この記事はシリーズです。前回分は以下リンクから確認できます。

筆者のもやもや

「変化しなければならない」
最近、いろいろな企業の方と話していると、本当によくこの言葉を耳にします。
組織も、人材も、仕事の進め方も、とにかく変わらないといけない

……でも、ここで三上はもやもやします。
「変化」って、具体的に何を指しているんだろう?
制度を変えること? 組織図を変えること? 新しい研修を入れること?
それとも、もっと別の何かでしょうか。

「変化が必要だ」という言葉自体は、ほとんどの人が違和感なく受け入れています。
一方で、「何をどう変えるのか」「そもそも何が変わったと言えるのか」まで踏み込んで整理されているケースは、意外と多くありません。
この変化という言葉のふんわり感に、個人的にはずっともやもやしています。

今回は、「変化」とは何かというテーマで考えてみます。本稿は、コンサルタントも無事に6年目を迎えた三上のもやもやシリーズとなります。

人材戦略は本当に「変わった」のか?

人的資本経営、ジョブ型、リスキリング、データドリブン人事……。人材戦略をめぐるキーワードは、ここ数年で一気に増えました。確かに、使われる言葉や導入される施策は変わっています。ただ、現場の話を聞いていると、「結局、やっていることは昔とあまり変わっていない」、「言葉は新しいけれど、考え方の前提は変わっていない気がする」という声も少なくありません。確かに不確実性が高い時代により市場、技術、労働環境は常に揺れ動きながらも、組織の実態は変わっていないという感覚を抱く場面は少なくありません。しかし中には、長期的な計画存在そのものが揺らいているケースもあります【図1・2】。

【図1】 中計を策定すべきか/やめるべきかを3年以内に社内で議論したことがあるか?
※株式会社ユーザーベース 「徹底解剖:中期経営計画の実態調査2024」

【図2】中計を策定すべきか判断する上で重要な論点となったものは?
※株式会社ユーザーベース 「徹底解剖:中期経営計画の実態調査2024」

計画そのものの必要性について42.6%の企業が議論しています。実際に位置づけに関する議論もあれば、不確実性が高い中でリソースを割いて計画を策定する意義についても問われています。実際、中長期計画を立てても、毎年修正に追われ、現場の違和感は戦略に反映されず、人材戦略は「資料」の中で止まっている話を見聞きします。これは多くの組織で直面する現実ではないでしょうか。もしかすると、私たちは“人材戦略が変わった”と思い込みたいだけで、本当の意味で変わるべきところには、あまり手を付けられていないのではないでしょうか。

計画と現場の間に生じる「ズレ」。変化の本質を考える時、私たちはこの「ズレ」から目を背けることはできません。変化とは何でしょうか。売上が伸びること?文化が刷新されること?それらは確かに分かりやすい変化ですが、それは結果であって変化そのものではありません。変化を本質的に捉えるなら、それは結果に至るまでの「プロセス」を更新し続ける能力と言えるでしょう。そしてそのような能力を獲得するためには、人材戦略の立て方も変わっていく必要があります。まずは従来の人材戦略の考え方から整理してみましょう。

従来の人材戦略の前提:正解の人材像を決めにいく

これまでの人材戦略は、かなり分かりやすい構造をしていました。経営戦略を立て、その実現に必要な人材像やスキルを定義し、それに合わせて採用・育成・配置・評価を設計する。いわば「この戦略なら、この人材が必要だよね」という発想です。この考え方は、戦略論で言えばポジショニングに近いものです。
勝ち筋を定め、それに合う人材を揃える。環境変化が比較的緩やかな時代においては、とても合理的なやり方でした。
ここでの前提は、「必要な人材像は、ある程度あらかじめ決められる」というものです。そして、この前提自体が、長い間あまり疑われてこなかったように思います。しかし昨今では、外部環境の変化の激しさや人材の流動化・多様化もあり、その前提が怪しくなってきています。
数年先に、どんな事業が主力になっているのか分からない。必要とされるスキルも、変化のスピードが早く、事前に定義しきれない。新規事業や変革プロジェクトでは、そもそも「何が正解か」が走りながら見えてくる。こうした状況の中で、「正解の人材像を決めて、そこに合わせる」というやり方は、うまく機能しづらくなっているように感じます。むしろ、人材像を固定しすぎることで、変化への対応力を下げてしまう場面も出てきています。
変化を求める企業と変化について議論することがありますが、語られるのは、「今の社員は受け身体質が多く、主体的・自律的に活躍できる人材が求められる」という言説です。今後のあるべき人材像を検討することは重要ですが、もしかすると、私たちは“人材像”を変えることに執心するあまり、“人材戦略の前提”を変えられていないのではないかと思うわけです。そのためこのようなポジショニング戦略も次第に内部資源を重視する戦略に変わってきています。そして今まで静態的に捉えられていた戦略がより動態的に把握できるような戦略に変わってきているわけです【図3】。


