- 1. Part1・Part2のおさらい
- 2. HRBPが求められる背景 ―人事の役割は「裏方」から「経営機能」へ
- 3. 図1:人材マネジメント推進方法の変化
- 4. なぜ“体制をつくるだけ”ではHRBPは機能しないのか
- 5. HRBPを機能させるための3つのポイント
- 6. HRBPを機能させるためのステップ
- 6.1. HRBPの具体的な実行プロセス設計
- 6.2. ①事業戦略の解像度を上げる(Strategy Alignment)
- 6.3. ②キーポジションと人材要件の定義(Position Design)
- 6.4. ③現有人材の可視化とギャップ特定(Talent Diagnosis)
- 6.5. ④アサインメントと育成の実行(Deployment & Development)
- 6.6. ⑤モニタリングと再設計(Review & Iterate)
- 6.7. HRBPの成果をどう測るか
- 6.8. ガバナンス設計:分散型を機能させるための統制
- 6.9. トランスフォーメーションの進め方:一気に変えず、連続的に変える
- 6.10. Phase1:役割定義とスモールスタート
- 6.11. Phase2:構造理解の実装と運用整備
- 6.12. Phase3:展開と高度化(事業横断での最適化)
- 6.13. Phase4:経営への統合と意思決定機能化
- 7. 事例からみる「HRBPの機能化による動的人材マネジメント推進」
- 8. まとめ:HRBPを機能させるためのポイント
- 9. おわりに:真の人的資本経営とHRBPの役割

Part1・Part2のおさらい
前回までで、VUCA時代における競争優位の源泉が「構造」や「技術」から「組織」と「人」へシフトしていること、そしてその前提に立った「動的人材マネジメント」とジョブ型人事の必要性について整理してきました。本稿では、その動的人材マネジメントを実際の企業運営の中で機能させていくための重要な役割であるHRBP(Human Resource Business Partner)について解説します。
HRBPが求められる背景 ―人事の役割は「裏方」から「経営機能」へ
外部環境の変化スピードが加速するなか、企業にとって最大の差別化要因は「人材が生み出す価値」へと移行しています。このような時代において、人事は単なる制度運用部門ではなく、「経営戦略と人材戦略を接続する経営機能」としての役割を求められています。その接点に立つ存在がHRBPです。HRBPは、人事の一員でありながら事業部門と日常的に向き合い、経営の意図と現場の実態をつなぎながら人材マネジメントを推進する役割を担います。言い換えれば、「経営と現場の橋渡し役」です。
「動的人材マネジメント」においては、“推進構造”そのもののも変化させる必要があります。
従来は、本部人事と人事部長を頂点とした中央集権型モデルが主流でした。本部人事が制度設計や方針決定を行い、各事業部はそれを受けて運用する形です。このモデルは、環境変化が比較的緩やかで、全社一律の仕組みで統制することに合理性がある時代には機能していました。
しかし現在は、事業ごとに市場環境や競争条件が大きく異なり、現場単位で迅速な判断が求められます。そこで必要になるのが、事業部単位で「人事パートナー」を配置する分散型モデルです。本部人事は全社方針や制度基盤を整備しつつ、各事業部にはHRBPが入り込み、事業特性に応じた人材マネジメントを伴走型で推進する。この“中央集権型から分散型へのシフト”こそが、HRBPが登場した構造的背景です。
図1:人材マネジメント推進方法の変化

なぜ“体制をつくるだけ”ではHRBPは機能しないのか
近年、多くの企業がHRBPという名称のポジションを設置しています。
しかし、「体制をつくったが機能していない」という声も少なくありません。
理由は、体制をつくっても、「人事」としての根底の考え方は変わっていないことが多いからです。
その背景には、次の3つの問題があります。
①役割自体が従来の人事と変わっていない
現場の問い合わせ対応や手続きフォローなどの“お世話係”“御用聞き”にとどまり、事業課題に踏み込んだ提案や企画ができていない状況です。人事部門の役割があいまいで、HRBPが何でも引き受けてしまうケースがあります。事業部門側に「人事は調整役」とみなす旧来の意識が根強いため、組織内で「とりあえずHRBPに投げれば何とかしてくれる」という状態になりがちです。
これでは、HRBPではなく“分散配置された人事窓口”に過ぎません。
②事業部の組織課題を人事視点で深く理解できていない
