近年、「退職代行」を利用した突然の退職が企業現場で珍しいものではなくなっています。特に20代・30代の若手人材を中心に利用が拡大しており、人材不足が深刻化する中で、企業の採用・定着戦略に大きな影響を及ぼしています。
東京商工リサーチの調査では、大企業の約15%が退職代行による退職を経験しているとされ、業務の混乱や従業員の士気低下、採用活動への影響も無視できません。
一方で、退職代行の利用は単なる「個人の問題」ではなく、職場環境やコミュニケーション、企業文化の歪みを映し出すシグナルでもあります。
本記事では、退職代行が人材採用・定着に与える具体的な影響を整理したうえで、調査データや実務視点をもとに、企業が実践すべき現実的かつ再現性の高い防止策を体系的に解説します。

退職代行とは?増加する背景と社会的要因
退職代行サービスの仕組みと種類(弁護士・労組・民間)
退職代行とは、従業員に代わって勤務先に退職の意思を伝える外部サービスです。主に以下の3種類があります:
- 弁護士型:法的知識を持つ弁護士が対応し、トラブル時の法的リスクに強い
- 労働組合型:組合が代行して交渉を行い、労働者保護に重点を置く
- 民間企業型:コストが比較的安く、手続きの代行に特化
若年層を中心に利用が拡大する理由
20代〜30代を中心に退職代行サービスの利用が増えています。その理由として、以下の要因が挙げられます:
- 直接上司に退職を伝えにくい心理的負担
- パワハラや嫌がらせへの不安
- 即日退職や手続きのスムーズさを求めるニーズ
働き方・価値観の変化と退職代行の関係
近年の働き方改革やライフスタイルの多様化により、従業員の価値観が変化しています。従来の「我慢して働く」文化から「自己実現やワークライフバランスを重視する」傾向が強まったことが、退職代行利用の背景の一つです。
データで見る退職代行の実態【最新調査】
企業規模別の利用経験割合(大企業・中小企業)
東京商工リサーチの2025年調査によると、退職代行サービスを利用した退職経験のある企業の割合は以下の通りです(有効回答6,653社)。
- 全企業:7.2%
- 大企業(資本金1億円以上):15.7%
- 中小企業(資本金1億円未満):6.5%
大企業ほど利用経験が高い傾向にあり、規模の大きな組織では退職代行利用リスクが相対的に高いことが示されています。
出典:東京商工リサーチ|2025年 企業の「退職代行」に関するアンケート調査(2025年6月19日)(https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1201481_1527.html)
利用者の年代構成と特徴
同調査では、退職代行を利用した従業員の年代構成も明らかになっています。若年層が中心であることが特徴です。
- 20代:60.84%
- 30代:26.99%
- 40代:11.06%
- 50代:6.41%
- 60代以上:2.87%
20代・30代で全体の約87%を占め、特に若手社員が退職代行を活用する傾向が顕著です。
出典:東京商工リサーチ|2025年 企業の「退職代行」に関するアンケート調査(2025年6月19日)(https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1201481_1527.html)
退職代行が多い業種の傾向
退職代行サービスの利用が多い業種は、顧客対応や接客が多く、労働環境のストレスが高い業界に集中しています。
- 各種商品小売業(百貨店など):30.00%
- 洗濯・理容・美容・浴場業:20.83%
- 非鉄金属製造業:20.00%
- 宿泊業:19.35%
- 職業紹介・労働者派遣業:17.39%
こうした業種では、従業員の心理的負担や退職手続きの困難さが退職代行の利用につながっていると考えられます。
出典:東京商工リサーチ|2025年 企業の「退職代行」に関するアンケート調査(2025年6月19日)(https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1201481_1527.html)

退職代行が人材採用に与える影響
