日本の多くの企業では、いまだに上意下達の文化が根強い。従来の日本的組織では、上司が「言うことを部下が聞く」という前提が暗黙の了解になってきた歴史がある。しかし今やそれは幻想に近い。少子高齢化による労働人口減少、働き方の多様化、個人の価値観の変化によって、部下が上司の言うことを無条件に聞く時代は終わったと言えるだろう。

そのような中、果たして、マネジメントとはそもそも何か。

一般的にマネジメントとは、組織が成果を上げるために資源やプロセスを統合的に機能させる仕組み・方法・機関のことを指す。

これは単なる「管理」や「命令」ではなく、組織としての成果を最大化するための包括的な営みである。では、なぜ日本ではマネジメントが形骸化し、単なる命令・指示の実行になってしまうのか。それは結局のところマネジャーが自分自身の感情との戦いに勝てていないからではないかと考える。

マネジメントは「言うことを聞かせること」ではない

多くのマネジャーは、無自覚に以下のように考えることがある。

  • 「部下には自分の言う通りに動いてほしい」

  • 「従順な部下こそ良い部下だ」

これは一見すると合理的な期待のようだが、本質を取り違えているとも言える。マネジメントの本質は、自分の言うことを聞かせることではなく、組織の目的や方向性を実現するためにヒトを機能させることである。

やや振り切った表現をすると、自分の命令にそぐわない部分があったとしても、成果が出るのであれば、それはマネジメントとして正しく機能していることにもなる(ただし意にそぐわない行動をする場合には結果責任は問われる)。これはやや振り切った表現ではあるが、この理解が欠けると、マネジャーは命令が通るか否かを、成功の評価軸で部下を見てしまう。

結果として自己満足の達成や優越感の充足が目的となり、組織の本来の成果から逸脱してしまっている場合もあり得る。

マネジャーは感情を統御できているか

このように考えると、マネジメントは他者との関係性をコントロールすることではなく、自らの感情と向き合うことだと言っても過言ではない。

たとえば、部下が指示と異なる方法で仕事を進め、結果として成果を出したとしよう。その場面で多くのマネジャーの脳裏に浮かぶのは、

  • 「指示したやり方ではない」

  • 「自分の指示が尊重されていない」

  • 「もっと早くこうすべきだ」

といった感情ではなかろうか。ここには自己の寛容さや承認欲求が絡んでいる。感情としては当然の反応だが、この感情が組織の判断基準になってしまうと、マネジメントは歪んだ形で機能してしまう場合もある。

真のマネジメントは、部下の行動が結果を生んだならば、そのプロセスを一旦受け入れ、部下の自主性や創意を尊重する。ただ、部下の方向性が組織の戦略とズレているならば、それを正す責任もまたマネジャーにある。

つまり、感情的にその部下を否定するのではなく、組織の目的と結果のバランスを見る視点が必要なのだ。

マネジメントとリーダーシップの関係/制御ではなく調整

マネジメントはリーダーシップと密接に関係しながらも異なる機能を持つ。リーダーシップが組織にビジョンや方向性を与えるのに対して、マネジメントはその方向性を実現可能な形でリソースとプロセスに落とし込む役割を担う。

ここで誤解してはいけないのは、リーダーは指示する人という安易な理解だ。実際には次のような段階がある。

  • 方向性と目的の明示

  • 現実的な戦略の設計

  • 部下を巻き込み、彼らの強みを引き出す

  • 結果を検証しながら改善する

こうしたプロセスは、単に指示を出し部下が従うだけというものではない。むしろ、関係性や信頼、そして感情のコントロールがより重要になる。

部下との「相性」とスタイルの適応

多くのマネジメント研修では、コミュニケーション技法や部下の動機づけ、目標設定といった対外的スキルにフォーカスされがちだ。しかしこれらは、マネジメントの前提条件であって本質ではない。

本質は「どのように状況に応じて自分を変えられるか」であろう。

それは具体的に言えば、

  • 自分の感情を理解し、制御できるか

  • 苦手なマネジメントスタイルを意図的に演じられるか

  • 部下との価値観・働き方の差異を受容できるか

といった自己との対話である。

たとえば、自己主張が強い部下には受容的なスタイルが有効かもしれない。逆に指示待ち型の部下には明確な方向性と枠組みが必要かもしれない。

ここで重要なのは、自分の好みや快適さではなく、状況に応じた最適な働きかけを選択する視点だ。

マネジメントとは感情との戦いである

結局のところ、マネジメントが困難になるのは、他者と戦っているようで、実は自分自身の内部と戦っている瞬間ではないだろうか。

自分の価値観が肯定されないと感じたとき

  • 自分の指示が尊重されないと感じたとき

  • 成果が出てもプロセスが自分の考えと異なるとき

こうした瞬間がマネジメントの本質を問うている。

外側の環境や状況、また部下そのものも、すべて変わる。だが自分自身の内側の感情との戦いは、変わらずにマネジャーのマネジメント判断を左右する最大の要因であろう。

だからこそマネジメントとは、

他者をコントロールすることでも、テクニックを使いこなすことでもない。
自分自身の感情や欲求と真正面から向き合い、それを超えて目的に集中する力である。

古き良き昭和の高度経済成長期は終わり、当時のマネジメントスタイルは“オワコン”とされている。少子高齢化が進み、AIが人の代替となり、人材が高級品になる昨今、この気づきこそ、これからの日本企業のマネジャーに求められる本質と言えるのではないだろうか。

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