「採用しても定着せず、また採用。このループがきつい上に最近応募も減っていて……」
これは、現場の人事・管理職の方からよく聞く声です。
採用難は景気の波だけでは解決できない「構造課題」になりつつあります。
有効求人倍率は高止まりし、人手不足倒産や退職起因の経営リスクも顕在化しています。
いま企業は、採用の入口強化だけでなく、出口(退職)を学習機会に変え、アルムナイをタレントプールとして再接続する動きへ広げています。

本稿では、退職面談を組織学習の対話として再定義し、離職理由を採用要件・面接・オンボーディングにフィードバックする方法、さらにアルムナイCRM(セグメント×便益×接点×KPIで、退職者との関係を、「思いつき」ではなく「運用」として回すための仕組み)で再雇用・紹介を仕組みとして運用する実務ポイントを解説します。

採用難を乗り越えるために:退職面談とアルムナイの可能性

人材不足が深刻化する現代の採用市場

「採用が難しい」は一過性というより、構造的な要因として捉えることが重要です。
厚生労働省の一般職業紹介状況(令和7年12月※1)では、有効求人倍率は1.19倍、正社員有効求人倍率も0.99倍と、正社員領域は特にタイトな状態が続いています。
さらに2025年は、人手不足倒産427件※2のうち「従業員退職型」が124件※3と過去最多を更新し、退職が事業継続リスクそのものになりつつあります。 採用は「獲得競争」だけでは勝てない局面といえるでしょう。

※1 (出典)厚生労働省「一般職業紹介状況(令和7年12月分及び令和7年分)について」, 2026年1月公表, https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_69302.html

※2 (出典)帝国データバンク「人手不足倒産の動向調査(2025年)」, 2026年1月公表, https://www.tdb.co.jp/report/economic/20260108-laborshortage-br2025/?utm_source=chatgpt.com

※3 (出典)帝国データバンク「従業員退職型の倒産動向(2025年)」, 2026年2月公表,https://www.tdb.co.jp/report/economic/20260207-taisyoku2025/

退職面談とアルムナイ活用がもたらす変革

人材不足が続く中で大切なのは、「採用(入口)」だけを工夫するのではなく、「退職(出口)」もきちんと設計することです。
私は、評価制度を「社員を査定するための仕組み」ではなく「社員と対話するためのツール」として捉え直すべきだと考えています。それと同じように、退職面談も「なぜ辞めるのかを問い詰める場」ではなく、「組織が学ぶための対話の場」に変えることが重要です。
退職者の声には、組織の課題や改善のヒントが多く含まれています。ここを前向きな対話の機会にできれば、離職の予防や職場環境の改善につながります。

さらに、退職者(アルムナイ)を「会社を去った人」と考えるのではなく、「これからも関係が続く人材(タレントプール)」として捉えることも重要です。
例えば、トヨタ自動車(※T1)では、アルムナイ採用の仕組みとして、退職者がキャリア登録を行うことで、求人やイベント情報を受け取れる仕組みを用意しています。これは、「一度退職しても、また戻れる」「ゆるやかにつながり続ける」という考え方の象徴的な取り組みです。

実際のデータを見ても、企業の取り組みは広がっています。
労務行政研究所の調査※4によると、雇用・人材獲得の方法として「導入・実施している」と回答した割合は、「① リファラル採用:55%」「③ リターン雇用:44.2%」「④ アルムナイネットワークの構築・活用:14.7%」となっています。
つまり、すでにつながりのある人材を活用する採用手法が広がっていることがわかります。

※4(出典)労務行政研究所「人事領域の注目テーマ/トレンドに関するアンケート ~人事マネージャー129人に聞く人事労務領域の注目テーマへの対応状況アンケート~」調査期間2025年1月27日~2月7日

戦略的退職面談で採用難時代の組織力を高める

退職面談の目的を再定義する

退職面談が形骸化する最大の理由は何でしょうか?
それは、目的が曖昧なまま「引き留め」か「犯人探し」になってしまうことです。実務では、目的を次の3つに割り切ると運用が安定します。
①組織学習(再発防止・改善点の特定)
②採用品質の改善(入口の精度向上)
③関係性の設計(アルムナイ導線の起点)
引き留め交渉と退職面談は、目的を分けて設計することが重要です。退職面談はあくまでも「学習と関係性」に集中することで、相手にとっても安全な場になり、本音が出やすくなります。結果として、運用が安定します。