突然の退職が採用計画に与える影響
退職代行の利用により、従業員が予告なく退職するケースが増えています。特に少人数チームや専門スキルを要する部署では、突然の退職が採用計画や業務運営に深刻な影響を及ぼします。
- 即戦力人材の補充が間に合わず、業務が停滞
- 採用スケジュールや新人研修計画の調整が必要になる
- 残留社員の負担が増加し、さらなる離職リスクを生む
このような影響を避けるため、企業は採用計画に余裕を持たせたり、引き継ぎ手順を明確化する対策を講じています。
採用基準の厳格化・リファレンスチェック強化の実態
退職代行利用者の増加を受け、企業は採用の事前チェックを強化しています。東京商工リサーチの調査によれば、以下の傾向が見られます。
- 応募者の転職回数や職歴を厳格に確認する:20.88%の企業が実施
- 前職調査(リファレンスチェック)を導入・強化:10.20%の企業が対応
- 適性検査で退職代行利用者と同傾向の応募者を見極める:5.80%
このように、採用プロセスがより慎重かつ厳格になりつつあり、結果的に応募者にとってのハードルが上がる傾向があります。
出典:東京商工リサーチ|2025年 企業の「退職代行」に関するアンケート調査(2025年6月19日)(https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1201481_1527.html)
企業ブランド・口コミ・求職者心理への波及
退職代行の利用が増えることは、企業ブランドや求職者心理にも影響します。
- 従業員が突然退職する職場は「働きにくい」と認識され、口コミサイトやSNSで広まる
- 企業の評判低下により、優秀な人材の応募が減少する可能性
- 求職者は退職代行利用の背景にある職場文化や人間関係を敏感に評価する
このため、企業は職場環境の改善や円滑な退職手続きの整備を進めることで、ブランド低下を防ぎつつ、採用活動における安心感を提供する必要があります。
退職代行が人材定着・組織運営に与える影響
業務引き継ぎ不全と現場負荷の増大
退職代行を通じて従業員が突然退職する場合、業務引き継ぎが十分に行われないことがあります。その結果、現場では以下のような影響が発生します。
- 顧客対応やプロジェクト進行に支障が生じる
- 残された従業員の残業や負担が増加する
- 引き継ぎ不足によるミスやトラブルが発生しやすくなる
東京商工リサーチの調査でも、退職代行経験企業の31.11%で従業員の残業増加、23.40%で業務引き継ぎの支障が報告されています。
出典:東京商工リサーチ|2025年 企業の「退職代行」に関するアンケート調査(2025年6月19日)(https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1201481_1527.html)
残された従業員の士気・エンゲージメント低下
突然の退職は、残された従業員の心理にも影響を与えます。以下のような状況が生じることがあります。
- 「次は自分かもしれない」との不安からモチベーションが低下
- 業務負荷増加によりストレスが蓄積し、士気が低下
- 社内コミュニケーションが減り、エンゲージメントが弱まる
こうした心理的影響は、組織全体のパフォーマンス低下につながり、長期的な人材定着にも悪影響を及ぼします。
離職連鎖が起きるメカニズム
退職代行による突然の離職は、残った従業員の離職につながることがあります。この離職連鎖は以下の流れで起こります。
- 特定従業員の退職 → 業務負荷の増加 → ストレス上昇
- ストレスや不安からの士気低下 → 退職意向の増加
- 退職希望者が増えることで再び業務負荷が増大し、さらなる離職へ
企業はこの連鎖を防ぐため、退職代行が発生した場合でも、業務分担の見直しや心理的サポート、柔軟な働き方を提供するなどの対策が必要です。

なぜ従業員は退職代行を選ぶのか【心理と理由】
パワハラ・人間関係への不安
退職代行を利用する最も多い理由は、職場でのハラスメントや人間関係への不安です。調査によると、従業員は以下のような心理を抱えています。
- 退職意思を伝えた際にパワハラ/嫌がらせを受ける不安があった(34%)