制度やルールの説明はできても、事業モデルや現場のKPI構造、収益の出方を理解していないため、現場にとって腹落ちする組織課題設定・人事施策を描けないという問題です。人事目線では正しい施策でも、事業目線では優先度が低い、というズレが生じます。
なぜこのような状態になるかというと、「そもそもHRBPの本来の役割を想定したキャリアパスがない」ということが起因しています。オペレーション出身の人事担当者が急にHRBPになると、事業部の方針や組織課題に対する感度が低く、業務を深く知らないことにより事業部のあるべき姿や人事課題をイメージできない、ということです。
また、会社によっては期待役割が「人事制度の浸透」の場合、「制度運用を定着させる」ことが目標になりがちです。本来は「あるべき人材マネジメントを実現するための制度運用」ですが、目的と手段が逆転することがよく発生します。「制度」「規定」「人事ルール」の範囲を超えた判断力がなく、“本社人事目線”の施策説明になりがちで、言語が異なり、結果信頼してもらえないということになります。
③経営が”HRBP”に求める人材マネジメントの本質を理解していない
最後は、経営側の認識の問題です。人事を依然として「人事=コストセンター」と捉え、事業戦略の議論にHRBPを巻き込まない場合、HRBPは戦略と切り離された存在になってしまいます。HRBPが機能するためには、経営が「人材マネジメントは重要な経営課題である」と明確に位置づけることが前提となります。
また、「売上・利益・新規顧客獲得」など定量的KPIに比べ、「人事の成果」は分かりづらい傾向があります。「人事が何をしたら経営に貢献したことになるのか」を測る物差しが明確になっていないと、人事をあまり経験してこなかった経営者であればあるほど“目に見える成果”を重視しがちです。
HRBPを機能させるための3つのポイント
では、これらの課題を乗り越え、HRBPを単なる「体制」ではなく実際に機能する役割として確立していくためには、何が必要なのでしょうか。ここからは、これまで述べてきた失敗要因を踏まえながら、HRBPを機能させるために不可欠な3つのポイントについて整理します。
①HRBPの役割明確化:企画とオペレーションの棲み分け
1つ目は、役割の明確化です。HRBPは、CHROや本部人事と共に動きながら全体方針に基づいて現場の人材マネジメントをサポートする役割です。ここで重要なのは、HRBPを単独で定義するのではなく、CHRO・本部人事・事業部マネジメントとの関係性の中で役割を設計することです。本部人事、オペレーション担当、HRBPの棲み分けを明確にし、HRBPが日常業務に埋没しない体制をつくることが必要です。
CHRO
経営会議等で企業価値向上のために重要な経営課題について経営陣と議論し、経営戦略と連動しながら、人材投資の方向性や優先順位を決定します。企業価値向上に資する人材マネジメントの意思決定に責任を持つポジションです。
本部人事
最新の人事関連情報を学びながら、各社の将来戦略にふさわしい、採用、育成、登用、組織開発、タレントマネジメントなどの全社的人事施策の構築と展開を推進します。
HRBP
全社方針や制度を前提としながら、事業部門と密接に連携し、現場の文脈に即した形で人材マネジメントを推進する役割です。
事業部マネジャー
あるべき組織をデザインし、HRBPと連携しながら最適な運営体制を整備します。部門内の採用・配置・育成・評価など、人材マネジメント全般に責任を持ちます。
人事部長とCHROの違い
ここで、HRBPの役割を正しく理解する前提として、人事部長とCHROの違いについて整理しておきます。
従来の人事部長は、主に社内の人材一人ひとりや制度運用を中心にマネジメントを行う「点」のマネジメントに重きが置かれていました。一方でCHROは、人材全体を「面」で捉え、外部環境・内部環境の双方を踏まえながら、人材戦略やマネジメント方針を打ち出す役割を担います。
具体的には、CHROは人材ポートフォリオの設計や人員構成の最適化、外部人材市場の動向把握、投資対効果の観点での人材施策の意思決定など、経営視点で社内外の人材リソースマネジメントを扱うポジションです。
このように、「人をどう管理するか」という視点にとどまるのではなく、「人材をどう活用し、企業価値につなげるか」という視点へと役割が拡張している点が、人事部長とCHROの本質的な違いといえます。
本部人事とHRBPの違い
次に、実務で混同されやすい本部人事とHRBPの違いを整理します。
