「アルムナイ採用で実際に戻ってきた人の給与をどう決めるのか、あまり情報がなくて…。今まではその都度決めていたのですが、人数が増えてきて困っています。」
最近、このような相談を受けることがあります。

採用難が続くなか、一度退職した社員との関係を維持し、再入社につなげる「アルムナイ採用」は、企業にとって現実的な選択肢になりつつあります。
一方で、実務に落とし込むと、悩ましい論点がすぐに出てきます。
その代表が、「再入社者の給与をどう決めるか」です。

退職時の給与に戻すのか、直近年収を踏まえるのか、再入社後の役割で決め直すのか。
どの考え方にも一理があります。だからこそ、難しいのです。

アルムナイ採用は、単に「辞めた人に戻ってきてもらう」施策ではありません。
再入社した人を、どの役割で迎え、どの水準で処遇し、既存社員との公平性をどう説明するのか。
ここを曖昧にしたまま進めると、採用施策としては成功しても、人事制度の運用としては、後々の不公平感や説明困難を残すことになります。

本稿では、アルムナイ採用が広がる背景を確認したうえで、再入社者の給与設定をどのように考えるべきか、実務上の4つのパターンに分けて整理します。

アルムナイ採用が広がる背景

アルムナイ採用が注目される背景には、人材不足の深刻化があります。
中途採用市場では、必要な人材を十分に確保することが難しくなっています。こうした中で、一度自社で働いた経験のある元社員は、企業文化や仕事の進め方を一定程度理解している候補者として、改めて注目されています。

マイナビの中途採用・転職活動の定点調査(2026年3月)1では、企業側のアルムナイ採用について「現在実施している」と回答した企業は43.6%となっています。一方で、転職経験のある正社員のうち、実際に「出戻り転職」を経験した人は10.5%にとどまっています。企業側の関心は高まりつつあるものの、実際の運用はまだ発展途上にあると言えます。

【企業側】アルムナイ採用実施率

また、矢野経済研究所2によると、リファラル採用・アルムナイ採用支援サービス市場は、2023年度に前年度比162.2%の30億円、2024年度には前年度比169.0%の50億7,000万円に達する見込みです。退職者とのつながりを、採用チャネルとして仕組み化しようとする動きは広がっています。

アルムナイ採用には、企業側にも本人側にも一定の利点があります。
パーソル総合研究所の調査3では、再入社者が感じたメリットとして、「仕事内容が事前にイメージできた」42.7%、「組織内のキーパーソンが理解できている」37.7%が挙げられています。完全な外部採用と比べると、立ち上がりやすさやミスマッチの抑制が期待できる点は、アルムナイ採用の大きな魅力です。

しかし、ここで注意したいのは、アルムナイ採用は「知っている人だから安心」というだけでは済まないということです。再入社者は、「完全な外部人材」ではありません。過去の勤務実績や社内での評価、本人の強み・弱みを会社が一定程度把握しています。
一方で、再入社者は「過去の社員」でもありません。退職後に他社で経験を積み、給与水準も、仕事観も、本人の市場価値も変わっている可能性があります。

この二面性が、再入社者の給与設定を難しくしています。

再入社者の給与設定が難しい理由

再入社者の給与設定で最も注意したいのは、本人との条件交渉だけではありません。
むしろ難しいのは、「既存社員から見た納得感」です。
たとえば、社外に出て給与を上げた人が戻ってきたとします。本人としては、直近年収や市場価値を踏まえた条件提示を期待します。これは自然なことです。

しかし、社内に残って同じように貢献してきた社員から見ると、こう映ることがあります。

  • 「一度辞めて戻った人の方が高く評価されるのか」
  • 「残って頑張ってきた人より、外に出た人の方が得なのか」
  • 「結局、社内昇給より転職市場の方が報われるのか」

この受け止めは、制度運用上、軽く見るべきではありません。
アルムナイ採用は、退職者との関係性づくりだけでは完結せず、戻ってきた後の処遇設計まで含めて考える必要があります。

さらに、現在は賃金水準そのものが動いています。厚生労働省の「令和7年賃金引上げ等の実態に関する調査」4では、2025年中に1人平均賃金を引き上げた、または引き上げる企業の割合は91.5%、賃金改定率は4.4%とされています。

つまり、数年前の退職時給与をそのまま復元しても、現在の社内相場にも、外部採用市場にも合わないことがあります。

ここで安易に「以前の給与に戻しましょう」と考えると、現在の社内賃金水準や採用市場とのズレが生じます。反対に、本人の直近年収や希望年収だけを重視して高く迎えると、既存社員との処遇バランスを崩す可能性があります。

