
本稿の問題提起―評価における「公平」は本当に実現できるのか?
「人事評価を見直しても、不満がなくならない」と感じたことはないでしょうか。
昨今多くの企業で、等級・評価・報酬といった人事制度の見直しが行われており、弊社も多数のご支援実績があります。
そのため、きちんと検討して導入した仕組みそのものは、一定の完成度に達しているはずです。
では運用に問題があるのでしょうか?
以下は、労政時報による『人事労務諸制度の実施状況』です。
人事評価関連の施策実施率は、「人事考課結果のフィードバック」「人事評価調整会議」などは特に高く、多くの企業で実施されています。
【図1】人事評価関連の実施率
引用: 2026年5月8日 労政時報『人事労務諸制度の実施状況』
URL:https://www.rosei.jp/readers/article/90825

また、「1on1ミーティング」「人事評価調整会議」などは、特に実施率が年々増加傾向にあります。
「人的資本経営」「社員エンゲージメント」などの考え方がより浸透したことで、評価運用を強化する取り組みが増えているといえます。
【図2】人事評価関連の実施率の推移
引用: 2026年5月8日 労政時報『人事労務諸制度の実施状況』
URL:https://www.rosei.jp/readers/article/90825

どうやら、評価サイクルの中で実施すべき施策は一通り取り組まれているようです。
それでも評価について悩む人事が多いのはなぜでしょうか?
それは、いくら目合わせや調整をしても「公平にならない」と感じているからだといえます。
目合わせをして基準を均一化すれば実態や目指したいことと乖離し、個別最適にすれば不公平が生まれる。
これを解消しようと最後の評価で調整すれば納得感が下がり、これではだめだとシンプルな基準に戻せばまた同じ議論に戻る。
評価を良くしようと尽力されている企業であればあるほど、このような堂々巡りに陥っています。
これらの試行錯誤は「評価を公平にしたい」という思想から来ているものです。
評価における公平とはなにか?
そもそも本当の公平は実現できるのか?
本稿では、前述のような堂々巡りやモヤモヤについて、評価における”公平性”の観点から構造的に整理します。
そのうえで、単なる制度設計論ではなく、評価運用・マネジメントまで含めた実務への落とし込み方を、人事・経営双方の視点から解説していきます。
人事評価そのものがもつ”矛盾”
なぜ評価は「公平」を追求するほど難しくなるのでしょうか。
まず前提として、人事評価には大きく2つの目的があります。
1つ目は、「会社成長」です。
激しく変化する外部環境に適応して事業競争力を高めるためには、常に進化しつづける必要があります。全員が今までと同じ事を同じようにやっていても、これは実現できません。むしろ現状維持は衰退です。
社員一人ひとりが、自身の役割に応じて適切にストレッチした目標に挑戦し、その過程で価値発揮を行う。その積み重ねが、結果として事業成長につながります。
つまり本来、人事評価には「組織としてどのような価値発揮を促したいのか」「どのような役割を期待するのか」を示し、社員の行動や成長を事業戦略に接続する役割があります。
この観点で重要なのは、“価値発揮”です。
どのような挑戦を促したいのか。 どのような成果を期待するのか。 どのような役割行動を増やしたいのか。
つまり、評価は本来、会社の成長に向けて社員の行動を方向づけるマネジメント機能を持っています。
一方で、人事評価にはもう1つの目的があります。
それが、「処遇反映」です。
多くの日本企業では、評価結果をもとに、昇給・賞与・昇格などの処遇判断を行います。
そして、この瞬間に初めて、「公平かどうか」という論点が強く発生します。
- なぜあの人の評価が高いのか
- なぜあの人が昇格したのか
- なぜ報酬差があるのか
これらの疑問に一言で答えるとすれば、「価値発揮の度合いが高い(低い)から」といえるでしょう。
もしくは、「価値発揮の基準を満たしていたから」ということもできます。
