人事改革と抵抗勢力の関係

人事業務改善プロジェクトを進めるとき、避けて通れないのが「抵抗勢力」の存在です。いくら改革の目的が明確で、組織の未来を見据えた施策であっても、現場では「反対」や「無視」、あるいは「消極的な態度」が生まれることがあります。

この「抵抗」という現象、実は物理学における摩擦力と非常によく似ています。摩擦力は、物体が動き始めるときに抵抗となり、動き出した後も進行を妨げます。しかし同時に、摩擦があるからこそ車のタイヤが路面をつかみ、安定して前進できるわけです。つまり、摩擦=抵抗を完全に排除することはできず、むしろそれをうまくコントロールすることで進行をスムーズにする必要があります。

このコラムでは、抵抗勢力を5つの段階に分け、物理学の摩擦や障害物の特性を使ってその向き合い方を考えます。「抵抗」はただの敵ではなく、組織改革をより良いものにする材料であるという視点で、対処方法を探っていきましょう。

無言の抵抗~静止摩擦との闘い~

ありがちなケース

会議中に黙り込んで発言せず、プロジェクトの話題になると目をそらす。タスクの締切を守らなかったり、提出された書類にミスが多いなど、態度や行動で「動きたくない」という姿勢が見え隠れします。

物理現象で例えてみると

静止摩擦は、物体が動き始める際に最も大きな力を必要とする現象です。一度動き始めれば必要なエネルギーは減りますが、初動を突破するには集中した力が必要です。

対処方法

まずは、無言の抵抗が何に起因しているのか探ることが重要です。会議中に追及するのではなく、1対1の対話で「どんな点が不安か」を丁寧に聞き出します。また、小さな成功体験を一緒に作ることも効果的です。たとえば、「この部分だけ試しに導入してみませんか?」と提案し、動き出した後に成果を見せることで、静止摩擦を乗り越えやすくなります。

正面からの批判~動摩擦を制御する~

ありがちなケース

「この計画は現場の実情を考慮していない」「リスクが高すぎるので再考してほしい」といった、具体的な批判が飛び交う状況です。計画の欠点を指摘されるたびに、プロジェクトが遅延していくことがあります。

物理現象で例えてみると

物体が動き始めた後も、動摩擦が進行を妨げる力として働きます。この摩擦力は、進行のスピードを落としますが、コントロールすれば安定した動きを生む重要な要素でもあります。

対処方法

正面からの批判は、動摩擦のように「一定の力で対応し続ける」ことが必要です。批判を無視するのではなく、課題洗い出し会議などを設けて「懸念を聞く場」を意図的に作ります。そして、出された懸念をリスト化し、対応策や進捗を定期的に見える化して共有します。さらに、批判者に「今、この懸念に対応中です」と小まめに報告し、批判を逆手に取ってプロジェクトを洗練させていく姿勢を示しましょう。

屁理屈での抵抗~道の凸凹を整地する~

ありがちなケース

「一部の部署に負担が偏るなら無理だ」「リスクがあるからやめたほうがいい」といった、非論理的な反論や、感情論に基づく屁理屈が飛び出します。場合によっては、「全体としては良いと思うが、この部分だけは反対だ」と、改革を細かく切り分けて進行を妨害しようとする場合もあります。

物理現象で例えてみると

道が凸凹だと、物体の進行速度が落ち、振動によるエネルギーの浪費が発生します。道を平らに整えることで、抵抗を最小限に抑え、スムーズな前進が可能になります。

対処方法

まずは感情的な反論を冷静に整理し、客観的な視点を提供します。「ライバル企業がゼロから業務を設計するとしたら、この方法を選びますか?」といった問いかけで、高い視座から議論を促しましょう。また、議論の場では同調効果が働きやすいため、個別での対話を通じて本音を聞き出すことが重要です。加えて、費用対効果のデータを用いて理論的な議論に引き戻すことで、感情論の影響を最小化します。

話すら聞いてくれない~砂利道を踏破する~

ありがちなケース

「どうせ失敗するに決まっている」「現場を無視した施策なんて論外だ」といった噂が広まり、相手が最初から耳を貸そうとしないケースです。

物理現象で例えてみると

砂利道のように、不均一な表面では進行が妨げられ、動力が失われやすくなります。こうした道を進むには、接触面を増やして安定性を確保する必要があります。

対処方法

信頼関係を築くことが最優先です。自分が直接話をするのが難しければ、すでに信頼を得ている第三者を介して接点を作るのも一つの方法です。また、何度も会うことで徐々に信頼残高を積み上げ、「味方意識」を持ってもらいます。短期間で効果を出すのは難しいため、じっくり取り組むことが大切です。

反対運動を繰り広げる~障害物を乗り越える~

ありがちなケース

「このプロジェクトは絶対に失敗する」と反対を表明し、周囲を巻き込んで反対派を増やそうとする動きです。

物理現象で例えてみると

道中に大きな障害物があれば、進行は完全に止まる可能性があります。障害物をそのまま放置すると道が塞がれてしまいますが、早めに除去するか、別のルートを作ることで対応が可能です。

対処方法

反対派に先手を打って「この施策がなぜ必要なのか」を大きな声で周囲に伝え、支持者を増やします。また、反対派とは感情的な衝突を避けつつ、「データや事実」をベースに冷静な議論を続けることが重要です。周囲に賛同者が増えれば、反対派の勢いは自然と弱まります。

抵抗を恐れず味方にするために

人事業務改善プロジェクトにおける抵抗勢力は厄介な存在に見えるかもしれませんが、それは摩擦のように進行を安定させ、計画をより強固にするための一要素です。抵抗を恐れず、むしろ活用する視点を持つことで、プロジェクトは確実に前進します。「抵抗」を敵とみなすのではなく、味方に変える。これが改革を成功させる鍵なのです。

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