「他社さんって、どんな感じですか?」との問いに少し立ち止まる

人事制度のご相談を受けていると、ほぼ必ずと言っていいほど「他社さんって、どのような制度をどう運用されているのでしょうか?」という質問をいただきます。等級制度・評価制度・報酬制度など、どのテーマにおいても、他社事例を知りたいというニーズは多くみられます。
もちろんそれ自体が悪いわけではありません。例えば、報酬水準は採用競争力を左右する大きな要因の1つです。市場水準と比較し、乖離の有無やその程度を把握したうえで、必要に応じ見直しを検討することは極めて合理的です。
また、自社ではまだ実施していない施策の導入を検討する際に、概要や活用方法、検討ポイントを理解するための参考として他社事例を用いることも、有効な手段です。

一方で、他社事例をご紹介した後に、「その形をそのまま自社にも導入したい」と考えられるケースも少なくありません。
実際に制度設計をご一緒する中では、当初思い描いていた理想的なイメージから少しずつ変わっていくこともあります。その過程で、「なぜ最初に見た事例通りにならないのか」と疑問を持たれることもあります。

なぜ「うまくいかない制度」になるのか

では、なぜ他社事例をそのまま導入・運用すると、うまく機能しないことがあるのでしょうか。
人事制度には、大きく分けて「管理統制」「意思疎通」「自発誘因」という3つの役割があると考えられます。

このうち、「意思疎通」は、企業理念や経営理念など、会社としての意思を組織内に伝える役割を担います。この部分は企業ごとに異なり、当然ながら正解があるものではありません。
等級定義や評価項目も、この「意思疎通」を前提として設計されます。会社の上位概念から導き出した「あるべき人材像」を前提に、どのようなレベル感を設定するか、何を評価したいか、といった点を社員へ共通認識として伝える必要があります。
そのうえで、評価制度によって貢献度や目標の達成度を図り、処遇(報酬制度)へと反映させていきます。この流れの中では、評価制度や報酬制度は、等級制度と比べて個人の行動を促す「自発誘因」の要素をより強く持つ傾向があります。そしてこの「自発誘因」の役割をどの程度持たせるかについても、企業によって考え方が異なります。

このように、人事制度は、「何を重視し、何を評価し、どのように報いるか」という企業固有の考え方を前提に設計されるものです。
人事制度は、組織に所属する人を万能に統制・評価・配置するための「万能ツール」ではありません。あくまで、組織としての判断に使える軸(共有言語)を作るための仕組みです。
この前提を十分に整理しないまま、制度の「形」だけ取り入れてしまうと、どれだけ精緻な仕組みでも、取扱説明書のないまま運用するのと同じで、うまく機能しなくなってしまいます。

「正解探し」より、「考え方づくり」から始める

人事制度は、それ自体が目的ではありません。
・会社としてどのような人材を求めているか
・何を成果として捉え、どの方向に向かって活躍してほしいか
・個人に何を期待し、どのような行動を評価するのか
・何に時間やお金を投資したいか
こうした考え方を「等級」「評価」「報酬」という仕組みに翻訳したものが人事制度です。
他社事例は、その翻訳を考えるうえでの「材料」にはなりますが、「正解」そのものではありません。
自社の状況や価値観を踏まえ、一度自社の言葉に置き換えて考えるプロセスを省いてしまうと、制度はいつまでも借り物のままとなり、機能しにくくなります。

つい「正解の形」を探したくなりますが、自社としてどう考えるかを丁寧に検討することが、結果として長く効いてくる制度につながります。制度を見直す際には、「自社は何を大事にしたいのか」「何を評価し、何を投資と考えるのか」こうした点を一緒に整理していきながら、人事制度をうまく活用するための最適な道筋を模索していきましょう。

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