRデザインの一部である。
・候補者をマーケットとして捉えるのではなく、候補者と組織の双方向最適 を目指すべきである。
このように捉え直すと、リファラル採用も出戻り採用も、あるいは SNSを用いたダイレクトリクルーティングも、単なる手法ではなく組織と個人の関係性をデザインするための選択肢なのだ。
今後の採用観
これからの採用は、単なる方法論や媒体依存から離れ、組織・候補者双方の価値観やキャリア観、働き方の変化を前提にした設計が求められる。
ジョブ型契約やスキルシェア経済、ギグ・フリーランスの拡大といった雇用形態の変化も含め、採用は単独の行為ではなくタレントポートフォリオ戦略の一部として再定義されるべきだ。
その意味で、採用に正解はない。あるのは、組織が何を求め、どのような価値を提供し、どのように候補者と関係を築いていくかという戦略設計そのものである。
人事コンサルタントは、その戦略設計を描く専門家であり、採用はその重要な入口である。採用市場の表面だけを追うのではなく、採用を通じて組織・人材・社会をつなぐ価値創造の営みとして捉えることが、これからの戦略人事に求められている。
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