本部人事は、経営戦略や人材戦略に基づいて、等級・評価・報酬、採用、育成、サクセッションなどの全社共通の仕組みを設計・展開する「全体最適」の役割を担います。あわせて、各事業部の運用状況を横断的にモニタリングし、ばらつきの是正やガバナンスを効かせるコントロール機能も持ちます。
一方HRBPは、その全社方針や制度を前提に、事業部の文脈で人材マネジメントを実装する「部分最適×全体最適の接続役」です。事業責任者と並走し、要員計画、配置・抜擢、育成、評価運用の具体設計と実行を担います。重要なのは、制度を“適用する”だけでなく、事業モデルやKPIに照らして“使い方を設計する”点にあります。
整理すると、本部人事は「仕組みをつくり、全社を統制する機能」、HRBPは「現場で仕組みを活かし、事業成果に結びつける機能」です。この役割分担が明確であるほど、分散型モデルは高い実効性を発揮します。
ここで重要なのは、前述のようにHRBPが「制度を運用する人」ではなく、「あるべき人材マネジメントを実現するために制度をどう使うかを考える人」であるという点です。制度は手段であり、目的は事業戦略の実現です。この目的と手段が逆転すると、制度定着そのものがゴールになってしまい、本来の役割を果たせなくなります。
攻めと守りの分業体制
また、役割設計においてもう一つ重要なのが、「攻め」と「守り」の分業です。
労務管理や規程遵守、トラブル対応といったオペレーション業務は、法的リスクや内部統制を担保する“守りの人事”として別組織で担うことが望まれます。
一方でHRBPは、「事業戦略に人事がどう貢献するか」「どのような人材配置が事業成長やイノベーションを生むか」といった未来志向のテーマに向き合う“攻めの人事”として位置づける必要があります。
具体的には以下のような役割です。
- 事業戦略を踏まえた要員計画の立案支援
- キーポジションの定義と後継者育成の設計
- 事業フェーズに応じた組織設計や役割再定義の提案
- 評価・報酬・育成施策を通じた行動変容の促進
この分業が曖昧なままでは、HRBPは日々のオペレーション対応に引きずられ、本来担うべき戦略的な役割を発揮できません。したがって、役割設計においては「誰が何を担うのか」だけでなく、「何を担わないのか」まで明確にすることが、HRBP機能化の前提条件となります
②経営・人事・現場の自社のあるべき人材マネジメントの深い理解
2つ目は、人材マネジメントの構造理解です。経営戦略→人材戦略→制度・施策→運用・データ活用という全体構造を理解し、「なぜこの施策が必要か」を説明できる力が求められます。
図2:人材マネジメントの全体構造

ここでいう構造理解とは、単に制度の仕組みを知っていることではなく、「戦略・制度・運用がどのようにつながり、どのように成果に結びつくのか」を一貫して捉えることを指します。
例えば、人材マネジメントは、企業理念や事業戦略を起点に「求める人材像」が定義され、それに基づいてキャリアモデルや育成体系、要員計画、評価制度といった施策が設計されます。そして、それらが採用・配置・育成・評価といった日々の運用に落とし込まれ、その結果が人材データとして蓄積され、再び施策の見直しに活用されるという循環構造になっています。
HRBPはこの一連の流れを分断せずに理解し、「どこにボトルネックがあるのか」「どの施策を変えれば成果にインパクトが出るのか」を見極める必要があります。
タレントマネジメントとは「仕事と人のマネジメント」
動的人材マネジメントに寄与しやすいジョブ型人材マネジメントにおいては、「人」ではなく「仕事」を起点に考えることが重要です。従来のメンバーシップ型では「適材適所=人を基準に仕事を当てはめる」発想でしたが、ジョブ型では「適所適材=仕事に必要な要件に対して人を当てはめる」発想に転換します。
この違いは、配置や評価、処遇の考え方にも大きく影響します。例えば、評価は「人の能力がどれだけ上がったか」ではなく「職務として求められる成果をどれだけ達成したか」に基づいて行われ、処遇も「職務の大きさ」に応じて決定されます。
ジョブ型とメンバーシップ型の人材マネジメントについては、Part1,2で詳しく解説していますので、こちらもあわせてご参考ください。
さらに重要なのは、「仕事」と「人」の両方を同時にマネジメントする視点です。職務情報(役割・責任・KPIなど)と、人材情報(スキル・経験・志向・コンディションなど)を統合的に把握し、そのマッチング精度を高めることが、タレントマネジメントの本質です。
そのためには、「どのような人材情報を蓄積するのか。
そのためには、「どのような人材情報を蓄積するのか」「どのような職務情報を定義するのか」といったデータ設計も重要になります。単なる人事データの蓄積ではなく、配置や抜擢の意思決定に活用できるレベルまで情報を構造化することが求められます。
