いよいよ2026年卒の新卒受け入れまであとわずかとなり、企業の人事担当者は内定者の「つなぎ留め」に頭を悩ませていることと存じます。今回のコラムでは、新卒採用における内定辞退の現状をファクトチェックし、その上で内定者の不安解消と企業へのエンゲージメント向上に繋がる、より具体的かつ多角的な解決策を提示します。

新卒採用市場の現状

近年、新卒採用市場は「売り手市場」の傾向が強まっています。内定解禁から内定までの期間が短縮化しているにもかかわらず、早期の内定率が高止まりしている現状は、この傾向を裏付けるものです。

日本経済団体連合会(経団連)の調査によると、2024年卒の大学卒業予定者の内定率は、2023年6月1日時点で80.4%に達し、前年同期を2.8ポイント上回っています。また、株式会社リクルートの「就職プロセス調査」2025年卒の内定状況(2024年6月1日時点)では、大学生の内定取得率は80.8%となっており、非常に高い水準で推移していることが確認できます。これは、企業が優秀な人材を早期に確保しようと競争が激化していること、そして学生が複数の内定を獲得し、入社先を慎重に選ぶ傾向にあることを示唆しています。

このような状況下で、企業にとって内定辞退は、採用コストの増大、人員計画の狂い、そして企業ブランドへの影響など、多岐にわたる問題を引き起こします。特に、複数回の面接を経て内定を出した候補者が辞退することは、採用担当者の心理的負担も大きく、その防止策は喫緊の課題となっています。

既存のつなぎ留め施策とその限界

内定辞退防止のために、多くの企業が以下のような施策を実施しています。

  • 先輩社員と内定者の懇親の場を持つ:入社後の人間関係構築を促し、職場への親近感を醸成します。
  • 内定者に職場見学をしてもらう: 実際の職場の雰囲気や働くイメージを具体的に掴んでもらいます。
  • 内定者研修を行う:入社前のスキルアップや、同期との交流を深める機会を提供します。
  • 内定者の親御さんに手紙を書く:親の視点から安心感を与え、入社への後押しを期待します。

これらの施策は一定の効果を持つものの、万能ではありません。なぜならば、内定者が抱える「漠然とした不安」や「自己の適性への疑問」に直接的に対処できていない場合があるためです。内定者は「内定を取る」という目標を達成した後、今度は「この会社で本当に良いのか」「社会人としてやっていけるのか」というより深い自己探求の段階に入ります。この段階で、形式的なイベントや情報提供だけでは、彼らの不安を完全に払拭することは難しいのが現状です。

内定者の不安を解消し、エンゲージメントを高める解決策

内定辞退を防ぎ、内定者のエンゲージメントを高めるためには、彼らが抱える不安を理解し、その解消に資する「質と量」を兼ね備えた接点を提供することが不可欠です。

内定者の「質」を高める施策:個別最適化と本音での対話

内定者の不安は多岐にわたるため、画一的な対応ではなく、個々の内定者の状況や疑問に合わせた個別最適化されたアプローチが重要です。

内定者向けメンター制度の導入(手厚い個別フォロー)

内定者一人ひとりに対して、年齢の近い若手社員をメンターとしてアサインします。メンターは、業務内容だけでなく、社会人としての生活、キャリアパス、ワークライフバランスなど、内定者が抱える個人的な不安や疑問に対して、自身の経験を交えながら本音でアドバイスを提供します。定期的な1on1ミーティングの設定や、チャットツールでの気軽な相談が可能な環境を整えることで、内定者は安心して疑問を投げかけられます。

効果: 先輩社員のリアルな声を聞くことで、入社後のギャップを軽減し、社会人としての具体的なイメージを持つことができます。また、メンターとの信頼関係が築かれることで、企業への帰属意識も高まります。

キャリアパス・自己成長に関する個別面談

人事担当者や配属予定部署のマネージャーが、内定者一人ひとりのキャリア志向や興味関心について深くヒアリングし、入社後にどのようなキャリアパスが描けるのか、どのようなスキルを習得できるのかを具体的に説明します。必要であれば、関連部署の社員との面談機会も設けます。

効果: 入社後の自身の成長イメージが明確になり、「この会社でなら自分の目標を達成できる」という期待感が高まります。

「社会人スキル」習得支援と実践の場

挨拶、報連相、ビジネスマナーといった基本的な社会人スキルだけでなく、プレゼンテーション、ロジカルシンキング、タイムマネジメントなど、実際の業務で役立つ実践的なスキルを習得できるミニワークショップやオンライン講座を提供します。可能であれば、入社前のアルバイトとして、簡単な業務を経験できる機会を設けることも有効です。

