代理返還ができる奨学金返還支援制度は、2021年4月の制度改正で企業側のメリットが大きくなりました。これは、優秀な人材を獲得したい企業にとって朗報です。そして、変更された制度は、内閣府をはじめとする国も導入を後押ししています。こちらでは、制度の概要や国が推進する理由に加え、企業側のメリットや導入の流れについてもご紹介します。

奨学金返還支援制度とは?

奨学金返還支援制度は、独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)から貸与された奨学金(第一種奨学金・第二種奨学金)を受けていた従業員に代わって、企業が代理返還できる制度です。この制度はもともと存在していましたが、2021年4月に制度が変更されました。従来の制度では、企業が奨学金の返還支援をする対象者の給与に返還分を上乗せして支給し、支援を受けた従業員が日本学生支援機構に奨学金を返還していました。

このやり方は一見するとよい方法に見えますが、使いにくい部分もありました。まず一つの点が、奨学金返還分が税務上「給与」の扱いになることです。従業員にとっては、支援された支援金が所得税の課税対象となるため、手取り額が目減りしたり、住民税負担が増す傾向が強くなります。また、支援金が社会保険を算定する対象の報酬となるため、従業員だけでなく、企業側の社会保険料負担も増す傾向にありました。

これらの点を改善するため、日本学生支援機構では、2021年4月から企業がダイレクトに支援機構に返還できるように制度変更しました。そして、これらの変更に伴い、課税との関係も見直されることとなります。国税庁ホームページに記載された所得税に関する質疑応答事例によると、奨学金の返済に充当するための、企業から従業員への給付については、所得税において非課税となりうるとしています。また、法人税との関係も、「使用人の奨学金の返還に充てるための給付にあたるので、給与として損金算入できます」と回答しています。

ただし、注意すべき点もあります。同じ質疑応答事例の記載によると、その奨学金が学資に充てられていて、かつ給付される金品が奨学金の返済に充てられる限りにおいては所得税が非課税となりますが、通常の給与に変えて給付されるなど、給付課税を免れる目的で給付されるものは該当しないとしています。あくまで課税の適正性や公平性が保たれる必要があるということです。また、個別の事例により判断されるとの記載もあるため、慎重な制度利用が求められます。

給付する支援金は所得税の課税所得としてみなされないため、従業員・企業双方の負担が軽減されますし、法人税計算時に損金算入できる従来の在り方と変わらないので、奨学金返還支援制度がより使いやすいシステムとなったことは間違いありません。企業の経営者や人事担当者は、制度の内容に精通し、自社の採用計画に良い影響を与えるような活用を目指したいものです。

国として奨学金返還支援制度を推進する理由

奨学金返還支援制度は、内閣府をはじめとする国全体が導入を推奨しています。実際、各地方自治体も制度利用を後押ししています。国と地方自治体が同じ方向を向いて導入を急ぐのには理由があります。それは、地方に定着する若者を増やすことにあります。内閣府では、地方からデジタルの実装を進め、都市部から地方に取り組みが浸透する流れとは逆の形で新しい波を起こそうとしています。これは「デジタル田園都市国家構想」と銘打たれ、内閣府が主導する形で行われています。

経済的な理由で才能ある若者が進学をあきらめなくてよいよう奨学金制度が制定されていますが、世界情勢の変化などにより、希望した仕事に就けず、奨学金の返還が思うように進まない方は多くいます。また、高度な技術を身につけた若者が地方に来ず、都市部に集まってしまう現状も否めません。奨学金返還支援制度は、奨学金返還に苦慮する方や高い知見を身につけた若者を招きたい企業にとってウィンウィンになるシステムで、国のデジタル構想を進めるキーとなることが期待されています。

企業側のメリットと準備すべきこと

こちらでは、変更された点を含め、奨学金返還支援制度を企業が導入するメリットをまとめてご紹介します。さらに、リニューアルされた奨学金返還支援制度を企業が上手に使いこなすために準備したい内容も取り上げます。

企業のメリット

まず一つに、金銭的な負担軽減が挙げられます。先に記載した奨学金返還支援制度に関連した国税庁の見解にもありますが、企業側としては、代理返還した奨学金を給与として損金算入できるため、その分、法人税の負担が減ることになります。また、これまでの給与増に伴う社会保険料の企業負担分が軽減される可能性が出てきたことで、前向きに導入を検討する企業も増えるかもしれません。

採用活動で好印象を与えられるのも、奨学金返還支援制度を導入するメリットです。少子高齢化などによる売り手市場が続く現代では、就職したい企業として選んでもらうことが大切で、他社と差別化できるポイントが求められます。その要素の一つとなりうるのが、福利厚生面でアピールできる奨学金返還支援制度といえます。制度利用により、支援分の所得税や社会保険料負担が生じないことなどを丁寧に説明すると、自社の魅力を理解してもらう助けになるでしょう。

支援制度を導入していることは、自社ホームページでアピールできるほか、日本学生支援機構のWebサイトにある「各企業の返還支援制度」にも掲載してもらうことが可能です。社名とともに支援の目的も載せられるため、入社してくる方への思いを伝えることもできるでしょう。何より、奨学金返還支援制度を導入している企業を探している就業希望者の目に留まりやすくなるので、効率的な人材獲得につながるに違いありません。

奨学金返還支援制度は、従業員の働きやすさや精神的な安定につながるため、離職率を低下できる可能性があります。奨学金返還の不安を抱えなくて済む分、モチベーションを維持でき、定着率向上に寄与すると考えられます。

企業が日本学生支援機構に直接支援金を納めることで、確実に奨学金を返還できる点もメリットといえます。以前は、返還すべき奨学金を従業員を通して納める仕組みだったため、着実に返還できているか確認しにくい点が企業側の悩みでした。その点が解消され、支援が人材への投資につながることを実感できる制度となっています。

奨学金返還支援制度の導入で企業がやるべきこと

奨学金返還支援制度の導入を考えている企業は、まず会社の規定を整備する必要があります。規定に盛り込む点としては、制度の対象となる従業員や支援金額などが挙げられます。対象となる従業員の雇用形態や勤続年数、支援金額が一部なのか全額なのかに加え、上限金額なども明記します。規定作成時に考慮したいのが、離職防止の取り組みです。奨学金の返還が終わると同時に従業員が退職するということがないよう、勤続年数や支援金の条件を慎重に考えましょう。そもそも企業風土に合わない、適材適所の配置がされないなどの理由で離職に至らないよう、会社自体の魅力度を上げつつ、入社前後の採用者へのフォローを重視する姿勢も大事になります。

会社として上記の内容を整備したら、返還支援をする対象者を決定し、日本学生支援機構に返還支援の申請を行います。支援機構では、企業からの送金を「スカラKI」というシステムで受け付けているので、申請後に発行されるIDとパスワードを使い、企業名や返還支援対象者の氏名、奨学生番号などを登録する必要があります。

内閣府を含む国が推奨する奨学金返還支援制度に盛り込まれた企業が代理返還する仕組みを人事採用に活かす

奨学金返還支援制度は2021年に変更され、企業が日本学生支援機構に直接代理返還することが可能になり、企業にとっても支援される従業員にとっても使い勝手がよくなりました。これは地方のデジタル化のため、内閣府をはじめとした国や地方自治体が推進する制度でもあります。企業の方向性を決める経営者や、人材獲得に携わる人事担当者は制度に精通し、自社の成長に資する導入や仕組みづくりを進めていきましょう。

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