解雇権濫用とは、労働契約法(16条)に書かれている「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする」というルールのことである。この考えは、昭和50年の日本食塩製造事件において次のような判例が出たことで、確立された。
「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になると解するのが相当である。」
こうした裁判所の判断の積み重ねによりルール化された、強い解雇に関する規制のことを「解雇権濫用法理」または「解雇権濫用の法理」と呼ぶ。
その後平成15年になると「労働基準法」の改定により法律条文として明文化され、平成19年には「労働契約法」制定によって「労働契約法」へと移り、労働契約法第16条に「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と規定されるようになった。裁判になった際の争点は、その解雇が解雇権濫用法理により無効であるかどうかがポイントとなる。
過去の判例上、以下のような要素が解雇権濫用になるかならないかの判断基準と考えられる。
・解雇に合理性や相当の理由が存在するか
・解雇が不当な動機や目的からされたものではないか
・解雇理由とされた非行・行動の程度と解雇処分とのバランスが取れているか
・同種または類似事案における取扱いとバランスが取れているか
・一方の当事者である使用者側の対応が信義則上問題はないか
・解雇は相当の手続きが踏まれたか
では、「客観的に合理的な理由」とはなにかというと、具体的には以下のような要素がある。
・傷病などによる労働能力の喪失・低下
・労働者の能力不足・適格性の欠如
・労働者の企業秩序違反の行為
・企業の業績悪化などの経営上の理由(整理解雇など)
・ユニオンショップ協定に基づく解雇(まれな事例である)
また使用者は、就業規則を定める場合に「解雇事由」を定めておく必要がある(労働基準法第89条3号)。