この記事はシリーズです。前回分は以下リンクから確認できます。
企業内人材育成を支援する“育成屋”こと、ある組織開発コンサルタントが綴る現場のリアルと人事の本音。登場する組織・人物はすべてフィクションですが、どこかで聞いたような話かもしれません。
そう語るのは、某メーカーの若手エース・佐藤くん(仮名)。30代前半、社内でも頭角を現しているDX推進プロジェクトメンバー……だったのだが、最近は「リスキリング」と称して、黙々とeラーニングに励んでいる。
「会社としては、リスキリング支援してるつもりなんですけどね……」
と、ぼやくのは人事部長。人事制度にも評価にも反映されていないその“支援”は、若手社員にとっては「転職準備の補助金」であり、中堅には「やれと言われて動画を流し見する作業」に近い。


スキル習得は、登山か迷子か
リスキリングという言葉には、何かこう、“自分を磨きなおす”崇高な響きがある。だが現場から聞こえるのはこんな声だ。
- 「何を学べばいいのか分かりません」
- 「上司も分かってないのに“やれ”って言うんですか?」
- 「スキル診断?スキルって言っても…コミュ力ですかね」
- 「動画は観ました(再生ボタンは押した)」
育成屋として見ていて思うのだ。
これ、「リスキリング」っていうより……「迷子の旅」だなと。地図は曖昧、目的地は未設定、同行者は無言。本人のやる気だけが頼りでは、そりゃ道中でアイス食べて帰る人も出るわけだ。
なぜ迷子になるのか:三つの迷子症状
企業内リスキリングがうまくいかない理由は、大きく3つに分類できる。
目的地があいまい(=なぜ今、それを学ぶのかが不明)
「会社として何がしたいのか分からない」
「“DXスキル”って、つまり何?」
本人のキャリアと、会社の戦略。ここが接続していない。本人には意味不明、会社には期待不明。ゆえに「転職の準備」に変換される。
ゴールのない評価制度
「学んでも、評価も何も変わらない」
「むしろ業務時間削って受講して怒られた」
スキル習得が人事制度や配置、評価と連動していなければ、学びは“趣味”になる。趣味なら好きなことをやる。そりゃあPythonよりコーチングを学びたくなるだろう。
会社の“声かけ”が下手
「制度はあるけど、誰も知らない」
「自己啓発のページが社内ポータルの8階層奥にある」
せっかくの支援制度も、発信しなければ「やってない」のと同じ。しかも、「人事からのメール=またアンケートか」と思われている場合は、なおさら届かない。

迷子にしないための三つの工夫
ではどうすれば“迷子の旅”にならず、“意味のある挑戦”に変えられるのか。育成屋として、現場と制度をつなぐためのポイントを三つ挙げておこう。
地図を渡す:誰に、何を、なぜ学ばせるのかを可視化する
役割定義・スキルマップ・キャリアのルート設計。とくに「次世代リーダー」「デジタル推進人材」「営業の再定義」など、重点テーマを持たせる。
進んだら報いる:評価や配置と連動させる
学んだだけで評価するのではなく、それを業務に活かしたかをフィードバックできるようにする。社内副業、プロジェクト型配置などで「練習試合の場」を用意すると良い。
みんなで旅する:伴走者やメンターの設計
「社内リスキリング・ガイド」的な存在が必要。人事部だけでなく、現場の推薦人材や「学びの先輩」としての社内インフルエンサーを設けるのも効果的だ。
学びの旅は、道に迷うこともある。でも、地図があり、仲間がいれば、人は「歩き続けよう」と思える。
会社がその“旅の設計者”としての責任を持つなら、リスキリングは迷子ではなく、「次の一歩を踏み出す道」になるだろう。
おまけ:育成屋のひとりごと
会社が学んでほしいのは“未来”なのに、若手が学んでいるのは“転職サイトの使い方”だったりします。
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