本音を引き出すヒアリングと組織課題の特定

退職面談の際に、つい「本当の理由は?」と聞いていませんか。
その質問では本音はなかなか出てきません。コツは、「出来事(ファクト)→解釈→影響」の順に、具体から聞くことです。

【質問の例】
・最後に「これはしんどい」と感じたのは、どの業務で、いつ頃でしたか
・その時の様子をもう少し聞かせてもらえませんか(誰と、どんなやり取りがあったのかファクトでおさえる)
・入社前の期待と、実際に違った点は何でしたか
・当時に戻れるなら、会社側に何があれば踏みとどまれましたか

面談結果は「個人の感想」で終わらせず、カテゴリ化→論点化→仮説化します(例:仕事内容、上司支援、評価運用、処遇納得性、成長機会、働き方、人間関係など)。
たとえるなら、点在する「退職者の声」を、改善会議に載る言葉へ整理し直す作業です。ここまで翻訳できて初めて、退職面談は「退職者対応」から「経営の情報資産」になります。

実務の落とし穴は、面談者が利害関係者で言えなくなること、そして、情報が「個人の愚痴」として扱われ改善につながらないことです。前者は人事または第三者(弊社のような外部委託を含む)を基本にし、後者は改善会議に載せるフォーマット(頻度、代表事象、影響度、仮説、打ち手候補)を統一して防ぎます。「声が集まるだけ」で終わらせず、意思決定できる情報にするためです。なお、同意取得、記録保管、閲覧権限、匿名化のルールは最初に決めておくべきです。

退職面談で得た情報を採用活動にフィードバックする

離職理由から採用ミスマッチを防ぐ

ミスマッチの多くは能力不足ではなく「期待のズレ」です。就職後3年以内の離職率※5は高卒37.9%、大卒33.8%(令和43月卒)で、一定規模で想定される離職が発生しています。
だからこそ、退職面談で見えたズレを、募集要項と面接設計へ戻します。入口の情報の誠実さが上がるほど、定着と採用効率が改善します。

募集要項 業務の「きれいな面」だけでなく、繁忙期・顧客特性・夜勤等の現実条件を言語化
面接 経験確認だけでなく、価値観・学習スタイル・ストレス要因の見立て質問へ
入社後 最初の90日を設計し、オンボーディングをKPI化

退職理由を個人の問題に回収せず、職種・上司・時期の偏りを見て構造課題として切り出すことが重要です。

※5 (出典)厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」, https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177553_00010.html

企業ブランディング向上につなげる

採用広報は、期待値を上げすぎるほど入社後のギャップを生みやすく、結果として逆効果になりがちです。退職面談で得た学びを使い、働く価値の再定義と、現場の一貫性(面接で語ったことが入社後も再現されるか)を整える方が強い。退職面談で頻出する「期待ギャップ」を、あえて採用段階で先出しする。これは短期的には応募数を減らすこともありますが、中長期では定着と評判を守ります。

また、退職者の声を「ネガティブ情報」として隠すのではなく、改善の事実として示せるとブランドは強くなります。

実際に、私のクライアントでは「評価の説明を四半期レビューに変更した」「引き継ぎを標準化した」など、対話から生まれた改善策を実践されています。その結果、離職率の低下やエンゲージメントサーベイの改善といった成果が出ています。また、退職面談で得られた示唆が、企業文化の改善にもつながっています。

アルムナイを強力なタレントプールとして活用する

アルムナイネットワーク構築の具体的な方法

アルムナイ施策は「制度」を整えるだけでは回りにくく、実務上は「導線(参加・登録・応募につながる流れ)」を設計することが重要です。私は、アルムナイをタレントプールとして扱う「アルムナイCRM(候補者関係管理)」と位置づけます。言い換えると、退職者との接点と機会提供を管理する台帳(運用の仕組み)です。

最小構成は、次の3ステップです。
ステップ1:退職時のオプトイン登録(同意取得)
ステップ2:接点設計(情報提供・機会提供・コミュニティ)
ステップ3:再応募/協業/紹介の入口を見える化

みずほフィナンシャルグループ(※M1)がカムバック入社を歓迎し、アルムナイネットワークの案内を明示しています。こういった公式導線があるだけで「戻ることの心理的ハードル」は下がります。
加えて、再雇用だけに限定せず「業務委託」「副業」「スポット参画」まで含めると、タレントプールの厚みが出ます。日立製作所(※H1)やAstemo(※A1)でもアルムナイネットワーク(キャリアネットワーク)として、ポジション案内や情報提供を行う旨を示しています。

