2023年6月13日に、日本政府はこども未来戦略方針を閣議決定しました。しかしながら、「異次元の少子化対策」といったフレーズと相まってメディアなどでも盛んに取り上げられたため、方針ができたということは見聞きしているものの、その目的や内容等について詳しく理解しているという方は少ないのではないでしょうか。そこで以下では、方針の内容や実施時期等について詳しく見ていくことにします。
こども未来戦略方針の策定の背景とその目的とは?
まずはじめに、こども未来戦略方針が策定されるに至った背景とその目的について見ておくことにしましょう。
方針策定の背景
今回の方針が策定された背景には、日本が直面している深刻な少子化の問題があります。2022年における国内の子供の出生数は77万747人となり、これは統計が取られ始めた1899年以降で、最低の数字です。1949年に誕生した子供の人数が約270万人であったことと比べると、実にその3分の1以下の水準にまで落ち込んでいるのです。それに加えて、2022年の合計特殊出生率は1.26とこちらも過去最低の水準となっており、少子化のスピードは加速している状況です。実際、出生数は2016年に100 万人を割り込んだのを皮切りに、2019年には90万人、2022年には80万人をそれぞれ下回っており、このままの流れが続くと2060年頃には50万人以下になることが予想されています。このような少子化のトレンドは、人口減少を加速化させるものであり、実際に2022年の1年間で日本の人口は80万人の自然減となっています。状況が改善しない限りは今後も毎年100万人規模のスピードで人口減少が進み、日本の総人口は、2050年代には1億人、2060年代には9,000万人をそれぞれ下回って、2070年には8,700万人前後になってしまうという試算が出されているのです。これはわずか半世紀ほどの期間で、人口の3分の1を失うことを意味します。
方針の目的
このような深刻な人口減少を放置していると、社会や経済に多大な影響を及ぼしかねません。例えば、今のペースで人口が減少し続けると、企業が頑張って労働生産性を上昇させたとしても、GDPを拡大させることは容易ではなく、いずれインドやインドネシア、ブラジルといった急激に経済成長を遂げる国々に、経済規模で抜かれることは避けられません。それが現実となった場合には、国際社会における存在感を失うおそれがあるのです。このような状況を打開すべく、日本の持てる力を総動員して少子化対策や経済成長の実現に向けて不退転の決意で取り組むことを目的として策定されたのが、こども未来戦略方針なのです。
こども未来戦略方針が掲げる基本理念とそれを踏まえた加速化プランとは?
こども未来戦略方針では、「若い世代の所得を増やす」、「社会全体の構造・意識を変える」、「全てのこども・子育て世帯を切れ目なく支援する」という3項目を基本理念として掲げています。その上で、それらの理念の実現に向けて、3年間を集中取り組み期間と位置付けて、できる限り前倒しして加速化プランと呼ばれている様々な取り組みを実施することとしているのです。ここでは、当該プランにどのような内容が盛り込まれているかという点やそれぞれの施策がいつから実施されるのかという点について、より詳しく見ていくことにします。
具体的な施策とは?