加えて、要員計画や人材配置の考え方も変化しています。従来は現場からの「何人必要か」というワークロード起点の発想が中心でしたが、HRBPには、事業計画や人件費、外部リソースの活用も含めた全体最適の観点から、「どのような形で必要な労働力を確保するか」を設計する視点が求められます。
つまりHRBPは、「制度を知っている人」ではなく、「人材マネジメントの構造を理解し、それを事業の文脈で使いこなせる人」であることが求められるのです。
図3:要員計画の考え方

③HRBPを想定したキャリアパスの設計・運用
3つ目は、HRBPを想定したキャリアパスの設計です。オペレーション中心の人事から突然HRBPに任命するのではなく、事業理解や経営視点を段階的に身につける育成ルートを整備する必要があります。
また、HRBPを「任命される役割」にとどめるのではなく、「なりたい・挑戦したい役割」として認識される状態をつくることが重要です。そのためには、評価・処遇・育成プログラムを一体で設計し、専門性や経験を高める土壌を整備する必要があります。
キャリア設計の基本は、「Must(役割)」「Can(能力)」「Will(動機)」の重なりをいかに広げるかです。まずMustとして、HRBPに求められる役割を明確に定義します。ここには、人材マネジメントの構造理解や事業理解に加え、オペレーションの理解(OJT・通常業務)も含まれます。単なる企画力だけでなく、現場の実態を踏まえて実装できる力が前提となります。
次にCanとして、HRBPとして機能するための能力を計画的に獲得させます。特に重要なのは、複数事業部での実務経験(とりわけ企画業務)を通じて現場視点を養うことです。ローテーションや個別育成を通じて、異なるビジネスモデルやKPI構造を横断的に理解できる人材を育てることが、HRBPの質を高めます。
そしてWillとして、HRBPというポジション自体の価値や重要性を明確化し、本人の志向を引き出すことが不可欠です。1on1やOFF-JTを通じてキャリア観を醸成し、「事業に価値を出す人事」という役割への納得感と魅力を高めていきます。
この3要素の重なりが小さい状態では、役割だけが先行し、機能不全に陥ります。逆に、Must・Can・Willが重なる領域を広げることができれば、HRBPは継続的に価値を発揮するポジションへと進化します。したがって、HRBPのキャリアパス設計においては、「どのような経験を積ませるか」「どのように能力を可視化・評価するか」「どのように動機づけるか」を一体で設計することが、機能化の鍵となります。
図4:HRBPのキャリアパス設計

HRBPを機能させるためのステップ
HRBPの具体的な実行プロセス設計
HRBPが価値を発揮するためには、単発の施策提案ではなく、戦略から現場実装までを一貫して回すプロセスが不可欠です。実務上は、以下のようなサイクルで運用することが有効です。
①事業戦略の解像度を上げる(Strategy Alignment)
事業責任者との対話を通じて、売上構造・KPIドライバー・競争優位の源泉を分解し、「どの役割が価値を生むのか」を特定します。ここでのポイントは、売上や利益の“結果指標”ではなく、それを生み出す“先行指標(行動・プロセス)”まで落とし込むことです。
②キーポジションと人材要件の定義(Position Design)
特定した価値創出ポイントに紐づけて、キーポジションを定義し、期待成果・責任範囲・必要スキルを明確化します。これがいわゆる職務定義になります。
③現有人材の可視化とギャップ特定(Talent Diagnosis)
評価情報、スキル、経験、志向、コンピテンシーなどのデータを統合し、ポジション要件との適合度を可視化します。定量データだけでなく、マネジャーの評価や将来ポテンシャルなどの定性情報も組み合わせて判断します。
④アサインメントと育成の実行(Deployment & Development)
適所適材の観点で配置・抜擢を行うと同時に、ギャップに対する育成施策(OJT、研修、ローテーション、コーチング等)を設計・実行します。重要なのは、配置と育成を分断せず、同時に設計することです。
⑤モニタリングと再設計(Review & Iterate)
配置後の成果、エンゲージメント、生産性などを継続的にモニタリングし、必要に応じてポジション定義や人材要件、施策を見直します。VUCA環境では“正解”は固定されないため、アジャイルに回し続けることが前提となります。
HRBPの成果をどう測るか
