大学生の3人に1人が利用している「奨学金」。しかし、社会に出た若手人材にとって、その返還は経済的な負担にとどまらず、キャリア形成・ライフプラン設計・メンタル面などに長期的な影響を及ぼしています。本記事では、弊社が実施している「奨学金返還者の座談会」にご参加いただいた社会人の皆様の実体験をご紹介し、若手社員が置かれている現実を可視化するとともに、企業が持つべき視点や、組織として取り組める支援策について考えていきます。

今回は、東京出身で都内のIT企業に勤める38歳のA.Oさんへのインタビューをお届けします。

奨学金が「命綱」だった大学生活

奨学金バンク: A.Oさんは高校生の頃、日本学生支援機構(以下、JASSO)の貸与型奨学金の第一種と第二種を併用して申し込まれたとのことですが、当時、奨学金に対してどのような認識をお持ちでしたか?

A.Oさん
私の家庭では「大学に進学するなら奨学金を借りるのが当然」という空気がありました。兄も奨学金を借りて進学していたので、それが当たり前だと思っていました。家計の状況はよくわかっていませんでしたが、親に負担をかけずに進学できるのであれば利用したいという気持ちでした。周りの友人たちも申し込んでいたので、特に迷いもなく借りることを決めたという感覚です。


奨学金バンク:
なるほど。ご兄弟やご友人のような身近な人が利用していると、大学進学のための一般的な選択肢のひとつに感じられますよね。当時、返済についてはどのように考えていましたか?

A.Oさん
「貸与」なので、「働き始めたら自分で返していくもの」という認識は持っていました。ただ、高校生の段階では、卒業後の返済について具体的なイメージはまったく持てていませんでした。高校にJASSOの方が来て説明会を開いてくれましたが、返済について詳しい説明を受けた記憶も正直あまりないんです。


奨学金バンク:
受験のことで精一杯な時期ですよね。その後、無事に奨学金の申請が採択され、大学にも合格して進学されましたが、大学生活はいかがでしたか?

A.Oさん
はい。無事に進学できて、興味のある分野の学びに日々にとても充実感がありました。
ただ、在学中に家計を支えていた父が突然亡くなってしまい、それまでの暮らしが一変しました。家賃や生活費まで全て自分で負担しなければならなくなったんです。


奨学金バンク:
それは本当に大変でしたね。本来は学費のために借りていた奨学金を、生活費に充てざるを得ない状況になったということでしょうか。

A.Oさん
まさにその通りです。アルバイトはしていましたが、学業との両立には限界がありました。
正直、あのとき奨学金がなかったら、大学を辞めざるを得なかったと思います。「奨学金がない生活は考えられない」と今でも思います。当時の私には、奨学金が“命綱”でした。

毎月3.5万円の返済と365日働き続ける日々

奨学金バンク: 大学を卒業後、第一種と第二種を合わせて、月額3万5千円の返済がスタートしたのですね。新卒のころは比較的給与水準も高くない中、この額を毎月捻出するのは大きな負担だったのではないでしょうか。

A.Oさん
とても大きな負担でした。新卒で入った小売業の会社は、正直、収入は多くありませんでした。毎月、生活がギリギリで、貯金どころか、趣味や交際費にまわす余裕はほとんどなかったんです。会社の飲み会も断ることが多かったので、なんとなく浮いている気がしていました。周囲の友人と比べて劣等感を抱くこともありました。精神的にも経済的にも、常に重いものがのしかかっているような感覚でしたね。


奨学金バンク:
そのような状況を打開するために、転職を決意されたと。現在のIT企業を選んだのは、どのような理由からでしょうか。

A.Oさん
新卒3年目のタイミングで転職しました。一番の理由は、副業が認められている環境を選びたかったからです。奨学金の返済と、将来への漠然とした不安を少しでも和らげるために、本業以外の収入源を確保する必要があると考えました。


奨学金バンク:
現在は、具体的にどのような働き方をされているのですか?

A.Oさん
平日は本業に従事し、夜間や週末にはスキマバイトをしています。365日、何らかの仕事をしているという日々が続いています。


奨学金バンク:
365日…。それは本当に頭が下がる思いです。転職後、生活に変化はありましたか?