- 直接会社に退職の意思を伝えることに抵抗があった(24
%)
- 精神的に不安定で、自力で退職手続きができる状態ではなかった(22%)
このような心理的負担があると、従業員は直接退職の意思を伝えるよりも、退職代行を利用して安全に退職したいと考える傾向があります。
出典:PR TIMES|退職代行サービスに関する調査 | 株式会社アイディエーション(2025年4月~5月実施)(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000033.000030222.html)
「即日退職したい」「直接伝えたくない」心理
退職代行を選ぶ心理には、時間や手間に関する理由もあります。
- 即日で退職をしたかった(25%)
- 直接会社に退職の意思を伝えることに抵抗があった(24%)
- 退職代行を使えば確実に辞められると思った(24%)
- 自分で退職手続きを進める手間を省きたかった(21%)
職場での心理的負担や手続きの手間を軽減する手段として、退職代行が利用されることがわかります。
出典:PR TIMES|退職代行サービスに関する調査 | 株式会社
アイディエーション(2025年4月~5月実施)(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000033.000030222.html)
退職代行を使わなかった人から見えるヒント
一方で、退職代行を利用しなかった従業員からは、予防策のヒントが得られます。
- 利用する必要性を感じなかった(40%)
- 自分で退職の意思を伝えるべきだと思う(33%)
- 退職の相談ができる職場環境だった(20%)
- 費用が高いと感じた(20%)
これらの結果から、職場に相談しやすい環境や、安心して退職できる制度が整っていれば、退職代行の利用を未然に防ぐことが可能であると示唆されます。
出典:PR TIMES|退職代行サービスに関する調査 | 株式会社アイディエーション(2025年4月~5月実施)(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000033.000030222.html)
退職代行を防ぐために企業が取るべき基本方針
退職代行は「結果」であり「原因」ではない
退職代行はあくまで従業員が退職をスムーズに行う手段であり、問題の本質ではありません。重要なのは、退職に至った背景や原因を企業が正しく理解することです。
- パワハラや人間関係トラブルが背景にある場合が多い
- 職場環境やマネジメントの課題が潜在的な原因
- 退職代行の利用は、企業改善の指標として捉えることができる
防止策は採用・定着・職場環境の延長線上にある
退職代行の利用を減らすためには、従業員が安心して働ける環境作りが不可欠です。以下の施策が有効です。
- 採用段階でミスマッチを防ぐ仕組み(面接や適性検査の活用)
- 入社後の定着支援(メンター制度、フィードバック文化)
- 職場環境改善(ハラスメント防止、相談窓口の設置)
- 従業員の心理的安全性を高める施策(定期アンケートや面談)
短期対策と中長期対策の考え方
退職代行を防ぐ施策は、時間軸によって考えることが重要です。
- 短期対策:退職の意思が出た従業員への迅速対応、引き継ぎマニュアルの整備、退職面談の実施
- 中長期対策:職場文化改善、定着支援プログラム、リーダー育成によるマネジメント力向上
このように、短期的に退職の混乱を最小化しつつ、中長期的に従業員が安心して働ける環境を整備することが、退職代行の利用防止につながります。

退職代行を防ぐ具体策①|職場環境・制度面の整備
ハラスメント防止体制の構築
退職代行を利用する従業員の多くは、パワハラやモラハラなど職場での嫌がらせを避けるためにサービスを利用しています。ハラスメント防止は、退職代行防止の第一歩です。
- 管理職向けのハラスメント研修を定期的に実施
- 匿名アンケートで潜在的な問題を早期に把握
- 外部相談窓口を設置して相談しやすい環境を整備
- 報告や相談に迅速に対応する仕組みを構築
退職手続きの透明化と法的知識の周知
