大学生の2人に1人が利用している「奨学金」。しかし、社会に出た若手人材にとって、その返還は経済的な負担にとどまらず、キャリア形成・ライフプラン設計などに長期的な影響を及ぼしています。本記事では、弊社が実施している「奨学金返還者の座談会」にご参加いただいた社会人の皆様の実体験をご紹介し、若手社員が置かれている現実を可視化するとともに、企業が持つべき視点や、組織として取り組める支援策について考えていきます。

今回は、静岡県出身で、現在は都内で転職活動中の28歳のY.Nさんへのインタビューをお届けします。

家族を想い、迷わず選んだ奨学金

奨学金バンク:Yさんは、日本学生支援機構の奨学金を借りていたとのことですが、どういった経緯で利用することになったのでしょうか?

短大に進学するタイミングで、母親から「奨学金を借りて進学してほしい」と言われたのがきっかけです。

奨学金バンク:お母様から勧められたんですね。進学自体には前向きだったのでしょうか。

はい。進学については、むしろ母親が強く勧めてくれていました。
母は高卒で社会に出て働いてきた人で、「自分は苦労したから、大学や短大を出ていたほうが将来の選択肢は広がるよ」と、以前からよく言われていたんです。
女手一つで私と弟を育ててくれていたので、母としては「子どもたちには同じ苦労をさせたくない」という思いがあったんだと思います。進学して、将来的には安定した仕事に就いて、一人でもしっかり生活できるようになってほしい、という気持ちもあったのではないかと感じています。

奨学金バンク:お母様ご自身の経験を踏まえたうえでの進学だったのですね。奨学金を借りてほしいと言われたとき、Aさん自身はどう感じましたか?

もちろん家計的に奨学金が必要だったのは事実ですが、それ以上に、幼い頃から平日も土日もパートを掛け持ちして働き続けてきた母の姿を見てきたので、「これ以上負担をかけたくない」という気持ちが強かったです。そのため、奨学金を借りることに対して迷いはあまりありませんでした。
それに、弟の進学費用もかかりますし、部活動の出費もあると考えると、「使える制度は使って、少しでも家計の負担を軽くしたい」という思いもありました。

奨学金バンク:ご家族の状況をしっかり考えたうえでの決断だったのですね。進学されたのは、どのような学校だったのでしょうか。

地元にある、保育や福祉について学べる短期大学に進学しました。
高校時代の授業で保育園に行く機会があり、そのときに子どもと関わることがとても楽しいと感じたのがきっかけです。子どもの成長を間近で支え、見守ることができる仕事は、すごくやりがいがあるなと思いました。
また、母子家庭で育った経験もあり、子どもや女性への支援、社会福祉について学びたいという思いも強く、その点を重視して学校を選びました。

奨学金バンク:やりたいことがはっきりしていたんですね。周りのご友人も進学される方が多かったのでしょうか。

はい、ほとんどの友人が進学していました。
ただ、奨学金を利用する友人は1人もいなかったので、「奨学金を借りる」という選択が当たり前ではないんだなと感じて、少し後ろめたい気持ちになったことは覚えています。

奨学金バンク:実際には、短期大学へ進学する方の約6割が奨学金を利用していますので、Aさんの周囲にいなかったというほうが、むしろ珍しい状況だったのかもしれません。過去に座談会へ参加してくださった方からも、「学年の半分くらいは奨学金の説明会に参加していた」という声がありました。

そうなんですね。
普通ではないのかなと思っていたんですが、奨学金がないと生活や学業が成り立たなかったので、気持ちを切り替えて勉強に集中するようにしていました。

学費も生活費も「自分の手で」

奨学金バンク:その後、奨学金の申請も無事に通り、希望されていた短期大学にも進学されました。毎月の借入額や、主な使い道について教えてください。

自宅から通学していたので、毎月の借入額は4万5,000円で、総額は108万円でした。
主な使い道は学費と教科書代、それから片道1時間ほど電車で通っていたので、通学定期代にも充てていました。
学校の授業料減免制度も利用できたので、授業料についてはなんとか賄うことができていました。

奨学金バンク:アルバイトなどはされていましたか?

