人事は“外注される業務”から“外部の専門性と共につくる機能”へ

日本企業における人事部門の存在感は、ここ数年で劇的に変化している。人的資本経営、戦略人事、ジョブ型雇用、DE&I、リスキリング、ESG開示など。人事が担うべきテーマは加速度的に増え、もう遥か昔に「人材調達と管理管理だけを行う部署」ではなくなっている。

しかしその重要性の高まりとは裏腹に、改善されない課題がある。それは“人事部門の人員不足”である。

 背景には、人事部門が伝統的に「利益を生まないコスト部門」と認識されてきた歴史がある。多くの企業では、従業員規模1000名を超えても、人事担当者が1〜2名しかいないケースは珍しくない。スタートアップ企業においては、「人事担当者自体が存在しない」ことすらある。

この需給ギャップを埋めようとしてきたソリューションが、これまでのアウトソーシングである。給与計算、社会保険手続き、採用事務など、“誰でもできる単純作業”を外部委託し、コスト効率を高める方法が主流であった。しかし今、アウトソーシングの概念は根本から変わろうとしている。

アウトソーシングは「安く大量にこなす時代」から「専門性を共有する時代」へ

かつてアウトソーシングは、コスト削減のために作業を外に渡すものという考え方が一般的だった。

中国・東南アジアへのオフショア、派遣スタッフや契約社員で成立する機能補完型の人事業務代行など。そこにあった思想は、「社内でやる価値の低いものを、外に逃す」であった。

しかし、もうその前提は崩れている。

IT化、SaaS、AI、HRテクノロジーの浸透により、単純業務は自動化され、人事が担うべき業務の比重は高度化・判断領域化へ移行した。

例えば、

・人的資本開示への対応
・ジョブ型制度設計と人材アセスメント
・タレントマネジメント設計
・DE&I推進
・CXO採用および戦略採用
・社内文化やエンゲージメントの構築

これらは、単純作業ではなく“思考と専門知識の仕事”である。この領域は、従来型アウトソーシングの延長では担えないわけである。

人事は今、“外部の専門性をシェアする時代”に入った

この考え方がこれから広がっていくであろう背景には、日本企業特有の事情がある。

①人事が“ゼネラリスト型”として育成されてきた歴史
 ジョブローテーションを前提に、採用・労務・制度設計・育成を一人で担当する。しかし今求められるのは、制度設計・HRBP・タレントパイプライン構築など、専門性特化型の機能である。

②人材流動化と副業解禁が専門性の市場流通を加速
副業解禁後、外部のプロ人材が現役人事担当者となったケースが増えた。「自社だけでは経験できない領域に挑戦し、専門性を深めたい」という逆転現象が起きている。

③AIが“仕事を奪う”のではなく、“単純業務から人事を解放”した
AI・SaaSが作業を代替するほど、人事は思考・設計・運用・マネジメントの役割に戻る必要がある。

人事のアウトソーシングはどこへ向かうのか?

結論から言えば、アウトソーシングは機能代替型から共同運用型へ進化する。私はこれを次のように整理したい。

組織人事領域におけるアウトソーシングの整理

つまりこれからは、外注する人事ではなく、外部と共に運用する人事が主流になる。人事は社内に閉じる機能ではなく、外部の知見が循環するオープン型機能へ変わる。

専門性が細分化される時代、求められるもう一つの役割

しかしここで課題が浮上する。採用、労務、制度、人材開発、組織開発、人的資本開示など。人事領域はあまりにも分断されている。そのため、アウトソーシングが高度化すると、次の問題が起こる。

 「外注先が増えすぎて、人事が統合できなくなる」

そこで必要になるのが、HR統合マネジメント=人事版PMO/POの存在である。これが次世代のアウトソーシング形態になると考えられる。

BPaaS(Business Process as a Service) × 外部HRBP × 人事PMOモデルである。

アウトソーシングの未来は「境界の消失」である

 給与計算が外に出たように、人事システムがオンプレからSaaSに移ったように、次は、“思考” と “判断” すら外部と協働する時代が訪れる。

それは、「人事を外に任せる」のではない。社内外のプロフェッショナルが、同じ目的に向かって人と組織をつくる仕組みであり、その時、企業の人事部門は新しいカタチに生まれ変わる。

 人事は、採用担当でも制度担当でも事務担当でもない。これからの人事は、社内と外部の知見を結合する、組織戦略と人材ポートフォリオを設計する、AI・BPaaS・プロ人材を組み合わせ、最適な運用モデルを構築するカタチへと進化するであろう。 

最後に

アウトソーシングすることが終わることはなく、むしろ、人材不足・人的資本経営・リスキリング・AI浸透という流れの中で、アウトソーシングは戦略機能として再定義される。

企業が人と組織を競争力の源泉とする時代、外部の専門性をどう取り込み、どう共同運用し、どう価値に変換するか。そこに企業の未来、人事の未来、そして働き方の未来があるだろう。

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