従業員が退職代行を利用する心理の一つに「退職方法が分からない」という不安があります。手続きの透明化と法的知識の周知が、サービス利用防止につながります。
- 退職の流れをマニュアル化して事前に周知
- 民法上の退職の権利(2週間で退職可能など)を説明
- 必要書類や手続き期間、担当窓口を明確化
- 退職代行サービスの費用や利用手順を知ることで、心理的ハードルを下げる
メンタルヘルス対策・相談窓口の整備
職場での心理的負担が高い場合、退職代行の利用につながりやすいため、メンタルヘルス対策が重要です。
- ストレスチェック制度や結果に基づく面談指導の実施
- 産業医・カウンセラーとの連携による定期的なサポート
- EAP(従業員支援プログラム)の導入で心理面の相談体制を強化
- 相談内容の機密保持を徹底し、安心して相談できる環境を整備
退職代行を防ぐ具体策②|コミュニケーションと働き方
1on1面談・メンター制度の活用
従業員が抱える不安や悩みを早期にキャッチするためには、定期的な1on1面談やメンター制度の活用が有効です。
- 上司と部下の1on1面談で悩みや業務上の課題を共有
- メンター制度を導入して、相談しやすい相手を確保
- 面談でのフィードバックを具体的かつ建設的に行う
- 匿名相談窓口も併せて設置し心理的安全性を確保
業務負担の可視化と分散
過重労働や業務負担の偏りは退職代行利用のリスクを高めます。可視化と適切な分散が重要です。
- タスク管理ツールで業務量を可視化
- 業務が偏らないようにチーム内で分散・調整
- 負荷の高い業務は複数人で担当する仕組みを構築
- 繁忙期のサポートや休暇取得の柔軟化を図る
柔軟な働き方・福利厚生の工夫
柔軟な働き方や福利厚生の充実は、従業員満足度を高め、退職代行の利用抑制に繋がります。
- リモートワーク・フレックスタイム制の導入
- 有給休暇や特別休暇の取得しやすい環境整備
- 社内イベントや研修制度など従業員エンゲージメント向上策

人材定着につながる施策例|福利厚生・支援制度の活用
待遇改善が定着率に与える影響
給与や賞与、昇給など待遇改善は、従業員の満足度を高め、定着率向上に直結します。
- 給与水準の定期的な見直しと市場相場との比較
- 昇給・昇格の透明なルール化で納得感を醸成
- インセンティブ制度で成果や貢献を評価
- 待遇改善が直接的に離職防止に繋がる事例の紹介
助成金・外部制度の活用ポイント
政府や自治体の助成金制度、外部支援サービスを活用することで、コストを抑えながら従業員支援が可能です。
- 育児・介護支援助成金を活用して柔軟な働き方を導入
- 職場改善や研修助成金で従業員教育の負担軽減
- 外部相談窓口やメンタルヘルスサービスとの連携
食の福利厚生「チケットレストラン」による実質的賃上げ効果
「チケットレストラン」など食事補助制度は、従業員の満足度向上や生活コスト軽減に繋がり、実質的な賃上げ効果をもたらします。
- 昼食費用の補助で生活コストを軽減
- 従業員満足度やエンゲージメント向上の効果
- 税制上の優遇もあり企業負担を抑えつつ実施可能
まとめ|退職代行の影響と企業が取るべき対応
退職代行サービスの利用増加は、企業にとって人材採用・定着・組織運営の両面で無視できない課題です。突然の退職による業務混乱や現場負荷の増大、残された従業員の士気低下など、直接的な影響が発生します。
また、企業ブランドや求職者心理への波及もあり、採用活動にも影響が及ぶ可能性があります。従業員が退職代行を選ぶ背景には、ハラスメントや過重労働、コミュニケーション不足といった職場環境の問題が深く関わっています。
したがって、企業が取るべき対応は、退職代行を防ぐこと自体を目的とするのではなく、採用・定着・職場環境改善の延長線上で考えることが重要です。具体策としては、ハラスメント防止体制の整備、メンタルヘルスサポートや相談窓口の設置、1on1面談やメンター制度の活用、業務負担の可視化・分散、柔軟な働き方や福利厚生の充実などが挙げられます。
これらを組み合わせることで、従業員が安心して働ける環境を整え、離職抑制や円満退職の促進につなげることが可能です。
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