はい。週に4~5日ほど、授業後や休日にアルバイトをしていました。フードコートでの勤務がメインでしたが、単発で地元のサッカーチームのイベントスタッフをすることもありました。月の収入は10万円弱くらいだったと思います。
実は高校生の頃から、携帯代を自分で払うために、土日限定でキッチンのアルバイトをしていました。その経験があったので、勉強とアルバイトの両立については、特に大きな不安はありませんでした。
実家暮らしではありましたが、学費や通学費、趣味にかかる費用などは、奨学金と自分の収入でまかなえていたので、「少しは母の負担を減らせたかな」と思えて、それが嬉しかったですね。

奨学金バンク:ご自身の収入の中で、しっかりやりくりされていたんですね。保育士資格の取得に向けた勉強も、アルバイトと両立されていたということですよね。

そうですね。バイトで疲れてしまう日もありましたが、自分が学びたい分野だったので、授業には集中して取り組めましたし、実習も前向きに楽しみながら参加していました。

「やりがい」だけでは超えられなかった、過酷な現実

奨学金バンク:では、卒業後のお話も伺えればと思います。どのような企業に就職先されたのでしょうか。

地元にある社会福祉法人で、障がいのある子どもの療育を行う施設に就職しました。
そこで約8年間働き、1人ひとりの子どもと丁寧に向き合うことに、大きなやりがいを感じていました。

奨学金バンク:資格を活かして、現場で長く働かれていたんですね。奨学金の返済額は、どのくらいでしたか?

毎月1万円弱の返済でした。
地元で実家から通っていた頃は、なんとかやりくりできていたと思います。ただ、勤務6年目に東京への異動が決まり、そこから一気に生活が厳しくなりました。

奨学金バンク:どんなことが大変だったのですか?

家賃補助などの手当はあったものの、やはり物価が高くて、静岡にいた頃と同じ生活はできませんでした。
手取りは20万円弱で、そこから家賃、食費、水道光熱費を支払い、さらに奨学金の返済で1万円ほど引かれると、手元に残るお金は2~3万円ほどで、「これは厳しいな…」と。正直、絶望的な気持ちになりました⋯。

奨学金バンク:都内で手取り20万円弱の生活は、かなり大変ですよね…。新しい職場環境に加えて、一人暮らしも始まり、これまでとは全く違う生活になったわけですが、相当ご苦労されたのではないでしょうか。

そうですね。実は異動先の施設がかなりブラックな環境で、残業手当が出ないにもかかわらず、残業がとても多かったんです。残業時間を申請してはいけない雰囲気もあって…。それが、最終的に退職を決意する大きな理由になりました。

奨学金バンク:残業代がでなかったんですか?!差し支えなければ、どれくらい残業されていたのか伺えますか。

規定上は9時から18時までの勤務だったのですが、実際には毎日7時から21時まで働いていました。
それが日常になってしまっていて、家に帰るのは22時近く。文字通り「寝るために帰る」ような生活でした。
自分の時間はほとんどなく、仕事自体にはやりがいを感じていたものの、常に忙殺されていて、疲れが取れないまま翌日を迎える日々が続いていました。次第に、心も体もボロボロになっていくのを感じていましたね。

奨学金バンク:それはあまりにも過酷な労働環境ですね…。生活が成り立たないのも当然だと思います。

そうですよね。
仕事中も集中力が落ちてしまうことがあり、「子どもを預かる立場として、この状態は危険だ」と強い危機感を覚えました。万が一、不注意で子どもに何かあってはいけないですから。
そうした思いもあり、保育・福祉の現場から一度離れる決断をして、退職しました。

奨学金バンク:なるほど…。確かに、もしものことがあってからでは遅いですよね。現在は転職活動中とのことですが、どのような点を重視されていますか?