A.Oさん
はい。ようやく最近になって、収入に少し余裕が出てきました。それで、ずっと行きたかったフィットネスクラブに通い始めたんです。毎日働き詰めで大変ではありますが、「ようやく少しだけ“自分のため”にお金を使えるようになった」という実感があります。これまでの苦労が報われたような気持ちです。

企業が今すぐ取り組むべき3つのアクション

奨学金の返済負担は、若者個人の努力や節約では解決しきれない“構造的な課題”です。その背景には、進学と教育に関する日本の現実があります。

日本政策金融公庫の調査では、高校生が大学進学を諦める理由の76.3%が「お金がないから」と回答しています。学費は過去40年で急騰し、私立大学の授業料は約1.8倍、国立大学では約2.4倍へと上昇しています。また、近年の物価高騰も相まって、家庭の経済的負担は年々増しています。JASSO「令和7年10月 奨学金事業に関するデータ集」によれば、大学生の約32%、つまり3人に1人が奨学金を利用しているのが現状です。

奨学金は進学の“命綱”である一方、社会人になると平均330万円の返還が始まります。この返還による経済的・心理的負担は、起業や勉学へのチャレンジ、結婚・出産などのライフステージの変化に積極的になる要因にもなり得ます。こうした状況を踏まえると、この問題は個人の責任ではなく、社会課題としてとらえるべきではないでしょうか。

そして、この問題は企業にとっても無関係ではありません。若手社員の成長や日々のパフォーマンス、定着に直接関わる“経営課題”です。だからこそ、企業が主体的に支援へ踏み出すことが求められています。

① 奨学金返還支援制度(代理返還)の導入

企業が従業員の奨学金返済を一部肩代わりする制度です。
これは若手の経済的不安を即時に軽減し、以下の効果が期待できることから、最もインパクトの大きい施策といえます。

  • 仕事に集中できる環境の実現
  • スキルアップ・自己投資の促進
  • 企業へのエンゲージメント向上
  • 離職防止・採用力強化

② 副業・兼業を認める柔軟な働き方の整備

返済負担を補う手段として、副業を希望する若手は増えています。
副業を認めることは収入補填だけでなく、以下のような効果も期待できます。

  • 新たなスキルの獲得
  • キャリアの自律性向上
  • モチベーション維持

③ 若手の不安に先回りする「対話と支援」体制の構築

奨学金返済と生活の両立は、メンタル面にも影響します。
企業が取り組める支援としては、以下のような施策が挙げられます。

  • 返済計画・金融リテラシー研修
  • 1on1やキャリア面談による早期フォロー
  • メンタルヘルスサポート

“返済の不安を抱えたまま働く若手を放置しない仕組み”こそが、長期的な成長につながります。

奨学金の返済負担は、一部の学生だけの問題ではなく、大学生の3人に1人が直面する社会的課題です。そして、若手が経済的不安を抱えたまま働く状況は、企業の採用・定着・育成にも大きな影響を及ぼします。民間企業が奨学金返還支援に踏み込むことは、若手の未来を守ると同時に、自社の未来を強くする戦略でもあります。
「奨学金のせいで学びや挑戦を諦める人を生まない」
その第一歩を担えるのは、次世代を雇用し育てる企業です。

奨学金返還支援制度を始めるなら「奨学金バンク」

「奨学金返還支援制度に興味はあるけれど、導入の手続きや事務作業が煩雑なのではないか?」そうお考えの経営者・人事ご担当者の方もいらっしゃるかもしれません。そんな皆様にご紹介したいのが、「奨学金バンク」です。

奨学金バンクは、日本初の奨学金返還を支援するプラットフォームとして、奨学金の返還負担を軽減し、個々のライフスタイルの変化や新しい挑戦に積極的に取り組むことができる社会を目指しています。この事業にご参画いただくことで、以下のようなメリットが得られます。

優秀な人材の確保(採用・定着)に貢献
面倒な申請手続きや管理業務をアウトソーシング可能
参画企業が増えることで、支援期間が延長する可能性(割当金制度)

奨学金バンクを活用することで、企業は手間をかけることなく、効果的に奨学金返還支援制度を導入・運用することができます。

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