効果: 社会人として必要なスキルを具体的に学び、実践することで、漠然とした不安が解消されます。また、早期に業務に触れることで、入社後のスムーズな立ち上がりにも繋がります。

内定者向けオンラインコミュニティの活用と“本音を引き出す”場作り

内定者専用のSlackやMicrosoft Teamsなどのオンラインコミュニティを設置し、人事担当者だけでなく、若手社員も参加して日常的なコミュニケーションを促します。ここでは、会社に関する情報提供だけでなく、内定者からの素朴な疑問や不安、プライベートな相談にもオープンに耳を傾け、本音で答える場を意識的に作ります。匿名での質問を受け付けるなど、心理的安全性を高める工夫も重要です。

効果: 内定者同士の横の繋がりが強化されるとともに、企業との距離が縮まり、気軽に相談できる環境が生まれます。

「量」を増やす施策:継続的な関わりと情報提供

一度きりのイベントではなく、入社までの期間を通じて継続的に内定者と接点を持ち、多角的な情報を提供することで、企業への理解と信頼を深めます。

定期的な進捗報告と期待値調整

定期的に(月1回程度)、内定者に対して入社までのスケジュール、今後の研修内容、配属先の可能性などについて具体的な情報を提供します。また、企業側が内定者に期待していること、入社後にどのような役割を担ってほしいかを明確に伝えることで、内定者は入社後の自分の姿を具体的にイメージできます。
効果: 不安の要因となる「情報不足」を解消し、入社に対する具体的な見通しを持たせることで、安心感を与えます。

部署・プロジェクト紹介会(社員による生の声)

各部署の若手・中堅社員が、自身の業務内容、やりがい、苦労話、今後の展望などをざっくばらんに話す機会を設けます。複数の部署を紹介することで、内定者は自分の興味や適性に合った部署が複数存在する可能性を感じることができます。質疑応答の時間を多く設け、内定者からの疑問に丁寧に答えます。
効果: 実際の業務内容や職場の雰囲気を具体的に理解し、入社後の働くイメージがより明確になります。

イベント参加への招待(任意参加)

社内イベント(例:社員総会、懇親会、部活動、CSR活動など)や、外部イベント(例:業界セミナー、技術発表会など)への任意参加を促します。オンライン開催のイベントであれば、気軽に参加できるでしょう。

効果: 企業文化や社風を肌で感じ、社員との自然な交流を通じて、企業への親近感や帰属意識が醸成されます。

SNSやブログを活用した情報発信の強化

企業の公式SNSやブログで、社員のインタビュー、日々の業務風景、社内イベントの様子などを定期的に発信します。内定者向けの特設コンテンツとして、先輩社員の一日のスケジュールや、部署ごとの働き方紹介なども有効です。

効果: 企業情報を継続的に提供することで、内定者の企業理解を深めます。また、社員の個性や会社の雰囲気を視覚的に伝えることで、より魅力的な企業イメージを形成できます。

採用担当者と内定者の「相互理解」の深化

内定辞退防止の最終的な目的は、内定者が「この会社に入りたい」と強く思い、高い帰属意識を持って入社することです。そのためには、企業側からの一方的な情報提供や施策だけでなく、内定者の声に真摯に耳を傾け、相互の信頼関係を構築することが不可欠です。

採用担当者は、内定者が持つ個性、強み、そして不安や疑問を深く理解する姿勢を持つべきです。内定者からのどんな小さな質問や相談にも丁寧に対応し、彼らが安心して入社後のキャリアを築けるよう、徹底的にサポートする意識が求められます。

内定者フォローは、単なる「つなぎ留め」ではなく、未来の組織を担う人材を育成し、強い組織を築くための「先行投資」であると捉えるべきです。内定期間中に築かれた信頼関係は、入社後の早期戦力化や定着率向上にも繋がり、長期的な企業成長の基盤となります。

まとめ

2026年卒は受け入れ態勢に入るものの、すでにスタートしている2027年卒の新卒採用は、引き続き厳しい売り手市場が予想されます。内定辞退を防ぐためには、従来の施策に加え、内定者一人ひとりが抱える「漠然とした不安」を解消し、「この会社で成長したい」という具体的な期待感を醸成するための、より「質と量」の高いアプローチが求められます。

個別最適化されたメンター制度、具体的なキャリアパスの提示、実践的なスキルアップ支援、そして継続的な情報提供とオープンなコミュニケーションを通じて、内定者との信頼関係を深化させること。これこそが、内定者の高い帰属意識を生み出し、ひいては企業の持続的な成長に繋がる強力な組織を築く鍵となるでしょう。

貴社は、内定者の不安解消とエンゲージメント向上に向けて、どのような具体的な施策を検討されていますか?

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