大学生の2人に1人が利用している「奨学金」。しかし、社会に出た若手人材にとって、その返還は経済的な負担にとどまらず、キャリア形成・ライフプラン設計・メンタル面などに長期的な影響を及ぼしています。本記事では、弊社が実施している「奨学金返還者の座談会」にご参加いただいた社会人の皆様の実体験をご紹介し、若手社員が置かれている現実を可視化するとともに、企業が持つべき視点や、組織として取り組める支援策について考えていきます。
今回は、北海道出身で、現在は都内のメーカーで営業職として働くのK.Yさんへのインタビューをお届けします。専門学校への進学時に借りた奨学金を、20年近くにわたって返し続けている方です。

「進学」の情報が、どこにもなかった
奨学金バンク: K.Yさんは専門学校へ進学される際に、日本学生支援機構(以下、JASSO)の第二種奨学金を利用されたとのことですね。当時、奨学金についてはどのように知ったのでしょうか。
K.Yさん結局、頼りになったのは高校の先生でした。「こういう制度があるから、使えば進学はできる」と口頭で教えてもらって、そこで初めて奨学金というものを知りました。今思えば、その一言がなければ進学していなかったかもしれません。
奨学金バンク:ご家庭では、進学についてどのようなお話をされていましたか。
K.Yさんだから、「親に出してもらう」という選択肢は最初から頭になくて。自分で借りて、自分で行く。それしか方法がないと思っていました。
奨学金バンク:北海道は、そもそも通える範囲に学校があるかどうかという問題もありますよね。
K.Yさん自衛隊の試験に落ちて、働きながら上京の準備をした
奨学金バンク: 進学までには、いろいろな経緯があったと伺いました。
そこから、進学するにしても先立つものが要るということで、地元で働きながらお金を貯めました。上京してすぐに生活が回るとは思えなかったので、最低限の手持ちをつくってから出るしかなかったんです。
奨学金バンク: 進学されたのは、どのような分野の学校だったのでしょうか。
奨学金バンク: 住まいはどのように決められたのですか。
K.Yさんただ、住み心地は正直よくなかったです。壁が薄くて生活音がかなり気になりました。それでも「安く住める」ことのほうが優先でしたね。
20年間、毎月1万7,000円。もう「借金」という感覚はない
奨学金バンク: 卒業後、返還が始まりました。現在の返済額はどのくらいでしょうか。
K.Yさん
奨学金バンク: 最長・最少額で設定されたのには、理由があったのでしょうか。
K.Yさん
奨学金バンク: 20年近く返し続けているというのは、感覚としてはどのようなものなのでしょうか。
K.Yさんただ、なくなったわけではありません。「今月もう1万7,000円あったら」と思う瞬間は、20年経ってもふとやってきます。金額そのものより、それが終わらないという感覚のほうが重い。始まったときは「いつか終わる」と思っていましたが、10年経っても半分残っている。そういう時間感覚です。
奨学金バンク: その1万7,000円が、具体的に何かを諦める要因になったことはありますか。
K.Yさんあとは帰省です。北海道までは航空券が高いので、早めに予約するかLCCのセールを狙うか。それも難しければ、車でフェリーに乗ります。人数が多いときや荷物が多いときはフェリーのほうが安く済むこともあるので、毎回そこから計算し直します。実家に帰るという当たり前のことに、毎回コスト計算がついて回るわけです。
奨学金バンク: 転職を経験された際にも、資金面でご苦労があったと伺いました。
K.Yさん「返せている人」は、困っていない人ではない
奨学金バンク: 最後に、企業に対して感じていることがあれば教えてください。
K.Yさんもし新卒のときにそういう会社を知っていたら、間違いなく選択肢に入れていたと思います。当時の私にとって月1万7,000円は、給与が1万7,000円上がるより実感のある金額でしたから。
それと、これは伝えておきたいのですが──延滞せずに返せている人は「困っていない人」ではないんです。生活を削って、優先順位を落として、なんとか帳尻を合わせている。表からは見えないだけで。
若手社員が置かれている状況
K.Yさんは、情報が限られた環境のなかで、自ら制度を探し当てて進学し、20年近く一度も滞ることなく返還を続けてきました。数字の上では「順調な返還者」です。
しかし本人の実感は、そこにはありません。毎月の1万7,000円は生活の固定費として定着し、旅行や大型支出といった選択肢を静かに削り続けてきました。返還は延滞したときだけ問題になるのではなく、滞りなく返せている人からも、20年分の選択肢を確実に奪っているという点にこそ、この問題の本質があります。
そしてこの負担は、若者個人の努力や節約で解消できる性質のものではありません。背景には、進学と教育をめぐる日本の構造的な課題があります。
- 学費の高騰:大学の学費は長期的に上昇を続けており、国立大学で約4倍、私立大学で約1.8倍にまで上昇しています。かつて成立した「アルバイトで学費を賄う」という前提は、すでに物理的に成り立ちません。
- 家庭からの支援の細り:実質賃金の停滞により、親世代も十分な貯蓄・資産形成ができていません。仕送り額は長期的に減少し、「仕送りゼロ」の学生も珍しくない状況です。
- 地方在住であることの上乗せコスト:Yさんが語ったように、地方から進学する場合は学費に加えて転居費用・家賃・帰省交通費が必ず発生します。同じ学校に通っていても、必要な借入額は住んでいた場所によって大きく変わります。
- 物価上昇・税負担の増加:初任給の改善を上回るペースで物価と社会保険料負担が上がっており、可処分所得はかつての同世代より低い水準にあります。
企業が今すぐ取り組むべき3つのアクション
奨学金返還支援制度(代理返還)の導入
企業が従業員の奨学金返還を一部肩代わりする制度です。若手の経済的不安を即時に軽減できる、最もインパクトの大きい施策といえます。
- 仕事に集中できる環境の実現
- スキルアップ・自己投資の促進
- 企業へのエンゲージメント向上
- 離職防止・採用力強化
K.Yさんが「知っていれば会社選びの基準にしていた」と語ったように、この制度は在籍社員への支援であると同時に、採用市場における明確な差別化要因になります。
制度そのものを「知らせる」こと
今回の座談会で明らかになったのは、20年近く返還を続けている当事者ですら代理返還制度を知らなかったという事実です。制度を導入しても、求職者・従業員に届かなければ効果は生まれません。求人票、採用ページ、入社時説明、社内の福利厚生案内といった接点で、繰り返し伝える設計が必要です。
返済を前提としたライフプラン支援
返還は10年、20年と続きます。だからこそ、返済計画の可視化や金融リテラシー研修、1on1でのキャリア・生活面のフォローが有効に働きます。特に、転職や異動といった生活が変わるタイミングは資金繰りが急に悪化しやすく、支援の効果が最も高い局面です。

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