加速化プランの中で具体的な施策として挙げられている取り組みは実に多岐にわたるのですが、その中でも報道等で特に注目を集めたのが、児童手当の所得制限の撤廃と支給期間の高校生年代までの延長です。併せて、高校生の扶養控除との関係の考え方についての整理が論点として挙げられているというのは要注意ですが、この施策が実現されれば多少なりとも少子化対策につながるのではないでしょうか。なお、方針中では、2024年度中に実施できるよう検討することとされています。
また、それ以外に10万円の出産・子育て応援交付金の制度化や2026年度を目途として正常分娩時の出産費用の保険適用の導入等の出産に関する支援策の一層の強化についても検討することとなっています。さらに、貸与型奨学金の減額返還制度を利用可能な年収上限の引き上げや、授業料等の減免、給付型奨学金の拡大に加え、2024年度において修士段階の学生対象にした授業料後払い制度を導入することも謳われています。その他、短時間労働者について、被用者保険の適用拡大や最低賃金の引き上げを検討することが盛り込まれています。さらに、いわゆる106万円や130万円の壁問題への対応策なども講じられているのですが、特に男性の育児休業取得率の目標や育休給付率の引き上げ、選択的週休3日制度の普及に向けた取り組みなどは、企業への影響も大きい施策であるため、実施に向けてはその内容をしっかりと確認するようにしなければなりません。
安定的な財源の確保について
加速化プランとして挙げられている諸施策を実施するためには、多額の費用が必要になります。そこで、こども未来戦略方針では、「こども金庫」と呼ばれるこども・子育て支援のための新たな特別会計をこども家庭庁に創設するとともに、既存の事業を統合して、一連の政策の全体像と費用負担の透明化を進めることとしています。その上で、2028年度に向けて徹底的に歳出改革などを推進し、公費節減や社会保険負担軽減等の効果を活用しつつ、消費税の増税といった形で実質的に国民への追加負担が生じないことを目指すこととしているのです。なお、財源の確保に向けては、企業を含めた社会全体が連帯して、公平な立場で広く負担していく支援金制度の構想も盛り込まれています。具体案については2023年内に結論を出すこととなっているのですが、場合によっては一部の企業が支援金への協力が求められる可能性があるという点に留意しなければなりません。
こども・子育て予算倍増
加速化プランの実施に向けた予算の規模としては、おおむね3兆円程度が見込まれているのですが、これについては高等教育や貧困・虐待の防止、障害児・医療的ケア児への支援策などの拡充を検討した上で、3兆円台半ばまで充実させることになっています。さらに、より一層の子育て支援の強化に向けて、こども家庭庁の予算ベースで2030年代の初頭に向けて国の予算を倍増させるか、子供1人あたりの国の予算を倍増させることを目指す旨がプランの中に明記されているのです。
こども未来戦略方針が及ぼす企業への影響とは?
前述の通り、こども未来戦略方針の加速化プランの中には、企業に何らかの影響を与える施策が少なくありません。そこで以下では、そういったいくつかの施策をピックアップして紹介します。
106万円や130万円の壁問題への対応
加速度プランでは、106万円の壁や130万円の壁といった問題を気にせずに働くことができるように、社会保険の適用範囲を短時間労働者に拡大したり、最低賃金の引上げに取り組む旨が定められています。さらに、106万円の壁を超えても従業員の手取り収入が逆転することがないように、労働時間の延長や賃上げに取り組む企業に対し、費用補助等の支援強化パッケージを2023年中に決定して実行することになっているのです。企業からすると受けられる支援策が充実することになるため、それを前提として年収の壁の問題への対応がしやすくなる可能性があります。
男性の育児休業の取得促進
男性が育児休業を取得しやすくするために、一般事業主行動計画において、男性の育児休業取得を含めた育児参加や育児休業からの円滑な職場復帰支援、育児のための時間帯や勤務地への配慮等に関する行動といった内容が盛り込まれる予定となっています。加えて、2023年4月1日からは、1,000人以上の従業員を擁する企業は男性の育児休業の取得率の公表が義務付けられていますが、さらに一歩進んで有価証券報告書における開示まで検討することになっているのです。この施策が実施された場合には、対象となる企業においては、一般事業主行動計画の見直しや情報開示の見直しなどが求められるおそれがあるでしょう。
その他
以上の他にも、企業の経営に影響を及ぼし得る施策として、育児休業給付の給付率の引上げや短時間勤務等の柔軟な働き方の拡充などが加速化プランに盛り込まれています。
こども未来戦略方針の内容を正確に理解しておこう
こども未来戦略方針は深刻化する日本の少子化に対応するために政府が策定した重要な方針であり、その中には企業の経営に多少なりとも影響を及ぼし得るものが少なくありません。あらかじめどういった内容が盛り込まれているかやいつ頃から実施されているかを理解しておけば、いざ対応を求められた場合にも慌てずに済みますので、企業の経営者や人事担当者の方はぜひここで紹介した内容を理解しておくとよいでしょう。
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