この記事はシリーズです。前回分は以下リンクから確認できます。

 

「年功的な人事制度を変えたい」といったお問い合わせは当社にもよく寄せられるご相談の一つです。現在の人事制度のトレンドは「成果主義」に代表される年齢や勤続年数に関わらず、実力や業績によって処遇を決定する制度です。そのため、年功序列は現在「時代遅れ」の「悪しき制度」であるといった風潮になっております。特にご相談をいただく多くの企業から「年功的な制度のせいで若手が離職してしまう」といった声が上がっております。本主張は、一度年功的な「文化」のある企業を4年目に辞めてしまった筆者としても一定の理解は得るものの、人事コンサルタントとしては「年功的な制度=若手が定着しない」とすることについては果たしてそうなのだろうか、といった疑問がわいてきました。そこで本コラムでは、年功序列は本当に「悪しき制度」なのか考えたいと思います。

1回では年功序列の制度ができ、定着していく過程について触れました。第2回となる今回は、時代の変化に伴い、どうして「時代遅れ」と呼ばれるようになったかを考えます。

年功序列は「いつ時代遅れ」になったのか

年功序列は高度経済成長期に生まれ、定着していったことはすでにふれた通り(第1回コラム参照)です。当時の日本は飛躍的に経済が発展し、企業は成長を続けていきました。その後1970年代の中盤から1990年にかけて、その成長スピードが少しずつ安定し、1991年のバブル崩壊をきっかけにこれまでの成長が実現できない状況となりました。

企業が成長できなくなったとしても、従業員の勤続年数は年々長くなり、それに伴って従業員に支払う報酬も高くなっていきます。この不整合により、人件費が経営を圧迫する事になります。これが、年功序列が「時代遅れ」と呼ばれる入り口になります。

年功序列のデメリットは当然理解していた企業は「定年退職」と「役職定年」という仕組みにより、勤続年数に応じて報酬が上がったとしても、勤続年数に応じて従業員をカットし、人件費を下げる仕組みを取っていました。しかし、1990年以降に少子高齢化が進み、労働人口が減少するとたとえ定年を迎える年齢になったとしても、彼らが離職すると事業を維持するための人材が不足するといった状況になります。定年退職では、一般に従業員個人のスキル、成果ではなく、年齢によって判断するため、場合によっては企業にまだまだ貢献できる人材が離職していた可能性もありました。しかしながら、これまでの年功序列の処遇を行ってきた企業(ないしは上司)は、いったい誰が「成果」を出すことができる人材か客観的に判断する手立てを持っておりません。そのため、「選んで残す」事が出来ない状況の中で、定年を迎えた人材を残さなければならない状況になっていきました。その結果、一定の報酬水準(勿論定年前よりは低い金額ではあるが)の従業員を抱え続ける必要が生じました。さらに近年法整備された「雇用延長」もこの傾向に拍車をかけている状況であると推測します。

IT技術革新と若者の意識

こういった時代背景以外にも、ビジネス環境の変化も年功序列が不向きである事由になっております。その変化とはIT技術の発展です。1994年頃にマイクロソフト社の「WindowsNT」が登場し、爆発的にパソコンが生活、ビジネスの世界に普及していく事になります。その後のITの発展は皆さんのご存じの通りであり、2011年にはドイツでIoTの普及を国家プロジェクトして進めていく「インダストリー4.0」が宣言されるなど、全世界的にこの機能を活用する、あるいは活用せねばならない状況となりました。

IT技術の発展は目覚ましいスピードであり、これまでの日本の製造業のようにコツコツと積み上げていく事で価値が発揮できるといった技術ではなく、全く新しい技術やアイディアを創り出していく事で価値を発揮する社会となりました。言い換えるならば環境の変化が加速化・複雑化する中で、それに対応するために事業のライフサイクルが著しく短くなる(あるいはならなければならない)状況になりました。その結果、GAFAに代表される設立から間もないながらも世界的企業として存在感を示す事になります。このような状況下では、コツコツと経験を積み上げ長期間にわたり活躍する事を想定し雇用した従業員のライフサイクルと事業のライフサイクルの時間軸が合わなくなり、結果として年功序列の制度の仕組みと不整合が生じてしまっていると考えます。他方、考え方を変えると事業が大きく変化する事のない=事業のライフサイクルが比較的長い企業においては、従業員のライフサイクルとも一定の整合が取れる可能性もあり、こういった企業においては引き続き年功序列の制度がマッチする可能性がある事も示唆されます。

