自社の業績を伸ばしていくためには、人材を有効活用するだけでなく従業員に安心して働いてもらえる環境を整えることも重要です。事業活動の根幹を成す人材リソースのマネジメントは、人事労務管理と呼ばれる業務がキーポイントになります。人事労務管理を如何にして正確かつ効率的に行えるかどうかが、現代ビジネスを生き抜くための大きな分かれ目となるでしょう。今回はそんな人事労務管理について深く掘り下げてみました。
人事労務管理とは何か
ここではまず人事労務管理について押さえておきたい予備知識を改めて紹介していきます。
人事労務管理の概要
人事労務管理とは「人事管理」と「労務管理」が結び付いた業務であり、企業が有するヒト・モノ・カネという3大資源のうち「ヒト」について幅広くマネジメントを行うことを指しています。人事と労務は個別に担当部署が設けられているケースもありますが、業務における共通事項や隣接分野が多いため人事労務としてまとめている企業も多いです。一般的に人事とは「従業員個人単位の管理」を指す業務であり、労務は「社内全体の労働環境作り」のことを言います。また、細かく突き詰めると労務関係の業務は人事管理の一部に含まれるので留意しておきましょう。業務の対象となる単位こそ違えど、従業員が安心して働ける環境作りとモチベーション向上が主な目的である点は共通していると言えます。
人事労務管理の重要性が再認識される背景
現代日本において人事労務管理は企業の事業活動、ひいては日本経済全体の盛衰において重要な役割を担うとされています。その背景にある理由の1つが「働き方改革」です。日本では長きにわたって長時間労働の慢性化が問題視されてきました。これは国際社会からも指摘を受けている日本の大きな課題であり、2013年には国連から是正勧告を受けたという事実もあります。日本では残業が努力として美化される風習がある他、少子高齢化による生産年齢人口の減少も相まって従業員1人あたりの負担が膨れ上がっているのです。事態を重く見た日本政府は厚生労働省を中心として各企業に長時間労働の是正によるワークライフバランスの見直しや、人事評価の適正化といった人事労務管理に関わる取り組みを呼びかけました。
人事労務管理の具体的な仕事内容
人事労務管理の業務範囲は多岐におよぶため、体系的にまとめて把握しておくことが大切です。以下ではそれぞれの業務について簡単に解説していきます。
採用と雇用による人材確保(人事)
企業の経営状況や成長具合に応じて必要となる人材の人数や能力を見定めて、採用活動の計画を立案することは人事労務管理の重要な仕事の1つです。採用活動には大きく分けて「新卒採用」と「中途採用」の2パターンがありますが、それぞれで効果的なアプローチ方法が異なるため柔軟な対応力が求められるでしょう。選考に携わる以外にも、新入社員の入社手続きや退職希望者の退職手続きといった事務処理にも対応します。
人材配置の決定(人事)
人事労務管理は社内の人材を適切な部署・部門に配置する業務も担っています。能力が優れている人材も、その力を活かせる環境で働いてもらわないと意味がありません。従業員1人1人の得手不得手・向き不向き・本人の希望・社内状況など、様々な要素を考慮した上で配置を決定することが重要です。
研修による人材育成(人事)
研修による人材育成も人事労務管理の業務範囲です。研修は新入社員だけが必要としている訳ではありません。チームを束ねるという重要な役割を担う管理職や、これからを担う若手のスキルアップに役立つ研修制度を用意することも重要な取り組みです。また、一口に研修と言ってもその種類は多岐におよびます。社内研修と社外研修、実務を伴うOJTと座学中心のOFF-JTなどを必要に応じて使い分ける判断力がキーポイントです。
安全や衛生管理を含む労働環境整備(労務)
労務分野の業務としては、まず労働環境の整備が大きな仕事となります。例えば勤怠管理や福利厚生の充実、割り当てる作業の内容や量の大まかな調整といった取り組みが具体的な仕事内容として挙げられるでしょう。また、職場内の安全性や衛生面について問題がないかチェックして、必要があれば修繕・改善に取り組むこともあります。
賃金および賞与の管理(労務)
