
背景と労働者不足問題
日本社会は急速に「労働力不足社会」へと突き進んでいます。総務省の統計によれば、生産年齢人口(15歳〜64歳)は1995年をピークに減少を続け、2023年時点で7,400万人を割り込みました。国内で人材確保が困難を極める中、企業の視線は外国人労働者に向けるべきフェーズに来ていると考えます。
法務省によると、2023年末時点での外国人労働者数は約204万人と過去最多を更新。特定技能制度など新たな制度整備も進み、今後も受け入れの流れは拡大が見込まれています。これは「労働力確保」という面ではチャンスである一方、言語・文化の違い、法令遵守など企業にとって新たなマネジメント課題も浮上しています。
外国人労働者の現状と国籍傾向
厚生労働省統計によると、外国人労働者の国籍別では、ベトナムが最も多く518,364人(外国人労働者数全体の25.3%)を占め、次いで中国が397,918人(同19.4%)、フィリピンが226,846人(同11.1%)の順となっています。
出典:「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和5年10月末時点) https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_37084.html
ベトナム人の労働者が多い理由は、ベトナム国内では高校を卒業する際に、大学に進学するか海外へ留学するかのどちらかを優先的に勧められます(特に日本への斡旋が多いです)。これは、ベトナム政府が海外への労働者の送り出しを促進しており、海外で働くベトナム人からの家族への送金がベトナム経済を支えているという背景があるためです。実際に、留学生として日本に来ている学生は、勉強をしながらアルバイトをして生活費などを差し引いた残りの収入を海外送金し、家族を支えている学生も非常に多くいます。
また、現在は3位以内には入っていませんが、今後はミャンマーからの留学生が増える傾向にあると予想されます(現在約70,000人で3.5%程度)。 ご存じの通り、ミャンマーでは2021年2月1日に国軍が軍事クーデターを起こしました。現在約4年(2025年時点)が経過していますが、クーデター以降も戦闘が続き、軍の攻撃や弾圧による犠牲者は既に6000人以上に上っており、人道危機が深刻化しています。 特に若い世代は「仕事がない」「国に対して将来の不安」「生命の危険」から留学を選択する人たちが増え、その受け入れ先として治安の良さや教育制度の充実性などが人気の要因となり、日本を選択する人が多く見受けられます。今後もミャンマー国内の情勢が変わらない限りは増え続けると考えられます。上記理由から、他国よりも、勉強を頑張って認められ、長い期間日本で過ごしたいミャンマーの人々が多いので、能力や意欲なども非常に高い人たちが多いのも特徴です。企業としてもより意欲的な人材を求めるため、非常に良い人材になると今後考えられます。
受け入れ前に確認すべき「法的・制度的基礎」
最初に押さえるべきは「在留資格」と「VISA(ビザ)」の違いです。
- VISA(査証)…入国許可を与える証明(日本大使館等で発給)
- 在留資格…日本での活動内容を規定する資格(就労可否を含む)
主な在留資格の例
採用時は、「在留カード」「パスポート」「課税証明書」等を必ず確認し、労務管理リスクを未然に防ぎましょう。
採用プロセスと社内整備の注意点
ここからは実際に人事担当者の方がどんな作業があり、その際にどこの部分に留意して書類を作成確認するかなどをお伝えしたいと思います。
例えば、留学生をアルバイトから正社員に登用する場合、卒業後に「技人国」など就労可能な在留資格に変更する必要があります。ここで企業が果たすべき責任が、業務内容の明確化、申請書類の準備となります。
業務内容の明確化
在留資格「技術・人文知識・国際業務(通称:技人国)」を取得するには、外国人が従事する職務内容がこの資格の範囲に該当している必要があります。
そのため、企業側は以下の点に留意して業務内容を明確にする必要があります
該当職種かどうかの確認
- 技術分野:システムエンジニア、製造技術者、設計職など(理系学部出身者などが対象)
- 人文知識分野:経理、人事、企画、マーケティングなど(文系学部出身者)
- 国際業務分野:翻訳・通訳、海外取引業務、語学指導など(語学能力を活かす業務大学卒業をしていない方は実務経験が3年以上必要)
業務内容の説明資料の作成