再雇用を促すアルムナイとの関係性維持

再雇用を成果につなげる鍵は、定期連絡ではなく「運用可能な仕組み」です。ポイントは4つ。

ポイント1:まずは対象を分けて考える(セグメント設計)

アルムナイをひとまとめにせず、タイプごとに整理します。
例えば、
・育児・介護などで一時的に離職した人
・社外で専門性を磨くことで、将来より高い価値を発揮できる人
・再入社はしなくても、協業や人材紹介などで関係を築ける人

このように分けることで、適切な関わり方を設計できます。

ポイント2:アルムナイ側のメリット(Give)を明確にする

「会社にとってのメリット」だけでなく、「登録する側にどんなメリットがあるのか」をはっきりさせることが重要です。

例えば、トヨタ自動車(※T1)のように、登録後に求人情報やイベント情報を届ける仕組みは、まずは気軽な接点から再接続できる合理的な設計です。

ポイント3:接点を目的別に設計する

関わり方を一つに絞らず、目的に応じて複数用意します。
・情報提供(ニュースレター・イベント案内)
・段階的な参画機会(副業・業務委託・プロジェクト参加など)
・コミュニティ形成(交流会・オンラインコミュニティ)
いきなり「再入社」に直結させるのではなく、段階的な関係づくりを意識することがポイントです。

ポイント4:運営モデルとKPIを設計する

アルムナイ施策は「立ち上げて終わり」ではなく、継続的に運営・改善していくことが重要です。
そのために、まずは最小限のKPIを設定し、回し続けます。
(例)
・登録者数
・アクティブ率
・イベント参加率
・カムバック応募数
・再入社後の定着率
すべてを細かく追う必要はありませんが、重要な指標は継続的に確認し、改善につなげます。
また、三菱UFJ銀行(※U1)のように、「再雇用への応募」と「アルムナイ同士の交流」を入口で分けて提示する設計は、目的の混線を防ぐうえで示唆的です。
何のための接点なのかを明確にし、運営モデルと指標を連動させることが成功の鍵になります。

ここでチープにならないコツは、施策名ではなく設計思想で語ることです。
「何を送るか」ではなく、「再入社・協業・紹介という成果につながる関係性を、どのプロセスで、どのKPIで回すか」。この問いに答えられると、アルムナイは採用戦略になると考えます。

リファラル採用を活性化させるアルムナイの役割

総務省統計局の2025年平均※6で転職者を男女別にみると、男性は156万人と2万人の増加、女性は174万人と3万人減少。一方で転職希望者は、男性514万人と13万人増加、女性509万人と10万人増加しています。このように、転職等希望者が増える一方で転職成立が伸びない局面では、紹介の強みがより効きます。特にアルムナイは、紹介して終わりではありません。在籍経験に加えて、退職後に他社も見た視点があるため、会社の実態(現場の忙しさ、上司の関わり方、成長の機会)を具体的に伝え、入社前の期待値を適正化できます。その結果、入社後のミスマッチを減らし、定着まで含めた紹介品質を高められます。

※6(出典)総務省統計局「労働力調査(詳細集計)2025年(令和7年)平均結果」, https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/dt/index.html

アルムナイからの紹介を仕組み化する

リファラルは、ただ「紹介してください」と呼びかけるだけでは増えません。仕組みとして設計し、運用を標準化することで、はじめて継続的に回り始めます。
具体的には、次の3点が重要です。

① 紹介してほしい職種・条件の定期共有

今どのポジションを強化したいのか、どんな経験・スキルを持つ人が対象なのかを、分かりやすく具体的に伝えます。単発ではなく、月次や四半期など「定期的」に共有することがポイントです。

② 1分で終わる紹介フォーム

紹介の心理的・時間的ハードルを下げることも大切です。入力項目は最小限にし、スマートフォンでも簡単に完結できる設計をするなどの工夫を実施している企業も見られます。

③ 紹介後の進捗連絡(紹介者体験の設計)

紹介後に何も連絡がないと、紹介者のモチベーションは下がります。書類選考通過、面接実施、不採用などの状況を適切なタイミングで共有し、感謝の意も必ず伝えます。
さらに、「誰を紹介してよいか分からない」「不採用だと気まずい」といった心理的障壁を減らす工夫も欠かせません。
職種要件を平易な言葉で整理し、「歓迎要件」と「必須要件」を明確に分けること。また、不採用時にも丁寧なフィードバックを返すことで、紹介者の安心感と信頼を高めることができます。
前述した労務行政研究所の調査※4によると、リファラル採用は約55%の企業が導入しています。しかし、導入しているにもかかわらず紹介数が伸びないケースも少なくありません。
その場合、特に①の「紹介してほしい職種・条件の共有」を「定期的に実施しているか」を見直すことをお勧めします。
リファラルは単なる制度ではなく、継続的なコミュニケーション施策です。情報発信を習慣化することで、アルムナイ経由の紹介は着実に増えていきます。