従業員へ支払う諸々の賃金や賞与は、人事労務管理の担当者によって行われるケースが多いです。1ヶ月ごとの給与計算や夏・冬のボーナスの査定、さらには年末調整・各種手当て・交通費の計算も担当します。従業員の生活基盤となる収入に直結する部分なので、作業の正確性が重要です。また、所得税や住民税など各種税金に関する知識も求められます。
コンプライアンス対策によるリスク管理(労務)
従業員が安心して日々の業務に集中するためには、企業側がコンプライアンス対策に注力することが大切です。日本の労働者は労働基準法や労働契約法によって守られており、企業は法令遵守を徹底してこれらの権利を尊重する姿勢が求められます。現場で違法な長時間労働を発生させないためには、管理側で十分な対策を講じておく必要があるでしょう。法律は必要に応じて改定されることも多いため、運用方法を最新のバージョンに即応させる組織力もポイントです。
人事労務管理システムについて
その多くの情報が人力によって管理されてきた人事労務関連の業務ですが、IT化が進むに連れてシステムの導入やクラウド化の流れが見られるようになりました。以下では人事労務管理システムについて紹介します。
人事労務管理システムでは何が出来るのか
人事労務管理システムでは人事労務に関する業務をコンピューターによって半自動化することが出来ます。例えば勤怠の打刻や交通費の申請額が合っているかどうかをチェックする作業は、人間が直接手作業で行う必要がありません。予め設定しておいたルールに沿っていれば問題ないため、人事労務管理システムではアプリによる自動判別を行います。また、人事評価に関するデータを効率的に収集・管理することで、客観性の高い公平な評価も可能になるのです。人事労務管理システムには直接自社のコンピューターにアプリをインストールする「オンプレミス型」と、インターネット上のシステムを利用する「クラウド型」があります。どちらにもそれぞれメリットがありますが、導入コストの安さとシステムへのアクセス性の高さからクラウド型を導入する企業が増加している傾向です。
導入のメリットは?
人事労務管理システムの導入には、まず「管理業務の効率化」というメリットが挙げられるでしょう。システムを導入するとアプリ上で人事と労務に関するデータを一元的に管理することになるため、必要な情報はすべてそこに集約されます。あれこれと書類を探したり確認したりといった手間が省けるため、業務効率化に効果が期待出来るのです。必要であれば人事データなどを各部署の管理者と共有することも容易なので、多角的かつ公平な人事評価が実現されます。
また、「ペーパーレス化による事務負担の削減」も人事労務管理システムの大きな利点と言えます。従業員はシステムを利用して各種申請を行うことが出来るため、わざわざ書類を提出せず手持ちのデバイスや社内のPCからデータを送信するだけです。管理者側でも書類からデータに打ちこむ際にヒューマンエラー防止に繋がるため、労使共にメリットがあります。また、自治体やハローワークに提出する書類の一部は電子化に対応しているので、社外機関とのやり取りもスムーズになるでしょう。
人事労務管理システムの失敗しない選び方
人事労務管理システムは様々なメーカーがリリースしているため、自社にマッチした製品を選ぶことが重要です。その際、まずは「自社にとって必要な機能を備えているか」を確認してみてください。社内で発生している人事・労務に関する課題点を洗い出して、その解決に有効な機能を絞り込みましょう。また、社内で既に何らかの管理システムを導入済みの場合は「既存システムとの連携性」も確認してみてください。既存システムと連携が可能であれば、導入時の混乱を抑えてスムーズに運用を始めることが出来ます。システム導入の目的と拡張性が確認出来たら、自社の予算と相談しながらコストパフォーマンスに長けた製品を選んでみてください。
IT化の流れに乗って、人事労務管理システムの導入を検討しよう
人事労務管理は従業員の権利を守り、自社の利益向上にも繋がる重要な役割を果たします。ミスや漏れがあると従業員からの信用を失ってしまうリスクが高いため、正確性と効率化が求められると言えるでしょう。人事労務管理システムを導入すればデータの一元管理やペーパーレス化によって、労使共に管理業務における様々なメリットが期待出来ます。従業員が安心して働ける環境を整えるために、システムの導入を検討してみてください。
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