資格を活かせる環境ではありましたし、本当は続けたい気持ちもありました。ただ、保育業界全体が同じような労働環境なんだろうなと思っています。なので、給与とのバランスを考えると、今の段階では保育業界に戻る選択肢はないです。
それに、現在は離職中ですが、奨学金の返済は今も続いていますし、これから先も続きます。そのことを考えると、手取りは地元より東京のほうが高いので、なんとかやりくりしながら東京で生活を続けたいと考えています。
業界は幅広く見ていますが、奨学金返済を続けながらでも将来設計ができるように、給与水準が高く、福利厚生が整った環境を選びたいと思っています。

若手社員が置かれている状況

Yさんは、関心のある分野の知見を深めたい、社会に貢献したいという気持ちで奨学金を借りて短期大学へ進学し、努力の末に資格を取得し、その資格を活かした職種でやりがいをもって働いていました。しかし、未整備な労働環境によってその道は閉ざされました。
そして、志を奪われ、心身をすり減らして離職に追い込まれた彼女の手元に残ったのは、皮肉にも「返還義務」という名の重い鎖だけです。仕事がなくなっても、生活が苦しくなっても、奨学金の返還は1ヶ月たりとも待ってはくれません。
奨学金を借りること、そしてその返還が人生の足枷となる現状。これは、果たして若者個人の努力不足や選択の誤りだと言い切れるでしょうか。私たちが直視すべきは、これが個人の問題ではなく、日本の社会システムが抱える「構造的な課題」そのものであるという事実です。

日本学生支援機構(JASSO)の調査によると、なんらかの奨学金を利用している学生の割合は、短期大学生で61.5%、大学生で55%に達しています。 そして、平均借入額は約330万円、返済期間は15年前に及びます。 つまり、2人に1人が、社会に出ると同時に330万円の「借金」を背負っているのが今の日本の常識なのです。

若者が奨学金を借りて進学しなければならない背景には、以下の3つの逃げ場のない理由があります。

学費の高騰

文部科学省の調査によると、大学の学費は上昇してきています。短期大学の学生納付金は平成19年比で約1.14倍、大学にいたっては昭和58年比で国立大学が約2.4倍、私立大学が約1.8倍にまで跳ね上がっています。 かつては「アルバイトで学費を稼ぐ」という苦学生の美談が成立しましたが、現在の学費水準では、どれだけ睡眠時間を削って働いても、学費と生活費を自力で賄うことは物理的に不可能です。「親の援助」か「借金」か。この二択を迫られる構造そのものが、進学を希望する若者の肩に重くのしかかっています。

親世代の年収停滞

日本の実質賃金は30年近く停滞し続けています。これは、今の若者の親世代もまた、十分な貯蓄や資産形成ができていないことを意味します。かつてのように「親が学費を全額負担する」という家庭環境は今や当たり前ではなく、子供が自らの「将来の労働」を担保に数百万円の負債(奨学金)を背負い、進学の切符を自ら買い取るしかないのが現状です。

家庭からの支援の細りを示すデータもあります。全国大学生活協同組合連合会の調査によれば、親からの仕送り額は長期的な減少傾向にあります。1990年代半ばには「月額10万円以上」の仕送りが主流でしたが、その割合は1995年から2010年にかけて激減。現在では「5万〜10万円未満」が最多となり、さらに「仕送りゼロ」で生活する学生も決して珍しくありません。
家計のバックアップが期待できないなか、学生たちは学費と生活費を補うために、否応なしに奨学金の上限額を借りざるを得ない状況へと追い込まれています。

物価上昇・税負担の増加

若者が社会に出て手にする初任給は、ここ数年で多少の改善は見られるものの、それ以上に「物価」と「社会保障負担」が上昇しています。 エネルギー価格や食品価格の高騰に加え、給与から天引きされる社会保険料の負担率は年々増大し続けています。Aさんのように「手取り20万円弱」という数字があっても、自由に使える手取り収入である可処分所得は、かつての同世代よりも遥かに低くなっています。そこに月1〜3万円の奨学金返還が加わることは、彼らの生活から「将来のための貯蓄」や「心身を休める余裕」を根こそぎ奪い取っているのです。

 

