第1回では、次世代リーダーに必要な素養、第2回では、次世代リーダーを見極める具体的な手法についてご案内しました。第3回目では、長期的な視野でのリーダー育成についてご案内します。次世代リーダーを育成する際は、選抜した人材への教育と経験によってスキルを伸ばすこと、人材育成を促進する組織文化の醸成が期待されます。

教育×経験

人材育成を計画する上では、ロミンガーの法則が有名です。アメリカのロミンガー社がさまざまな経営者に「リーダーとしてどのような経験が成長に役に立ったのか」と質問したところ、得られた法則です。「経験:70、薫陶:20、研修:10」。このことは、経験を通じた学びを得ることがリーダーとしての成長に大きく寄与するといえます。つまり、「仕事は仕事の経験によって最も成長」し、「仕事を通じた修羅場経験は、リーダーとしての活躍に大きな意味を持つ」とも言い換えられます。多くの組織でお聞きするのは、現場任せの人材育成になっているため、人材を育成する土壌の有無が職場によって大きく異なることです。

次世代リーダーを育成するためには、成長する場を意図的につくっていくことが求められます。例えば、異動ローテーションや新規事業の立ち上げなどはイメージがしやすいところです。一方で、新規事業の立ち上げは失敗する可能性も高く、失敗した場合には大きなコストになる可能性があるため、躊躇する声を多くの経営者からお聞きします。また、異動ローテーションは、これまで定期的に行うことがなく、常に玉突き人事を行っている組織ではハードルが高く、定期的な実施を実現するまでに数年かかる場合も珍しくありません。しかし、ロミンガーの法則を実践するには、異動ローテーションや新規事業の立ち上げなど、手段は違えど「痛みを伴う修羅場経験」を仕組み化することが重要です。

このような修羅場を経験するからこそ、2割の薫陶と1割の研修がより深い意味を持つものであるとも考えられます。自らが壁に当たったときにタイミングを逃さずに、上司からかけてもらった一言は、深い気づきにつながるでしょう。また、多忙な日常からふと1~2日離れて経験を一般化したり、学びの整理をしたりすることが、日常業務に戻ったときに、「成長しているという実感」につながるかもしれません。このように、経験と教育を意図的に組み合わせ、仕組み化することで、目的をもって人材を育てることがリーダー育成には重要です。

リーダーシップ・パイプライン

リーダーシップ・パイプラインとは、次期リーダーを安定的かつ円滑に育成し続ける組織的な仕組みを指します。この仕組みを活用し、組織全体としてトップからボトムまで一貫して切れ目ないパイプラインをつなげ、リーダーの育成を目的とします。リーダーシップ育成を進めていく上では、成長に必要な挑戦的な段階を乗り越えていくことが求められます。新しいスキルを学び、業務の時間配分を再設定し、業務の重要性を再認識するなど、より影響力の範囲と専門性を深め、ポジションごとに期待される役割に応じて職務の幅を広げることが求められます。

また、リーダーに求められるのは、知識やスキルだけではなく、感情をコントロールするスキルも必要です。より上位のポジションになればなるほど、EQを高め、逆境を乗り越えて成長し続けるレジリエンス力を磨くことが大切です。

では、「どうしたらEQを高められるのか?」「レジリエンス力を磨けるのか?」という問いも受けることがあります。確かに、一朝一夕に伸びる力ではないため、長期にわたって意図的に育てていくことが求められます。例えば前述のように、意図した教育×経験は欠かせません。また、1on1やリーダー同士の対話を通じて、コーチングや振り返りの場を持つことが挙げられます。そして、これらを組織文化として醸成することができると、他社から模倣されにくく、自組織の価値がさらに高まると期待できます。

組織文化

リーダー育成の成功には、企業の組織文化が大きな役割を果たします。組織文化とは、企業内に根付いた価値観や行動規範を指します。組織文化の特徴は「目に見えない」「明文化されていない」ことです。目に見えず、明文化されていないため、急激には変わりません。組織が形成されると同時につくり出され、組織の中にいる人が変わっても組織文化は残り続けます。この一見捉えどころのない組織文化は、組織の生産的な活動にとって良くも悪くも作用します。

次世代リーダーの育成が成功している企業に共通してみられる点として、「経営陣が人材育成に本気でコミットしている」ことが挙げられます。逆に言うと、組織の重要な施策に対し、トップが本気で取り組んでいないのに成功する例はほぼないといえます。トップである経営陣が社員に向けて自らの言葉で発信し、自ら育成の現場に足を運ぶことは、社員にとって「経営陣にとって、人材育成はわが社の重要な課題なのだ」というメッセージになります。組織の大小を問わず、トップのメッセージや姿勢は、組織文化をつくり上げる一つの大きな要素であることは間違えありません。

団結

最後に

次世代リーダーを育成するには、経験、教育、スキル、EQの啓発とそれを支える組織文化の醸成において欠かせない要素です。企業においては、個々のリーダー候補者が成長するための明確なキャリアパスと、革新を促す組織風土が相乗効果を生み、企業全体の持続的な成長と競争力向上に大きく影響します。これからの企業経営において、選抜だけでなく、育成と組織文化の両輪が、未来のリーダーを支える重要な鍵となることでしょう。

この記事を読んだあなたにおすすめ!

こちらの記事もおすすめ!
お役立ち情報
メルマガ無料配信

お役立ち情報満載!ピックアップ記事配信、セミナー情報をGETしよう!

人事のプロが語る、本音のコラムを公開中

人事を戦略に変える専門家たちが様々なテーマを解説し、"どうあるべきか"本音 で語っている記事を公開しています。きっとあなたの悩みも解消されるはずです。


お役立ち資料を無料ダウンロード
基礎的なビジネスマナーテレワーク規定、管理職の方向けの部下の育て方評価のポイントまで多種多様な資料を無料で配布しています。ぜひご活用ください。