つまり、公平性とは本来、「価値発揮と処遇を接続するための概念」です。
しかし、この”公平性”を過度に追求すると、今度は別の問題が生じます。
よくあるのは、「同じ等級なのに業務が同じ難易度ではないので不公平」といった話です。
確かに現実問題、同じ等級だからといって全員が同じ業務(案件)をやっているわけではないですし、全員が等級レベルにふさわしい業務をしているとも限りません。
「同じ等級の社員は同じレベルの目標にすべき」というセオリーに基づいて目標設定しますが、評価してみると、チャレンジングな目標を掲げて頑張っている人は達成が難しいので低い評価になり、レベルの低い目標を設定した人は達成しやすいので高い評価になります。
するとどうなるでしょうか。
「低い目標にしたほうが高い評価になるので得」となり、社員はチャレンジしなくなります。
これを避けるために、人事は「同じ等級の人は同じ目標にしよう」とコントロールしようとします。
すると、本当はよりチャレンジングなことにトライしたい人や、より高い役割を担える可能性がある人まで、同じ難易度・同じ水準の目標に揃えられていきます。
結果として、組織全体が次第に“安パイな目標”を選ぶようになります。
【図3】よくある事例: 「公平性」で調整すると会社が成長しない理由
筆者作成
ここで評価の”矛盾”が発生します。
会社の成長・社員の成長に向けて、役割期待・ストレッチ度合いを柔軟に設計する必要がありますが、公平性を強く追求すると、個別性がどんどん排除されていきます。
すると、成長や挑戦に必要な“差”や“ストレッチ”を設計できなくなります。
本来は、1つ目の目的である「会社成長」に向けて運用しているはずなのに、2つ目の目的である「処遇反映」において”公平性”を過度に追求することで、結果として評価制度が本来促したかったはずの“成長”や“価値発揮”そのものを阻害してしまうのです。
公平性を追求しすぎることで、かえって「能力と意欲に応じた挑戦機会の提供」という“成長機会”の公平性は失われ、組織の成長や挑戦が難しくなる。これが評価の”矛盾”です。
これが、「公平」を追求するほど評価が難しくなる理由です。
【図4】「公平性」を考慮することによる人事評価の構造的な”矛盾”
筆者作成
「公平」という言葉に介在する4つの「公平」
では、なぜ公平性の議論はここまで複雑になるのでしょうか。
その理由の一つは、「公平」という言葉が、曖昧なまま使われていることにあります。
実際には、一口に「公平」と言っても、「何をもって公平なのか」という観点は人によって異なります。
「同じ等級なら同じ基準で評価されるべきだ」
「難しい仕事に挑戦した人が報われるべきだ」
「そもそも挑戦機会に偏りがあってはいけない」
これらはすべて公平性についての意見です。
つまり、評価における公平性の議論では、異なる種類の“公平”が混在しています。
評価の議論が混乱する大きな理由は、「公平」という言葉が単一の概念として扱われていることにあります。
ここを整理しないまま「公平に評価しましょう」と言っても、評価者ごと、部門ごと、社員ごとに見ているものが異なるため、議論は噛み合いません。
評価における公平は、大きく分けると少なくとも4つあります。
それは以下のとおりです。
①基準の公平
②条件の公平
③機会の公平
④配分の公平
基準の公平
同じ属性・同じ役割期待に対して、一貫した評価の物差しや判断ルールを適用するという考え方です。
制度設計上、最も分かりやすく、説明もしやすい公平です。
例えば、以下のような考え方がこれに該当します。
- 同じ等級であれば同じ目標とする
- 同じ職種であれば同じ評価項目で評価する
基準の公平は、制度の透明性を担保するうえで重要です。
評価基準が人によって変わる、同じ等級にもかかわらず求められる水準が極端に違う、という状態では、社員は評価制度を信頼できません。
条件の公平
そもそも評価される前の環境や与件が揃っているかという観点です。
例えば、以下のような要素があります。