【図3】戦略の変化(弊社作成)

アダプティブな人材戦略とは

変化への適応・対応のための戦略として示されたのは「アダプティブ戦略」という考え方です。最初から正解を決めきるのではなく、試行錯誤を通じて学びながら、戦略や打ち手を更新していく。変化の激しい環境では、こちらの方が現実に合っています。

人材戦略に置き換えると、「どんな人材が必要か」を完璧に定義することよりも、組織として“変わり続けられる状態”をどうつくるか、が重要になってきます。多様な人が関わり、試して、失敗して、学び、それを次に活かす。この循環そのものが、組織の競争力になっていく、という発想です。
それは1人が主体的・自律的になったところでなし得るものではありません。情報を共有し、協力し、それぞれの多様な発想を持って柔軟に答えや仮説を導く環境が整っていることで実現できます。とすると、全部をアダプティブにするわけにもいかないと言えます。
ポジショニング戦略を捨て、全てをアダプティブ戦略に振り切るとなった場合、「もう全部フラットにして、自由にやればいいのでは?」という極端な話になりがちです。対応するにしても組織としての軸がなく、逆にブレブレの判断になってしまうことも想像できます。品質や安全に関わる領域、コアとなる専門性など、ある程度“型”を決めた方がよい部分も確実に存在します。

つまり、ポジショニング的に「決めるべきところ」と、アダプティブに「開いておくべきところ」は、組織の中に同時に存在している、ということです。

組織変革の難しさは、この“決める”と“開く”のバランスを、どう設計するかにあります。その観点で見ると、変化とは「前提を問い直し続けること」だと想定されます。この仮説を踏まえると、組織変革における「変化」とは、新しい制度を入れることでも、新しい施策を打つことでもなく、どの前提に立って人材戦略を考えているのかを、問い直し続けることなのではないか、という仮説です。

正解の人材像を当てにいく前提から、正解が変わり続ける前提で組織を設計する発想へ。

この前提の置き換えが起きない限り、どれだけ施策を変えても、「変わった感じがしない」状態は続いてしまうのかもしれません。

前提を問い直すために

前提を問い直す上で示唆的なのが、米空軍大佐のジョン・ボイドが提唱したOODAループです。OODAとは、Observe(観察)→ Orient(方向付け)→ Decide(意思決定)→ Act(実行)の循環を示します。変化の激しい環境下では、このループをいかに高速かつ適切に回せるかが競争優位を左右するとされます【図4】。

【図4】OODAループ(弊社資料)

多くの組織はDecide(意思決定)とAct(行動)に焦点を当ててきました。しかしループの起点であるObserve(観察)が不十分であれば、その後の判断と行動は前提から誤ってしまいます。戦略を動かすためには前提を問い直し続けることが必要です。その戦略が動かない理由は実行力の不足ではなく、前提を問い直すための観察の質にあるのではないかと想定されます。

観察の再定義:数値の先にある「兆し」を捉える

組織における観察は、しばしば数値把握と同義で扱われます。売上、利益率、離職率、エンゲージメントスコア……。もちろんこれらは「量的観測」として重要であり、欠くことはできません。しかし数値は現象の輪郭を示すにとどまります。なぜその事象が生じているのかという文脈まではわかりません。

