この記事はシリーズです。前回分は以下リンクから確認できます。

弊社は、組織・人事のコンサルティング会社として様々な業種・業界の企業、規模は大手から中堅・中小まで多くの企業様と取引をしております。クライアント企業をご支援する際には、当該企業の経営者や役員・管理職の方々にインタビューを実施するため、企業の内部事情の詳細を把握することが出来ます。様々な企業のご支援を通じて、どの業界にも必ずといっていいほど、「業績を上げ」且つ「部下をどんどん育てられる」マネジャーがいらっしゃることが分かります。言わば、優秀なマネジャーがどの業界にも存在します。弊社は、各業界の優秀なマネジャーに接しているため、優秀なマネジャーの共通点を見出すことが出来ます。このコラムでは、優秀なマネジャーの特徴を紹介いたします。是非、疑似体験をしていただければと思います。

X社の事例

X社は、住宅事業・フランチャイズ事業・外食事業を営んでいます。創業は住宅事業から始まり、続いて住宅事業に関わるフランチャイズ事業を立ち上げた後に、異業種である外食事業を新規事業として始めた会社です。X社をご支援するにあたり、80名前後のインタビューを実施しました。その時の様子は以下のような状況でした。

住宅事業の事業部長にインタビューした際に「うちの会社は社長が変わらなければ、変わらない」といった声が挙がりました。当該事業部長の部下の方々も同様の発言が多く出て来ました。続けて、フランチャイズ事業の事業部長をインタビューした際も、社長が変わらなければ変わらないといった主旨のことを仰っていました。フランチャイズ事業の社員の方々も異口同音に同様の発言が多く挙がりました。最後に、外食事業の店長(このコラムではPさんと呼びます)をインタビューした際には、「うちの社長は最高です。何でも任せてもらえます」との発言がありました。他の住宅事業とフランチャイズ事業の社員の方々と真逆のことを言っていました。店長(Pさん)の部下の方々からも同様に、社長に対するポジティブな発言が多く聞かれました。

住宅事業・フランチャイズ事業・外食事業の事業部長の上司は、同じ社長なのですが、全く見解の異なる意見が挙がりました。事業部のトップの“上位職に対する認識”が部下へ多大な影響を与えていると言えるでしょう。この点から1つ言えることはPさんは「会社が悪い、上司が悪い」ではなく(そういう側面も一定程度あるかもしれないが)、まずは自分がやるべきことをやれているのか考えていました。会社や上司のせいにはしていませんでした。“上がどうとかではない、自分がどうなのか”といった姿勢が見られました。

このPさんは以下のような業務実績を上げています。

  • 最初は、工場の製造職からスタート
  • 自身が担当する工程の効率化に尽力
  • 担当工程を更に効率化するには、自社の工場の取組だけでは難しいと感じ、取引先の工場へ出向き、取引先の工場の実態を自分の目で確かめ、巻き込みながら更なる効率化を実現
  • 新規事業である外食事業に店長職として異動
  • 担当店舗のコスト削減をするために、自身が料理経験ゼロにも拘らず、自宅でキャベツの千切りを練習。これまでは、カット野菜(既にカット済の野菜)を仕入れていたが、生のキャベツを仕入れることで、コスト削減を実現
  • フランチャイジーの店舗としてのコスト削減の取組だったにもかかわらず、本部であるフランチャイザーが正式にそのコスト削減のやり方を採用し、全社の標準のやり方になる
  • 顧客満足度アンケートで全店舗500店中1位。(アンケート回答率も1位)

上記のような素晴らしい業務実績を残された方でした。

Pさんとのインタビューで特に印象に残ったやり取りがあります。

私:「Qさん(Pさんの部下)から聞きましたが、店の学生アルバイトの人たちが、(勤務時間外である)お店が開店する前に、お店の近隣の企業を回って店のチラシを撒いているそうですが、それは、店長が指示してやっている取組ですか」
Pさん:「いいえ、私は特に何も指示していません。学生たちが自主的にやっているんですよ」

学生アルバイトと言えば、通常、時給目的で働く場合が多いかと思いますが、当該店舗の学生アルバイトの方々は、無給でも自主的にお店の集客のために動く姿がありました。この店で働くと、“時給などはどうでもいい。兎に角、うちの店は最高なので多くの人に来て欲しい。”という感覚になるようです。時給目的から顧客貢献目的に変わってしまうのです。部下もどんどん育っていました。

このコラムをここまで読まれた方は、Pさんに対してどのようなイメージを持たれましたでしょうか。私が、Pさんと相対してインタビューした際の印象は、書籍「ビジョナリーカンパニー2」にある第5水準のリーダーシップの記述内容とほぼ同じでした。
ここに引用します。