- 担当する顧客の特性(新規/既存など)
- 業務の難易度(新規性、能力による相対的な差など)
- 市場環境(地域特性、社会情勢など)
- 与えられる裁量(権限範囲、意思決定自由度など)
実際の仕事は、これらが完全に同じ条件で行われているわけではありません。
つまり、「同じ基準で評価」される人が、「同じ条件で成果を出している」とは限らないということです。
「基準」と「条件」を混同させると、評価の議論は複雑になります。
例えば、全国展開している飲食チェーンの店長職で考えてみます。
ある店舗は都心、別の店舗は地方にある場合は、その地域特性上、見込まれる集客数や客層などに違いがあります。この前提で、すべての店舗に同じ「月平均来店客数3万人」というKPIを課したとします。
【図5】「公平性」が問われるケース(全国展開飲食チェーン店の例)
筆者作成
この場合、制度としては同じ評価基準(KPI)を適用しているため、“基準の公平”は担保されています。
しかし一方で、地域特性でみると、同じ「3万人」でも都心であればすぐに達成しますが、地方の場合はアクセスや人口の関係で達成は難しくなるため、”条件の公平”は満たしていません。
この違いを無視して同じ基準だけを当てはめると、形式的には公平でも、実質的には不公平だと感じられる状態になります。
「基準の公平」を満たそうとすると、「条件の公平」は担保されないことが多くなります。
「基準を揃えること」と「条件を揃えること」は、”公平性”においては別の論点なのです。
機会の公平
誰がどのような仕事や経験機会にアクセスできるかという観点です。
評価は一定期間の成果や行動を見ますが、その成果や行動は、本人に与えられた機会に大きく左右されます。高難度のプロジェクトに関わる人と、定型業務を中心に担当する人では、発揮できる能力の幅も、成長機会も、評価される材料も異なります。
例えば、ある社員は全社横断のプロジェクトにアサインされ、経営層と直接議論する機会を得ている。
一方で、別の社員は既存業務の安定運用を担い、大きな失敗はないものの、目立つ成果を出しにくい。
会社にとっては、前者のほうが求めたい社員かもしれません。しかし、後者の社員が前者の業務にアサインされていたら、また状況が変わってきます。
この2人を同じ土俵で比較したとき、前者のような「より求められる価値発揮を担う社員」に高い評価をつけると、後者の「たまたま機会がなかったのでこれまでと同じ業務を担当する社員」に高評価がつかなくなっていきます。
すると、後者の社員のエンゲージメント低下、最悪の場合は離職につながります。
後者の社員も活躍してほしい人材であったとすれば、なおさら望む結果ではないと思います。
また、留意しておきたいのは、こういったケースを「自分でチャンスを掴めなかった」ことで、説明しようとすることがあります。
この場合は、「どの程度自分で仕事を選べるのか・仕事を創出できるのか」という点も、機会の公平における重要な論点となります。
能力も意欲も両方あったとしても、「自身で仕事を選べる立場ではない」レイヤーであれば、「自分でチャンスを取りに行かなかったのが悪い」といってしまうと納得感の低下につながってしまいます。
配分の公平
これは、最終的な評価・報酬といった“処遇差”に対して、どの程度合理性に説明できるかという観点です。
企業にとって評価は、単に社員の努力を確認するためのものではありません。
限られた昇給原資、賞与原資などをどのように配分するかを決める仕組みでもあります。
そのため、最終的には、必ず「差」が生まれます。
そして人は、自分の処遇が他者と比較された瞬間に、「なぜその差が生まれたのか」という視点で評価を捉えるようになります。
配分の公平とは、“差をどのような考え方で決めるのか”を明確にすることです。
例えば、「差」の議論は以下のようなものがあります。
これらは、会社によって考え方が異なります。
- 短期成果の追求より、組織成果の再現性の視点で中長期の組織貢献度が高いほうが評価は高い
- 営業職と事務職では、職務の市場価値の視点で前者のほうが給与額は高い
