新たに研修を企画しようとする際、どうやってプログラムを設計するか悩みますよね。対象者にどんな内容を実施すればよいのか、内容はどれくらいのスケジュールで実施すればいいのか、検討すべきポイントが多くあります。そこで今回は研修プログラムの作り方から研修計画の立て方までを具体的にご紹介します。
研修プログラムとは?
あなたは研修を企画する際に、すぐにプログラムを考えようとしていないでしょうか。まずは研修プログラムを考える前に、検討すべきことと研修プログラムの定義について解説します。
研修プログラムと教育カリキュラム
もしあなたが企業や団体で研修を企画する立場であれば、まず研修プログラムは教育カリキュラムと連動するものでなければいけません。教育カリキュラムとは、日本語では「教育課程」と呼ばれ、どの対象にどんなタイミングで何を教育するのかを体系的にまとめたものです。なぜカリキュラムを作るのかというと、教育内容を一度にすべて教えきることが難しいからです。例えば英語学習であれば、文法、単語、リーディング、リスニング、スピーキング、ライティングといった幅広い教育内容があります。
こうした教育内容を1回でまとめて教えることはほぼ不可能であるため、多くの場合、それぞれの教育内容を段階的に習得するようにします。このように、受講者のレベルに合わせてどのような教育を実施するのかをまず考えるのです。そしてレベルに合わせた研修プログラムを企画します。例えば、英語であればTOEIC500点台の人には文法と単語、700点台の人にはリーディングのプログラムなどを検討するといったように対象とレベルからプログラムを考えていくのです。研修プログラムは、教育の全体像である教育カリキュラムをもとに作成しましょう。
教育カリキュラムとシラバス
教育カリキュラムに基づいて、どの対象にどのような内容を実施するのかを整理したものがシラバスです。シラバスにはその講義や研修の内容と、実施回数、実施回ごとの内容、担当講師や課題の有無が示されています。研修プログラムと教育カリキュラムをつなぐものがシラバスと言えるでしょう。
企業では教育カリキュラムが作成されている一方でシラバスが存在していない場合もあります。もしシラバスがなければ、今一度、年間の研修実施計画としてシラバスを作成しましょう。その上で個別の研修プログラムを考えるのがよいでしょう。
研修プログラムと教育方針
研修プログラムを考える上で、基本的なコンセプトとなるのが教育方針です。教育方針がなければ、研修プログラムどうしに連動性を持たせることが難しくなります。教育方針はどのようなもので、具体的にはどうやって策定すればいいのでしょうか。
教育方針とは?
教育方針は、その企業や団体が最終的に目指す社員教育上のゴールと、教育実施の基本的な方針をまとめたものです。社員教育は教育方針に沿って行わなければならなりません。
例えば、ユニクロやGUを運営するファーストリテイリングでは、従業員の成長と自己実現を重視しながら「グローバルワン・全員経営」、「現場・現物・現実」という2つの考え方に基づいて、「常にお客様と現場を最優先に考え、本質的な課題解決ができる人材」を育成する方針を掲げています。
このような方針に基づくと、経営視点や現場視点を重視した研修プログラムを作る必要があることがわかります。
あるべき人材像
企業によっては、教育方針の中で「あるべき人材像」を掲げている場合もあるでしょう。例えば、伊藤忠グループのセラミックサプライヤーである伊藤忠セラテックでは、5つの人材像を掲げています。「成長意欲にあふれる自立した人材」をコアにしながら、「自立」「規律」「専門性・技術」「変化への対応」「思いやり」という5つの軸を明示し、このあるべき人材像に基づいて教育方針も策定しています。
こうしたあるべき人材像があれば、最終的にどのようなスキルや能力を育てるのかが明確になり、研修でも人材像で示された項目をプログラムとして実行することができるのです。
育成目標
教育方針とあるべき人材像に加えて、育成目標を設定することも重要です。企業では一般社員の階層ごとに育成目標を設定し、上位の等級や役職を目指すためにどのようなスキルや知識、能力が必要なのかを定めています。例えば、課長に求められる能力と、新入社員に求められる能力は全くことなるでしょう。