万事に控えめで、物静かで、内気で、恥ずかしがり屋ですらある。個人としての謙虚さと、職業人としての意思の強さという一見矛盾した組み合わせを特徴としている。

私自身、Pさんのインタビューをしてからかなり後に、ビジョナリーカンパニー2を読んだのですが、“将に我が意を得たり”という感覚になったことを覚えています。

(参考)リーダーシップの水準

第1水準 有能な個人 個人として優れた能力ややるべきタスクに対する勤勉さを持つ
第2水準 組織に寄与する人 組織が掲げている目標に向かって、各々の能力を発揮してほかの社員と協力していける
第3水準 有能な管理者 人材や資源を組織化して管理し、目標達成に向けて常に最適な道筋を模索して実行していく
第4水準 有能な経営者 会社が向かっていく方向について明確で現実的なビジョンを提示し、目標達成に向かって誰もが努力していける刺激を与えられる
第5水準 第5水準の経営者 万事に控えめで、物静かで、内気で、恥ずかしがり屋ですらある。個人としての謙虚さと、職業人としての意思の強さという一見矛盾した組み合わせを持つ

Pさんは、「工場での効率化」や「店舗のコスト削減」等、職業人としての意志の強さを持ち合わせつつ、学生アルバイトへ細かく指示を出すこともなく、学生アルバイト達が自然と“お店を繁盛させるにはどうしたらいいか”を自主的に考えて行動するような状況を生み出していました。学生アルバイトの仕事観を変えてしまうマネジメントをされていました。

自分たちの仕事は、ただ単にお客様にお食事を提供するだけではなく、店に入った瞬間にお客様が自分の仕事の悩みを吹き飛ばしてしまうくらいの最高の空間を提供する仕事であることを体現されていました。学生アルバイトの方々はその姿に感化されていったのです。自分たちの仕事の意義を感じながら働いている姿を目の当たりにしました。

Y社の事例

これに類する例をもう1つだけ紹介いたします。店舗系ビジネスを営む企業のエリアマネジャーの事例です。当該企業のエリアマネジャーと店長向けの研修を担当した時の話です。当該研修では、受講者のグループ分けを「エリアマネジャー1人と店長4人のグループ編成」で、エリアマネジャーに議長役をやっていただく想定で実施しました。研修中にグループ討議をしてもらった時に驚いたことは、Rさんはグループワークでほとんど発言がありませんでした。
”この人はやる気あるのだろうか。なぜ、エリアマネジャーに選ばれたのだろう“ということが私の第一印象でした。

ところが、当該企業の人事の方に聞いてみると、Rさんは旗艦店の立上を社長から指名で毎回任せられるとのことでした。旗艦店を軌道に乗せ、Rさんの元で、店長が数多く輩出されているとのことでした。

このRさんに対する私の印象も「万事に控えめで、物静かで、内気で、恥ずかしがり屋ですらある」と一致していました。ただ、後段の「職業人としての意思の強さ」は、研修の最中は分からなかったのですが、後に、Rさんの部下にインタビューした際に、判明していきました。Rさんの部下である店長たちにインタビューしてみると、“強力な競合店がひしめく中、会社の命運を掛けた旗艦店の新規立上を軌道に乗せる”意志の強さが浮かび上がってきました。研修中のグループワークでは全く分からない側面でした。

考察

例示した2名(Pさん、Rさん)に限らず、「業績を上げ」かつ「社員をどんどん育てられる」マネジャーは、業種・業界を問わず、みな共通して上記の特徴がありました。マネジャー全員がそうあるべきということでもなく“1つの類型”と思いますが、「ビジョナリーな会社を目指すのであれば」、必要なことと考えます。“控えめで、物静かで、内気で、”という特徴は「社員の自主性を引き出すこと」に役立っていると考えます。

逆の言い方をすると、上位職が前に出過ぎると、部下の自主性の阻害要因になることが多くあります。“心理的安全性を確保出来ない”という相談もよく受けますが、 “個人としての謙虚さ”の要素が充分ではない可能性があると考えます。

業績向上と社員成長の同時達成を実現しているマネジャーの特徴

  • 決して会社や上司のせいにしない
  • 個人としての謙虚さと
  • 職業人としての“意思の強さ”を持ち合わせている

「業績を上げ」かつ「人をどんどん育てられる」マネジャーの共通点として他の要素も多々ありますが、今回は3つだけ絞って紹介しました。Alternative Viewpoint(異なる視点)として、1つ1つ貴社のマネジャーを点検し、今後のマネジメント開発に役立てていただければ幸いです。

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