従業員は企業にとって宝であり、その働きぶりによって業績が大きく左右されます。従業員が働きやすい環境作りは企業として優先事項の高い取り組みなのです。しかし日本ではブラック企業という言葉が広く認知されるようになって久しく、過酷な労働状況が問題視される事も少なくありません。今回は従業員のメンタルヘルスをケアする方法として、ストレスチェック制度にスポットライトを当てていきます。

ストレスチェック制度の目的とは

ストレスチェック制度とは何か

ストレスチェックは対象となる従業員が調査票の設問に解答していくスタイルで進められます。調査票の項目は実施企業によって異なりますが、厚生労働省では「仕事でのストレス要因」「心身におけるストレス反応」「周囲のサポート状況」の3つのカテゴリーで設問を作成する事を推奨しているので覚えておきましょう。同省は23項目または57項目におよぶ「職業性ストレス簡易調査票」を公開しており、企業ではこのテンプレートも使用可能です。なお、ストレスチェック制度とは設問に解答してもらうだけでなく、その前後を含めた一連のプロセスを指します。

制度の目的

ストレスチェック制度は従業員のメンタル状況を把握するのに有効なアプローチですが、実施の目的はメンタルヘルスに問題を抱えた従業員を探し出す事ではありません。実際にはストレスチェックによって収集したデータを「一次予防」に活かすというのがこの制度の目的です。メンタルヘルスケアは心身に不調が現れる事態を未然に防ぐ「一次予防」、ストレスによる症状を早期発見して適切に対処する「二次予防」、ストレスが原因で休職状態になっている従業員の職場復帰支援を行う「三次予防」の3ステップに分類されます。ストレスチェック制度では従業員が心的原因で不調になる前に策を講じる事が重要なのです。

義務化された背景

ストレスチェック制度は義務化されている

ストレスチェック制度は「労働安全衛生法」が改正された事で、2015年12月から常時雇用50名以上の企業において毎年1回の実施が義務付けられています。また、実施・未実施に関わらず労働基準監督署への報告も義務付けられている点には十分注意しておきましょう。2017年に厚生労働省が調査したところによると、対象企業のうちストレスチェックの実施報告を行ったのは全体の82.9%でした。2022年5月時点でストレスチェック未実施に対する罰則は設けられていませんが、労働基準監督署への未報告および虚偽の申請に対しては最大50万円の罰金が課される事があります。なお、義務化されているのはあくまで「事業者によるストレスチェックの実施」であり、従業員がストレスチェックを受けるか否かは選択権がある点にも留意してください。

背景1 精神障害に起因する労災請求件数が増加

厚生労働省が調査した2019年度「過労死等の労災補償状況」では精神障害が原因とされる労災請求件数が2060件に上り、前年度から240件増加という結果になりました。統計史上最多となったこの数字を重く見た政府は職場環境および従業員のメンタルヘルス改善に向けて、ストレスチェック制度の義務化に乗り出したのです。精神障害の原因を細かく見ていくと「いじめ・嫌がらせ」が最も多く、次いで「仕事量や業務内容の変化」「人間関係のトラブル」「休日が取れない」などが挙げられています。

背景2 職場でストレスを感じている人が多い事が判明

厚生労働省の2018年労働安全衛生調査では、アンケートに回答した従業員のうち58%もの人が「職場で強いストレスを感じている」という結果が浮き彫りになりました。ストレスの原因は「仕事の量・質」「業務上の責任・失敗」「上司からのパワハラ・セクハラ」などが多く見られます。実に過半数以上の従業員が職場環境のストレスに悩んでいるという事態は、企業の生産性にとって大きな障害になり得る状況です。原因についても改善の見込みがあるものが多く、政府主導による積極的な取り組みで従業員のメンタルを守る流れが強まりました。

