多面評価(360度フィードバック)は、従業員の成長と組織のパフォーマンス向上を狙い、多くの企業で導入されているツールです。上司、同僚、部下といった複数の視点からフィードバックを行うことは、評価を受ける方の気づきを深め、自己成長を促すツールとなることが期待できます。しかし、同じツールを導入しているにもかかわらず、うまく活用している企業と望むような結果に結びつかない企業では、何が異なるのかというご質問をいただくことがよくあります。

本コラムでは、その違いを紐解きながら、上手に活用するポイントを探っていきます。

多面評価が成功している企業の特徴

多面評価をうまく活用している企業に共通するのは、「人材育成」という目的を明確にしている点です。特に、管理職クラスのリーダーシップやマネジメント能力の向上に注力している企業が多く見られます。つまり、評価結果を単に報告するのではなく、実施後のフィードバック会議を丁寧に行っています。評価結果の読み込み方を説明した後、「なぜこの結果になっているのか」について、自分の日常の活動を振り返ります。管理職として、自身の行動を見直すためには、第一歩として気づきを深める必要があるからです。評価を読み込んで気づいたことをどう実践していくのか、フィードバック会議を通じて具体的な行動変容につなげていくことが目的です。

例えば、ある企業では、管理職を対象として多面評価を実施しています。組織の中で、上の立場に行けば行くほど、周りからフィードバックされる機会はどんどん減っていくため、定期的に「他者からどう見られているのかに関心を持ってほしい」「多面評価を通じて、自己成長につなげてほしい」というメッセージを発信しています。
多面評価を定期的に実施し、フォードバック会議を行うことで、参加した管理職のコミュニケーションスキルが向上し、部下との信頼関係が増すことにつながりました。そして、上司と部下とのコミュニケーションの質が上がることで、業績向上を担う一因になりました。こうした成功事例から分かるのは、多面評価導入の目的を明確にし、「評価して終わり」ではなく、「次のアクションにつなげること」が重要だということです。

失敗している企業の特徴とその原因

一方、多面評価が失敗している企業には共通の問題が見られます。それは、導入目的が不明確で、評価のための評価になってしまっていることです。
多面評価の結果は本人に返されますが、結果を受け取るだけで、具体的な改善策を講じずに終わってしまうケースもあります。その場合、評価を受けた従業員のモチベーションが低下することが少なくありません。

例えば、評価内容が曖昧であったり、フィードバックが建設的ではなく批判的なものばかりになったりすることで、被評価者が評価を恐れたり、ネガティブに捉えたりすることがあります。また、多面評価の結果を報酬などの処遇につなげる場合、部下に迎合し、マネジメント機能を果たさない上司が増えてしまう可能性があることも考慮しなければなりません。マネジメントをしたことのない部下は、本当の意味で上司の仕事を評価することは難しいことも念頭に入れておくことが必要です。その上で、誰の何に活かすことを目的に多面評価を実施するのか、よく検討することが求められます。

上司の評価に対する部下の不満とその解決策

多面評価を導入したいと相談にいらっしゃる企業でよく見られる課題の一つに、「上司からの一方的な評価に対する部下の不満」があります。「自分も上司を評価したい」という部下の声があるため、では多面評価をしてはどうかと検討されるケースが多いようです。その際は、このような声をそのまま受け止めて上司の評価を部下にすることが、本当によいかを再検討することをお勧めします。

まず「なぜそのような不満が出るのか」を分析することが重要です。多くの場合、上司と部下との関係性やコミュニケーションの在り方に問題がある場合があります。

つまり、期初に達成することが難しい目標を上司から設定するよう言われたものの、期中に目標の進捗について一度も上司から質問されることもないまま期末になるような状況が起きているかもしれません。部下からすると「難しい目標を立てさせられて、期末にできてないから評価は低いよ」と言われているように受け取っているかもしれません。上司自身が部下をマネジメントするとは、どのようなことなのかを、今一度確認する機会を持つことで、職場の環境が改善され、健全な目標達成活動につながることが期待できるかもしれません。

多面評価の導入ステップと注意点

多面評価を効果的に活用するためのステップとして、まず「多面評価を実施する目的を明確にする」ことが最も重要です。その上で、評価の実施方法を設計し、適切なフィードバックを提供する場(報告会やフィードバック会議)を整えます。評価の際には、誰が評価したのか分からないようにするため、評価者が1名の場合はスコアを公表しないというようなルールも必要です。具体的な改善策や行動指針を提供することで、評価を受ける側も前向きに捉えられるようになります。

多面評価を成功に導くためのポイント

多面評価の成功は、目的を明確にすることと、人材育成の視点を持つことが重要です。評価結果をただの数値や意見として扱うのではなく、個々の成長と組織全体の改善にどう活かすかを常に考えることが大切です。まずは自社の現状の課題を捉え、多面評価の導入や見直しを積極的に検討してみてはいかがでしょうか。

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