- マネジメントとスペシャリストでは、組織に対する財務責任の視点で前者のほうが賞与額は大きい
- 管理職と非管理職では、将来性・リテンションの観点で後者のほうが昇給率は高い
成果の差を大きく処遇へ反映する会社もあれば、一定の安定性を重視し、差を緩やかにする会社もあります。
また、挑戦や将来期待を重視して若年層に多く配分する会社もあれば、将来性は問わず現時点での職責の大きさを重視して配分する会社もあります。
これが、等級・評価・報酬制度が密接につながっている所以でもあります。
つまり配分の公平は、人材投資や人材マネジメント全体に対する思想そのものなのです。
「公平」かどうかは目標設定の前に決まる
では、どのようにこの「公平性」を定義していけばよいのでしょうか。
まず、それぞれの公平性は、“何のために考えるのか”が異なります。
①基準の公平(評価基準・尺度など):制度の透明性・説明可能性の担保
②条件の公平(顧客特性・市場環境など):業務・役割における個別性の考慮
③機会の公平(新規業務経験・学習など):キャリア・成長機会における個別性の考慮
④配分の公平(給与・賞与支給基準など):最終的な処遇差に対する合理性の担保
つまり、4つの公平性はそれぞれ考える目的が異なるため、「公平性を高めよう」と一括りで扱うと、どこかで必ず矛盾が生じます。
だからこそ重要なのは、「公平性」を単一の概念として扱うのではなく、それぞれの公平性に対して、「当社はどこまで担保するのか」について方針を決め、「どのような方法で担保していくのか」を”公平性の種類”に応じて棲み分けて考えることです。
例えば、各公平性を担保する方法として、以下のように対応施策を棲み分けることができます。
①基準の公平(評価基準・尺度など):等級定義・評価制度(評価項目・基準)設計 など
②条件の公平(顧客特性・市場環境など):役割設計・目標設定(KPIなど)・評価運用設計 など
③機会の公平(新規業務経験・学習など):アサインメント・選抜育成プログラム(プール基準) など
④配分の公平(給与・賞与支給基準など):等級制度(全体の処遇軸)設計、報酬制度(評価に応じた昇降給・賞与配分)設計 など
上記からわかることは、「人事評価ですべての公平性を担保することはできない」ということです。
そのため、いくら期末の評価で目合わせをしても、期初の目標設定で目合わせをしても、「環境の制約に対してどう考えるのか」が決まっていないと条件の公平は実現できません。また、「アサインメント判断基準」が明確でないと機会の公平は担保できません。
つまり4つの公平性のうちほとんどは、評価の瞬間ではなく、評価の前段にあたる「環境の制約に合わせた事業目標設定」「役割設計」「アサインメント設計」の時点で担保度合いが決まっているのです。
これが、本章のタイトルにある【「公平」かどうかは目標設定の前に決まる】ということです。
そして、これこそが、冒頭で述べた“堂々巡り”のボトルネックなのです。
評価における「公平」を実現するための4STEP
ここまでの話をふまえ、この“堂々巡り”から脱却し「公平」を実現するためのSTEPを改めて整理します。
STEP1:自社にとっての「価値発揮」を定義する
STEP2:自社の「公平性」を定義する
STEP3:「公平性」の定義に沿って対応施策を検討する
STEP4:評価の改善と同時に、“評価の前段”をマネジメントする
STEP1:自社にとっての「価値発揮」を定義する
最初に必要なのは、「何を価値とみなすのか」を明確にすることです。
これが、「何を高く評価するか」のすべての基準となります。
評価制度における公平性は、すべて会社の「価値判断軸」に基づきます。
<価値判断軸を考える観点の例>
- 短期成果vs中長期貢献
- 新規事業vs既存事業
- 汎用力vs専門性
- 組織成果vs個人成果 など
当社はどういった考え方なのか曖昧なままでは、公平性も定義できません。
例えば、短期成果を重視する会社と、変革や挑戦などの中長期貢献を重視する会社では、「高く評価される人材像」は変わります。
