テレビや新聞などでストライキに関するニュースを見聞きしたことがあるという方は多いのではないでしょうか。もっとも、それがどういったものであるのかを詳しく理解しているという人は意外と少ないかもしれません。そこで以下では、労働者にとっての重要な権利であるストライキについて知っておくべき基礎知識を紹介していくことにします。
ストライキの概要
ストライキというのは、労働者が労働条件の改善や維持といった要求を実現するために、集団的に労務の提供を拒否することを言います。このストライキを行う権利は、労働基本権の1つである団体行動権として日本国憲法にも定められています。具体的には、「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。」という憲法第28条がストライキの権利を規定しているのです。もっとも、ストライキを実施する際には所定の要件を満たす必要があるほか、ストライキ中の給与や会社の対抗手段にも注意しなければなりません。また、ストライキ中は給料が支払われないことが一般的であり、違法なストライキに対しては損害賠償請求や差止仮処分、刑事処分などのおそれがあることも覚えておくようにしましょう。加えて、違法なストライキに参加した労働者については解雇のおそれがあるため、実際に行おうとする場合には、労働法を専門とする弁護士からアドバイスを受けるなどして、その目的や必要性を慎重に見極める必要があります。
ストライキの種類①:全面ストと部分スト
ストライキには様々な種類があるのですが、範囲の違いで区別した場合には、「全面スト」と「部分スト」の2種類に分類することができます。ここでは、それぞれがどのようなものであるのかについて、わかりやすく説明していきます。
全面スト
全面ストとは、労働組合に所属しているすべての労働者が参加する形態のストライキで、生産活動を完全に停止させることを目的として実施されるものです。企業の生産活動を完全に停止させることによって、経営側との労働交渉を有利に進められるようになるという点がメリットではあるものの、それによって企業や国民生活に重大な悪影響を及ぼし得るという点には注意しなければなりません。例えば、スーパーや百貨店のように生活必需品を提供する企業においてストライキが行われた場合には、周辺の住民の生活に支障が生じる可能性があるので、そのようなデメリットを上回るメリットがあるかどうかを慎重に見極めた上で実行するかどうかを判断する必要があるのです。
部分スト
部分ストとは、一部の労働者のみが参加する形態のストライキで、生産活動を一部停止させることを目的とするものです。具体的には、店舗の一部のみを閉鎖したり、工場の一つのラインのみを止めたりして実施されるもので、あらかじめ参加する労働者が指定されることから「指名スト」とも呼ばれます。影響範囲が企業の生産活動や国民の生活の一部のみに留まるため、全面ストに比べて実施しやすいという点がメリットではあるのですが、その反面、経営側との交渉手段としての威力は限定的となります。
ストライキの種類②:経済ストと同情スト
ストライキは、その目的に応じて経済ストと同情ストの2種類に分類することも可能です。それぞれの意味は、次の通りです。
経済スト
経済ストとは、労働者が経済的な様々な要求を通そうとするために行われるストライキです。具体的に取り上げられることが多い要求には、賃金の見直しや労働時間の短縮、労働条件の改善といったものがあります。経済ストは、企業に対して直接的な影響を与えるため、企業側はストライキを回避するために交渉を行う場合が多いのですが、あまりに過度な要求をし過ぎると経営側が態度を硬化させてしまって交渉が前に進まなくなってしまうおそれがあるという点には注意しなければなりません。
同情スト
同情ストとは、他の企業の労働者が行う労働争議を支援することを目的として実施されるストライキです。この同情ストについては、一般的には、正当な争議行為とはいえないという見解が有力に唱えられており、憲法で認められている保障があるかどうかが問題となるケースが少なくありません。もっとも、原ストで争点となっている労働条件と同情ストに参加している労働者の労働条件が直接的および間接的に関連しているような場合には、同情ストも憲法に基づいて認めるという見解もあるため、一概に違法な行為であるというわけではないという点を頭に入れておくとよいでしょう。
ストライキの歴史
人類の歴史においてストライキは古くから行われており、例えば、古代エジプトではファラオの墓の建築に駆り出された労働者が集団で作業を行うのを辞めたという記録が残されています。資本主義が確立した産業革命以後になると、ストライキはより社会的な意義を持つようになり、日本においても、明治に入って資本主義が勃興してからは散発的に行われるようになりました。1900年の治安警察法によって一時的に下火になったものの、大正期になって労働組合法が制定されたために再び活発化しています。戦時中は労働争議そのものが厳格に禁止されたためストライキは行われなくなりましたが、戦後になってGHQの指導のもとで労働組合法や労働関係調整法が整備されたことによって、ストライキ権や団体交渉権は明確に保障されるようになりました。もっとも、高度経済成長期になってからは、経済が安定したことに加えて、労使協調の傾向も強まったため、実際にストライキが行われるケースは少なくなりました。もっとも、まったく実施されなくなったという訳ではなく、2023年には大手百貨店で実際に行われた事例が存在します。
ストライキを行うための要件
ここからは、ストライキを正当に行うためにはどのような要件を満たす必要があるのかを見ていきましょう。要件を満たさずに行うと、違法行為として処罰されてしまう可能性もあるため、注意しなければなりません。
労働組合による実施
まず第一に、ストライキは労働組合の総意において行う必要があります。組合の意思に反して実施した場合には、正当性が認められませんので、必ず事前に決議を行うようにすることが重要になります。なお、総意といっても、必ずしも全会一致でなければならないという訳ではありません。組合の規約において認められた正規の手続きにおいて同意が取れた場合にはストライキを行うことができるのです。一般的には、無記名投票を行って過半数の賛成が得られた場合には、組合の同意が取れたものとして扱われるケースが大半です。
団体交渉上の目的
第二に、ストライキの目的は経営側との労働条件の交渉に関するものであることが必要とされています。例えば、社会問題に抗議するためにストライキを行った場合には、目的の正当性が認められず適法ではないと判断されてしまう可能性が高いのです。
正当な手段や態様
第三に、ストライキは正当な手段や態様を用いて行うようにしなければなりません。暴力的な行為や威嚇を伴うような形で実施した場合には、この要件を満たさなくなってしまいますので、くれぐれもそういった行為は慎むようにしましょう。
経営側との十分な事前協議
経営側との事前協議を行わずにストライキを行うことは認められていません。あくまでもストライキは労働者側が取り得る最後の手段であり、事前に交渉や調停を試みた上でなければ実施することはできないのです。
法律で禁止されたストライキでない
公務員や国家公安委員会職員など、法律でストライキを禁止されている職種があります。そういった職種に従事する労働者の場合は、残念ながらストライキを行うことはできません。
ストライキとは何かを理解しておこう
ストライキは労働者に認められた重要な権利です。かつてのように頻繁に実施されるケースは少なくなりましたが、個々には交渉力に乏しい労働者が強大な権力を持った経営側と対峙するための有力な手段の一つであることには変わりありません。そのため、自らの権利を守るためにも、基本的な内容についてはしっかりと理解しておくようにしましょう。
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