ストレスチェックの流れ

事前準備

ストレスチェック制度はいきなり調査票でアンケートを行っても効果が薄く、入念な事前準備が重要であるとされています。事前準備は「方針の決定」と「実施者の選定」の2点が主なポイントです。前述の通りストレスチェックは調査票の細かい項目が指定されていないため、企業がある程度自由に設問を作成する事が出来ます。従業員がストレスを受けていると判断する基準・データの管理方法・分析手段など、調査実施後の運用方針についても検討しておきましょう。なお、ストレスチェックには「仕事でストレスを感じる原因」「ストレスによって心身に現れている症状」「周囲からの支援状況」の3点を盛り込む必要があります。
ストレスチェックは誰が実施しても良い訳ではなく「医師」「保健師」「厚生労働省が定めた研修を修了した看護師などの有資格者」の中から選任する必要があります。実施者の指示に基づいてデータの入力や結果通知を担当する実施事務従事者も併せて選任しましょう。集計したデータの中には個人情報が含まれているため、人事や評価に関する直接的な権限を持つ社内の人間は実施事務従事者になる事が出来ません。医療系の有資格者である必要はありませんが、産業保健や事務職に関わるスタッフを実施事務従事者に配置するケースが多いです。

調査票によるアンケート実施

ストレスチェックは紙媒体の調査票に記入してもらう他にも、情報通信機器を利用してデータとして入力してもらう方法もあります。社内状況に応じて最適なもの、あるいは利便性を考慮して双方の調査方法を導入しましょう。情報通信機器による調査の場合でも、厚生労働省から配布されているプログラムを使用する事が出来ます。

調査結果を従業員へ通知

企業はストレスチェックの結果を従業員に公開する事も義務付けられているため、必ず個別に結果を通知するようにしてください。高ストレス対象者となった従業員から1ヶ月以内に申し出があった場合、企業側は医師による面接指導の場を設ける必要があります。面接指導は従業員の申し出から1ヶ月以内に実施する必要がある点にも注意してください。

高ストレス者へのケア

医師による面接指導の結果を踏まえて、企業では高ストレス者に対して就業上の改善措置を講じます。例えば業務量の調整や勤務時間の短縮などが代表的な施策です。高ストレス者の数が多い場合は、特定の部署やチームに対象者が偏っていないかどうか確認してみてください。もし偏りが見られるようであれば、組織単位での抜本的な改革が必要になる事もあるでしょう。また、医師からの意見聴取も面接指導から1ヶ月以内という期限が設けられています。自社の従業員に対するケアが後手に回らないよう、早め早めのアクションを心がけておきましょう。

労働基準監督署へ実施報告

ストレスチェック報告書は労働基準監督署が定める様式に従って提出する事になります。紙媒体の他にもオンラインの電子申請も可能です。なお、報告書は企業ごとではなく事業所単位で提出する必要があります。提出期限は設けられていませんが、ストレスチェックは毎年の実施が義務付けられているため前回の実施から1年以内には報告書を提出するようにしましょう。

実施に際しての注意点

プライバシー保護

ストレスチェックや面接指導の詳細は従業員にとってデリケートな内容であり、個人情報の取り扱いには注意が必要です。ストレスチェックの実施者や実施事務従事者は守秘義務が課せられており、従業員当人の同意無しに調査結果を企業に公開する事は出来ません。従業員が安心してストレスチェックや面接指導を受けられるようにするためには、企業側で個人情報の管理体制をしっかり整えておく事が重要なのです。

不利益な扱いの禁止

ストレスチェック制度において企業が従業員側に不利益な扱いを働く事は禁止されています。ストレスチェックも面接指導も原則として従業員の意志が尊重されるため、企業が強制する事は出来ません。ストレスチェックや面接指導の結果は、従業員に対する解雇・退職勧奨・職位変更などの理由にならないのです。

ストレスチェック制度について理解を深めて、自社の従業員を守ろう

現代社会では何かとストレスを感じる機会も多いですが、中でも職場でのストレスは当人にとっても企業にとっても深刻な問題です。当人が自衛出来る範囲には限度があるため、企業が快適な労働環境を整える必要があります。良好な職場環境や優秀な人材の確保や生産性の向上にも有効です。ストレスチェック制度を上手に運用して、従業員とWin-Winの関係を構築していきましょう。

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