HRBPが機能しない要因の一つに、「成果が見えにくい」ことがあります。これを解消するには、事業KPIと人材KPIを接続した指標設計が重要です。
- 事業連動KPI:売上成長率、粗利率、案件勝率、リードタイム短縮など
- 人材KPI:キーポジション充足率、ハイパフォーマー比率、離職率、後継者カバレッジ
- プロセスKPI:配置リードタイム、採用充足期間、育成完了率、評価運用の納得度
これらを単独で追うのではなく、「どの人材施策がどの事業KPIに寄与したか」を因果で捉えることが重要です。例えば、キーポジション充足率の向上が案件勝率にどう影響したか、育成施策が生産性にどう寄与したか、といった形で紐づけていきます。
ガバナンス設計:分散型を機能させるための統制
分散型モデルでは、各事業部の裁量が大きくなる一方で、全社最適との整合をどう取るかが課題になります。ここで重要なのが、本部人事とHRBPの役割分担です。
- 本部人事:制度設計、全社ポリシー、共通データ基盤、横断モニタリング
- HRBP:事業別の実装、個別最適化、現場課題のフィードバック
さらに、定期的なレビュー会(例:人材レビュー、サクセッション会議)を設け、各事業部の判断が全社戦略と整合しているかをチェックする仕組みを組み込みます。分散と統制のバランスを設計することが、HRBPモデルの成否を分けます。
トランスフォーメーションの進め方:一気に変えず、連続的に変える
日本企業においては、ゼネラリスト型の異動・ローテーションが主流で、「キーポジション」を起点に人を計画的に動かす・調達していくという「動的人材マネジメント」を実施していくには、大きな文化改革が必要です。そのため、全体を一気に切り替えるのではなく、「変えるべきところを継続的に変える」トランスフォーメーションマネジメントが重要になります。
HRBPの導入も、一気に完成形を目指すのではなく、トランスフォーメーションマネジメントの考え方と同様に、「段階的に機能を高めていく」アプローチが重要です。各フェーズは直線的に進むものではなく、試行と修正を繰り返しながら成熟度を高めていく前提で設計する必要があります。
Phase1:役割定義とスモールスタート
特定事業部においてHRBPを配置し、役割・期待成果・KPIを明確化します。同時に、経営・本部人事・事業部との連携のあり方を整理し、「何をやるか/やらないか」の線引きを行います。まずは限定的なスコープで実践し、現場で機能する形を見極めるフェーズです。
Phase2:構造理解の実装と運用整備
Phase1で得られた示唆をもとに、人材マネジメントの構造(戦略―制度―運用―データ)を実務に落とし込みます。人材データの整備・可視化、評価・配置プロセスの標準化、レビュー・モニタリングの仕組み構築を通じて、「再現性のある運用」を確立します。
Phase3:展開と高度化(事業横断での最適化)
複数事業部へ展開しながら、HRBPの役割を高度化させます。サクセッションやキーポジション管理、人材ポートフォリオの最適化など、より戦略性の高いテーマへと踏み込みます。また、各事業部の知見を横断的に共有し、全体最適の観点でのアップデートを進めます。
Phase4:経営への統合と意思決定機能化
HRBPが経営意思決定プロセスに組み込まれ、人材観点からの提言が標準化される状態を目指します。経営会議や事業レビューにおいて、人材ポートフォリオや要員計画が議論され、事業戦略と一体で意思決定されるフェーズです。
このように、HRBPは段階的に役割・構造・視点を高度化させながら、「制度を運用する存在」から「経営の意思決定に影響を与える存在」へと進化していきます。
事例からみる「HRBPの機能化による動的人材マネジメント推進」
ここで、HRBPをうまく機能させ、動的人材マネジメントを運用している事例を1つ紹介します。
グローバル展開しているある日本企業では、「グローバル人材マネジメントプラットフォーム」を構築し、ポジションマネジメントとタレントマネジメントを両輪とした人材マネジメントを推進しています。この中でHRBPは、現場に根ざしながら戦略人事を実装する中核的な役割を担っています。
ポイント①:パーパス起点のメッセージ
ロジカルに物事を理解する人が多いこの企業では、個人の成長と会社の成長をリンクさせる必要がある理由を、論理的構成でパーパスとしてメッセージすることで、共通言語として全社に浸透させています
ポイント②:経営のコミットを引き出す&現場巻き込み
・ポジションマネジメント:仕事の値段=グレードを公開することで、責任と報酬の連動性が明確になり、仕事の特性に合った人材を抜擢する必要性の納得感が高まる