再入社者の給与設定は、過去の処遇を復元する作業ではなく、現在の役割・現在の賃金水準・現在の人材市場を踏まえて再設計する作業として捉える必要があります。
したがって、再入社者の給与設定では、「退職時の給与をどう戻すか」ではなく、「再入社後にどの役割で迎えるのか」を起点に考える必要があります。

再入社者の給与設定で確認したい観点

では、再入社者の給与は、何を基準に決めればよいのでしょうか。

再入社者の給与設定で避けたいのは、退職時の給与だけを見て機械的に戻すことです。退職時の処遇は重要な手がかりですが、それだけで現在の処遇を決めると、本人の退職後の経験を十分に反映できなかったり、逆に社内の公平性を損ねたりすることがあります。

そのため、少なくとも次の4つの軸で確認する必要があります。

  • 退職時の社内での位置づけ
    退職時にどの等級・職位で、どのような役割を担い、どの程度の評価を受けていたのか。これは、再入社者を現在の社内制度に置き直す際の出発点になります。
  • 退職後に積んだ経験・専門性
    他社での経験が、再入社後の役割にどの程度つながるのか。単に「外に出ていた」ことではなく、その経験が自社でどのような価値を生むのかを確認します。
  • 再入社後に担う役割・責任
    以前と同じ役割で戻るのか、より上位の責任を担うのか。給与設定の主軸は、最終的には「戻った後に何を担うのか」に置く必要があります。
  • 社内公平性と外部競争力のバランス
    社内の等級・報酬レンジとの整合を保ちながら、採用市場で選ばれる条件をどこまで提示するのか。ここを整理しなければ、内部公平性か採用競争力のどちらかに偏った判断になりがちです。

この4つのうち、何を起点に置くかによって、給与設定の考え方は変わります。
実務上は、次の4つのパターンで整理すると考えやすくなります。

  • パターン① 退職時給与補正型
  • パターン② 現在役割再格付け型
  • パターン③ 基本給+調整措置型
  • パターン④ 短期レビュー前提型

重要なのは、どれか一つが常に正しいわけではないということです。
再入社者の離職期間、退職後の経験、再入社後に担う役割、社内制度の成熟度によって、取るべきアプローチは変わります。

■再入社者の給与設定で確認する4つの軸

判断軸を踏まえた4つの給与設定パターン

パターン① 退職時給与補正型

退職時の等級・給与を起点に、現在の賃金水準に合わせて補正する

退職時の等級や給与水準を手がかりにしながら、現在の社内レンジに補正して設定する方法です。
たとえば、3年前に主任相当・年収520万円で退職した社員が、同じ職種・同程度の役割で戻る場合を考えます。
このとき、単純に520万円へ戻すのではなく、同等級層の現行給与レンジや賃金改定状況を踏まえ、年収550万円程度で再設定するといった考え方です。
この方法が合うのは、離職期間が比較的短く、同一職種・同程度の役割で戻るケースです。退職後の経験が、役割拡大というより専門性の維持・継続に近い場合にもなじみます。

このパターンの利点は、説明しやすいことです。
「退職時の処遇をそのまま復元した」のではなく、退職時の社内位置づけを確認したうえで、現在の制度・賃金水準に置き直したと説明できます。
ただし、退職後に大きく役割が拡大している人には適しません。
社外でマネジメント経験を積み、より高い役割で迎えるべき人に対してまで退職時の等級を引きずると、過小評価になってしまうためです。
過去を起点にできるため説明しやすい一方、退職後の成長を過小評価しないことが重要です。

パターン② 現在役割再格付け型

再入社後に担う役割で等級を再判定し、給与を設定する

過去の給与ではなく、再入社後に担う役割の大きさを起点に処遇を決める方法です。
たとえば、退職時は一般職上位・年収480万円だった社員が、他社で5年間、チームリーダーやプロジェクト責任者を経験したうえで戻る場合を考えます。
再入社後に課長候補として組織運営の一部を担うのであれば、退職時の給与に少し上乗せするのではなく、現在担う役割に基づき再格付けし、年収620万円で設定するといった判断が妥当になります。
この方法が合うのは、他社で役割・責任が明確に拡大しており、再入社後に以前より上位のポジションを担うケースです。採用目的が「元社員の復帰」ではなく、「経験を積んだ即戦力の獲得」に近い場合にも、この考え方が有効です。

このパターンの本質は、アルムナイであっても、給与決定の主軸は「戻る前にいくらだったか」ではなく、「戻って何を担うのか」に置くということです。
再入社者が社外で得た経験を、単なる経歴として見るのではなく、再入社後の役割にどう接続するかを確認する。ここが重要です。