そのため研修プログラムの企画においては、育成する対象ごとに育成目標を立てることが不可欠です。階層別教育ではこの育成目標をもとに、各階層での研修プログラムを設計していきます。
研修プログラムの作り方
次に具体的な研修プログラムの作り方をご紹介します。
パフォーマンスアプローチ
研修プログラムの作り方には大きく2つの方法があります。一つ目がパフォーマンスアプローチです。パフォーマンスアプローチは、企業が業績を拡大するうえで今後求められる能力を定義し、求められる能力を習得するプログラムを作る方法です。例えば、ある企業が新しい市場に参入しようとする際、新たな知識や能力が必要になります。その場合は参入する市場に必要な知識や能力を習得できるプログラムを作って提供するのです。
パフォーマンスアプローチによるプログラムの具体的な作り方は、まず経営層にヒアリングをすることから始まります。経営層に今後の事業展開や、今後社員に求められる能力に関する意見を聞き出すのです。経営層にヒアリングするのが難しい場合は、中期経営計画などの会社の方向性をまとめた資料から今後求められる能力の仮説を立てます。
こうして求められる能力が判明したら、実際の研修プログラムを作成していきます。パフォーマンスアプローチは新たな事業展開をする際や、業績を拡大したい際に有効なアプローチ方法です。
ニーズアプローチ
もう一つの作り方がニーズアプローチです。ニーズアプローチは、職場で求められている知識やスキルを研修プログラム化する方法です。ニーズアプローチは、パフォーマンスアプローチとは逆で現場の社員に必要となる知識やスキルをヒアリングします。現場の社員にヒアリングをするため、いま求められている知識やスキルの獲得に即効性のあるプログラムを企画します。チームの業績を高めたい時や、社員が異動する際に有効なアプローチ方法です。
人材育成方針やカリキュラムとの整合性を確認する
こうしたヒアリングから、研修プログラム化する知識やスキルを定義したら、人材育成方針やカリキュラムとの整合性を確認しましょう。もし、定義した知識やスキルが人材育成方針と合わないものであれば、どちらを優先すべきかを判断する必要があります。
例えば、現場では中国語の習得が求められているのに対し、会社としては英語の習得を方針として掲げている場合、経営層に報告したうえで英語と中国語のどちらが今の事業に必要かを判断してもらいましょう。こうした現場のニーズと会社の方針が相反することはよく起こるものです。仮に方針に合わない研修プログラムを提供した場合、社員が混乱する可能性もあるので注意しましょう。
プログラム内容を決める
教える知識やスキルを定義できたら、次にプログラム内容を決定します。知識によっては難易度が高い場合、複数回に分けてプログラムを設計する必要があるでしょう。そのため、まずは今回の研修プログラムで習得するゴールを定めて研修を設計していきます。例えば、英語のスピーキングに関する研修であれば、研修プログラムを通じてどの程度まで話せるようになるのか、目標を設定します。
日常会話レベルなのか、ビジネス会話レベルなのかで実施する期間が大きく変わるでしょう。また、対象者のレベルによってもプログラム内容や受講期間が変わります。初心者であれば基礎的な内容からスタートする必要がありますが、上級者であれば応用的な内容が求められるでしょう。このように、対象者とゴールに合わせてプログラム内容を設計します。
講師とスケジュールを決める
プログラム内容を検討できたら、次に講師とスケジュールを決めましょう。まず、その知識やスキルを教えるのに相応しい講師は誰なのか、どのような経歴の講師であれば適任かを考えます。時には人ではなく、ビデオ教材や書籍が最適な講師となる場合もあるでしょう。最初から人が教えることを前提にせず、どうすれば受講者の学習効果が高まるのかを考えて講師を選定します。
講師や実施方法が決まったら、スケジュールを決定しましょう。講師が教える場合、まずは講師のスケジュールを優先する必要があります。もし研修プログラムが複数回に分かれるなら、講師のスケジュールに合わせて、全体のスケジュールを決めていきます。