→適材の登用がしやすくなる、キャリアの見通しもついて動機づけになる
・タレントマネジメント:キーポジションに求めるリーダーシップ要件を、海外法人の人事担当者、経営幹部も集めてワークショップを開いて議論
・設定したポテンシャルと業績評価の2軸で、キーポジションにつきそうな人を現場に整理してもらう
→すぐに任せられる人、5年後に任せられる人、10年後に任せられる人を人財プールごとに個別育成
→部下に対してのキャリア形成に当事者意識が芽生え、囲い込みの意識がなくなり流動性の担保につながった
ポイント③:グループ全体視点での人事体制強化とスキーム整備
・グローバルHRグループの設置(本部人事とHRBPを兼ねる)
・制度のメンテナンスチームは別で設置
・グローバル人事チームと年一回合流→国や地域をまたぐ計画的な人材登用につながる
・データドリブン:リーダーシップ要件を点数化することで、国籍など関係なくフラットに話ができる
本事例から見えるポイントは、HRBPが以下の3視点を同時に高いレベルで接続している点にあります。
①経営視点:経営のコミットを引き出す
- パーパス起点で人材マネジメントの意義を言語化し、全社の共通言語を形成
- 「仕事の値段=グレード」の可視化により、責任と報酬の連動性を明確化
- キーポジションへの適材登用の必要性を経営言語で説明し、意思決定に影響
②現場視点:現場との対話につなげる事業視点
- 事業部と密に連携し、リーダーシップ要件をワークショップで具体化
- ポテンシャル×業績の2軸で人材を可視化し、人材プールを現場主導で構築
- 配置・育成を現場で回る形に落とし込み、流動性を担保
③人事視点:仕事と人のマネジメント(パーパス×データドリブン)
- グローバルHR体制(本部人事×HRBP)と制度メンテナンスの分業設計
- リーダーシップ要件の数値化など、データドリブンでの人材意思決定
- 国や地域を跨いだ共通基準での人材議論と計画的な登用の実現
このように本事例では、HRBPが経営・現場・人事の3視点を横断しながら機能することで、「適材適所」から「適所適材」への転換を実現し、動的人材マネジメントを実運用として定着させています。
なお、これらの取り組みは個別施策の積み上げではなく、3つの視点を一体で接続している点にこそ本質があり、いずれか一つに偏らない設計と運用が、実効性を生み出しているといえます。
まとめ:HRBPを機能させるためのポイント
現代の日本企業においてHRBPを置く意義を理解
- 激しい外部環境の変化に対し、経営だけでなく人事への要求も変化
- これからの人事の役割は「継続性」▶「戦略性」のマネジメントへシフト
- 経営戦略・事業戦略と連動した組織運営が必須となる
- 経営と現場をつなぐ推進役である「HRBP」の重要性が高まる
HRBPを機能させるための要件
- まずHRBPがHRBPの必要性・意義を自社の戦略に基づいてインプットする
- ①経営視点 ②現場視点、③人事視点すべてが求められる
- 「現場のお世話係」「オペレーションスペシャリスト」からの脱却、キャリアパスの再設計
おわりに:真の人的資本経営とHRBPの役割
本シリーズを通じて見てきた通り、人的資本経営の本質は、単に人的KPIを開示することや、その達成状況を示すことにあるわけではありません。これらはあくまで一側面であり、それだけでは本質的な組織の価値向上や競争優位にはつながりません。
重要なのは、変化に対応し続ける「継続可能な組織運営」を実現するために、人材マネジメントを経営課題として捉え、実行し続けることです。人材を単なるコストではなく、将来の価値を生む投資対象として位置づけ、「後払い」から「先払い」へと発想を転換していくことが求められます。
また、KPIそのものも固定的なものではなく、事業戦略や環境の変化に応じて進化させていく必要があります。重要なのは「KPIを達成すること」ではなく、「自社の戦略に適合したKPIを設計し、運用し続ける力」です。
そして、その実行を支える中核的な役割がHRBPです。HRBPは、経営と現場をつなぎながら、人材と組織の力を引き出し、持続的な価値創出を可能にする推進役です。制度や仕組みを整えるだけではなく、それを現場で機能させ、変化に応じて進化させ続けることにこそ本質的な価値があります。
これからの企業にとっての競争優位の源泉は、「人」と「組織力」にあります。HRBPという機能をいかに設計し、運用し、進化させていくか。その問いに向き合い続けることが、真の人的資本経営の実現につながるのではないでしょうか。
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