一方で、この方法を採るには、会社側に一定の制度運用力が必要です。

  • 「なぜこの人をこの等級で迎えるのか」
  • 「既存社員と比べて、どこが同じで、どこが違うのか」
  • 「退職後の経験を、どのように役割評価に反映したのか」

これらを説明できなければ、単なる個別優遇に見えてしまいます。
役割基準が曖昧な会社では、現在役割再格付け型を採りたくても、判断の根拠が弱くなります。その結果、採用時の交渉力や上司の声の大きさで給与が決まってしまうことがあります。

したがって、このパターンを使う場合には、等級定義、職務・役割定義、管理職候補としての期待水準などをあわせて確認することが欠かせません。

パターン③ 基本給+調整措置型

基本給は社内レンジ内に置き、不足分は一時金・手当等で補う

基本給は社内の等級レンジ内に収めつつ、採用上必要な差額を一時金・特別手当・早期見直しなどで調整する方法です。

たとえば、社内制度上は年収600万円前後が妥当なポジションであるものの、本人の現職年収が680万円、再入社希望額が650万円というケースを考えます。

この場合、恒常的な基本給を650万円に引き上げると、同等級社員とのバランスが大きく崩れることがあります。そこで、次のように設計します。

項目 設定例
基本年収 620万円
入社一時金 30万円
初年度の特別役割手当 必要に応じて設定
処遇見直し 1年後に早期レビュー

この方法のポイントは、基本給と採用時調整を分けることです。

採用市場との競争力を確保する必要があっても、その差額をすべて毎年支払われ続ける基本給に織り込む必要はありません。むしろ、基本給に入れすぎると、社内レンジや昇給運用への影響が長く残ります。

この方法が合うのは、希少性の高い人材で採用競争上の上積みが必要だが、基本給を上げすぎると内部公平性を損ねるケースです。本人希望額と社内妥当額にギャップがある場合にも有効です。

アルムナイ採用では、本人の期待に応えながらも、継続勤務してきた社員との均衡を崩さない設計が必要です。そのため、採用時の不足分は一時的措置で補い、恒常的な処遇は役割と社内レンジに置くという考え方が有効です。

ただし、一時金や特別手当を使う場合には、その支給理由と期間を明確にする必要があります。

  • 「なぜこの人だけ一時金があるのか」
  • 「いつまで特別手当を支給するのか」
  • 「1年後のレビューで何を確認するのか」

ここが曖昧なままだと、別の形で不公平感を生みます。

基本給+調整措置型は、外部競争力と内部公平性の間をつなぐ方法ですが、運用には一定のルールが必要です。

パターン④ 短期レビュー前提型

入社時は保守的に置き、短期レビューで引き上げ余地を確保する

再入社時点では過度に期待を織り込まず、半年後・1年後の短期レビューを前提に処遇を決める方法です。

たとえば、7年前に年収500万円で退職した社員が戻る場合を考えます。
その間に関連経験は積んでいるものの、自社の事業環境や組織体制も大きく変わっている。以前の仕事ぶりは知っているが、現在の環境で同じように成果を出せるかは、一定期間見極めたい。

こうしたケースでは、まず現行レンジの中位水準である年収580万円程度で迎え、6か月後または1年後に再評価するといった設計が考えられます。

この方法が合うのは、離職期間が長いケースです。組織や事業環境が大きく変わっており、期待は高いものの、成果発揮の再現性を見極めたい場合にも有効です。

再入社者は「以前知っている人」であるがゆえに、会社側が期待を先取りしすぎることがあります。

しかし、過去の実績は重要であっても、それだけで現在の成果を保証するわけではありません。事業環境、組織、上司、顧客、制度が変わっている可能性があります。本人のキャリア観や働き方の志向も変化しているかもしれません。

パーソル総合研究所の調査3では、再入社後の満足度は総じて離職時よりも高まる一方で、「給与・報酬・評価への満足度」だけは離職時より微減しています。また、大企業では、再入社後に「年収低下」32.9%、「職位低下」17.7%という傾向も示されています。

ここから読み取るべきなのは、再入社者を低い水準で迎えるべきということではありません。
むしろ、再入社時に曖昧な期待で処遇を決めるのではなく、どの時点で、何を確認し、どの条件を満たせば見直すのかを明確にしておくことが重要だということです。

レビュー前提型では、入社時に次のような確認項目を設定しておくとよいでしょう。

  • 期待役割をどの程度担えているか
  • 退職後に得た経験が、現在の業務で発揮されているか
  • 周囲への波及やチームへの貢献があるか
  • 当初想定した等級・職位が妥当か
  • 処遇見直しの必要性があるか

