年功序列は「悪しき制度」なのか

「年功序列」と聞いて、皆様はどんな印象をお持ちでしょうか。「時代遅れ」といった印象を持たれる方も多く、現在の人事制度のトレンドでは、「悪」の様に捉えられているのではないでしょうか。実際に弊社にも「年功的な制度を変えたい」「成果主義の制度を入れたい」といった問い合わせを多くいただく状況です。

筆者個人のお話をしますと、新卒で入社した企業には年功的な文化が残っており、実際に昇格や昇給についても「若いから」という事を言われたことがありました。この状況も理由の一つとなり、転職を決意する事になるのですが、転職後5年経った現在、前職の同期と収入面で差が出ている事を知り、果たして自分がもし残っていたらどうなっていたのか、といった事を思わずにはいられませんでした。

上記の経験を踏まえ、年功序列とは本当に時代遅れの変えるべき悪い制度なのかを考える機会としたいと思います。第1回では、なぜ年功序列の制度が日本に定着したのかを考えます。

年功序列は日本人に合っている?

広辞苑に記されている「年功序列」は以下の通りです。

年齢や勤続年数の多少によって地位の上下をつけること。これを算定基礎とする賃金体系を年功序列型賃金という。

言葉の意味から「本人の成果ではなく、年齢や勤続年数等の指標によって処遇を決定する」ことと読み取れます。近年のトレンドである「成果主義」や「Job型制度」とは異なる「年数」を基準とすることから、これらの制度と対極の概念として語られることが多いです。

では、年功序列の制度はいつごろから始まったのかを紐解くと、戦後の高度経済成長期に生まれ、定着した制度であると考えられます。高度経済成長期の日本は主に製造業を中心に急成長を見せ、世界でもトップの経済大国となるわけですが、この際に、自社内に従業員をとどめていくための施策として導入されたようです。年功序列では、勤続年数や年齢の増加に合わせて、安定的に報酬が高くになり、高い地位に付ける確率が上がるため、従業員の収入が安定しました。そのため、従業員は安心して働くことができ、人員の確保の観点において効果は絶大でありました。また、一度採用した人材が企業に留まるため、例えば集団就職といった方法を取った際に、「自身の地元の高校の先輩が確実にいる会社」といった部分が採用される側の安心感にもつながり、継続して採用を行える土壌を作っていく事にもつながったのではないかと考えます。そして、これらの状況が続く事で「一つの会社で最後まで勤め上げる」事を前提とした「終身雇用」の考えも定着していく事となります。

他方企業から見ても、年功に合わせて上がっていく人件費は上昇率が読みやすく、原資の見通しが立てやすかった事や、足元の原資はないが将来的には成長に合わせて高い給与が準備できるといった名目で、雇用時の人件費を安く抑えることができるといった利点がありました。これらの利点に加えて、高度経済成長といった状況も後押しし、「要員が確保できていれば事業成長は可能」といった考えに基づき、多くの企業が年功序列の仕組みを導入していく事となりました。

しかし、この様な時代的な背景だけではなく、日本人の持つメンタリティにも年功序列があっていたのではないかと筆者は考えます。年功序列では、同時期に入社した従業員が同じようなステップでキャリアップや昇給をしていくため、同期は「ライバル」ではなく、高度成長を続ける自社を「共に支える仲間」といった一蓮托生感の印象も持ちやすくなります。古くから集団での農耕を生業とし、集団として生きていく事を前提とした組織に慣れている日本人には、年功序列によるマネジメントは親和性が高かったのではないかと考えます。

またもっと歴史をさかのぼると、日本に最初に伝わった儒教の教えの中では「目上の人を敬いなさい」といった考えがあり、ルールや形式、家族といった上下関係を重視し、敬う考えがあります。この考えは過激な競争を抑制し、下剋上のない安心感を求める日本人のメンタリティにも根付いている部分があり、年功序列を後押しする結果になったのではないかと考えます。

年功序列が生まれた理由として、高度経済成長といった時代的な背景があった事は事実ですが、定着していく過程で日本人の持つメンタリティも重要な要因になったと考えます。従って、「高度経済成長に生まれた時代遅れな制度だから変えるべき」であるといった考えは少し立ち止まって考える必要があるように感じます。

次回は時代の変化とその中で年功序列の制度がどの様な理由で「時代遅れ」となっていったかを紐解いていきます。

この記事を読んだあなたにおすすめ!

こちらの記事もおすすめ!
お役立ち情報
メルマガ無料配信

お役立ち情報満載!ピックアップ記事配信、セミナー情報をGETしよう!

人事のプロが語る、本音のコラムを公開中

人事を戦略に変える専門家たちが様々なテーマを解説し、"どうあるべきか"本音 で語っている記事を公開しています。きっとあなたの悩みも解消されるはずです。


お役立ち資料を無料ダウンロード
基礎的なビジネスマナーテレワーク規定、管理職の方向けの部下の育て方評価のポイントまで多種多様な資料を無料で配布しています。ぜひご活用ください。