先の時代背景に伴い、若者たちは「一つの会社に留まっても安泰ではない」といった現実を理解し、「新しい技術・スキルをなるべく早く身に付け、処遇を高める」事の出来る環境を求めるようになります。そして、多くの若者は「スキルを身に付けたら、転職によってキャリアアップしよう」と考えるようになります。このような状況では、年功的な制度により長期間努めれば賃金が上がる=定められている生涯年収の後払い的な考えよりも、現時点での自らの「時価」で賃金を支払ってほしいといったニーズが高まっていきます。その結果、若者たちの考えに合わない年功序列に対してNoを突き付ける事となり、労働人口の減少と相まって、多くの企業が人材を集められない状況となりました。なお、現在の転職回数は約2回から3回、そのうち1回目の転職が20代である割合が約70%といったデータもあり、高度経済成長期では考えられない状況になっています。(勿論、欧米では10回以上転職する事が普通なので、それに比べるとまだまだ流動性が高いわけではないが…)

若手が離職する理由は本当に「年功序列」なのか

すでに述べたように、「一定のベテランを抱え続けないといけない」状況と「せっかく採用した若手が離職する」といった状況に瀕した多くの企業が年功序列にこの原因を求め、改善に走っている状況になっております。しかしながら、こういった状況の全てが年功序列とする事は少し冷静な目で見る必要があります。

まず、「一定のベテランを抱え続けないといけない」状況についてですが、「ベテランを抱えている」事そのものが問題であるかについては、冷静に見つめる必要があります。先ほど述べたように、年功的な制度においてはある程度保証された生涯年収を後払いするといった考えに基づき従業員を雇用しているため、仮に「戦力にならないベテラン」であっても、彼らが若手時代に安い賃金で労働させてしまっているため、企業はある種の負債を抱えていると考えられ、彼らに賃金を払わないといった事は許されない状況であると考えます。別の考え方をするならば、仮に「戦力にならないベテラン」に高い賃金を払っていたとしても、実力のある若手を安い賃金で雇用出来れば問題は生じません。しかしながら、現在の若者はこれを受け入れてはくれません。若者は、企業の長期的な成長性やビジョンを糧に仕事を選ぶのではなく、即時的な成長や自身のキャリア、能力に対する「時価」での賃金を期待していると言えます。すなわち、本問題の本質には、年功的な制度によって負債を先送りしてしまっている状況と、負債とのバランスを取るために若者に対して成長シナリオや長期の将来性(ある企業で働く事でのキャリアパスも含む)をしっかりと示せていない事による世代交代のバランスの崩壊があると考えます。

次に「若手が離職する」という点ですが、マイナビが調査した2024年度の就職活動を行う学生の志望業界では4位に「官公庁・公社・団体」がランクインしており、いまだ根強く「年功序列」な処遇であるが、「安定」している職業に一定の人気がある事がわかります。これは年功序列の利点である従業員が安心して働くことのできるといった事に今の若者も一定程度価値を感じている事とも読み取れるのではないかと考えます。すなわち、多くの企業が「年功序列は悪い制度なので、成果主義の制度に切り替える」といった手法は必ずしも全ての若手に当てはまるわけではなく、年功序列を辞めて成果主義にすれば若手が残る、といった事は幻想です。若手を定着させるためには、既に述べた通り、自社の成長シナリオや長期の将来性をしっかりと示していく必要があります。その中で、若者が企業に対して成長できる環境と納得感のある処遇がなされていると考えれば、定着につながるはずであると考えます。

上記の様な人材のマネジメントを実現するにあたって、年功序列の制度を続けてきた企業が抱える問題を紹介します。年功序列の制度の中では、従業員の「年齢」「経験」によって身に付けた職能によって評価がなされ、処遇が決定します。この際に、評価者が単純な「年齢」や「経験」のみで評価を行う事を続けてくると、「年齢」や「経験」以外の評価要素である「成果」や「能力」をキチンと図る指標を持ち合わせていない状況に陥ります。この「年功序列」ならぬ「年齢序列」な評価を続けてしまうと、どんな制度へ改定をしたとしても現場が運用しきれず、結果として従業員からの納得感を得ることができません。改善に向けての第一歩は、自社の事業成長において「どんな人材が求められるか」をしっかりと可視化し、その人材像に基づいての「評価」が行えるよう管理職を育成する事が必要になります。この点を怠ると形だけの脱年功制度となってしまいます。

ここまで述べてきた通り、年功序列にはやや問題があるものの必ずしも「悪」と言い切れないように思えてきます。第3回では令和の時代でも年功序列でうまく行く組織について考えていこうと思います。

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