「評価面談、上司が一方的に話して終わるんです」
これは、私が企業の人事部員として就労している時やコンサルタントとしてご支援した企業の社員ヒアリング時によく聞いた声の一つです。
実際、パーソル総合研究所が2021年に実施した「人事評価制度と目標管理の実態調査」の人事評価制度への不満感では、評価制度に不満を持つ社員が4割近くいる結果となりました。
つまり約3人に1人が「評価内容に納得していない」と回答しています。制度はある。けれども、現場では「納得」が生まれていない。これが多くの企業に共通する根本課題です。
図表1 人事評価制度への不満感
図表1)パーソル総合研究所「人事評価制度と目標管理の実態調査」より一部引用
制度よりも「対話の質」が成否を左右する
私自身、20年以上人事として制度の設計・運用に携わってきましたが、制度の成否を分けるのは「制度の中身」以上に「対話の質」だと強く実感しています。
制度があっても「評価されている実感」がない理由はなんでしょうか。
多くの企業が導入している「定量目標」は、評価や育成を明確に示すものとして必要です。しかし、数字だけで人を見てしまうと「どう頑張ったか」より「結果が出たか」ばかりに目が向きます。すると、努力や挑戦が報われず「評価は、上司の印象と業績次第」だと感じる社員が増え、エンゲージメントが低下します。こうした課題を受け、ある支援先では、目標設定のプロセスを次のように見直し、3ステップを管理職に意識して面談をするよう伝えました。
目標設定の対話の3ステップ
- Will :自分はどう成長したいのか?(キャリア観・価値観のすり合わせ)
- Mission:会社のどこに共感し、どのように貢献したいのか?(理念と接続を一緒に考える)
- Goal :その上で、今年どんな成果・行動を目指すのか?(目標の設定)
この順で対話を行うことで、社員が「目標を自分事として語る」ようになり、「やらされる目標」から「実現したい目標」へと変化が見られました。
管理職は「結果までのプロセスを見ていき、指導するように」と伝えられ、管理職自身も意識していると思いますが、前述のようなステップを明確に伝えていくことで、定量だけでは足りない、言葉を引き出すプロセスが生まれ、従業員の納得感を生むのです。
「評価面談=通告」から脱却した事例
別の支援先では、評価面談に対し「結果だけを伝えられて終わる」「結果は相対評価で決まっているから仕方ないと説明されるだけ」といった不満の声が多く上がっていました。
制度自体は整備されていたにもかかわらず、「対話の機会」が欠けていたのです。
そこで、評価面談を次の3点から再設計しました。
評価面談の3つの改善
- 面談前の事前準備
上司と部下の双方が「期の振り返り」と「次期への期待」を記入する - 評価者研修の実施
なぜ、その評価なのか、どんな行動が評価されたのかを言語化できるようにする - 評価項目の見直し
成果だけでなく、調整・行動・協働といったプロセスも評価に含める
この取り組みによって、面談後の満足度が上がり「やる気が出てきた」「次に向けて何をすべきかがわかりやすい」との声があがり、制度が「社員の背中を押す場」へと変わったのです。
こうした事例が示すように、制度の信頼性を高めるカギは「対話」にあります。
パーソル総合研究所の同調査でも、評価者の約7割が「制度通りに評価できていない」と回答しています。
これは、制度設計そのものよりも、「評価者が人をどう見ているか」つまり評価の解像度が問われていることを示しています。
図表2 評価プロセスの遂行実態
図表2)パーソル総合研究所「人事評価と目標管理に関する定量調査」より一部引用
では、評価面談で問うべきことは何でしょうか?次の問いに答えられるかがカギとなると考えています。
評価面談でのカギ
- この人はどんな挑戦をし、どう成長したいと考えているのか?
- なぜこの評価をつけたのか?ほかの社員との違いは何か?
- 本人のキャリアや価値観に即した支援ができているか?
この3点にしっかりと向き合い「対話の機会」を通じて評価者の解像度を上げていくことで、制度全体の信頼性も向上します。
逆に言えば、ここが低いままでは、どんなに制度が立派でも形骸化するリスクが高まります。
これからの評価制度は、未来を描く「共創の場」へ
評価制度は、もはや「査定のためのルール」ではありません。
社員の意欲や価値観を引き出し、会社の方向性と接続詞、行動へ落とし込む、つまり、未来を描く対話の設計図として再定義されつつあります。
これからの評価制度に求められるのは、社員の「やりたいこと(自己実現)」と、会社の「達成したいこと(組織貢献)」が交わる部分を見つけ出し、それを「対話」を通じて制度に反映していく力です。
評価制度が社員一人ひとりのキャリアに寄り添い、その成長が組織の成果に結びつく構造をつくることこそが、人的資本経営の本質的な要請だと考えています。
最後に
「評価があるから辞めた」「納得できない評価があったから離職した」ではなく、「評価があったからこそ、ここで働き続けたい」と言われる会社へ。
私たちは、制度の設計だけでなく、対話を生み出す運用の仕組み化まで、企業文化に寄り添いながら伴奏していきます。
「評価制度を社員との信頼をはぐくむ対話の場に変えたい」
そう感じたときは、ぜひご相談ください。
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