アルムナイイベントの企画と実施

イベントは豪華さよりも目的に沿った設計が成果を左右します。
短いインプット(事業・制度のアップデート、ミニ講座)+長めの交流。採用目的を前面に出すほど参加心理は下がります。「関係の再接続」を優先し、結果として再応募・協業・紹介につなげる。
参加後のフォロー(次の接点の提案)までをセットで設計します。

退職面談とアルムナイを統合した人材戦略

離職者とのポジティブな関係を継続する

採用難の時代は、退職者を「ネガティブな履歴」にしないこと自体が競争力です。
退職面談の最後には次の3点を明確に伝えます。
①発言は個人攻撃に使わず匿名化して改善に使う
②これまでの貢献に敬意を払う
③つながり方(登録・イベント・案件参画)を選べる

辞め方が丁寧な会社は、残る社員へのメッセージも強くなります。
「去り際」の扱いは、組織文化の鏡です。

採用難を乗り越えるためのデータ活用とPDCAサイクル

採用がうまくいかない時こそ、「感覚」ではなく数字で回すことが重要です。
ポイントは、退職面談とアルムナイ施策を定期的に数値で振り返り、改善を続けることです。

① アルムナイ(退職者ネットワーク)で見るべき数字

アルムナイ施策では、次のような指標を追いかけます。
・登録率
・アクティブ率(実際に動いている人の割合)
・イベント参加率
・カムバック応募数
・紹介数
・採用決定数
これらを四半期ごとに見直し、次の仮説と改善につなげるのがPDCAサイクルです(数字で現状を確認し、次の打ち手を決めて回す、という意味です)。

② 定性データを「数字」に変える

退職理由は多くが「感想」や「印象」といった定性的な情報です。
そこで重要なのが、定性データを定量化するための「辞書」を持つことです。
例えば、
「評価制度が不透明」という声をそのままにせず、
・評価基準が明文化されていない
・フィードバックが少ない
・昇進基準が不明確
といった要素に分解します。
そして、頻度 × 影響度で優先順位を決めることで、改善すべき課題が明確になります。

③ 離職対策は「採用施策」ではなく「事業リスク対策」

従業員の大量離職は、企業にとって重大なリスクです。
場合によっては、事業継続そのものに影響を与えることもあります。
だからこそ、
・離職の兆候を早期に察知する
・データをもとに学習し続ける
このサイクルを、単なる採用施策ではなく、事業リスク管理の一環として位置づけることが重要です。

企業文化とエンゲージメントの強化

退職面談×アルムナイは、採用施策であると同時に文化施策です。
辞める人の声を学習に変え、辞めた後も敬意をもって接する会社は、現役社員に対しても「対話を大事にする会社だ」という一貫性を示します。評価制度が対話として機能する組織では、退職面談もアルムナイも「関係性の設計」として自然に回ります。

まとめ

採用難は、採用担当だけで解ける問題ではありません。
入口だけでなく出口を設計し、退職面談を組織学習として回し、アルムナイをタレントプールとして資産化する。トヨタ自動車(※T1)、日立製作所(※H1)、みずほフィナンシャルグループ(※M1)、三菱UFJ銀行(※U1)のように、公式導線(登録・情報提供・応募と交流)を持つ企業が増えているのは、採用の主戦場が「獲得」から「関係性」へ移っているサインです。

辞め方を丁寧に設計できる会社は、採り方も強くなる。
まずは、退職面談の目的の再定義と、アルムナイCRMの最小構成から始めてみてください。

 

脚注(出典)(最終閲覧日:2026年2月18日)
※T1 トヨタ自動車「TOYOTA Alumni」  https://www.toyota-recruit.com/career/alumni/
※M1 みずほフィナンシャルグループ「カムバックアルムナイ採用」https://www.mizuho-fg.co.jp/saiyou/career_recruit/alumni/index.html
※H1 日立製作所「Alumni Network」 https://www.hitachi.co.jp/recruit/career/recruit_info/careernetwork.html
※A1 Astemo「アルムナイネットワーク」 https://www.careers.astemo.com/jp/our-locations/japan/recruit/alumni-talent-network/
※U1 三菱UFJ銀行「ウェルカムバック採用」https://www.mysite.bk.mufg.jp/career/welcomeback/index.html

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