また、個人成果を重視する会社と、組織成果や後進育成を重視する会社でも、評価判断は変わります。
つまり、公平性とは、絶対的な正解があるものではなく、「自社として何を価値とするか」によって変わるものです。
だからこそ、まず必要なのは、「当社は何を価値発揮とみなすのか」を定義することです。
STEP2:自社の「公平性」を定義する
次に、自社の評価や人事制度が機能しないボトルネックを特定し、そのうえでどの「公平性」の担保に取り組む必要があるかを検討します。
例えば、「評価者ごとに、評価基準や尺度の解釈が異なる」「何を高評価とするかの考え方が揃っておらず、評価判断にばらつきが出る」といった問題が発生していれば、「①基準の公平」の担保に取り組む。
「担当顧客や市場環境によって、仕事の難易度が人によって異なる」といった問題であれば、「②条件の公平」の視点で検討する。
「挑戦機会が人によって異なり、目標のレベルに差がある」「抜擢・アサインメントの判断基準が曖昧」といったことが問題となっていれば、「③機会の公平」に焦点を当てる。
「営業と事務は同じ評価でも昇給額が違うが、なぜ差があるのか説明できない」といった問題があれば、「④配分の公平」の視点で検討する。
このように、「どの公平性の話をしているのか」という議論のターゲットを絞ることで、論点整理がしやすくなり、「目合わせで埒が明かなくなる」といったことも少なくなります。
STEP3:「公平性」の定義に沿って対応施策を検討する
STEP2の定義に沿って、何に取り組むのかを網羅的に検討する必要があります。
前述のように、例えば
- 基準の公平は、等級定義や評価基準設計
- 条件の公平は、役割設計や目標設定
- 機会の公平は、アサインメントや抜擢方針
- 配分の公平は、報酬制度や昇格基準
といったように、それぞれ異なるマネジメント施策によって担保されます。
つまり、人事評価だけを修正しても、公平性の問題は解決しません。
公平性とは、「人事評価」単体ではなく、役割設計・育成・配置・処遇まで含めた人材マネジメント全体で考える必要があります。
「公平性を高める」という抽象論ではなく、「何を、どこまで、どのように公平とするのか」を定義することが重要です。
STEP4:評価の改善と同時に、“評価の前段”をマネジメントする
人事評価の公平性を高めようとすると、多くの企業は評価基準や評価方法の見直しに目が向きがちです。しかし、評価そのものをどれだけ精緻化しても、公平性には限界があります。なぜなら、評価結果は「評価期間中に与えられた仕事や環境」の影響を大きく受けるからです。
例えば、同じ3等級の営業職であるAさんとBさんを考えてみましょう。
両者とも売上目標は3,000万円ですが、Aさんは新規大型顧客の開拓を担当しています。一方でBさんは既存優良顧客の深耕を担当しています。Aさんの業務は顧客ニーズが不明確で変数も多く、成果の予測が難しい高難度な仕事です。対してBさんの業務は安定受注が見込め、成果予測もしやすい環境です。
結果として、Aさんは目標未達の2,500万円(達成率83%)、Bさんは3,200万円(達成率106%)となったとします。
単純に数値だけを見れば、Bさんの方が高い評価になるでしょう。しかし、本当にそれは公平なのでしょうか。
もし会社が「担当者として自律的に業務を遂行し、担当領域で安定的に成果創出できること」を3等級の期待役割として定義しているのであれば、評価すべきなのは単なる結果だけではありません。どのような難易度の業務に挑戦したのか、どのような環境下で成果を出したのかという背景も考慮する必要があります。
このようなケースでは、評価制度側で業務難易度や挑戦度を加味できる仕組みを設けることも有効です。しかし、それだけでは根本解決にはなりません。
本質的には、評価の段階で調整するのではなく、その前段階である「アサインメント」や「目標設定」の時点からマネジメントすることが重要です。
例えば、
- 等級に見合った業務を割り当てる
