奨学金制度の現状

日本学生支援機構(以下、JASSO)の調査によると、令和5年度には、大学生の約3人に1人が奨学金を利用しています。つまり、大卒で採用を行う企業の新卒社員の約3割が奨学金の返済を抱えているということが推測できます。そして、奨学金の平均貸与総額は一人当たり約313万円で、大学卒業後に約15年かけて返済するのが一般的です。また、現在奨学金を返還中の方は、令和5年時点でトータル491万人に上り、総貸付残高は9兆3,701億円にも達します。この総貸付残高は、少子高齢化が進む中にもかかわらず、過去10年間で約2兆円も増加しており、その背景には、物価上昇や学費の高騰に加え、今後ますます増加が見込まれる社会保険料に対し、賃金が過去30年間ほぼ横ばいという日本の経済状況が反映されています。このような状況下では、学費の差額を埋める手段として奨学金を借りざるを得ない学生が多いと考えられます。

支援企業が増えている「奨学金返還支援(代理返還)制度とは」

こうした中、近年注目を集めているのが、企業による「奨学金返還支援(代理返還)制度」です。これは、企業が従業員の奨学金返還を一部または全額肩代わりする制度で、2021年にJASSOが創設しました。この制度の利用企業数は着実に増加しており、2024年10月末時点で、全国で2,587社が導入しています。これは、奨学金問題に対する企業側の意識の高まりと、この制度がもたらす様々なメリットへの期待の表れと言えるでしょう。

2024年12月末に発刊された労政時報2090号でも、奨学金返還支援に関する特集が組まれており、その注目度の高さが窺えます。そこに掲載されていた、企業独自の奨学金返還支援制度を運用している2社の事例をご紹介します。

大東建託

大東建託では、年間最大10万円、最長5年間の総額50万円を支援する制度を設けています。その支給方法として、JASSOの奨学金利用者に対してはJASSOへ直接送金し、その他の奨学金利用者に対しては冬季賞与時に上乗せして支給しているとのことです。この取り組みの背景には、新卒・第二新卒社員を積極的に採用するとともに、若手社員の定着を図りたいという意図がありました。実際、2024年度に入社した新卒・第二新卒社員のうち3割に当たる62人を含め、合計で155人がこの制度の利用を申請しています。この結果として、奨学金返還支援制度を導入していることを企業選択の基準とした学生がインターンシップに参加し、内定者の約35%が「奨学金支援制度が内定承諾の決定に影響を与えた」と回答したそうです。

フジテック

一方、フジテックは、従業員の賃金に返還金額分の手当を上乗せする「手当等支給型」の制度を採用しており、支給金額は月額最大2万円で、最長10年間支援するということです。この取り組みの背景には、若手社員の離職が課題となっており、定着率を向上させたいという目的がありました。支援対象者は約150人で、延べ約180件の奨学金を返還支援しており、「公平性の担保」という観点から、支援対象者の範囲に偏りがないように制度設計されています。その結果、2023~24年度の新卒社員においては、本制度導入後の離職者がゼロとなっており、若手社員の定着率向上に一定の効果があると分析されています。

企業が奨学金返還を支援するという新しい動きは、単に経済的な支援に留まらず、人材戦略や企業イメージ向上にも繋がる可能性を秘めています。それでは、企業がこの制度に取り組むべき具体的なメリットについて詳しく解説していきます。

企業が取り組むべき4つのメリット

人材の確保

奨学金返還支援制度は、採用と定着の両面において効果を発揮します。

  • 採用への効果

リクルートマネジメントソリューションズの「2025年新卒採用 大学生の就職活動に関する調査」によると、2025年度卒業予定の大学4年生・大学院2年生が仕事に求めることとして挙げた項目の上位3つは、安定・貢献・金銭であることが発表されました。また、2020年卒からの経年推移を見ると、「貢献」「成長」の重視度がわずかに低下しており、1位の「安定」との選択率の差が広がっているということです。さらに、企業への応募動機として「希望する勤務地で働けそうだから」という回答の選択率も高まっています。これらの結果から、学生の安定志向が強まっていると言えます。将来的な経済的安定を重視して就職活動を行う若手人材が増加している傾向があることがわかります。奨学金返還支援制度を導入することで、このような若手人材に対して経済的な不安を軽減し、安心して仕事に集中できる環境を提供できます。結果として、採用競争において有利になり、優秀な人材を確保しやすくなります。