- 実際の仕事内容、役割、使用言語、報告体制などを日本語で文書化
- 学んだ専攻との関連性がわかるように記述(例:経営学専攻 → 経営企画職)
申請書類の準備
在留資格変更許可申請を出すにあたって、企業が用意すべき書類は多岐にわたります。主なものは以下の通りです
企業が用意する書類(人事担当者が中心)
- 雇用契約書(採用日、雇用形態、給与、職務内容が明記されたもの)
- 会社概要資料(パンフレット、会社案内、WEBページ印刷など)
- 雇用理由書(または業務内容説明書):どんな仕事をどのようにやってもらうかの詳細
- 労働条件通知書または内定通知書
①雇用契約書 勤務条件(職務内容、雇用形態、給与、勤務地など)を明記
➁雇用理由書 なぜ外国人を採用するのか、業務内容が在留資格に該当するか
-説明「業務と学歴の整合性」が重要
③会社概要資料会 社案内・事業内容・組織体制を説明 パンフレット等
④決算書のコピー 企業の経営安定性を証明(直近1年分)
-上場企業であればIR資料で代用可能
⑤登記事項証明書 法人の存在確認 3ヶ月以内発行が原則
⑥給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表のコピー
-法人として従業員を適切に雇用している証明 税務署への提出済みのもの
⑦組織図や配属部署図 業務指示系統や職務の明確化-配属先の部署名と上司の役職名を明示
⑧労働条件通知書(任意)
留学生(本人)が用意する書類
① パスポート ② 在留カード ③ 卒業証明書または卒業見込証明書 ④ 成績証明書 ⑤ 履歴書(日本語)⑥ 課税(非課税)証明書/納税証明書 ⑦ 住民票 ⑧ 日本語能力証明書⑨ 顔写真(縦4cm×横3cm)1枚 ⑨ 申請書(在留資格変更許可申請書)
その他の留意点
入管に提出する文書は整合性が重要(例:契約書と申請理由書で職務内容が一致しているか)
さらに採用時には以下の点を必ず聞き取りをしましょう
- オーバーワークの確認:労働時間の確認(週28時間を超えると違法)
- 専攻との関連性:技人国では学歴と業務内容の関連性が問われる(学部、学科)
人事が押さえるべき「制度対応・育成・定着」
受け入れた後のサポート体制が、外国人労働者定着のカギを握ります。以下は特に人事部が整備すべきポイントです
- 言語サポート:マニュアル・評価制度の多言語化、ひらがな表記など
- 教育制度:ビジネスマナー、業務ルールの初期教育
- 文化ギャップ対策:「時間感覚」や「報連相」習慣の違いに対する配慮
- メンター制度:日本人社員の理解ある伴走役の配置
定着率を高めるには、よりサポート体制の強化が必要になります。外国人労働者は日本で暮らすこと自体が不安でいっぱいの部分にはなりますのでより働きやすい環境を整える為に上記サポート体制が必要と考えます。
人事視点での「受け入れリスク」とその回避策
外国人労働者を受け入れる企業にとって、多様性を活かすチャンスが広がる一方で、様々なリスクにも適切に対応する必要があります。職種の曖昧さによる在留資格との不一致や、契約内容の誤解、多言語対応の不備、さらには差別的な言動や離職時の混乱など、さまざまな課題が生じる可能性があります。こうしたリスクを回避・軽減するためには、以下のような対策が不可欠です。
現場でよくあるリスクとその予防策
これらの対応を通じて、外国人労働者にとっても企業にとっても、安心して働ける環境づくりが可能となります。法令順守とともに、異文化理解と誠実なコミュニケーションをベースにした運用が、持続可能な雇用関係の鍵となるでしょう。
生産人口減少を見据えた中長期の人事戦略へ
外国人労働者の受け入れは、単なる“人手不足の解消策”ではありません。今後は「企業の多様性と競争力」を高める戦略的な取り組みとして位置づけるべきです。
- 「選ばれる企業」になるブランディング:異文化への理解・支援体制の発信
- 中長期の人事制度設計:外国人材のキャリアパス設計、評価基準の整備
国内の日本人生産年齢人口は減ることが確実な中で、IT技術の導入だけでは人手不足をすべて解消することは困難な状況です。 今後企業活動を永続的に進めるためには外国人労働者の人材確保や企業のグローバル化が重要なミッションとなり、時代の変化に対応できる企業になると考えます。 留学生や外国人労働者が他国への魅力を感じる前に、日本の魅力を伝える企業文化や企業体制が必要になると考えます。
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