- 業務難易度に応じて目標水準を調整する
- 成長機会が特定の人に偏らないようにする
- 挑戦的な業務に取り組む人が不利にならない評価ルールを整備する
といった取り組みです。
つまり、公平性とは評価の瞬間だけで作られるものではありません。人事制度方針、アサインメント、目標設定、成長支援、KPI設計など、評価に至るまでの一連のマネジメントの結果として生まれるものです。
評価制度の改善はもちろん重要です。しかし、本当に公平な組織を目指すのであれば、「評価をどうするか」だけではなく、「どのような仕事を任せ、どのような機会を与えるか」という“評価の前段”にも目を向ける必要があります。
評価の公平性を高めるとは、評価制度を磨くことではなく、評価されるまでのプロセス全体をマネジメントすることなのです。
【図6】評価の”前段”をマネジメントする(営業職の例)
筆者作成
「公平」の実現は“何を諦めるか”を決めること
ここまで見てきた通り、公平性には複数の観点があります。
そして実際には、それらをすべて同時に満たすことは非常に困難です。
条件の公平を徹底しようとすると、担当業務や挑戦機会、役割難易度まで均一化する必要があります。
例えば、
- 全営業社員に同じ顧客属性・同じ売上目標を割り当てる
- 全社員に同じ難易度のプロジェクトを担当させる
といった状態です。
しかし、それを行えば、能力や適性に応じたアサインが難しくなり、機会の公平や組織成長と衝突します。
また、機会の公平を重視し、誰にでも挑戦機会を与えようとすれば、
- 経験の浅い社員にも大型案件の責任者を任せる
- 管理職候補以外にも重要ポストを順番に経験させる
といった運用が必要になります。
しかし、それは成果創出や事業運営の安定性と必ずしも両立しません。
さらに、配分の公平を強く追求し、「評価に関わらず賞与を一律支給」とすれば、処遇差への不満は抑えられるかもしれません。しかし、高い成果を上げた社員にとっては、自身の貢献が適切に報われていないと感じる要因になります。
つまり、公平性とは「何をすべて満たすか」を考えるものではありません。
むしろ、
- 何を優先するのか
- 何を一定程度許容するのか
を決める営みです。
言い換えれば、「何を諦めるか」を決めることでもあります。
もちろん、ここでいう「諦める」とは、運用を雑にするという意味ではありません。
例えば、
- 条件差は完全には揃わない
- 挑戦機会には一定の偏りが生まれる
- 処遇差に全員が納得することは難しい
といった前提を受け入れたうえで、会社としてどのような考え方で運用するのかを明確にするということです。
その意味で重要なのは、「完璧な公平」を目指すことではなく、「どの不公平を許容するのか」を定義することです。
そして、その考え方を説明できることです。
例えば、挑戦機会に一定の偏りがあるとしても、
- なぜその役割を任せたのか
- 何を期待しているのか
- 今後どのような成長機会を想定しているのか
が説明できれば、社員は単なる“えこひいき”として受け取りにくくなります。
逆に、この説明がないまま運用されると、社員は評価そのものではなく、「会社は何を基準に判断しているのかわからない」ことに不信感を持ちます。
つまり、公平性において本当に重要なのは、“完全な均一性”ではなく、「判断基準に一貫性があること」なのです。
評価運用における目合わせとは、”評価の判断基準”を揃える場である
この考え方は、評価の目合わせにも当てはまります。
多くの企業では、目合わせを「評価結果に納得するための場」と捉えています。
しかし実際の運用を見ると、
- S評価が多すぎないか
- この人はA評価でよいのか
- 評価が甘い部門はどこか
といったように、評価結果そのものの比較に議論が集中しがちです。
もちろん、極端な評価の偏りを確認することは重要です。
しかし、本来確認すべきなのは結果ではありません。
重要なのは、「なぜその評価になったのか」という判断の根拠です。
例えば、
- どのような役割期待だったのか
- どのような成果を上げたのか