このように、入社時給与を「最終決定」とせず、再入社後の実績確認とセットで設計することが重要です。

■再入社の給与設定パターン

4パターンを運用するための確認事項

ここまで見てきた4パターンは、再入社者ごとの事情に応じた実務的な選択肢です。
ただし、個別事情に応じることと、場当たり的に決めることは違います。
実務で重要なのは、次の点を説明できることです。

  • なぜ、この等級で迎えるのか
  • なぜ、この給与水準なのか
  • 退職後の経験をどこまで評価したのか
  • 既存社員との処遇差をどう説明するのか
  • 採用上の特別調整がある場合、それは恒常的処遇なのか、一時的措置なのか
  • 入社後に、いつ・何を基準に見直すのか

これらに答えられない場合、再入社者本人にも、既存社員にも、納得感のある運用にはなりません。

特に注意したいのは、アルムナイだから特別に扱うという発想です。
過去の勤務実績や社内理解は重要な評価材料ですが、それだけで処遇を無条件に引き上げる理由にはなりません。
処遇の基準は、あくまで再入社後に担う役割、発揮してほしい価値、社内制度上の位置づけに置くべきです。

そのため、再入社前には少なくとも、次の3点を確認しておくことが望ましいと考えます。

  • 再入社後の期待役割
  • 社内の比較対象者
  • 入社後の見直し方法

この3点が整理されていれば、再入社者の給与設定は、単なる個別交渉ではなく、制度に基づく判断として説明しやすくなります。

アルムナイ採用の給与設定は、報酬制度の成熟度を映す

再入社者の給与をどう決めるかという論点は、一見すると限定的なテーマに見えます。
しかし実際には、企業の人事制度が抱える本質的な課題が凝縮されています。
たとえば、次のような問いです。

  • 中途採用者の給与を、どの基準で決めているか
  • 社外で積んだ経験を、どのように評価しているか
  • 等級と役割の関係は明確か
  • 給与レンジは、実際に運用できる状態になっているか
  • 内部公平性と外部競争力を、どう両立させているか
  • 採用時の調整と、恒常的な処遇を分けて考えられているか

再入社者の処遇で迷う企業は、アルムナイ採用だけでなく、中途採用全体の給与決定ルールや、報酬レンジ運用に課題を抱えていることが少なくありません。

たとえば、中途採用者の給与が採用時の交渉で決まり、入社後の等級・評価・昇給とのつながりが弱い会社では、アルムナイ採用でも同じ問題が起こります。
また、等級定義が曖昧な会社では、「この人はどの等級で迎えるべきか」を説明しにくくなります。結果として、過去の給与、本人の希望、受入部門の要望、人事の感覚が混ざり合い、判断の軸が見えにくくなります。

さらに、給与レンジが形骸化している会社では、再入社者をレンジ内に収めるべきか、レンジ外で例外処遇を認めるべきかの判断も難しくなります。

つまり、アルムナイ採用の給与設定は、単なる採用実務ではありません。
自社の報酬制度が、外部市場と内部公平性の両方に説明できる状態になっているかを映す鏡です。

ここを丁寧に設計できる会社は、再入社者だけでなく、既存社員に対しても、処遇の考え方を説明しやすくなります。
逆に、ここを曖昧にしたまま採用だけを進めると、「戻ってきた人」だけでなく、「残ってきた人」の納得感も損なう可能性があります。

おわりに

人材の流動化が進むなかで、「退職したら関係が終わる」という考え方は、少しずつ現実に合わなくなっています。一度社外へ出た人が、経験を積み、再び自社に戻ってくる。そうした人材循環を前向きに受け止められる企業は、今後の採用競争において一定の強みを持つでしょう。

ただし、アルムナイ採用を機能させるためには、温かく迎える文化だけでは足りません。
再入社した人を、どの役割で迎えるのか。
その役割に対して、どの給与水準が妥当なのか。
既存社員に対して、その判断をどう説明できるのか。

ここまで考えて初めて、アルムナイ採用は一過性の採用施策ではなく、制度として運用できるものになります。

再入社者の給与設定に、唯一の正解はありません。
けれども、出発点は明確です。
「退職時の給与をどう戻すか」ではなく、「再入社後にどのような役割を担い、どのような価値を生み出す人材として迎えるのか」。
この問いから始めることが、これからのアルムナイ採用には欠かせないのではないでしょうか。

    1. 出典: 株式会社マイナビ「中途採用・転職活動の定点調査(2026年3月)」
    2. 出典: 株式会社矢野経済研究所「リファラル採用・アルムナイ採用支援サービス市場に関する調査結果を発表(2025年)」
    3. 出典: パーソル総合研究所「コーポレート・アルムナイに関する定量調査」
    4. 出典: 厚生労働省「令和7年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」

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