前回のコラムで“経営者に関する心象風景”を紹介しました。今回は、ソニーを再生させた平井一夫氏に焦点を当てて、組織活性化のポイントをまとめました。彼の著作である「ソニー再生」のみならず、記者会見・講演等で発信されている公開情報を再整理し、再構成しています。

ソニーの状況

20251017日時点の時価総額ランキングを見ると、ソニーは4位になっています。

今でこそ、時価総額ランキングの上位に位置づけられる企業になっていますが、今から13年前(2012年)、株価は801円まで下がり(下記のグラフ参照)、最終赤字は4567億円になりました。

ソニーの株価が最も低かった時に、ソニーの社長に就任したのが平井一夫氏です。

平井一夫氏の経歴

平井一夫氏は、ソニー株式会社の元代表執行役社長兼CEOです。主な経歴は以下の通りです。

初期のキャリア

・1960年東京生まれ。
・国際基督教大学(ICU)を卒業後、CBS・ソニー(現ソニー・ミュージックエンタテインメント)に入社。

ソニーでの活躍

・ソニー・ミュージックエンタテインメントで音楽事業に携わり、のちにアメリカへ赴任。
・1995年、ソニー・コンピュータエンタテインメント・アメリカ(SCEA)に転籍し、プレイステーション事業の立ち上げに参画。
・SCEA社長、ソニー・コンピュータエンタテインメント社長を歴任。
・2006年、ソニー本社の執行役EVPに就任。
・2012年、ソニー株式会社の社長兼CEOに就任。

ソニーの再生

・就任直後からテレビ事業やモバイル事業の赤字、グループ全体の低迷に直面。
・構造改革を断行し、エレクトロニクス事業の選択と集中、イメージセンサーやゲームなどの収益力強化、経営のスリム化を推進。
・2018年に社長を退任。その後も取締役会長として経営に関与。

上記のように、ソニーの本流と言われていた「エレクトロニクス」出身ではなく、傍流と言われていた「CBS・ソニー」の法務からキャリアをスタートさせています。その後、アメリカのプレイステーション事業の立ち上げに参画しますが、日本人であることや音楽領域出身であることから、アメリカ人社員から「日本人が我々の何が分かるのか」「ゲームのことが分かるのか」「ヒライとは誰?」という目で見られる状況から始まったと言います。

後に、社長になり事業を成功に収め、日本のゲーム事業の社長になりますが、この時も、「アメリカと日本では違う」とお手並み拝見といった周囲の見られ方をしていました。更に、本体の社長になった際も、「本流であるエレクトロニクスのことを分かっているのか」「本当に黒字化できるのか」といった不安の声が多数挙がっていたそうです。しかし、結果として、時価総額ランキングの上位に位置づけられる企業へ成長を遂げる礎を築かれました。

ソニー再生に観る組織活性化のポイント

上記のようにソニーをV字回復させた立役者である平井一夫氏ですが、彼の著作「ソニー再生」のみならず、他の著作や記者会見・講演等で発信されている公開情報を再整理し、再構成してみました。まず、組織を立て直すには、モチベーショナルリーダーが必要であることを講演や雑誌記事やYouTube等で発信されています。

モチベーショナルリーダーの5か条

①正しい人間になる
②高いIQのチームを作る
③パーパス・ミッション・バリューを定義
④戦略立案
⑤現場へ行く

特に強調されていたのは、“戦略立案は4番目である”ということでした。そして、この順番が重要であることを主張しています。すなわち、たとえ④戦略立案が出来ていても①~③が出来ていなければ、うまく機能しないと述べられています。では、正しい人間とはどのような人間なのか

 一般的に評価される上司とは、業績を上げている人や豊富な専門知識を有する人ですが、それは 会社やリーダー側から見たロジックであり、部下から見たロジックとは違います。 部下は上司にIQの高さを求めているのではなく、EQ(心の知能指数)を求めていると言います。

正しい人間とは

Ⅰ. 人の話を聞く
Ⅱ. 公平・公正に判断する
Ⅲ. 明確な決定をする
Ⅳ. 気分の浮き沈みがない
Ⅴ. 責任をとる
Ⅵ. 手柄を独り占めにしない

次に、高いIQのチームを作るとはどういうことなのか見ていきます。
EQの高いリーダーには良い人材が集まるため、忖度なく議論できる場が作り出され、二つのインパクトをもたらします。一つ目は、一人で抱え込んで悩むのではなく、チームで議論してベストな アイデアを採用することから、正しい判断を下す確率が上がります。二つ目は、ワンマンではなくチームとしてベストな方向を決めていくことでモチベーションが上がります。周りのスタッフには忖度なく「異見」を言ってほしいとお願いしていたとのことです。最初は戸惑う人もいたそうですが、議論し、良いアイデアが採用され、発言の安全性が確保されれば、高いIQを持ったマネジメントチー ムが組成されることを述べています。

高いIQのチームを作る上でのポイント

ⅰ. 間違えたと言う
ⅱ. 教えてくれと言う
ⅲ. 他人のアイデアを採用する

意思決定をする際に、最も望ましいのは「正しい意思決定をすること」であり、最も良くないことは「意思決定をしないこと」と述べています。経営者も人間なので、常に正しい意思決定が出来るとは限らず、「間違った意思決定」をすることもあります。平井氏自身も沢山「間違った意思決定」をしてきたと言っています。「間違った意思決定」をした際に、「間違えた」ときちんと言うことが重要と述べています。

余談ですが、以上の内容を見ると、北条政子や徳川家康が帝王学を学んだと云われている「貞観政要」が想起されます。「貞観政要」には、トップが“全能感を捨てること”や“兼聴(耳を傾ける)”ことの重要性が説かれていますが、共通するものを感じます。

まとめ

様々な企業のご支援を通じて、「離職が止まらない」「社員のエンゲージメントが高まらない」要因として、下記の①②が疎かになっていることが多数見受けられます。今回のコラムは①と②について再整理・再構成しました。

モチベーショナルリーダーの5か条

①正しい人間になる
②高いIQのチームを作る
③パーパス・ミッション・バリューを定義
④戦略立案
⑤現場へ行く

正しい人間とは

Ⅰ. 人の話を聞く
Ⅱ. 公平・公正に判断する
Ⅲ. 明確な決定をする
Ⅳ. 気分の浮き沈みがない
Ⅴ. 責任をとる
Ⅵ. 手柄を独り占めにしない

高いIQのチームを作る上でのポイント

i. 間違えたと言う
ii. 教えてくれと言う
iii. 他人のアイディアを採用する

あらためて、上記①の「Ⅰ~Ⅴ」および②の「ⅰ~ⅲ」の項目が○なのか×なのか自社の点検をし、業績が上がり組織が活性化された会社に向けて、改革を推進していただきたいと思います。

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