- どのような価値発揮があったのか
- どのような条件下で成果を出したのか
といった背景です。
つまり、目合わせとは評価結果を揃える場ではなく、「会社として何を価値発揮とみなし、何を高く評価するのかという判断基準を揃える場」と捉えるべきです。
どこを揃え、どこを許容するのか
ここで重要になるのが、「どこまでを共通基準で揃えるのか」という考え方です。
前章で述べた通り、公平性にはトレードオフがあります。
つまり、目合わせにおいても、すべてを揃えることはできません。
例えば、部門によって、
- 担っている役割
- 事業フェーズ
- 市場環境
- 成果の出し方
- 求められる挑戦レベル
は大きく異なります。
営業部門と管理部門、立ち上げ事業と成熟事業では、成果創出の前提条件そのものが違います。
つまり、「条件の公平」や「機会の公平」の前提が異なるのです。
にもかかわらず、全部門を完全な横並びで比較しようとすると、どこまでいっても議論はまとまりません。
なぜなら、比較している土台が違うからです。
だからこそ目合わせでは、「何を全社共通の基準として扱い、何を個別性として許容するのか」を整理する必要があります。
例えば、
- 等級期待の解釈
- 評価尺度の認識
- 高評価・低評価の基準
など、「基準の公平」に関わる部分は全社で揃えるべきでしょう。
一方で、
- 挑戦度合い
- 役割難易度
- 市場環境
- 部門特性
といった要素については、一定の個別性を許容する必要があります。
目合わせとは、全員を同じ物差しで測ることではなく、「共通の物差しと個別事情の境界線を定める」ことなのです。
目合わせはどの単位で行うべきか
もう一つ重要なのが、「どの単位で目合わせを行うのか」という論点です。
多くの企業では、全社横断で評価を比較しようとします。
もちろん一定の基準統一は必要です。
しかし、配分の公平という観点では、必ずしも全社一律が正解とは限りません。
例えば、
- 同じ利益責任を持つ組織
- 同じ賞与原資を管理する組織
- 同じ人件費枠の中で評価配分する組織
であれば、比較条件が近いため、配分の公平を担保しやすくなります。
一方で、事業特性も利益構造も異なる部門同士を完全な横並びで比較すると、評価そのものよりも前提条件の違いが論点になりやすくなります。
そのため、
- 全社では評価基準を揃える
- 配分は比較条件の近い単位で見る
という考え方も有効です。
もちろん、企業規模によってはそこまで細かく分けられないケースもあります。
その場合でも、
- 役割期待の違いを説明する
- 条件差を一定考慮する
- 高評価・低評価の考え方を揃える
といった工夫によって、納得感を高めることはできます。
つまり、目合わせとは評価結果を調整する場ではありません。
会社として、
- 何を価値発揮とみなすのか
- 何を共通基準とするのか
- 何を個別事情として許容するのか
を揃える場です。
そのためには、単に点数やランクを見るのではなく、
- なぜその目標設定なのか
- なぜその役割期待なのか
- なぜその成果を高く評価するのか
- なぜその挑戦を加味するのか
という判断の背景を言語化する必要があります。
これができて初めて、評価者間で「会社としての価値判断」が揃います。
逆に、ここが揃わないまま目合わせだけを繰り返すと、最後は単なる“点数調整会議”になってしまうのです。
納得と成果を両立するために ― 経営・人事・現場それぞれの役割
ここまで見てきた通り、「公平(納得)」と「会社成長(成果)」は、どちらか一方だけを追求すればよいものではありません。
しかし両者は時にトレードオフの関係にあり、すべてを同時に満たすことはできません。だからこそ重要なのは、それぞれの立場が果たすべき役割を明確にし、それぞれが必要な視点で会社や社員と向き合うことです。
まず経営には、外部競争力の視点から「会社として何を価値発揮とみなすのか」を定義する役割があります。どのような人材や行動が事業成長につながるのかを示し、組織としての判断軸を明確にすることが求められます。