  • 定着への効果

入社後の従業員の定着率も、企業の成長に大きく影響します。企業が奨学金返済額の一部または全部を支援することで、従業員の経済的・心理的な安定感が高まり、企業へのエンゲージメント向上に繋がります。そうすることで、離職率の低下にも貢献し、長期的な視点で見ると、採用コストや教育コストの削減にも繋がります。

イノベーションの創出

多様な人材が集まる組織は、新たな発想や視点を生み出し、イノベーションの創出に繋がります。奨学金返還支援制度は、そのための土壌を育むことが期待できます。

  • 多様な経済的なバックグラウンドを持った人材

奨学金を利用する理由は様々ですが、経済的な理由で修学が困難な学生を支援する目的で設けられているものが多くあります。そのため、奨学金返還中の方を積極的に採用するということは、組織に様々な経済的背景を持つ人材が集まるということになります。

  • 知識やスキルの習得、経験への投資

代理返還支援によって経済的な負担が軽減されることで、従業員は自己啓発のための学習や、キャリアアップに繋がる経験への投資をしやすくなります。これは、個々の能力向上だけでなく、組織全体の知識レベルやスキルアップに貢献します。このように、多様な価値観や視点、社会問題への意識が組織にもたらされ、そして、主体的な行動や積極的な意見交換が促進されることで、組織全体の活性化、ひいてはイノベーションの創出に繋がることが期待できます。

企業ブランディング

近年、企業の社会的責任(CSR)や持続可能性(サステナビリティ)への関心が高まっています。

  • SDGsの推進に取り組む企業というブランディング

奨学金返還支援は、SDGs(持続可能な開発目標)の目標1「貧困をなくそう」や目標4「質の高い教育をみんなに」、目標8「働きがいも経済成長も」に貢献する取り組みと位置付けることができます。このような取り組みを積極的にアピールすることで、社会的な課題解決に貢献する企業としてのイメージを高めることができます。これは、求職者だけでなく、顧客や投資家からの評価にも影響し、企業価値の向上に貢献するでしょう。

税制効果

企業にとって税制上のメリットも存在します。

  • 所得税が非課税

日本学生支援機構の「奨学金返還支援(代理返還)制度」を活用する場合は、企業が日本学生支援機構へ直接奨学金を返還するため、従業員に金銭を支給する形にならず、所得税が非課税となります。これは、従業員の手取り額が増えることを意味し、福利厚生としての魅力を高めます。

  • 社会保険料がかからない

奨学金返還支援(代理返還)による返還金は、原則として報酬に含まれないため、社会保険料がかかりません。これは、企業の人件費負担を軽減する効果があります。

  • 損金算入が可能

代理返還では、企業にとって使用人の奨学金の返済に充てるための給付にあたるため、給与として損金算入できます。これによって、企業の法人税負担を軽減することができます。

未来への投資、奨学金返還支援で企業価値を向上させませんか?

若者の経済的な負担を軽減することは、彼らが将来に希望を持ち、社会で活躍するための重要な一歩となります。奨学金返還支援制度は、まさにその一助となる制度です。企業がこの制度を導入することは、単に社会貢献に繋がるだけでなく、優秀な人材の確保や定着、イノベーションの創出、企業ブランディングの向上、そして税制上のメリットといった、多岐にわたる恩恵を企業にもたらします。未来を担う若者への投資は、そのまま企業の未来への投資と言えるでしょう。競合他社に先駆け、奨学金の返還支援を始めることは、企業としての競争優位性を高めるための賢明な選択肢となり得ます。

奨学金バンクなら、手間な事務作業は不要、割当金もあり!

「奨学金返還支援制度に興味はあるけれど、導入の手続きや事務作業が煩雑なのではないか?」そうお考えの経営者・人事ご担当者の方もいらっしゃるかもしれません。そんな皆様にご紹介したいのが、「奨学金バンク」です。

奨学金バンクは、日本初の奨学金返還を支援するプラットフォームとして、奨学金の返還負担を軽減し、個々のライフスタイルの変化や新しい挑戦に積極的に取り組むことができる社会を目指しています。この事業にご参画いただくことで、以下のようなメリットが得られます。

  • 優秀な人材の確保(採用・定着)に貢献
  • 面倒な申請手続きや管理業務をアウトソーシング可能
  • 参画企業が増えることで、支援期間が延長する可能性(割当金制度)

学金バンクを活用することで、企業は手間をかけることなく、効果的に奨学金返還支援制度を導入・運用することができます。

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