研修計画の立て方
具体的な研修プログラムが決まったら、いよいよ実行に向けて研修計画を立てていきます。研修計画はどのようなステップで作成すればよいのでしょうか。
実施方法と場所を決める
まずは実施方法を決めましょう。実施方法には職場で行うOJT、職場から離れた場所で行うOff-JTがあります。また、最近ではオンラインでの非対面型研修も実施できるようになってきました。オンライン研修は人数や場所の制限なく受講できる点が特徴です。一方でものづくりに関する研修など、物理的に作業が発生する研修はオンラインでは難しいという弱点もあります。
プログラムに合わせて、どの実施方法が最適化を検討しましょう。実施方法が決まったら、オフラインのOff-JTであれば実施場所も決めます。会議室で行うのが最適である場合もあれば、フィールドワークやチームビルディングの研修では野外の研修施設を利用する方法もよいでしょう。実施方法と場所は研修効果にも影響するため、すべての研修を会議室で行うのではなく、研修内容によって工夫するのがおすすめです。
予算を確保する
ここまでの内容で研修プログラム、講師、スケジュール、実施方法と場所が決まりました。次に費用を計算したうえで合計金額以上の予算を確保しましょう。研修業界では、多くの場合、費用は日数で計算されます。日数が増えれば増えるほど、費用が膨らみます。また、講師のランクによっても費用が変動します。人気のある講師や著名人は費用が高く、反対に無名の講師は費用が安くせってされています。
また、会場を確保する場合は会場費用も重要です。会場費用は一般的に広さと設備によってきまります。会場によってはプロジェクターやスクリーンの使用料が必要になる場合もあるでしょう。こうした細かい費用まで見積りを行ったうえで十分な予算を確保します。万が一、費用の計上漏れがあると予算オーバーになってしまうため、必ず発生しうる費用をすべて見積もりましょう。
計画書を作成する
予算を確保できたら研修計画書にまとめます。研修計画書には主に①~⑧の項目を明記します。
①研修の目的とゴール
研修で習得する知識やスキルに加え、研修終了後にどの程度まで習得できているのか目標を設定します
②研修対象者
今回の研修の対象者が誰かを明記します。
③研修実施方法
OJT、Off-JT、オンライン、オフラインといった研修の実施方法を具体的に記します。
④実施場所
オンラインであればZoomなどの使用するツールを記入し、オフラインなら実施する会場の場所を明記しましょう。
⑤研修スケジュール
1日の研修であれば日時の記入だけで大丈夫ですが、複数回に及ぶ研修ではスケジュール表を表示します。
⑥事前課題の有無
研修によっては事前課題がある場合もあるでしょう。事前課題がある場合は、必ずどのような事前課題をいつまでに提出するのかを計画書に記しておきます。
⑦研修講師
誰が講師を務めるかも重要な情報です。可能であれば講師の略歴を示しながら、なぜこの人物が今回の講師として最適かを説明しましょう。
⑧連絡先
最後に研修計画書に担当者の使命と連絡先を記します。こうすることで研修の責任者や担当者がだれなのかがわかるようにするのです。
以上の項目を記入して完成した研修計画書は、社内で内容の承認を得たら受講者へ配布しましょう。
まとめ
研修プログラムづくりは簡単なようで奥の深い取り組みです。単に講師と日程を決めれば研修を実行することは可能です。しかし、目的のない研修では効果も低く、受講者の満足度も向上しないでしょう。まずは研修プログラムよりも組織としての育成方針を決め、誰にどのような知識やスキルを習得してほしいのか育成目標を決めましょう。
その上で研修プログラムをパフォーマンスアプローチまたはニーズアプローチから考え、実施内容と講師を決定していきます。実施方法も集合研修のみにするのではなく、OJTやOff-JTとオンライン学習も組み合わせて提供すれば効果的な研修プログラムとなるはずです。「この知識やスキルを習得するために、最も効果的な方法は何か」という視点で研修プログラムを設計しましょう。
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