ジョブローテーションは終身雇用制度の衰退や離職率上昇、時間・コストの増加等につながりやすいことから、現代日本では時代遅れの制度とされています。一方で、社員の適性の把握やコミュニケーション活発化、欠員への対応など、現代ならではのメリットもあります。

ジョブローテーションは人材育成の手段の一つとして、多くの企業が採り入れてきた実績がある手法です。しかし、近年は「ジョブローテーションは時代遅れ」と言われることも多く、見直しを検討しているところも少なくありません。確かにジョブローテーションには現代にそぐわない点もいくつかありますが、一方でメリットも複数存在するので、長所・短所をよく理解した上で導入を考えることをおすすめします。今回はジョブローテーションの概要や、時代遅れと言われる理由、導入のメリットについて解説します。

ローテーションとは、定期的に配置転換を行う育成手法のこと

ジョブローテーションとは、社員にさまざまな業務経験を積ませるために、定期的に異動を実施する制度のことです。ローテーションの期間は職種や育成の目的などによって異なりますが、短い場合は1カ月程度、長い場合は35年程度となっています。誰を、どこの部署に、どのくらいの期間異動させるかは、人事部担当者があらかじめジョブローテーションの計画を作成していることが多く、社員は期間が満了したら、基本的には計画に沿って他の部署に異動することになります。

ジョブ ローテーションを実施する目的

ジョブローテーションを実施する理由は企業によって異なりますが、おおむね以下のような目的が挙げられます。

リーダーの育成

部下やチームをまとめる管理職やリーダーは、管轄する業務はもちろん、連携する他部署の業務のことも把握していなければなりません。ジョブローテーションで複数の部署に異動させれば、企業全体の業務を把握できるようになり、リーダーや管理職としてのスキルを養うことができます。

属人化・ブラックボックス化の予防

特定の社員が長期間にわたって同じ業務を担当していると、その人でなければ仕事を進められない属人化や、やり方がわからなくなるブラックボックス化が進みがちです。もしその人が休職あるいは退職した場合、担当していた業務が滞ってしまい、全体の業務に支障を来す原因となります。ジョブローテーションを実施すれば、多くの社員が幅広い業務をこなせるようになるため、業務の属人化・ブラックボックス化を防げます。

ジョブロ ーテーションが時代遅れと言われる理由

ジョブローテーションは長らく人材育成の要として採用されてきた経緯がありますが、近年は時代遅れとする見方が強くなっているのが実情です。なぜジョブローテーションが現代にそぐわない制度と言われ始めたのか、その理由を4つのポイントに分けて解説します。

終身雇用制度の衰退

日本では長らく、ひとつの企業に定年まで勤める終身雇用制度が普及していました。しかし、近年は日本経済の低迷や成果主義の導入、雇用の流動化などにより、終身雇用制度は廃れつつあります。一方、ジョブローテーションは一定期間ごとに部署を異動するという性質上、ローテーションを一周するまでにはかなりの期間が必要です。一つの会社に何十年と勤める終身雇用制度であれば問題ありませんが、雇用の流動化が活発になっている現代ではローテーションを終える前に社員が退職するリスクが高く、費用対効果に合わない方法とされています。

スペシャリストの育成に向かない

現代日本は労働生産人口の減少により、深刻な人手不足に陥っています。少数精鋭で業務を回すためにスペシャリストの雇用・育成を重要視している企業も少なくありません。一方、ジョブローテーションは短期間で複数の部署を渡り歩くぶん、広い知識・経験を積むことはできますが、一つひとつの業務を深掘りしにくい傾向にあります。そのため、スペシャリストの育成にはミスマッチとされています。

離職率上昇のリスクがある

ジョブローテーションはその社員の適性の有無にかかわらず、一定期間ごとに部署を異動させる制度です。そのため、適性のない部署へ半ば強制的に異動させられると、ストレスが蓄積して早期離職につながる可能性があります。逆に適性があった場合でも、意欲的に働いていたところに他部署へ異動させられるため、仕事へのモチベーションが低下して転職を考える人が出てくることもあります。前述の通り、現代日本は産業を問わず慢性的な人手不足に陥っているため、離職率が上がる可能性のあるジョブローテーションはリスクの高い制度とみる企業も多いようです。

時間やコストの増加

ジョブローテーションで部署を異動した社員には、一から業務を覚えてもらわなければなりません。社員の教育・指導には決して少なくなくコストと時間がかかるため、ジョブローテーションを実施すると受け入れ側の部署の負荷が大きくなったり、経費がかさんだりする原因となることがあります。人手不足と経済の低迷が続く現代日本では、どの企業も時間とコストの削減に力を注いでいるため、ジョブローテーションの導入を敬遠するところもあるようです。

現代でもジョブローテーションを導入するメリット

近年はジョブローテーションを時代遅れの制度とみる動きが加速化していますが、その一方で、今の時代だからこそジョブローテーションには多くのメリットがあると考える人もいます。具体的にどのようなメリットがあるのか、4つのポイントに分けて説明します。

社員の適性を見極められる

人手が不足している中で労働生産性を向上させるには、適材適所の人材配置が必要不可欠です。ジョブローテーションを実施してさまざまな業務に就かせれば、その社員がどの部署に適しているのか、どのようなスキルを持っているのかを判断しやすくなります。各々の社員の適性を見極めた上で最適な配置を行えば、一人あたりの労働生産性が向上し、少ない人手でも業務を回すことが可能となります。

欠員などに対応しやすくなる

ジョブローテーションによって複数の業務をこなせるようになると、休職や退職などによる欠員に対応しやすくなります。特に人手不足が慢性化している現代日本では、欠員をすぐに埋めるのが難しい場合もあるため、ジェネラリスト人材を育てておくことはもしものときに役立ちます。ただ、スペシャリストの育成を妨げる要因にもなり得るため、ジョブローテーションの実施の仕方に工夫を採り入れることが大切です。例えば、現在の部署に在籍しつつ、月に数時間という上限を設けて他部署の仕事を経験させるといったキャリアトライアル制度を導入すれば、スペシャリストの育成とジェネラリスト人材の育成を両立しやすくなります。

社内コミュニケーションの活発化

近年は新型コロナウイルス感染拡大や働き方改革の影響により、テレワークやリモートワークを導入する企業が増えています。テレワークやリモートワークでは、主にWeb会議システムやメールなどを利用してコミュニケーションを取りますが、これらは特定の人とのやり取りに特化したツールなので、自分の業務に直接関わりのない人との関係性が希薄になりがちです。ジョブローテーションを実施して他部署を渡り歩くようになれば、テレワークやリモートワーク中でも社内のさまざまな人とコミュニティを構築できるようになり、他部署との連携がスムーズになったり、組織としての一体感が強くなったりする効果を期待できます。

モチベーションの向上に役立つ

長期間同じ部署で同じ業務に携わっていると新鮮味がなくなり、つい惰性で仕事をしてしまいがちです。ジョブローテーションで部署を異動させれば、都度新鮮な環境に身を置くことになるため、気持ちが引き締まって仕事への意欲も高まる可能性があります。ただ、前述した通り、人によっては部署の異動にストレスを感じることもあるので、社員の希望や意向に応じてローテーション期間や異動部署の変更を検討するなどの工夫を採り入れるとよいでしょう。

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