企業が今すぐ取り組むべき4つの施策の方向性

深刻な人手不足が続く中、若手人材を確保し、長期的に雇用したいと考える企業にとって、従来の「当たり前」をアップデートすることは急務です。若手人材に選ばれる企業を目指すには、労働環境や報酬面を時代に合わせて整備するだけでなく、その取り組みが「社会に対してどのような価値を持つのか」を明確に発信し、認知を広げていかなければなりません。

ここでは、企業が優先的に取り組むべき4つの施策の方向性をご紹介します。

労働環境改善

単なる賃上げに留まらず、従業員の心身の健康とモチベーションを維持するインフラを整える必要があります。報酬制度の適正化はもちろんのこと、勤務環境そのものを改善し、ストレス要因を排除することで、個人の生産性は最大化されます。また、福利厚生を通じた健康維持支援や保険制度の充実は、従業員にとっての「安心」という名の生活基盤を守ることに直結し、組織への帰属意識を高めます。
例:報酬制度の見直し、テレワーク制度やフレックス制の導入、仮眠室設置、メンタルヘルスケアの拡充

キャリア形成支援

自己研鑽への意欲が非常に高い現代の新卒や若手社員にとって、「この会社で働く時間が、自分の将来的な市場価値を高める」という確信は、何よりの定着要因(リテンション)となります。会社が単なる「労働の場」ではなく、「個人の成長を支援する場」として研修や学習の機会を惜しみなく提供すること、会社が個人のキャリアアップに本気で伴走する姿勢を示すことで、優秀な人材の離職を防ぎ、組織全体の専門性を底上げします。
例:資格取得支援制度、e-lerningの提供、書籍購入支援、定期的な1on1の実施

SDGsブランディング

SDGsやサステナビリティ(持続可能性)への関心が極めて高いZ世代にとって、企業の社会貢献性は、給与条件と同等以上に「就職先を選ぶ際の決定打」となります。社会課題の解決に繋がる支援を「福利厚生」として取り入れることで、対外的には「社会から必要とされる企業」としての姿勢を鮮明に発信できます。同時に、対内的には従業員に「自分の仕事が社会を良くしている」という誇りを与え、理念への共感に基づいた強固なエンゲージメントを醸成します。
例:奨学金返還支援制度、ボランティア休暇制度、フードロス削減社食、エコ通勤手当

多様性とライフプラン支援

従業員一人ひとりのライフステージには、結婚、出産、介護、あるいは不測の事態といった大きな変化が必ず訪れます。それらを柔軟に受け入れ、支える仕組みを構築することは、もはやリスク管理の一環です。性別や年齢、家庭環境を問わず、誰もがキャリアを中断することなく、長期的に挑戦し続けられる環境を整えること。この「個の尊重」こそが、多様な視点を持つ組織を作り上げ、企業の持続的な成長を支えるエンジンとなります。
例:卵子凍結や不妊治療の費用補助、男性育休の完全義務化、パートナーシップ制度の導入

採用段階の魅力付けだけでなく、入社後も高いエンゲージメントを持ち、生産性高く働き続けてもらうこと。この両輪を視野に入れた制度設計こそが、次世代の企業経営に求められる必須条件なのです。

採用・定着の切り札!「奨学金返還支援制度」を始めるなら「奨学金バンク」

「奨学金返還支援制度に興味はあるけれど、導入の手続きや事務作業が煩雑なのではないか?」そうお考えの経営者・人事ご担当者の方もいらっしゃるかもしれません。そんな皆様にご紹介したいのが、「奨学金バンク」です。
奨学金バンクは、日本初の奨学金返還を支援するプラットフォームとして、奨学金の返還負担を軽減し、個々のライフスタイルの変化や新しい挑戦に積極的に取り組むことができる社会を目指しています。この事業にご参画いただくことで、以下のようなメリットが得られます。

  • 優秀な人材の確保(採用・定着)に貢献
  • 面倒な申請手続きや管理業務をアウトソーシング可能
  • 参画企業が増えることで、支援期間が延長する可能性(割当金制度)

学金バンクを活用することで、企業は手間をかけることなく、効果的に奨学金返還支援制度を導入・運用することができます。

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