そこで必要になるのは「質的観察」です。もちろんヒアリングで行う場合もあります。しかし実際の組織変化の兆しやズレは必ずしも明瞭な言葉になっていません。会議での沈黙、意思決定までの躊躇、挑戦的提案への冷ややかな反応といったこうした微細な変化こそ、観察すべき対象です。つまり質的観察とは、計画と現実の「ズレ」を捉えることになります。量的観測、質的観察の分析手法については弊社のホワイトペーパーにまとめておりますので、関心があればそちらを読んでください。

ズレの代表例として挙げられるのが、想定外のハイパフォーマーの出現、計画にない非公式の動きが成果を支えている事実、理由を説明できない成功や失敗の増加です。これらは計画が形骸化しているサインであり、変化の源泉となる貴重な情報です。量的観測と質的観察の両輪があって初めてObserve(観察)は成立します。

前述したアダプティブ戦略においてこのObserve(観察)やOrient(方向付け)は切り離せません。何を観察するかによって、どう解釈するか決まります。例えば「人が足りない」という認識一つをとっても、それを単純な人数不足と見るのか、仕事の設計や意思決定構造の問題と見るかで導かれる戦略は全く異なります。前者は採用を強化するという結論に陥りますが、後者のようにズレを構造的に捉え直すことで本質的な問いが生まれます。

本当に人数の問題なのか?
→付加価値の低い業務に時間を取られていないか?(業務削減・自動化)
→役割分断が非効率ではないか?(仕事の再設計)
→特定の個人に業務が集中していないか?(スキルの平準化)

このときに変化しているのは人数でも制度でもなく、解釈の枠組みそのものです。観察を通して解釈が変われば仮説が変わり、仮説が変われば意思決定が変わり、意思決定が変われば行動が変わる。そしてやがては結果が変わります。変化とは劇的な決断の瞬間ではなく、観察の視点が広がり、解釈が揺らぎ、仮説が書き換えられる一連のプロセスです。

人材投資をどう測るか:「変化余地」への投資という視座

ここで浮かび上がるのが人材投資の評価という問題です。人材に対する費用対効果は、短期的成果との対比で語られがちです。研修の結果、生産性は上がったか。制度改定は離職率を下げたか。これらは成果リターンとしては重要です。しかしそれだけでは十分ではありません。人材投資の本質は、現在の成果を押し上げることだけではなく、未来の変化可能性を拡張することにあります。

OODAで言えば、Actの効率を高める投資とObserveOrientの質を高める投資は異なります。前者は即効性がありますが、後者は環境変化への適応力、すなわち組織のダイナミック・ケイパビリティ(企業変革力)を高めます。データ基盤の整備、仮説検証型の組織運営、現場の「兆し」を吸い上げる仕組み。これらは短期的成果には直結しないかもしれません。しかし、それは組織の解釈能力を高め、将来の選択肢を増やす投資になります。人材投資を評価するのであれば、成果リターンだけでなく、以下の2つのリターンについても問う必要があります。

 学習リターン:何が成果に効いたか、なぜうまくいかなかったかが分かり、組織の知見となったか

 選択肢リターン:次に打てる手が増えたか。別の戦略を選べるようになったか。

人材投資とは、「いくらでどれだけ成果が出たか」だけではなく、「どれだけ変化の余地が広がったか」を問う行為とも言えます。それは「計画が当たったか」だけでなく「次に宛てに行ける状態になったか」を評価することに他なりません。

結論:変化への投資とは「余白」を作ること

変化とは結果ではありません。それは結果を生み出すプロセスを更新し続けられる状態を指します。人材戦略も採用や制度の設計といった形式化されたものに限りません。前提として観察と解釈の質を高め、仮説を更新し続ける組織能力を育てる営みです。

短期的成果だけを基準にすれば、余白は削られ、効率化が進みます。しかし余白のない組織は変化に弱いです。人材への投資とは、余白を作ることだと言えます。観察の余地、解釈の多様性、仮説を試す空間。それらがあってはじめてOODAは生きた循環となり、組織は自律的に変化し始めます。

つまり変化に備えるとは、未来を正確に予測することではなく、観察を更新し続ける力を持つことです。

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