次に現場の評価者には、その判断軸をもとに組織や社員の成長という観点で評価を行う役割があります。単なる成果の良し悪しではなく、部下に期待する役割や成長の方向性を伝えながら、日々のマネジメントに落とし込んでいくことが重要です。
そして人事は、その両者をつなぐ役割を担います。公平性をどのように捉えるのか、どの不公平を許容し、どこを揃えるのかを整理しながら、会社全体として最適なバランスを模索していく必要があります。
評価制度だけで公平性を実現することはできません。また、成果だけを追い求めれば社員の納得は得られません。
だからこそ、
- 経営は「会社成長」の視点を示す
- 現場は「社員成長」の視点で運用する
- 人事は両者のバランスを設計する
という役割分担が重要になります。
公平と成果を両立するとは、全員が同じ考え方を持つことではありません。それぞれの立場が異なる責任を果たしながら、共通の価値観のもとで意思決定を行うことなのです。
【図7】納得と成果を両立するマネジメントのポイント:経営・人事・現場の役割
筆者作成
人事評価の限界 ―抽象 vs 具体のギャップ
多くの企業では、評価の課題が生じると、評価制度や評価運用の改善によって解決しようとします。
しかし、そもそも人事評価という仕組み自体が、個別性の高い現実を、共通の物差しで比較可能な状態に変換する仕組みであることに留意することが重要です。
社員一人ひとりは、
- 担当業務
- 市場環境
- 役割期待
- 経験や成長段階
- 挑戦機会
などが異なります。
一方で、評価制度は、
- 等級定義
- 評価項目
- 評価基準
といった共通ルールによって運用されます。
そのため、すべての個別事情を評価制度だけで完全に扱うことはできません。
だからこそ、「完璧な公平」を目指す発想そのものに限界があるということを、経営や人事だけでなく、社員レベルも理解することが重要です。
【図8】”人事評価”という枠組みの性質 ―抽象 vs 具体―
筆者作成
おわりに ― “外向きの視点”によるマネジメントが「公平」につながる
本コラムでは、人事評価の「公平」は実現できるのか?という問いを起点に、評価における公平性について考えてきました。
これまで見てきたように、「公平」は単一の概念ではありません。
- 基準の公平
- 条件の公平
- 機会の公平
- 配分の公平
といった複数の要素が存在し、それらは時に互いにトレードオフの関係になります。
そのため重要なのは、「すべての公平を実現すること」ではなく、「会社として何を重視し、何を一定程度許容するのかを定義すること」です。
そして、その判断基準を一貫して運用することです。
さらに、公平性を考える際には、常に「外向きの視点」を持つことが重要です。
評価は本来、社員を公平に処遇するためだけに存在するものではありません。
会社が持続的に成長し、顧客や市場に価値を提供し続けるために存在する仕組みです。
もし評価が「頑張った人を平等に報いること」だけを目的にすると、評価の議論は内向きになりやすくなります。
一方で、
- 会社として何を価値発揮とみなすのか
- どのような行動や成果が競争力につながるのか
- どのような人材を増やしたいのか
という外部競争力の視点から考えることで、評価基準や処遇の考え方にも一貫性が生まれます。
これにより、社員にとっても「なぜその評価なのか」が理解しやすくなり、結果として「公平」につながり、「納得」が生まれるのです。
逆に、「公平」にすることを目的としないことが肝要です。
「公平」の追求は、目的ではなく、あくまでも評価を機能させるための一要素でしかないのです。
「公平である状態」とは、会社が目指す価値発揮に対して、一貫した考え方で判断し、その考え方を説明できる状態をつくることです。
そして、その積み重ねこそが、社員の納得感と会社の成果を両立する評価マネジメントにつながるのではないでしょうか。
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